魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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お母様学校へ③

今はまだ力が足りないと思っていた。

 

四葉真夜の『夜』に対して達也の『分解』は相性の良い魔法だ。一対一ならば倒すことも可能だろう。

が、事態はそう簡単なものではない。武力だけでは解決できない。四葉を屈服させるためにはそれでは不十分。だから、今は従うしかない。

 

そう、思っていた。

しかし、現状四葉を屈服させることが可能なのではないのだろうか。

あまりに強大な力を前にして考えすらしなかったが、それだけの力が今はあるように思えた。

 

達也、深雪、リーナ。

それに雪花が加われば武力としては申し分ない。四葉が相手だとしても、負けるわけがない磐石の布陣。

そこに、四葉の内情を知り尽くした雪夜が加われば、四葉を屈服させることは現実的といえる。

 

 

 

「そう深く考えないで……というのは無理でしょうけど、あくまで選択肢の一つとして考えて頂戴。雪花が当主におさまればそれで四葉に反旗を翻す意味はなくなるのだから」

 

 

昼休みも終わりが近いということで、解散した一行であったが、達也は一人残り思考を巡らせていた。

そこにふらっと舞い戻ってきた雪夜はまるで心を読んでいるかのように優しい口調で達也に言う。

 

 

 

「貴女の存在を知った上でも雪花を当主にするとお思いですか?」

 

「真夜なら操れない人形はいらない、と考えるでしょうけど……それは四葉家の当主としての真夜。安心なさい。真夜は意見を変えないわ」

 

「そうは思えませんが……」

 

「ふふっ、そうね、貴方はそう思うでしょう。でも、貴方が知っている真夜は四葉家の当主の真夜。真夜のことは私が一番良く理解しているのよ?」

 

 

ウィンクを一つして立ち去る雪夜の姿に、どうしてか妹である深雪の姿が重なった。

 

 

「一番良く理解している……か」

 

 

そうだ。

兄弟、姉妹とはもっとも良く理解し合い、お互いを尊重しあえる存在であるべきなのだ。

四葉の姉妹にも、それがあるというのなら……いや、そうなのだろう。

きっと二人の愛は歪であっても歪んでいても、間違ってはいなかった。

深くお互いを愛し合える、『家族』であったはずなのだ。

 

 

「雪花……俺はお前のことをどれくらい理解していたんだろうな……」

 

 

達也の呟きに答えられる者はいなかった。

 

 

 

 

 

昼休みが終わったあと、雪夜は教室に戻ることはせず、校内を探索していた。

雪花は授業をサボることが多々あり、午後から授業に出ていなかったところでそれを騒ぎ立てる人間もいない。

 

しかしそれは雪花であるからこそ、悪い意味で当たり前になっているのであって普通、生徒が理由もなしに午後から授業を休みましたなんてことになればそれなりに不審に思われるものだ。

 

 

「いいのかしら、貴女がサボりなんて」

 

「……一回くらい大丈夫……なはずです」

 

「雪花の影響かしら……だとしたらごめんなさい」

 

 

 

ましてや、それが生徒会長という生徒の模範となるべき者であり、授業時間をきっかり守る真面目過ぎるくらいに真面目な生徒であったのなら。

 

 

 

 

「本当に雪花くんではないんですね……」

 

「ええ、でも安心して。雪花が死んだわけではないし……そうね、私の見立てでは後3日後くらいには目覚めているんじゃないかしら」

 

 

 

あずさは驚いたでもなく、怒るでもなく、ただ雪花がいないという事実に気持ちを沈ませた。

 

もう随分と会っていないような気がした。

 

だからだろうか。

教室からちらりと見えた雪夜の姿を追って昼休みの終わるギリギリに教室を出て、こうして授業をサボってしまったのは。

あずさが学校の授業をサボったのは小学校も含めて初めてのことであった。小心者で臆病なあずさに授業をサボるという行為はハードルが高く、考えすらしたかことがなかった。

 

雪花のもう一つの人格。

雪花が今、自分の知っている雪花でないことは知っていたはずなのに。

 

なのに気持ちが沈む。

こんな気持ちに自分がなるなんて思いもしなかった。

 

少し会えないだけでこんなにも不安になってしまう人ができるなんて、その人のことになるとまるで自分じゃないみたいになってしまうなんて。

 

その人が今はいない。

目の前にいるのに違うんだと、一目みて分かった。でも追ってきた。

 

 

もしかしたら、とそんな想いもあった。

雪花が元に戻っているんじゃないだろうかという希望的観測。

でも一番は、やっぱり理屈じゃないんだろう。

 

ただ会いたかった。

達也に話を聞かされて不安になっていたのだろう。

 

雪花は危うい。

 

すごく絶妙なバランスの上で雪花という人間が成り立っているということを、あずさは分かっていた。

 

そしてそれを分かっていながら、あずさはどうすることも出来なかった。

 

だから何も聞かない。

疑問に思うことは沢山ある。

トーラスシルバーや平河小春の事、突然学校に来なくなった事、謎の二人組に襲われた理由、リーナの事……他にも色々ある。

 

 

聞かない、聞けない。

それを聞いても、きっと中条あずさにはどうしようもないことで、何より、今のままの自分では押し潰されてしまいそうで。

 

 

ああ、こんな自分が嫌になる。

 

 

ネガティブの無限ループ。

中条あずさが良く陥る現象だ。

 

 

 

「良く自分のことを分かっているみたいね」

 

 

雪夜はまるであずさの心を読んだかのように、そう告げた。

 

 

「それが、貴女の限界よ。貴女には見守ることしかできない」

 

 

見透かされている。

自分の全てを理解されている。

弱くて、卑怯な自分の全てを。

 

 

 

「雪花は普通には生きられない。だからそのパートナーには雪花の全てを一緒に背負える人間になって欲しい」

 

雪夜はだからこそリーナを推す。

リーナには雪花への強い想いも、それに足る力もあった。

彼女なら雪花の全てを背負える、雪花の何もかもを理解し、例えどんな困難(・・)があったとしても、これから待ち受けているであろう最大の困難(・・・・・)でさえも、共に乗り越え、歩んでいける。

そんな確信が雪夜にはあった。

 

 

「だから貴女の想いを全て知った上で、理解した上で、言わせてもらうわ。

 

──貴女では雪花のパートナーは任せられない」

 

 

そしてそれが、あずさにはないことも。

あずさでは潰れてしまう。

雪花の背負っているものは、これから待ち受けているであろう未来はそう軽いものではない。

 

 

「……私では駄目ですか……?私は弱いから……」

 

「貴女は弱くなんてない、貴女の強さをちゃんと持っている。でもそれは常人の域を出ない」

 

 

異端でなければ、異常でなければ、きっとこの先雪花には着いていけない。

厳しく突き放すのは、あずさが優秀であるからだった。優秀であるがゆえに、ある程度は雪花に着いていけてしまう。

 

ここで気がつかせなくてはならない。

そうしなくては、あずさも雪花も不幸になるだけだ。

 

 

「雪花が背負っているものは貴女を簡単に潰すわ」

 

 

 

もう、何も言うことはない。

雪夜は身を翻し、背中でそう語るとそのままあずさの視界から消えていった。

 

 

 

 

 

あずさは、ただそこに立ち尽くし授業の終わる鐘の音を呆然と聞いている他なかった。

 

 

 

 





(¬_¬ )深雪「中条先輩可哀想ですね……最低です」

(¬_¬ )リーナ「なんか姑?みたいで嫌な感じ」

(¬_¬ )水波「許してあげてください。歳をとると突発的にあんな感じになってしまう時があるんですよ」


。゜( ゚´Д`゜)゜。雪夜「本当に泣いちゃうわよ!?特に水波ちゃん!貴女ちょっと言い過ぎよ!ぐすっ……」



(*´Д`*) '`ァ'`ァ水波「……なぜでしょう……ゾクゾクしてきました」







少し書き貯めはあるのですが、ちょっと内容で迷っている部分があるので練り直して、また数話貯めてから投稿したいと思っています。

なるべく近いうちに投稿できるよう頑張りますので、お楽しみに!

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