魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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雪花帰還③

飛んできた魔法は精々相手を気絶させるくらいのそう威力のない無系統魔法だった。

とはいえ、痛いし起きてそうそう気絶なんてしたくないから、当然避ける。咄嗟のこととはいえ、幻想眼を持つぼくにはそう難しいことではなかった。

 

 

「ふむ、『言ノ葉ノ剣(アブソリュート・ソードワード)』を使わなかったところを見るに本当に雪花のようだな」

 

「バカじゃないの!?確かめるためだけに魔法ぶっぱとか正気の沙汰じゃないよ!」

 

「お前なら避けられると信じていたのさ」

 

「目を逸らしながら言われてもね!説得力皆無だよ!」

 

 

 

いきなり魔法をお見舞いしてきたのは、兄さんだった。

弟が可愛くないのか!と疑いたくなるような扱いである。可愛さだけならカンストしている(都合の良いときは認める)ぼくにこんなことして、それでも主人公か!

 

 

「セッカぁぁあああー!!」

 

 

そして、兄さんの魔法の後には、リーナの物理的な砲撃が待っていた。具体的にはものすごい勢いでぼくに突っ込んできたのである。

当然、貧弱を絵に描いたようなぼくはリーナにがっちりホールドされつつ吹っ飛んだ。

 

 

「帰ってきたら変だし!寝ちゃうし!起きたらセッカじゃないし!もうどうしようかと……心配したんだから!」

 

「……ごめん」

 

 

 

若干、というかかなり幼児退行している上、支離滅裂で何を言っているのか良く分からなかったけど、ぼくをすごく心配してくれていたのだけは分かる。

だからぼくはいつかのように、リーナの頭を優しく撫でた。今はもう、ぼくより背の高いリーナだけど、やっぱりリーナはリーナのままなのだ。

 

 

「……もう離れないから」

 

 

少しむすっとした顔で、そう小さく漏らしたリーナは確かに一生取れないのではないかと思うくらいすごい力でぼくをホールドしており……うん、正直、気絶しそうなんですけど……。

 

 

「リーナ、雪花が青い顔してるわよ!」

 

「へ?……あ!セッカ!?セッカ大丈夫!」

 

「大丈夫だから揺らすの止めて!」

 

 

このポンコツぶりは相変わらずだけど、いつかこのポンコツのせいで殺されやしないかとちょっと不安になってきた。手が滑ったとか言ってヘビィ・メタル・バースト飛んできそうだし。

 

 

「雪花様大丈夫ですか?」

 

「うん、ありがとう水波ちゃん」

 

 

気絶寸前まで追い込まれたぼくに水波ちゃんが駆け寄ってきて、水をくれた。持つべきものは優しき義妹ですね!

 

 

「じゃあとりあえず私からも一発」

 

 

とか思ってたぼくの思考は、言葉になって表れる前に、鳩尾への重い一撃によってかき消された。

 

 

 

「私も心配していなかったこともないんですよ?」

 

 

それなんてツンデレ……鳩尾に一発食らわしてから恥じらわれても……皆、わざとやってるの?いじめなの!?

 

 

 

「まあ、当然の報いだな」

 

「雪夜から一番被害にあっていたのは水波ちゃんだものね」

 

 

 

くっ、雪花さんの駄目な方、雪夜のせいでぼくはこんなことになっているのか。

魔法が飛んできて、強烈なボディーホールドで気絶寸前まで追い込まれ、鳩尾に一撃。

本当にあの人何したの……。

 

 

 

「それで、雪花。もう大丈夫なのか?」

 

 

大丈夫なのか?というのは、ぼくが雪夜と入れ替わった原因を知っているからだろう。

 

母は、司波小百合はぼくの本当の母親ではなかった。

 

吹っ切れた、というわけじゃない。

ぼくが母さんの、司波小百合の息子ではないということは信じたくないし、認めたくない。

 

きっと今までだって目を反らしてきたことだ。

 

だって、ぼくと姉さんはあまりに似ている。

 

四葉深夜の血を色濃く引き継いでいる姉さんと、血が半分しか繋がっていないはずのぼくが。

この場合、兄さんではなく姉さんに似ているというのがぼくの悲しいところではあるのだけど……。

 

と、とにかくぼくは四葉の血が入っていない、なんてことはありえないのだと、どこかで悟っていたのだ。悟った上で、目を反らして、耳を塞いで、現実から逃げ出していた。

 

ぼくはいつでもそうだ。

 

命の恩人で、家族で、友人で、妹で、何重にも大切なはずのリーナを嫌な記憶と一緒に消そうとする、弱くてずるい奴だ。

 

 

誰かに依存しないと強くいられない、一人じゃ何もできない。

 

 

逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃避し続けることでしかぼくはぼくでいられなかった。

 

 

でもそれじゃダメなんだ。

 

いつか、前に進むために、今を信じる。

確かに、司波小百合はぼくの本当の母親ではなかったのかもしれない。

けど、()()()()()()()()()()()

 

それが『真実』でなくても、ぼくがそう思うなら、ぼくにとってはそれが『事実』になる。

 

ぼくの母は司波小百合だ。

それは変わらないし、変えさせない。

 

 

 

「大丈夫だよ、大丈夫。だから伝えるよ、ぼくの考えを、想いを、母さんに」

 

「そうか……それが良いだろう」

 

 

兄さんは優しく微笑んでぼくの頭に手を置いた。

この人はこういうことをするからズルいのだ。視界の端で姉さんが顔を赤くして、褒めちぎっているのは別として。

 

 

 

『なんだかいい話っぽくしようとしているけど、貴方まだリーナに言っていないわよね?』

 

 

 

声だけしか聞こえないのに、ジトッとした視線さえ感じる。

分かってる、分かってるんだよ!でもやっぱタイミングとかさ!あるじゃん!

 

 

『ヘータレ、ヘタレー』

 

『別に良いよヘタレで!ヘタレ雪花さんだよ!』

 

『わー……』

 

『ドン引きは止めてね!?』

 

 

本気で雪夜から蔑むようなオーラを感じるし、こういうことは早く言っておかないと後々に影響を及ぼすし、何よりリーナに悪いし。

 

よし、決心した。

言うぞ、言ってやるぞ。

 

 

「あのさ、リーナ、ちょーっと話があるんだけど」

 

「……なに?」

 

 

…………無理だよ、言えないよ、だってリーナが涙目でぼくを見上げてくるんだよ!

まるで子犬のように穢れのない純粋な好意の視線をぶつけてくるんだよ!

そんなリーナに、「実はもう一人婚約者がいてー、指輪貸してますテヘペロ」なんて言った暁には、ヘビィ・メタル・バーストコース確定だ。

 

慎重に、タイミングを選んで……いや、言っても良い雰囲気に持ち込むんだ!

言ってもリーナが許してくれる、そんな雰囲気に!

 

 

 

「リーナとは、もう長い付き合いになる」

 

「そうね、セッカと出会ってから十年になるもの」

 

「その間に色々なことがあった」

 

「……色々あったわね……でも今はこうしてセッカと一緒にいられるから、それでいいの」

 

 

……はい、言えない!

そんなこと言われちゃったら無理だよ!

 

 

「じゃあ、雪花。リーナはその様子だし、しばらく一緒にいてやれ」

 

 

兄さんは空気を読める男だ。

ぼくが何かをリーナに話そうとしているのを察したのだろう。

姉さんと水波ちゃんを引き連れて部屋を出ていこうとする。

そして、姉さんと水波ちゃんが部屋を出たのを確認してから自分も部屋を出て、扉を閉めるその瞬間。

兄さんは、「そういえば」とでもいうような、軽い口調で一言。

 

 

「リーナ、言い忘れていたんだが雪花は中条先輩とも婚約しているらしいぞ」

 

 

 

爆弾を落としてから扉を閉めた。

ぼくの中でも何かの扉が閉まった気がした。雪夜が視界共有を拒否したのだろう。

 

 

 

「セッカ、お話ししましょうか?」

 

 

語尾にハートが付くような満面の笑顔でそう言うリーナを前にして、ぼくは思った。

 

 

あ、これダメなヤツだ。

 




前話分のおまけを足しておきました。
今話分のおまけは明日更新する予定です(謎スタイル)

さて、明日も0時に投稿します。

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