魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
今日は事故が起きるであろうバトル・ボード女子準決勝がある。事故を阻止してあげたいという気持ちはあるが既に仕掛けは施されているだろうしそれをぼくが誰かに伝えることは出来ない。これは本来ぼくが知っているはずのない事実なのだから。それにこの作戦が失敗したことで裏でこの九校戦を賭けの対象としているであろう奴等が別の作戦を実行するのも不味い。そちらをぼくが知ることは出来ないしそれによって一校により大きな被害が出てしまう恐れがあるからだ。
「どうしたの雪花君、凄く落ち込んでるみたいだけど」
バトル・ボードの事故は原作通りに引き起こされた。事故を目撃した後、結局ぼくはただ自分が巻き込まれたくなかっただけなんじゃないかと、そのために言い訳を積み重ねているだけなんじゃないかとそんな自分への嫌悪感で潰れそうになり千代田花音の女子アイス・ピラーズ・ブレイク優勝もろくに見ていなかった。
「いえ、別に。というか響子さんいつの間に来たんですか?気が付きませんでした」
「失礼ね、こんな美人が隣に座ったっていうのに」
「すみません」
とりあえず謝ってみると響子さんはため息を一つ吐いて言う。
「何に悩んでるのか知らないけど考えても正解がないことって意外と多いのよ。だから開き直っちゃいなさい。正解が分からないなら正解を作っちゃえばいいの。人間ネガティブに生きてても良いことないわよ?」
響子さんの言葉に即座に納得できるほどぼくは大人ではなかった。
◆
響子さんが用事があると立ち去った後もぼくは観客席で座り込んでいた。既に三日目の競技は全て終了しており残っているお客さんも本当に僅かだ。
「なんだ一人か?」
「たまには一人になりたいこともある」
「ぼっちなのか?」
「…さっきまでは美人と一緒だったよ」
昨日と似たようなやり取りを違う立ち位置で行うと一条将輝はぼくの隣に腰かけた。
「悩み事か?」
「まあね」
適当に返す。どうせぼくの悩みは打ち明けることの出来ないものだ。
「正直意外だよ。お前は悩みなんてなさそうだと思っていた」
「悩んでばかりだよ、生まれたときからね」
ぼく以外誰にも分からないであろう転生ジョークを織り込む。まあ当然の如くスルーだが。
「そうか、人間は悩み続ける生き物だからな」
「なにそれ?哲学?」
「…親父の言葉だよ。俺が深く悩んでいた時に聞いた」
一条将輝は片手を天に翳し顔をそちらに向けるがその目は手ではなくどこか遠くを見ているようだった。
「俺は13歳の時沢山の人を殺した。戦争だった。人が死んで当たり前、油断した奴から死んでいく。その場にいたときは必死だった。だから人を殺したんだとそう実感が沸いたのは戦いが終わって数日後、家に戻ってからだった。頭では分かっていた。自分は国のために戦ったなにも疚しいことはないと。それでも気持ちは沈んだ。それにいくら洗っても体にまとわりついた血の臭いがとれない気がしたし時おり鏡を覗いた時なんかについてもしない血が見えたりもした。笑えるだろ?クリムゾン・プリンスなんて呼ばれながら当時の俺は血が怖かったんだ」
真剣に語る一条将輝にいつしかぼくは話に引き込まれていた。人を殺すなんて考えたこともなかったことがこの世界では現実としてあり得る話なのだ。魔法師とはそういう存在であるとぼくは分かってる気になっていただけだったのだ。
「そんな日々が暫く続いたある日、見かねた親父が俺に言ってくれたのが『人間は悩み続ける生き物だ』って言葉だ。人は何故生きるのかそれを知っている人間なんていない。どれが悪でどれが善なのかそれを決められる人間なんていない。だから人は悩み続ける。正解なんて最初から用意されていない。悩んで悩んで自分なりの答えを出してそれが正解だと信じて生きていく。だから人間は悩み続ける生き物だって…」
それは響子さんの言葉ともどこか共通したところがあるものだった。正解がないなら作ればいい。正解がないなら出した答えを正解だと信じる。正直今のぼくには出来そうもないことだった。ぼくは弱く臆病で卑怯な人間だ。だから今の今まで原作のイベントには一切関わらないようにしてきた。一校への入学はしたものの学校には行っていないことがそれを顕著に表している。原作イベントには関わりたくないと思いつつも
「ねえ」
「なんだ?」
「友達になってよ」
「いいぞ」
ぼくは今日から本気だす。
これにて九校戦編上は終わりです。次話からは九校戦下、原作キャラも多数登場し盛り上がっていく予定です。
明日は更新できないかもしれませんが明後日には必ず更新します。