魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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元は二話だったものを一話にまとめたため二話投稿できませんでした。申し訳ない。



こうして彼は舞台に上がる②

「雪花、お前には新人戦モノリス・コードに参加してもらう」

 

 

大急ぎで一校のミーティングルームに入ってきた雪花に達也は開口一番でそう言った。

 

 

「ちょっと待って達也くん!彼?が古葉雪花くんなの?」

 

「そうですが?」

 

「そうですが?じゃないわよ!どう見ても女の子じゃない!」

 

「ぐはっ!」

 

「雪花、自信を持って。貴方は可愛いわ」

 

 

真由美の言葉に膝を抱え「…どうせぼくなんか」と落ち込みはじめた雪花に深雪が慰めという皮を被った追い打ちをかける。この場において彼に味方はいないのだ。

 

 

「確認しましたが生徒データには男で登録されています。偽りようもありませんし男であるというのは事実のようです」

 

「嘘!こんな可愛いのに?」

 

「あとは弟かどうか、だな」

 

 

市原鈴音の言葉に真由美は未だに信じられないようでペタペタと雪花の頬を触る。

 

 

「弟であるかどうかはこの際重要ではない。今、確かめるべきは実力だ」

 

 

克人の言葉に場の雰囲気が真剣なものへと変わる。

 

 

「で、どうなんだ達也くん」

 

「ご心配なく。本人は隠しているつもりのようですが魔法技能で言えば深雪レベルでしょう。それに座学も俺と同等程度は出来るはずです」

 

 

達也の言っていることはつまり今年の一年生で魔法技能、学力、共にトップに立てるだけの実力があるということだ。

 

「…達也くん、シスコンだけでなくブラコンもだったの?」

 

「…誇張はしていませんよ、あくまで事実です」

 

 

全員の視線が雪花に集まる。その雪花はといえば膝を抱えて落ち込んでおり後ろから深雪に頭を撫でられていた。

 

 

「あれが…か?達也くんの言うような化物には見えないんだが」

 

「入学時の成績で言えば取り立てて目立ったものではありません。順位でいえば47位、学力テストの方だけの順位でも43位と一科の平均程度です」

 

 

摩利と同じ疑いを持っていたらしい鈴音が雪花の順位を読み上げる。達也が言うほどの実力ではないということを言いたいのだろう。

 

「既に二科生の参加を認めているわけですし一科生であるならば良いのでは?チームワークという面でも兄弟であるならば心配はないでしょうし」

 

 

発言をしたのが服部形部ということもあり皆は素直に頷くことが出来なかったのか暫くの静寂が訪れる。

最近は改善されてきたものの二科生を卑下するような発言や態度が見られた生徒だからである。とはいえ服部の言っていることが正論であることはたしかだ。単純に二科生よりも一科生の方が実力が上であるというわけではないが一つの基準としては十分なものであるし二科生を出場させるというイレギュラーに比べれば一科生である雪花の方が順当だ。

 

やがて克人が頷き真由美がそれに答える。

 

 

「達也くんの言葉を信じることにしましょう。新人戦モノリス・コードは司波達也くん、吉田幹比古くん、古葉雪花くんの三人に出場してもらいます」

 

 

雪花の新人戦モノリス・コード出場が決まったのである。が、ここで雪花が異議を唱える。

 

 

「ぼく、出たくないんですけど」

 

 

凍りつくミーティングルーム。雰囲気もそして物理的(・・・)にも冷えきった。

 

 

「雪花、何故出たくないのかしら?」

 

 

それは笑顔。誰もが魅了される最高の笑顔。雪花にとっては身動き一つ取れなくなるほどの笑顔(圧力)。その中で雪花はモノリス・コード出場を回避すべく涙を飲んで言う。

 

 

「だって、ぼく…怖い」

 

 

全てのプライドを捨て放った渾身の一言。胸の前で祈るように両手を組み顔を少し傾け下から覗きこむように涙目で深雪の顔を見ながら。

 

 

「雪花はモノリス・コードには出場しません」

 

「深雪さん!?」

 

 

陥落した深雪は雪花を胸に抱き守るようにして言う。雪花の顔が計画通りと言っているのを達也だけが分かった。そこで今度は達也が説得を試みる。

 

 

「雪花、何に怯えている?」

 

 

達也の質問は自然に思える。怖いから出場したくないという雪花に何が怖いのかと尋ねているのだから。

ただ雪花は不自然なくらい動揺しその瞳には困惑が浮かんでいた。まるで誰も知るはずのなかった真実を突き止められてしまったかのように。

 

 

「お前がいつも何かに怯え自らの可能性を狭めていることは分かっていた。が、それはもう終わったと思っていたよ。お前が友達を紹介してくれた時お前の瞳からは得体のしれない怯えが消えていたからな。それが今になって振り返している。

雪花、…何に怯えている?いや何を恐れている?」

 

 

雪花の恐れる理由と達也の考えているものは違う。達也は四葉に狙われたという経験から実力を見せればまた何者かに狙われるかもしれないと雪花が恐れていると考えていたが実際は違う。原作という筋書き通りに物語が進行しないことを恐れているのだ。そしてそのせいで何らかの不利益が生じることに怯えている。

 

 

 

「お前はお前だ」

 

 

 

が達也の言葉は雪花に思い起こさせた。母の涙を見たとき、一条将輝と友人になったとき、何を決意したのかを。

 

 

雪花は悩み信じるべき『正解』を変えた。それは『原作』ではなく『今の自分』を信じるということ。

 

─この世界は原作(創作)ではない。

 

 

「出るよモノリス・コード」

 

 

─一人一人がちゃんと生きていてそれぞれの人生があって物語がある。主人公(司波達也)だけの物語じゃない。

 

 

「で優勝する」

 

 

─そしてこれはぼくの物語だ。

 

 

 

こうして彼は舞台(原作)に上がる。




いよいよ次話でいたいけな男子高校生の夢が打ち砕かれる…はずです。

さて明日も0時に投稿します。

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