魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
「うわーお腹が痛いよー(棒)」
「大丈夫かー雪花ー(棒)」
四日目の朝、雪花と将輝による三文芝居はしらーっとした空気をものともせず繰り広げられた。
「これは駄目だー、今日行く予定だったひがし茶屋街はぼくらの事は気にしないで、二人で楽しんでくるといいよ!」
「えっ?いえ私は雪花様の専属メイドですので離れるわけには」
雪花達の三文芝居を無関心に眺めていた水波は突然の提案に否定で返す。自分は専属メイドである以前に別の任務も『四葉』から受けているのだ。なるべく近くにいなくてはならない。
「じゃあ仕事は休み!はい決定!」
「…お腹が痛いのでは?」
「痛い痛い超痛い!」
「大丈夫かー雪花ー(棒)」
ハイテンションで言う雪花にジトッとした目を向ける水波。それを受けた雪花が腹を押さえ痛みを訴えると将輝が駆け寄る。本人達は至って真面目なのだ。
「どうしますか吉祥寺さん?」
「ぼくは構わないよ?ひがし茶屋街には何度も行っているから案内も出来るし」
呆れたように言う水波に平静を装ってそう返す真紅郎であるがその内心は将輝と雪花への非難と感謝でいっぱいだった。こんなの聞いてない、心の準備が、という非難や不安、桜井さんと二人、これはチャンスだ、というポジティブな気持ちと雪花達が後押しをしてくれていることへの感謝の気持ち。
「そうですか…では今日一日お願いしてもよろしいですか?」
「僕でよければ喜んで」
真紅郎の精一杯の笑顔は心なしか引きつっていた。
真紅郎と水波を送り出した二人は将輝の部屋でどこに行くかを話し合っていた。とはいえ男二人で観光はな、ということになりボーリング、カラオケ、ゲームセンター、何でもあるアミューズメントパークに行くことになったのだが。
「くりむー(真紅郎)大丈夫かなー」
まるで自分の部屋とばかりに寛いでいる雪花がゴロゴロとフローリングの床を転がりながら言う。
「さあな、アイツ女の子と二人で遊びに行くなんて初めてだろうからテンパってるかもな」
後ろ向きで椅子に座り、背もたれに両腕を置いている将輝がニヤリと笑いながら返す。
「マッキーは?女の子と二人で遊びに行ったことあるの?」
雪花の質問に暫く無言を貫くがジトッとした目を向けられ観念したのかボソッと白状した。
「…妹なら」
意地なのか決して『ない』とは言わない将輝。『妹なら』、という言葉で何の意地が守られるのかと疑問に感じるものの本人の譲れないラインという奴なのだろう。
「それカウントするならぼくも姉さんと二人で遊びに行ったことあるよ、何度か」
呆れたように言う雪花に将輝は心からの声を上げた。
「代われ」
◆
綺麗な夕日が沈むのを眺めながら真紅郎と水波は一条家への帰路についていた。
そんな中、今日のデート(だと思いたい)は中々うまくいったのではないか?と真紅郎は心の中でガッツポーズをする。特に気まずくなることもなく楽しく過ごせた、だからうまくいったはず、ならば今度は。そこまで考えて真紅郎は一度立ち止まり深呼吸する。心の準備である。
「どうかしましたか?」
立ち止まった真紅郎に水波が不思議そうに尋ねる。今しかない、そう思った真紅郎は清水の舞台から飛び降りるような気持ちで言った。
「連絡先、交換しない?」
「そうですね」
あっさり返ってきた望んでいた返答に真紅郎の頭の中でファンファーレが流れる。
ここで告白しないあたりが真紅郎のヘタレ具合を表しているとも言えるが、ここはあえて慎重派だと言っておこう。真紅郎はヘタレではない、慎重派だ。
「そういえば、連絡先を誰かと交換したのはこれが初めてです」
「へーそうなんだ」
水波の言葉に真紅郎は内心で飛び上がった。
◆
「また来いよ、今度は連絡してからな」
「分かってるよ、計画性は大事だからね」
四泊五日の金沢旅行を終え都内にある自宅へと帰ることになった雪花と水波を見送るため一条家の門に集まった将輝、真紅郎、茜。将輝と雪花がにこやかに会話をする横で引きつった笑みを浮かべているのは真紅郎。というのも茜が何やら水波を睨んでいるからである。当の水波はといえば気にした様子もなく雪花の後ろに控えている。
「むー思わぬ伏兵…桜井水波、相手にとって不足なしよ!」
「茜ー相手にされてないぞー」
水波を指差し宣言をする茜であるが水波はスルー。すぐに将輝が指摘する。
「今度はぼくの家に遊びに来てよ、姉さんも呼ぶよ?」
「そのうちな。司波さんを呼ぶなら先に言っておいてくれよ、心の準備が必要だ」
「了解、じゃあそろそろ行くよ」
雪花が別れを済ませたのを見ていた水波がふと真紅郎の方を見る。真紅郎を守るように茜が立つのも気にせず水波は爆弾を落とした。
「昨日は楽しかったです。機会がございましたら是非また誘ってください。
「この泥棒猫ぉおー!!」
茜の叫びをスルーして歩き出した雪花と水波。
「どうしたの水波ちゃん?ニコニコして」
「いえ、予想以上に反応が面白かったものですから」
二人が見えなくなるまで門の前で立っていた将輝は真紅郎が石像のように固まっていることに気がつく。
「どうした、ジョージ」
「いや、なんでもない」
真紅郎は水波の『不可視の弾丸』に撃ち抜かれ固まっていたのだが、それを口にはしなかった。その代わり真紅郎はボソリと本音を漏らす。
「ちょっと雪花くんが羨ましいよ」
「…俺もだ」
二人は揃ってため息を吐いた。
次話で夏休み編はラストになると思います。たぶん。もしかしたら新章を始めるかもしれませんが。
さて、明日も0時に投稿します。