魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
解放される殺意
「聖遺物の複製か…また無茶をしたものだ。俺の魔法を使っても複製できるかは分からないぞ」
「仕方ないよ、もう受けちゃったんだから」
「他人事のように言っているが、お前にも手伝ってもらうからな」
「…マジですか」
特に襲撃もなく無事に司波兄妹の家へと辿り着いたぼくは、お使いを果たした。言われていた通り書類を渡し聖遺物のサンプルを見せたがあまり反応はよろしくなかった。まあ聖遺物っていうのは現代技術で人工的に合成することが難しいらしいし。ただこの聖遺物には魔法式を保存する機能があるため、それについての手掛かりが欲しかった兄さんはやる気を出してくれた。ぼくを巻き込むのは止めて欲しかったが。
「雪花、夕飯はどうするの?」
「家で食べるよ、今日は母さんがいるし」
制服からオールインワンのキャミソールワンピースに着替えた姉さんが聞いてくるが今日はパスする。母さんは普段帰ってくるのが遅いため中々一緒に食事をする機会もないのだ。こういうときはなるべく一緒に食べるようにしていた。
「サンプルは預かって良いのか?」
「あーたぶん良いんじゃない?というか、ついでだし帰りに第三課に持ってくよ」
ぼくの家からFLT本社までは歩いて十分もかからない。帰り道だし効率的だ。
「送るよ」
「良いの?面倒じゃない?」
「それにどれだけの価値があるのか分かっているのか?襲われる可能性もある」
お使いは家に帰るまでがお使いだ。原作でも司波兄妹宅からの帰りに母さんは襲われていたしむしろ帰りの方が危険だったのだ。本職のボディーガード(ガーディアン)である兄さんがいれば安心だ。
「それじゃあ深雪、行ってくる」
「お兄様、お気を付けて。雪花も迷子にならないように」
ぼく、ここまで一人で来たんですけど!
◆
FLTの本社へ向かう道中、そいつは立っていた。引き締まった体付きの東洋人、顔立ちも服装もありふれたもので、だからこそその猛獣のような気配が際立っていた。
「呂剛虎…『人食い虎』だったか?」
このタイミングで呂剛虎が出てくるわけがない、という楽観的な思考はこの際捨てるべきなんだろう。原作知識は絶対ではない。ぼくというイレギュラーが存在している時点で原作との解離は避けられないのだから。ぼくはゆっくりとCADを取り出す。照準補助システム付きの汎用型CAD、『スノー・ホワイト』。ぼく一人の力で作った最高のCADで
「司波達也と司波雪花だな?抵抗は止めてもらおう。司波小百合はこちらで預かっている」
「…なっ!?」
「確認してみろ」
家に電話をかける。出たのは水波ちゃんだ。
『奥様なら仕事場に忘れ物をしたから、と十五分ほど前に出かけられましたが』
家にはいない。電話を切って母さんに電話をかける。出ない。出ない!出ない!出ない!出ない!
「聖遺物と交換だ」
呂剛虎の後ろに黒い車が止まる。そしてそこから出てきた二人の男に母さんは車から押し出される。口を何かテープのようなもので塞がれ両手を後ろで縛られている。見たところ怪我はない。
「聖遺物はここにはない」
「調べはついている。時間の無駄だ」
恐らく調べがついているというのは嘘だ。母さんが家を出たのは十五分前、さらに無傷ということは情報を聞き出すことは時間的に無理だったのだろう。そして、先に母さんを狙ったということはぼくがサンプルを持っていると正確な情報を掴んでいるわけでもないだろう。つまり奴らは現状、不確かな情報しか持っていない。
「早く出せ、でないとこいつを殺す」
呂剛虎の合図で母さんを拘束していた二人の内一人が母さんの首にナイフを押しつけた。
血が流れる。
涙が流れる。母さんが泣いている。
─ああ、そうだ。母さんが泣いている。
─泣かせたのは誰だ。
─あいつらだ。あいつらが母さんを泣かせた。
─なら、どうする?
─そんなの決まってる。
プチりと何かが切れる音が聞こえた。
そして、次の瞬間。
母さんを拘束していた二人は氷の氷像となった。
「お前らには、祈る時間も勿体ない」
─殺そう。
「兄さん、母さんを頼むよ」
呂剛虎は既に臨戦態勢のようだ。全身から殺気を放っている。
「かかってこいよ虎夫君、遊んでやる」
そんな呂剛虎にぼくは全く脅威を感じなかった。
一気にシリアス展開。雪花が母親の涙に過剰反応を示し爆発。横浜騒乱編はシリアス多めかもしれません。
さて明日も0時に投稿します。