魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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シリアルさんは急病のため欠席です。

今日は朝からバイトだったため感想返しが遅れています。すみません。

感想は嬉しいです。


心の闇

呂剛虎をドライアイスの弾丸が襲う。それも無数の弾丸があらゆる方向から常に死角をついて、である。呂剛虎はドライアイスの弾丸をかわすことをしない。剛気功の鎧はドライアイスの弾丸を容易に弾き返すからだ。

 

 

「うわ固い、さすが『食いしん坊の虎夫君』と呼ばれるだけのことはあるね。サンドバッグとしては中々優秀だよ」

 

 

雪花と呂剛虎の距離は目測でおよそ五メートル。ドライアイスの弾丸を受け徐々に距離が離れてしまったのだ。しかし呂剛虎にとってそれは決して遠い距離ではなかった。ドライアイスの弾丸も剛気功の前ではそう大した威力ではない。ゆえに呂剛虎は全力で雪花に突撃する。が、また透明な壁。正体不明の魔法が呂剛虎から攻撃の手段を奪っていた。

 

 

「君と接近戦はしたくないな、痛いし疲れるんだよ」

 

 

また、雪花が右の掌を突き出し呂剛虎は吹き飛ばされる。

 

 

「でも、君を斬り刻むっていうのも面白そうだ」

 

 

拳銃型であったはずの『スノー・ホワイト』が変形し短い小刀のような形状に変わる。

と、同時に吹き飛ばされるも倒れることなく再び突進をしてきた呂剛虎の鋭い突きが雪花を襲う。今度は障壁を使わずにその突きをかわすと、小刀となった『スノー・ホワイト』を振り降ろす。小刀は届かない距離。それでも呂剛虎が頭上に左手をかざした。この魔法には心当たりがあったからだ。呂剛虎の予想通り小刀の延長線とかざした左手の交差点で重い音が鳴る。

 

 

「やはり幻刀鬼(フアダオクアイ)と同じ魔法か」

 

「正解、虎夫君意外と博学だねー」

 

 

幻刀鬼とは千葉修次に付けられた異名『幻影刀』のことである。そして千葉修次がそう呼ばれる由縁である魔法、『圧斬り』。

 

 

「でも、これは知らないでしょ」

 

 

雪花は魔法を自ら無効化し、空振りへと戻った小刀をそのまま振り下ろした。そして後方に飛ぶ(・・)。一瞬にして十五メートル程の距離をまるで瞬間移動(・・・・)のように移動し、また小刀を振り下ろす。

 

飛ぶ斬撃、『空絶』。

 

圧斬りを元にして作られた全く新しい術式。

 

呂剛虎がそれをかわすことが出来たのは直感だった。何かが来る。その直感に従い呂剛虎は左に飛んだ。先程まで呂剛虎のいた場所に刃物で切り裂かれたような跡が音もなく出現する。目でも耳でも捉えることの出来ない斬撃。その威力は剛気功でも無傷では済まない。しかし斬撃の位置を予想することは出来る。この『飛ぶ斬撃』はあくまで斬撃が飛ぶだけなのだ。つまり雪花の振り下ろす『スノー・ホワイト』からある程度の位置を予測することが出来る。

そうなればかわすことはそう難しくない。

 

 

「やっぱり魔法の開発は兄さんの領分だね、切り刻むのは止めだ」

 

 

─深紅の花になってもらおうか。

 

 

ゾッとする程の殺気に呂剛虎が撤退を選択しようとしたその時─

 

雪花が拳銃型に戻った『スノー・ホワイト』の引き金を引こうとしたその時─

 

 

「そこまでだ、雪花」

 

 

呂剛虎の背後に達也が現れた。その右手には『シルバー・ホーン』が握られており銃口は呂剛虎に向いている。

 

 

「こいつからは情報を聞き出さなくてはならない」

 

 

暗に殺すな、と言っている達也に雪花はにっこり微笑むと─

 

 

「分かったよ」

 

 

─その引き金を引いた。

 

 

「ぐっがぁあああ!?」

 

 

呂剛虎の右腕が深紅の花となって消えた。

 

 

「殺しはしない。でもこれくらいは良いよね」

 

 

雪花がもう一度引き金を引く。発動された魔法、『雷童子』の雷撃が片腕を失ってなお意識を保っていた呂剛虎を完全に気絶させた。

 

 

「楽しかったから代金はそれで良いよ虎夫君」

 

 

何の表情もなく、雪花は言った。

 

 

「じゃあ兄さん、後は頼むよ。母さんは家?」

 

「…小百合さんはFLTだ。家より近かったからな」

 

 

達也は何も聞かなかった。

 

 

 

 

雪花は結局のところ誰も殺していない。最初に氷の氷像となった二人も死んではいなかった。しかしその事を雪花が知るのは後の話。このときの雪花は自分が二人の人間を殺した、と確かに理解していた。理解した上で小さく呟く。

 

 

「今日の夕飯はカレーだったっけ」

 

 

雪花にとって二人の命はどうでも良いものだった。少なくとも今日の夕飯よりは。

そもそも雪花は本当に『敵』と認識した相手に対して一切の情がない。九校戦の時、達也に無頭竜の幹部達が消されることを分かっていながらそのことを一切気にしなかったのも単に無頭竜を『敵』と認識していたからだ。

 

 

「母さん、帰ろう」

 

 

雪花は小百合にいつも通りの笑顔で言った。




地味に張っていた無頭竜の伏線を回収できて一安心。

ここまでシリアスというものが殆どなかった反動なのか横浜騒乱編はシリアスが多くなりそうです。

さて明日も0時に投稿します。

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