魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

70 / 157
シリアルさんは寝坊のため遅刻です。


世界が変わった日

28人。

 

雪花がUSNAへ亡命する時、目の前で死んだ人の数だ。

 

敵、味方問わず沢山の人が死んだ。

雪花は思った。どうして簡単に人を殺せるのか。人の命はそんなに軽いものなのか。

考えた。雪花にある前世の記憶と転生してからの記憶の全てを使って。

そして雪花は考えに考えた末に答えを導き出した。

 

─間違っているのはぼくの方なんだ。

 

ぼくはこの世界を知らない。知識として知っていても実際に触れたのは世界に対して狭すぎるマンションの一室だけなのだから。

 

『敵』は『敵』であって『人』ではない。だから殺して良い。ここはそういう世界なのだ。前世とは違うのだ。適応しなければ。ぼくはこの世界で生きていくのだから。

 

 

「わーこれが自由の女神かー大きいなー」

 

 

そう考えたらどうでも良くなった。失われた命も、心に沈殿した気持ちの悪い感情も、何もかも。

 

─適応したのだ。この世界に。

 

雪花は新しい価値観と共に一つの異能を手に入れた。

 

世界の見え方が変わった。

 

 

─ああ、やっぱり今までのぼくが間違っていたんだ。

 

 

雪花はただ笑った。

 

 

 

 

論文コンペまで一週間を切った月曜日。中条あずさはクラスメイトからの質問に固まった。

 

「あーちゃん会長って古葉君と付き合ってるの?」

 

 

いつもなら、自分が所属する2-Aにも浸透してしまった『あーちゃん会長』呼びにツッコミを入れるところなのだが、それよりもツッコまなければならないところがあった。

 

 

「わわわ私が雪花君とですか!?」

 

「うん、だって放課後二人でデートしているの何度か見てるし、いつの間にか名前呼びになってるし」

 

「でっでででデート!?違いますよ!二人でお茶したり買い物したりしてるだけです!名前で呼んでいるのは本人がそう呼んで欲しいと言うので!」

 

「男女二人でお茶したり、買い物したり、を世間ではデートって言うんだよ。それにあーちゃん会長が男子を名前で呼ぶのって古葉君だけじゃない?」

 

 

言われて考えてみるとたしかに男子を名前で呼ぶことはまずない。そもそも男子と関わることがあまりなかったというのもあるだろう。放課後一緒に遊びに行く、なんて絶対になかった。

 

─とはいえ、相手はあの(・・)雪花君だ。一般的な男子と比べるのは違うような気がする。たしかに私の話をちゃんと聞いてくれたり慰めてくれたりして優しいし、一緒にいて楽しい。それに真剣な顔をしているのを見るとちょっとドキッとしたりして、でも何を真剣に考えているのか聞いてみると「あの雲が何かに似ているんだけど何に似ているのか思い出せない」とかどうでも良いことを考えていたりして、でもそういうところが可愛かったり─

 

と、そこまで考えたところでクラスメイトの声に現実へと引き戻される。

 

 

「どうしちゃったのあーちゃん会長?ぼーっとして」

 

「いっいえ何でもありませんっ!」

 

少し顔が赤くなっているのが分かった。

 

 

 

そんなことがあったからだろう。

いつものお茶会がいつもと違って感じる。

 

 

「あーちゃん会長、今日何かありました?いつもよりテンション低いような気がするんですけど」

 

「そんなことないですよ?」

 

「そうですか?」

 

「そうですよ」

 

 

雪花は「なら、良かったです」とこの話を打ち切り、学校に来る時、いつも持ってくるリュックから紙の束を取りだしテーブルの上に置く。

 

 

「これを見てください」

 

「えーっと…一位・古葉雪花、二位・中条あずさ、三位・明智英美…これ何の順位ですか?私の名前もありますけど」

 

「…『部のマスコットにしたい生徒ランキング』の順位です」

 

「え!?なんですかそれ!?」

 

「ちなみにぼくが登校し出すまではあーちゃん会長が不動の一位でした、なんでも入学式の答辞が凄く可愛かったとか」

 

「あれは思い出させないでください!緊張していたんです!」

 

 

あずさにとって入学式の答辞は高校入学以来最初にして最大の失敗だった。思えば今のキャラが確立してしまったのもあの答辞のせいなんだろう。来年は会長として挨拶をしなくてはならないと思うと今から気が重い。

 

 

「大体誰なんですかこんなくだらないランキングの集計をしているのは!」

 

「十文字会頭ですね、部活連の企画だそうです」

 

 

予想外の答えにあずさは頭痛を感じる。こんなくだらない企画を真面目に集計している十文字の姿が浮かんでしまったからだ。あずさは十文字が少し天然であることを知っていたため、あり得ないことはないと思っていた。

 

 

「ぼくはもうクラスで『雪花たん』と呼ばれ愛でられるキャラを脱却したいんですよ!」

 

 

無理だと思います、という言葉をあずさはなんとか飲み込んだ。雪花の顔が真剣だったからである。

 

 

「お兄さんの真似をしてみたらどうです?」

 

「…それはもうやりました。『大人ぶってて可愛い』との評価を頂きました」

 

 

一応アドバイスをしてみるが、返ってきたのは残念な結果だった。雪花はしょんぼりとしてしまい、あずさは慌てて次の案を出す。

 

 

「じゃっじゃあ逆にお姉さんの真似をしてみるというのはどうでしょう!?」

 

「あーちゃん会長、真面目に考えてないでしょ!?」

 

「考えてますよ!?すっごく考えてますよ!?」

 

「じゃあ、そんなんだからあーちゃん会長は一年生にまであーちゃん会長と呼ばれるんでしょうね!」

 

「なっ!?それは雪花君のせいじゃないですか!クラスに友達いないくせに吹聴して歩いて!」

 

「ぐはっ!?言ってはならないことを言ってしまいましたね!去年のクラスではクルクルちゃん、略してクルルちゃんと呼ばれてたくせに!」

 

 

最初のどこかいつもと違う空気はどこへやら。周囲のお客さんが温かい目で見守るいつも通りの二人がそこにはあった。

 

 

「そういえばあーちゃん会長」

 

「なんです?」

 

 

そろそろお開きというところで雪花が何気なくあずさに質問をした。

 

 

「あーちゃん会長の家って十師族となんか関係あったりします?」

 

「えっありませんよ?もしかしたらどこかで繋がっているかもしれませんが私の知っている限りではないですね。どうかしたんですか?」

 

 

「いえ、なんでもないですよ」

 

 

その時雪花はとても嬉しそうに微笑んでいた。




クルクルちゃんというのはあーちゃんの髪型から付けられたあだ名です。

さて、明日も0時に投稿します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。