魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
「敵の陣容にそれほど厚みは無いよ。揚陸艦が一隻と、事前に潜伏させたゲリラが進行軍の総兵力だからね」
「お前なんでそんなこと知ってるんだよ?」
「軍の人から聞いた。もう掃討戦に入ってるらしいよ」
どうやら三校には偵察手段がなかったらしくあまり状況を把握できていなかったらしい。
「そうか…だが」
「魔法協会支部に向かうんでしょ」
「ああ、俺は『一条』だからな」
十師族には魔法協会に対する責任がある、一条の長男であるマッキーが知らん顔で逃げるわけにはいかないのだろう。だから無理に止めることはしない。マッキーが死なないのは分かっているし一番ヤバそうな虎夫くんは既に処分した。
「ジョージに皆を無事に脱出させるよう言っておいてくれ、正直、先生や先輩たちだけでは無事、脱出できるかどうか心配で戦いに集中できない」
「了解、無理はしないでね」
マッキーは短く返事をして、独り、更なる戦場へ向かった。
信じられるかい?あの人、あれで好きな女の子に連絡先も聞けないんだぜ?
◆
なんとか脱出に成功したぼくと三校生徒の乗るバスの中で切っていた携帯の電源を入れてみると表示させる着信履歴。その数47件。
その内、38件が姉さんだった。
怖い!怖すぎるよ!狂気を感じるよ!
「くくくくりむー!どうしたら良いと思う!?」
ガクガクと震えながらくりむーに携帯を差し出すと「うわぁ…」と声を上げて苦笑い。
「まあこんな状況だし、お姉さんも心配なんだよ」
「その心配していた姉の電話を数時間に渡って無視していたわけなんですが!?」
「……頑張って」
あれ?手が震えて上手く操作できないや…。
「もしもし姉さ『雪花!?』…うん」
『無事なの!?怪我は!?今どこ!?』
「無事無事、怪我もない。今は三校のバスで避難してる」
『無事なら無事で連絡しなさい!心配するでしょ!』
「うん…ごめん」
完全にぼくが悪いので素直に謝っておく。ぼくとしては何が起きるか大体の予測がついていたわけで、そんなに危険は感じていなかったけど、姉さんは違う。突然襲撃され、そこにぼくはいなかった。うん、心配するのも無理ないね。38回も電話するのも無理ないよね!
『続きは帰ってからね、それより今は聞きたいことがあるのだけど』
「えーまだ続くんですか…ぼく疲れてるんだけど」
『桜井水波さんを知っているかしら?』
忘れてた。水波ちゃんを放置しておいたんだった。それでVIP会議室に来た姉さんたちと合流したんだろうけど…何の言い訳も考えてなかった。
まず、水波ちゃんが姉さん達にどこまで話しているのかが分からないと言い訳もできないし。
というわけで。
「えいっ」
通話を切った。そして別の携帯を取り出して水波ちゃんに仕掛けておいた『保険』を起動させる。超小型のカメラだ。水波ちゃんが兄さんたちと合流する可能性は考えていたので仕掛けておいた。その映像を携帯でみる。
まず、静かにぶちギレている姉さんが映った。
ぼくは震える指で水波ちゃんにメールを送る。
『一人になって』
水波ちゃんは携帯を見て、ため息を吐くと「やれやれだぜ」とでも言いたげな顔でその場を離れる。映像を見るにヘリからは降りているようだ。
映像を見て水波ちゃんが一人なのを確認して電話をかける。
『……もしもし』
めっちゃ不機嫌だった。声から殺気が伝わってくるよ!『幻想眼』使わなくても見えるよ!
「も、もしもし水波ちゃん?ちょっと聞きたいんだけどぼくとの関係は説明した?」
『……今のところは何も、名前しか。そういう状況でもなかったので』
そうなると、なんで姉さんは桜井水波という名前をわざわざ口にしたんだろう。ぼくと水波ちゃんに関連性がある、と分かっているからこそだと思うんだけど。
『じゃあ、なんでぼくのことバレたの?姉さんぼくらのこと知ってそうな口ぶりだったけど」
『……七草の双子ですよ、私、泉美さんとクラスメイトですから。メイドの仕事で学校を休むこともありますし、雪花様のことを話したこともあります』
「えっ!?なにその衝撃の事実。というか水波ちゃん学校行ってたんだ」
『行ってないわけがないでしょ、常識で考えてください。その空っぽの頭で。ああそういえば雪花様は中学校どころが小学校、幼稚園すら卒業していませんでしたね、すいません、幼稚園生以下の頭で常識で考えろとは無茶でした』
毒舌がキレッキレだよ!というかただの悪口だよ!そもそも学校に行けなかったのは四葉のせいだよ!
『ところで、私を気絶させた件についてですが、謝…』
「えいっ」
切った。通話どころが携帯の電源を切った。
「くりむー、ぼく来週遊園地に行くんだ」
「えっ?うん、行ってらっしゃい」
「逝ってらっしゃい」に聞こえたぼくは恐らくもう駄目だろう。あーちゃん会長との約束は果たせそうにない。
姉さんと、水波ちゃん、二人の魔王にぼくは恐らく勝てないだろうから。
「くりむー、ぼく、遊園地に行くんだ」
「なんで泣いてるの!?というか顔色が大変なことになってる!」
遊園地…行きたかったなー。
ぼくはこの時、知らなかった。魔王は二人だけではなかったということを。
水波ちゃん、炸裂。
次話は完全コメディー回になりそうな予感。雪花が魔王にひたすらいじめられます。
さて、明日も0時に投稿します。