魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

98 / 157
日曜日の朝、起きたら11時だった時の絶望感。そんなわけで新しい目覚まし時計を買いました。


雪花思考中②

執事たちは真夜にとって死んでも良い程度の捨て駒に過ぎないがそれでも実力は並みの魔法師を凌ぐ。

 

 

「冥土の土産に教えてあげよう。今のは『精霊の射手(エレメンタル・アーチャー)』、滅茶苦茶格好いいでしょ?今考えたけど」

 

 

その執事たちがものの数秒で全滅していた。四種類─炎、氷、風、土─の魔法による弾丸が全方位から射出されたからだ。嵐のように蹂躙する魔法を止められるものなどいなかった。

 

瞬間、世界が夜に塗り潰された。

 

闇に浮かぶ、燦然と輝く星々の群れ。

天井が月の無い、星の夜空に変わっていた。

星が、光の線となって流れ、血臭が、室内に漂う。

 

が、音もなく夜は砕け散る。

 

 

「逃げるよ!」

 

 

雪花の声で沙世は動き出す。唖然としている水波を米俵のように担いで応接室のドアから飛び出した雪花に続く。

 

 

「ななな何をしているんですか貴方は!当主様に四葉に手を出すなんて!というか下ろして下さい!」

 

「やっちゃったものは仕方ないでしょ!反省はしているよ!後悔はしてないけどね!沙世さん、水波ちゃんを下ろさないように!」

 

 

水波はじたばたと暴れるものの沙世による絶妙な拘束により力が入らず抜け出すことは出来ない。耳元で大人しくしなければあの画像データが白日の下に晒されることになりますよ、なんて脅されてからは人形のように大人しくなったが。

 

 

「水波ちゃん、四葉真夜の私室は!?」

 

「すぐそこですが…何をする気ですか?」

 

「弱味を握れるかもしれないでしょ、何か探すんだよ」

 

 

真夜の私室に入り幻想眼で『真夜の見られたくないもの』を探す。人に見られたくないものというのは独特の色で見ることが出来る。

 

 

「見ーつけた!」

 

 

雪花はタンスの棚を勢い良く引き抜いた。

 

 

「……変態」

 

「ちち違うよ!偶然!本当に偶然なの!」

 

 

雪花が両手で持っている引き抜いた棚にはぎっしりと色とりどりの布が詰め込まれていた。それは女性用の下着だった。水波だけでなく沙世からも冷たい視線が雪花に送られる。が、言い訳をしている暇はなかった。すぐにドアから執事が二人、入ってくる。それを風の魔法で吹き飛ばし三人─正確には二人と荷物が一人─は部屋を出て走り出す。

 

 

「まさか下着だなんて思わなかったんだよ!こう秘密文書的なものとか、そういうのが出てくると思ってたの!」

 

「その割には大事そうに持ってますね」

 

 

屋敷から脱出し少し余裕の出来た雪花は早速言い訳をするが水波の指摘どおり雪花の手には中身の殆ど無くなった(・・・・・・・・・・)棚が掴まれていた。つまり雪花は真夜の私室から屋敷を脱出するまで下着を撒き散らしながら逃げていたのである。

 

 

「……何故、私を一緒に連れてきたんですか?」

 

 

四葉の敷地を抜けたところで水波はボソッと雪花に尋ねた。

 

 

「だってアイツ嫌なことばっかり水波ちゃんに言ってたじゃん。そんな奴のところに居させられるわけないでしょ」

 

「でも私は…私は…」

 

 

四葉に命令されて監視し、逐一貴方のことを報告していた、そう口から出すことは出来なかった。

 

 

「関係ないよ、水波ちゃんがどうしようとそれをぼくは許すし気にしない。そのせいで四葉が何かしてくる…ぼくの大事な人を傷つけるって言うなら─その時は潰せば良い。勿論水波ちゃんも大事な人だよ?」

 

「なんで…どうして…」

 

「一緒に遊んで、一緒に旅行に行って、一緒に寝て、楽しくなかった?ぼくは楽しかったよ」

 

 

それは思ってはいけないことだと自分に言い聞かせてきたことだった。任務だから、命令だから、と心の中に押し込んでいた溜まり続けていた感情だった。

水波の中からそれが溢れてきた。止まらない涙と一緒に溢れてきた。

 

 

「……楽しかった…です。なんだか暖かくて…居心地が良くて……家族…みたいで。心から楽しいと思えた」

 

 

水波の言葉に雪花は笑った。

それは水波が何度も見ている自分にも何度も向けられた心からの笑顔だった。

 

 

「家族みたいなんじゃない、ぼくらはもう家族なんだよ。水波ちゃんが笑うと嬉しいし、泣くと悲しい。なんだかんだ言いながらもゲームで本気になっちゃう水波ちゃんも、結局負けて悔しがってる水波ちゃんも、夜中にこっそり特訓しちゃう水波ちゃんも、全部可愛いと思う。ぬいぐるみに話しかけちゃう水波ちゃんもね。

四葉?関係ないね。水波ちゃんはぼくがもらうことにしたんだから。だって水波ちゃんは家族だ。そうだね…ぼくの妹、かな」

 

 

雪花の言葉に水波は笑った。

それは水波が初めて雪花に向ける何年も忘れていた心からの笑顔だった。

 

 

「私が姉ではないでしょうか?」

 

「え!?いやだって水波ちゃん年下じゃん!ぼくがお兄ちゃんで水波ちゃんが妹だよ!」

 

「毎朝、起こして貰って、着替えを用意してもらって、ネクタイをしめてもらって、眠いとき朝食を食べさせてもらって、やっと学校に送り出される兄…ですか?」

 

「こ、これからは大丈夫だよ!あっやっぱり朝は起こして!」

 

 

水波は笑う。雪花も笑う。

初めて心が通じあった気がした。

 

 

「仕方ないですね、私が妹で良いですよ」

 

「よろしい、ならば早速お兄ちゃんが守ってあげよう」

 

 

空から降ってきたいくつもの魔法攻撃をファランクスによって防ぐ。

 

 

「これは警告だよ、四葉。ぼくの大事な人に手を出したらどうなるか、しっかり刻んであげるよ」

 

ムスペルヘイム。

気体分子をプラズマに分解、陽イオンと電子を強制的に分離することで高エネルギーの電磁場を作り出し灼熱地獄とする魔法。

 

雷光瞬く灼熱が雷炎の世界を作り出す。

 

 

その日、四葉家本家は半壊した。




雪花思考中は後一話で終わりです、たぶん。
来訪者編は終わり方だけぼんやりと決めて後はその場の思い付きで書いているのでどうなるか分からないです。気がついたらレオが退場していたりね。

さて、明日も0時に投稿します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。