更識簪にとって篠崎春明はヒーローである。
本人は否定するが、その否定意見を簪は聞いたことがない。だがたとえ言われたとしても自分みたいな陰キャと話してくれて、なおかつ趣味に付き合ってくれるなどヒーローでしかない。
簪の朝は遅い、いつも夜更かししておりルームメイトもだらけているのでしっかりしてる奴がいない。時折り部屋に来るルームメイトの姉に怒られながら片付けをしている。
そんな簪も朝早く起きる日がある。
日曜の朝である。
どんなに眠くても週一のこの時間だけは起きる。そして目的を達成すると感想をネットに垂れ流して寝る。起きるのは日が沈む頃である。人によっては絶句するかもしれないが簪は幸せである。
「おーう、きたぞ」
最近は一緒に見る異性までいるのだ。オタクに優しいギャル、の性別逆転版である。もしかしてこれは死ぬ前の走馬灯ではないのだろうか、そう考えたことはもう三桁になったかもしれない。
同じテレビで同室で自分の好きなものを異性と楽しむ、これはもう陽キャではないのだろうか、いつの間にか自分は陰キャを卒業したのではないだろうか。
「ふ、ふふっ」
思わず溢れる笑みだが、後で見返すと死にたくなる顔だったので未だ陰キャは卒業できないだろう。
マスクドライバーのおもちゃもあるが、一緒に遊びたいとは言い出せてない。ある日、変身ベルトやその他を広げ、春明が来るのを待ち構えた。部屋に来るという連絡を受けていたので、用事のあった整備室からウキウキで帰宅。
そこではマスクドライバーデビルスの変身に使う契約リング、要するに指輪型のアイテムをルームメイトにつけている春明がいた。
簪は頭が破裂し紙吹雪が舞った。
部屋で出会ったので、アイテムを紹介がてら見ていたらしい。箱を開けるのは良くないと思っていたが、たまたま転げ落ちた契約リングを拾ってつけたらしい。簪は寝取られだと呟いたが寝ていないし遊んでもいない。初めてはルームメイトに奪われた。
結局その日は三人で遊んだ。
「え、マジかぁ」
「あ、あ、あ」
「うっそだろおい」
「え、まさか初期のアレも伏線? だとしたら定期的に映っていたアレとか全部最初から考えられてたってことだし、そうすると初期の発言も意味がひっくり返ってくるし」
今日放送されたのは物語のターニングポイント、これまでの伏線回収と同時に色々な秘密が明かされた回。見ていた二人は興奮が止まなかった。
見終わるとあーであるこーである、思ったこと考えたことを好き勝手に話して盛り上がる。そして散々話をしてひと息。そして慣れたように冷蔵庫から飲み物を取り出して飲む。たまに来るだけだがその時に春明が置いていったものだ。「冷蔵庫を勝手に使うなんて横暴だ〜」と言っていた人物がいるが好きに食べていいとお菓子も入れておくと五体投地で感謝した。なお置いて行かれたお菓子を食べるのは春明がいる時だけである。
春明が飲み物を飲んでいる間に簪はネットで同志の感想を眺めていた。どこもかしこもネタバレしない程度に感想を言っており、お祭り騒ぎである。簪も参加しようと感想をネットに流した。
『まさかこんな展開で来るとは思わなかった。見逃した人はネットを見る前に見た方がいい、視聴者目線で見てきたストーリーが全部ひっくり返る。 カレ もこの先が楽しみだと言ってた』
数分後、飲み物で喉を潤して買い置きのお菓子を持ってきた春明が見たのは、必至の形相で端末を操作している簪だった。喜んでるのか焦っているのか怒っているのか泣いているのか、表情がコロコロ変わるせいで分からない。それだけでなく、簪は布団から飛び起きるとパソコンを起動させ、すごい勢いでキーボードを叩き出す。日頃からネットに浸っている陰キャの特技を惜しげもなく披露している。
眺めていた春明はひとまず自分の端末を操作する。目的は簪のSNSアカウント、以前聞いたら「いやその全然嬉しいんだけど本当のわたしではないっていうかちょっと変わってたりいやほら身バレって怖いから嘘つくわけじゃないけど少しだけズレてたりいや自分がそもそもズレてておかしいのは分かってるんだけどほらイメージが変わるかもってモニター覗くのは勘弁してくださー‼︎」と早口で言っていたが早くて分からなかったので目の前でフォローした。簪は通知画面をスクショして保存した。
春明は見た。ちょっと後悔した。なんかまぁ、特撮好きな女子ということでフォロワーは多かった。ただ載せている日常はこう、見栄を張ったが誇張というくらいではあった。
そしていま、強調したカレという文字に食いつかれてプチ炎上していた。大まかにいうと、嘘乙。それに対してリアルにいるしこの時間に特撮リアタイしてる恋人なしオタクと言い返していた。日曜の朝から何をしているのやら。
とりあえず火種となった投稿にグッドを入れておいた。しかしレスバに集中している簪は気がつかない。することもないし眠いので、飲みかけのペットボトルを置いて春明は簪のベッドで寝ることにした。
無駄に続いた簪の炎上は誰かと一緒に見るの楽しいですよねーという顔を隠してマスクドライバーを流しているテレビが一緒に映った仲睦まじい親子の写真で終わった。家族自慢か! という言いがかりも嫉妬として見做されてしまい誰も何も言えなくなった。
いい仕事をしたと額の汗を拭った簪は、置いてあったペットボトルの飲み物をひと息で飲み干し、眼鏡型ディスプレイを外してベッドに潜り込んでそのまま寝た。いつもより布団が暖かいと思ったが、眠気に負けてそのまま意識を落とした。
目が覚めた時、人のではない声を出して一緒に寝ていた人物を起こしてしまったが蛇足である。
後日、このことをSNSに投稿してまた炎上したがこれも蛇足である。
普段本音はあまり邪魔しないようにしてます。自分があまり詳しくないのと簪の時間も確保したいからです。それはそれとして手を差し出してつけて〜とは言いました。簪もつけてもらいました。どの指かは不明です。
何気にこういうおもちゃで遊ぶのは初めてだったので春明めっちゃ喜んでました。知らないところで春明に勝つ女、簪です。ヒロインレースの順位はイマイチですが好感度とか尊敬度は高いです。真のダークホースです。
これイチャコラかな? と思ったけど異性とライダー見て話して遊んだらそれはもうイチャコラでしょうと自分が納得したのでイチャコラです。
感想、誤字報告高評価いつもありがとうございます。書くだけだと何にもならないですが、読まれることで作者も楽しんでます。残りヒロインも少なくなってきましたが、活動報告にて案は募集続行!