その分濃くなるようにがんばります
ではセシリア編ですどうぞ
というかヒロインエンドにホモ乱入は流石にしないから()
「また来ましたよ」
「断っておいてください」
「ではいつものゴミ箱へ」
メイドとお嬢様の会話である。
ゴミ箱と呼ばれたカゴへ放り込まれたのは装飾のされた手紙。チャットや通話といった連絡方法が当然となった世界で、紙の手紙である。しかも蝋で封された高級な紙を使われているものだ。間違えても捨てていいものではない。
「いやーモテますねお嬢様。メイドとしてはいい加減相手を見つけて欲しいものなのですが、オルコット家を継ぐにふさわしい相手は見つかりませんねー」
「チェルシーせめて表情は取り繕いなさい」
残念と言いながらも笑顔のチェルシーを見てため息をつくセシリア。送られてきたのは雑に言えばラブレター、もっとも貴族同士のやり取りなのでお茶会の誘いである。
IS学園を卒業したセシリアはイギリスに戻った。国家代表にはなれなかったものの、専用機持ちであり実力もあることから国で管理されているIS部隊の外部所属といった立ち位置になった。
つまり貴族、オルコット家の代表であり国から認められたIS乗りということ。さらに少女から大人の女性へと成長した美貌も合わせ持ち、さまざまな相手から誘われることになった。
まだ年が近ければいいのだが、なぜか父親並みの年齢からも誘われる始末。思いっきり舐められているのだが、その程度でどうにかなるほど柔ではない。IS学園の恩師からも舐められたのなら殴り返せと教わっている。教えた人物が人物なので物理的になのか少し悩んだが、とりあえず断ったりしつこい様なら警察のお世話になったりとさばけている。
「どうせなら男除けの指輪でも付けますか。いえ約束した殿方からいただかない限り付けませんとか言いますよね、おぼこですもんね失礼しました」
「ほんと失礼ですわね?」
「でも何かしらの対策はしておいた方がいいですよ。変な相手とかもいますし」
ポリポリとお菓子を食べながらお茶を入れるチェルシーの意見にも一理ある。全部自分で、というつもりはないがそれはそれとしてボディガードなどは雇った方がいいだろう。
なんだかんだ有能なのだ、主人に対して失礼なだけで。以前も庶民との触れ合いを大事にと握手会を開かれたが。これは本当に必要なのか頭を悩ませたが結果的に政府のイメージは上がったので良かったらしい。ISスーツでする必要はなかった気はするが。
それはそれ。
「ではこちらで適当に探しておきますわね」
「頼みましたわよ。あとお菓子はわたくしにもください」
そんな日の後日、
「連れてきました」
「早いのはいいことですが、雑な仕事をしろとは言ってませんわ」
チェルシーが連れてきたのは上質なスーツに白手袋のおそらく男性。上からでもレスラーのようなガタイはないが、一流のスポーツ選手のような鍛えられた身体はボディガードとしては頼りになるだろう。ただ一点を除いては、
「その犬の被り物は何ですか」
「むさくるしい男をお嬢様の近くに置いておくためにも可愛らしさで中和しようかと」
「気味の悪さしか出ていませんわ」
頭にはマヌケな犬の被り物をしていた。愛嬌を出そうとしたのかバセット・ハウンドのような垂れ耳に垂れ下がった目、これらと顔のバランスがいい感じに組み合わさり子供が見たら泣きそうな不気味さを醸し出していた。顔から下が上等なために余計に不気味である。
訝しむ視線で眺めればチェルシーのお手、おかわり、三回まわってワン、の命令を忠実にこなした。最後は言葉を話すことなくビシッと天井に指を突き付けたポーズだったが、数字のワンという意味だろうか。したり顔のメイドに雇い主はため息をついた。ベッドに戻って横になりたい気持ちを抑えて気になったことを聞く。
「仮にも雇い主の前というのに脱がないのですか?」
「お嬢様が顔面偏差値で決めないように敢えて隠しております」
「ボディガードに必要なのは顔ではなく体力などでは? そこまで言うのなら逆に気になるのですが」
「お嬢様、人とは顔が全てではありません。初対面での印象が七割なのです」
「そこで見極めろというのならお帰り願いますが」
そこではぁーやれやれ分かってないなぁこのお嬢様は、と態度で表すチェルシー。セシリアは今度の給料を引いておこうと思った。
「さぁどうするのですかお嬢様。ボディガードとして雇いますか、それともペットとして飼われますか」
「回れ右と言って差し上げますわ」
「なんて酷いことを! たまたま出会って話すと暇だったからボディガードを頼んだこの方を追い返すというのですか!」
「追い返す理由しかないのですが」
さながら貧乏メイドが拾って来た犬を追い払おうとする悪徳領主の図、のようである。もっとも現実は雇い主を悪くしようとしているメイドの方が悪いのだが。話し合った結果とりあえずお試しで雇うことが決定、脱がせようとした被り物は無駄に高い身体スキルによって躱され続けてあきらめた。
そして時が経ったある日のこと、
「貴方が来てからしばらく経ちましたね」
列車での移動中、用意された特別な車両でお茶を飲みながらセシリアは犬と話をして、話すと言っても一方的に話しかけているだけだが、空いた時間を緩やかに過ごしていた。
拾ってきた犬は仕事をした。それはもうセシリアが思ってたよりも仕事をこなした。仕事で出かける時、貴族としてパーティーに参加する時、連れて行くと誰しもがギョッと目を見開いて驚くがセシリアがボディガードとして雇ったと言えば何とか納得はしてくれた。その奇妙な恰好に気圧されてなのか真っ当な目的がある者以外は近寄らなくなり、仮にいたとしても手を伸ばした瞬間に割り込んで捻り上げる。その時悔し紛れに出た駄犬め、という言葉が浸透しそのまま愛称として呼ばれるようになった。
私生活でもどこから取り寄せたのか日本の麦茶とわらび餅を用意したり、芸でもできるのかと聞けば和太鼓を叩き出した。試しにフリスビーを投げると謎にスタイリッシュなポーズで空中キャッチ、大道芸でもすればボディガードをしなくても暮らせるのではないだろうかと思ったことは十を超えた。
相変わらず声は出さないし被り物を脱ぐことはない。しかし今ではそれでもいいかと思えるほど馴染んだセシリア、順当に染まっていっていることに気が付いていない。
「……………まだ顔も声も教えてはくださらないのですか?」
シレっと遠くを見る駄犬に、まだ秘密ですのねと呟くセシリア。声も表情もないのだが態度だけで意思疎通ができる程度には馴染んでいる。
「いつか教えてくださいませ、その時にはわたしの事もお話しますわ」
チェルシーにしか話していない自分のこと、それをいつか話してもいいかもしれない。そう思うほど駄犬はセシリアの中で大きくなっていた。その時、
「きゃっ!?」
電車が大きく揺れた。
ソファに座っていたセシリアを支える駄犬、時刻はまだ昼だというのに外を見れば真っ暗である。
「どうしましたのっ!?」
「す、すみませんすぐに確認します!」
車両に設置されていた連絡機でどこかへと話し始める乗務員、聞けばトンネルに入り途中で落盤したために緊急停止したとのこと。
「すぐさま被害の確認、そして外部からの救援を」
「は、はい!」
冷静に出されたセシリアの指示に動き出す乗務員たち。落盤事故自体は珍しいがそれでも緊急停止した時に転んだ程度の怪我人しかおらず、出口も近かったために現在外で救助活動が始まっていると全車両に連絡がいきわたり誰もがほっと息を吐いた時、
ガラリと音がして近くに石、いや岩が電車の近くに落ちてきた。
「ひっ………!」
車両の明かりはあるものの、外は真っ暗で埋もれた洞窟の中、その事を改めて認識した人の心に恐怖が込み上げてくるのに時間は要らなかった。
「だ、だれかはやく助けてくれ!」
「大丈夫、大丈夫よ」
不安は、恐怖は伝染する。
安全のため一か所に固められた乗客たちが慌てだした時、
「大丈夫ですわ」
いつも通りの優雅な雰囲気を醸し出しながらセシリアが現れた。
「みなさん、落ち着いてください。現在外では落盤した岩を取り除こうと救助活動が行われています。幸いなことにそれほど時間はかからないようですのですぐに助かりますわ」
逃げ出したい、叫びたい、そんな乗客の意識を全て集める穏やかで気品のあるその言葉に不安は少しずつ収まっていった。
その様子を見ると、近くにいた涙目の男の子の頭を撫でながら微笑む。
「大丈夫ですわねボク。ちゃんとお母さまを守るのですよ」
「で、でも大きな岩が落ちてきたらっ!」
落ち着いたからこそ出た本音、その言葉にまた不安に包まれそうになるが、
「お任せください」
どこから現れたのか、青色のビットが緩やかな円を描きながらセシリアの周りを囲んだ。
「その時は、わたくしセシリア・オルコットが愛機スカイブルー・ティアーズで打ち抜いて見せますわ」
二機のビットから撃ちだされたレーザーが車両の中で絡み合い、一度大きく離れると正面からぶつかり弾けて消えた。その飛び散る光に目を奪われた乗客に不安はカケラも残っていなかった。
「……………このまま何ごともなく終わればいいですわね」
暗いトンネルの中を携帯端末などの明かりで照らしながら進む状況を見てセシリアは呟いた。
出口を塞いでいた土砂に人が通れるほどの穴が開いたと連絡が入った。だがトンネルの出口はすぐ近く、というわけでもないので歩くことになったのだ。多少の不安はあれど、絶望してるものなどはおらず、ここから出たら何を食べようかなど表情は明るいままだ。
「先に言っておきますわ」
たまに振られる手に笑顔で振り替えしながらも雰囲気は固い。
「何かあれば乗客と乗務員の皆様を、そして自分の身を第一に考えてください。わたしにはISがありますので何かあっても大丈夫ですので」
隣に立つ駄犬に顔を見せずに伝えるセシリア、聞いていたのかいないのか、頷くことなくそのまま歩き続ける駄犬にセシリアは満足して歩き続けた。
歩くこと数分、遠くで手に持っている明かりとは別の光が見えた。しかもそれは少し動いている。さらに進むとちゃんと装備を着たレスキュー隊のもつライトだと分かり、乗客は喜んだ。人が通れる穴を開けて来たということでその後ろにはまた別の光が見える。レスキュー隊の指示に従いなら進む足は浮足立っていた。
「ん?」
その一人が頭に何か落ちて来たと感じて上を見る。雨か? と思ったがここはトンネルの中、頭を触れば落ちてきたのは土だった。
「っ、みなさん走ってください!」
それは人生経験によるものか、セシリアの大声から一拍開けてトンネルが揺れ出した。歩いてきた方から何かが落ちる音がする。暗く見えなかったがトンネルが崩れてきたのだと、誰もが本能で理解した。
とたんに走り出す。
その間にも天井は徐々に崩れていき、地面にあればそうでもないが頭に落ちれくれば大怪我を負うサイズの石も落ち始めた。
「う、うわっ! ……………あれ?」
思わず頭をかばってしゃがんだ男性の頭上を青いレーザーが通り過ぎる。
振り返った先にはかつてのレーザー実験機が、正式な機体として進化したスカイブルー・ティアーズを操るセシリアの姿。宙に浮き、数も増えて改良されたビット機を纏う姿を見て男性は天使のようだと思った。
「立ち止まらず! 前を見て走り抜けてください!」
その声に振り返っていたり止まっていた乗客たちは走り出した。時折り頭上を通り過ぎる青いレーザーが自分たちを守る青空のように輝く。
トンネルの出口ではたどり着いた乗客をどんどん空いた穴から引っ張り出す駄犬の姿、乱暴ながらもスムーズに進み詰まることなく脱出していく。
「くっ!」
狭いトンネルの中ではISの機動力も活かせず、暗闇故に視界も悪い。ビットが間に合わない時は新たに装備されたブレードで切り裂きながらも乗客を守り、自分も進んでいく。流石にさばききれない落石にビットが潰され始めた時、最後尾だった少年と手をつないで走っていた母親がこけた。それを見て瞬時にどう助けるかを計算し始めるセシリア。使えるビット、親子の状況、落石の可能性、これまでの人生の中で、もっともゆったりとした時間の中で、セシリアの頭に浮かんだのは己の両親であった。
後ろを振り向くことなく立ち上がる少年は母親の手を引っ張りる。その頭上を青いレーザーが道しるべのように覆った。
「……………詰み、ですわね」
崩壊するスピードが加速していくトンネルの中でセシリアは凝縮された思考の中で、冷静に計算していた。あと一機、ビットが生き残っていれば自分も助かったであろう。計算ではなく反射的に落石をよけながらそう結論付けた。どちらも、は無理だった。どちらか、だけだった。そうなるとどちらを、になるのだがそんなものは考える必要すらない。あの親子を助けたビットはそのまま落石に巻き込まれて品切れ、ブレードも振るうためのスペースもない。だというのに未だ落ちてくる岩をよけているのはなぜだろうか、意外とあきらめが悪かったのろう。そんなことに気が付いて思わず笑った。
両親と同じ電車での事故、いや違う。自分みたいな子を生まずにすんだのだ。胸を張って両親に会いに行けるだろう。だというのに、
「いやですわね、涙が止まらないなんて」
したたり落ちる雫がISを濡らしていく。これまでに出会った知り合いたちの顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。思い出が、そういえばあの約束が、どんどん浮かんでいく。もはや動ける空間もなくなって暗闇に包まれた中で、浮かんだのは生意気ながらもずっと暮らしてきたメイド、そして、
「最後にひと目お会いしたかったですわ」
目を閉じずとも何も見えなくなった中で、自分に迫りくる何かを感じ取る。これで終わるのだと、そう疑わなかったセシリアからこぼれたのは、
「たすけてくださいまし、春明さん」
「おう」
「どうにか! セシリアさんを助けることはできないのですか⁉」
「今は無理です! 落盤したトンネルに入っても命を落とすだけ! 助かった命を無駄にしないでください!」
外では本格的に落盤し始めたトンネルから離れた乗客たちが騒いでいた。その内容は取り残されたセシリアをどうにか助けられないのかというもの。レスキュー隊などが必死に止めているが、叫んでいる本人たちも分ってはいる。あそこに行くのは死ぬことだと、自分たちはあのお嬢様が命がけで命を救ってくれたのだと。それでもやりきれない気持ちが言葉や涙となってあふれているのだ。
「あぁ! わたしの、私のせいで!」
そこでひと際大声で泣く女性、最後に助け出された転んでしまった母親だ。あちこちに怪我をして血を流しながらも、泣いているのは痛みではなく懺悔。あそこで自分がこけなければ、そう思い涙が止まることはない。顔を覆い、膝をついて泣き叫ぶ母親を乗務員が肩をさする。誰もが悔しくて、何もできない自分を責めていた。
その中で、ずっとトンネルを見つめているものがいた。
「ボク、ケガはないかい?」
声をかけて来たレスキュー隊に振り向くことなく、少年は頷く。服は汚れところどころ破れており、母親と同じく膝や頬はすりむいて出血していた。
「……………辛いかもしれないけど、今は病院い「待ってる」ん?」
「あのお姉ちゃんをたすけてって、お願いしたから」
少年は持っていた気味の悪い犬の被り物を抱きしめながら、力強く言った。
「約束したから、ボクは待ってる」
レスキュー隊が首をかしげると、トンネルから何か、低い音が鳴り始めた。
その音はどんどん大きくなり、よく聞けばモーターのような何か機械の音も混ざっている。騒いでいた乗客たちも気が付き、声を出さなくなると止めていたレスキュー隊や乗務員がトンネルへ向いた。
「ママ、大丈夫だよ」
最後まで泣いていた母親も、少年の声ですすり泣きながらも顔をあげた。
「犬のお兄ちゃんが約束したんだ」
トンネルの入り口を塞いでいた土砂が震え始め、音はさらに大きくなっていく。
「必ず助けるって」
一瞬、音が止むと何かが爆発したかのような爆音が鳴り響き、全員が目を粒って頭を抱えた。
その中で一人だけ見ていた少年が空を見上げると、青空の下で真っ黒な人影が汚れた服装のセシリアを抱えていた。
『はぁ~い、こちらオルコット家。ただいま当主は療養中につき対応できませんのでまたのおかけをお願いします』
イギリス中、と言えるほどのほとんどが留守番電話を聞いていたころ、オルコット家では命がけで乗客を守った当主が療養していた。
「で、いつからですの?」
「はてナンノコトヤラ」
「ワン」
目の前で汚れた犬の被り物を被ったボディガードと「わたしは当主に隠し事をしていました」と書かれたプラカードを首から下げたメイドが正座をしていたのは療養とは関係のないことである。
「確か日本ではセイザを石の上でして膝に百科事典を乗せるのでしたっけ?」
「ボディガードを勧める三日前くらいに出会いました」
「金に困ってるって言ったら紹介されました」
急にペラペラと口が回る二人、たまたま出会って正体隠してボディガードするの面白そうじゃね? というのが理由だと真顔で伝えられ、頭が痛いと額を抑えるセシリア。
「どうやったんです?」
「腕をな、こうドリルにして」
「ほほー」
そんな当主にして雇い主を前にして気楽な会話を続ける二人、駄犬、もとい春明は腕だけISを展開しドリルを装備した。これを使って出口まで掘りぬいたと自慢げに説明を続け、チェルシーは興味があるのかないのかいい加減な相槌を打つ。
「ほんとあなた方はまったく」
叱る気力もないとベッドに倒れ込むセシリア。呆れながらもその顔はほころんでいた。腕で目を隠すように置くと、しばらくそのままでいる。静かになったと思って起き上がると、
「あ、寝てねぇの?」
「なんでいるんですの?」
すぐそばに被り物を脱いだ春明がいた。
久しぶりなので忘れていたがこいつの距離は近いのだ。何故か春明以外の男が近づくとすぐに気が付くのだが。
「なんかチェルシーがそうしろって」
「チェルシー?」
起き上がると扉を閉めようとするメイドの姿、何故呼ばれたのか分からず首をかしげられた。
「え、久しぶりの再会にベッド、あとはもうなにか要ります? あ、必要であればそこの引き出しの二段目の奥に入れてますので」
「チェルシー?」
「お嬢様も特にケガもなく無事だったようで、念のための療養期間ですのでお好きなだけどうぞ」
「チェルシー⁉」
「それとも」
自由気ままに好き勝手なことをいう幼馴染メイドにツッコミが追い付かないセシリアをおいて、ドアを開けて中に入ると、
「お先にいただいても?」
春明の腕をとり、軽く抱き着いた。
「ダメです!」
空いていた反対側の腕をとって引き寄せる、呆れた顔でため息を付くとチェルシーはドアの向こう側に立ち、
「そこまでやって何も無いはもう無理ですよ」
チラリと春明に目線を向けると、
「……………よろしくお願いします」
頭を下げてドアを閉めた。
しばらくの間、チェルシーが閉じたドアを見つめていたが、ふと腕に抱き着いていたことに気が付く。頭をあげてこれからどうしようか、どうしたらいいのかを考えるが頭は回らず、あきらめてまた腕に頭を預けた。無言のまま時間が過ぎるが、悪くないと思って目をつむりかけ「お嬢様」
「チェルシー⁉」
「そのまま寝過ごすなんてありえないのでちゃっちゃとやってください」
ドアを開けて入ってきたメイドに驚いて叫ぶが、言いたいことを言ってメイドはまた消えた。
「……………もう」
顔をあげるとこちらを見下ろす目と見つめ合った。そういえば久しぶりにあったのだと記憶の姿と比べてみる。大きくなり男らしくなった姿をぼーっと見つめていた。
「セシリア?」
「え、あ、はい、なんでしょう?」
急に話しかけられ驚くがそのまま聞く。
「どうする?」
「どうすると言われましても」
どうすればいいのだろう、経験もなければ知識も乏しい。事前の準備とかそういうこともできていないのに、唐突にイベントが起きても困るしかできない。いや待て、ここは一度落ち着くべきなのだ。ここは私室でベッドの上。いるのは自分と、自分と、
そこで気が付いた。
久しぶりに会った衝撃で忘れていたが、自分は隣にいるこの変な男のことを、
「お慕い申しております」
思っていたよりもさらりと出てきた。
「出会ってから、たくさんの方と出会い過ごしてきました。途中離れてから時間が経ちましたが、ずっと、ずっと変わらずお慕いしています」
身体を伸ばして顔と顔が重なる。
離れてみる驚いた顔は新鮮だった。普段は驚かされることばっかりだったというのに、ようやく自分が驚かせることができた。得も言われぬ満足感と幸福感がセシリアを満たした。そのことが伝わったのか、春明がムッとした顔になると今度は向こうから顔を近づけた。少し驚くも受け入れて楽しむ。何度か繰り返すと、気が付けばベッドに押し倒されていた。セシリアの背中を冷や汗が流れる。
「あのー春明さん? ボディガードとしてこれはやりすぎではないかと」
「さきに仕掛けたのはセシリアだろ」
脱がれた服の下から鍛えられた身体が現れる。少し頬を染めて見るが、それどころではない。
「し、躾のなってないペットはお断りでしてよ⁉」
「あいにく駄犬なもので」
自分の言った言葉に首を絞められる。というか飼い犬に手を嚙まれた飼い主が犬よりも叫んだ。
療養が終わったセシリアの最初の仕事は感謝の手紙や言葉を受け取ることだった。乗客や乗務員、はては国から栄誉を称えられ、一躍時の人に、さらにはテレビのインタビューで、
「セシリアさん、少しお尋ねしたいのですがそちらの指輪は? 確か、事故以前には付けていなかったはずですが」
「これですか?」
司会者が尋ねると、左手薬指につけられた指輪をセシリアは手をあげてカメラや司会者に見せる。
「もしかするとなんですが」
「えぇ、わたくしの大事な人からの贈り物です」
国の有名人のめでたいニュースにこれまた騒ぎになった。あちらこちらへ行くたびに聞かれ、その度にセシリアはこう答えた。
「オイタすることもありますが、頼りになる駄犬ですわ」
シレッと混ざってきたメイドにちゃらんぽらんでいたずら好きな飼い犬、新しい家族を得たセシリアは幸せそうに笑っていた。
はい、ということでセシリアエンドでした。(チェルシーエンドも?)
いつもの遅くなった原因
セシリアがダンスを踊るシーンです(
【挿絵表示】
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活動報告にて案募集です! ヒロイン登場順で√書くけど書き終えた後でも案頂いたら書くのでお好きにどうぞ!→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=333722&uid=235477
お次は皆さんご待望の中華少女の予定(変更の可能性あり)
ガンダムseedの二次も始めました(ホモはいないです)→https://syosetu.org/novel/395036/