今作でもっともヒロインだったのほほん少女編です。
これが運命なのか偶然なのか少女には分からない。
別に御利益があるような、清廉潔白な日常を過ごしていたわけでもない。
あえて言うなら願ったことはある。
この少年と2人っきりで過ごしたいと、ほんのささやかな願いだ。
それができるのならちょっとした悪いことだって構わないと思っている、間違いなく友人よりも悪い子だ。
だから、
「ごめんね」
いつからかネットで噂になっている。
困ったことがあると謎の黒いロボットが助けに来るという。
実際に助けられたという人はいるし、写真も撮ったはずだというのにそこには何もない。
不思議なことにお礼に食べ物を受け取ることも、握手だってしたものもいる。
だというのに助けられた本人以外には証拠がないのだ。
姿も形もあるというに跡はない、その不思議なヒーローのことを、人々は
「正体不明のヒーローってのはいいよな」
「そうなの~?」
ソファに座り手に持った端末でSNSのニュースを眺める少年、その横から少女がのぞきこんでいる。
言うまでもなく篠崎春明と布仏本音である。
工房兼自宅となっている彼らの家、すぐ近くには
「ん~やっぱりよく分かんないな~」
「難しく考えすぎなんだよ
「
都合が悪くなり逃げ出すシーズン、そんな後ろを怒ってますよというアピールをしながらも口元はニヤけているホーネスト。
彼らは秘密裏にヒーロー活動をしている2人組である。
「晩御飯のリクエストは?」
「なんでも~」
「それが一番困るんだけど」
「じゃあポッキー」
「それはご飯じゃない」
いつも通りソファでバタバタとするホーネストを無視して料理をはじめるシーズン。
テレビの電源は付いているが、手元にあるスマホを触るホーネスト。しかし視線はチラチラと料理をするシーズンに移っている。
というか振り返りでもしないかぎりずっとシーズンの背中を追っている。
「ん? こっち見た?」
「なんで見るのさぁ~」
「それもそっか」
並べられた料理、それは高級料理店とは程遠いシンプルな家庭料理でしかない。
それでも満足そうに頬張る少女、口についたものをふき取りながら自分の分を食べる少年。
笑いながら話をして、電気も消えた深夜。
ソファで寝息を立てるシーズンの寝顔を布仏本音は自分のベッドから抜け出して眺めていた。
「…………しのきー?」
行方不明となった少年を探しにアメリカへ来た時、休憩時間に立ちよった捜索範囲付近の工場。そこで自分の探し人が油まみれの整備士として雇われていた。
「おっと、いらっしゃいま「しのきー!」うおっ⁉」
客が来たと出迎えのあいさつを遮って少女は飛び込んだ。
何を言っていたのかは分からない、生きていた喜びやらなんやらで泣いていたことは覚えている。
そんな少女を見て、
「あー…………もしかして俺の知り合い?」
運命の再会は思っていたよりも残酷だった。
気が付けばこの付近で倒れており、身元を証明するものもないが、怪しい人物でもないと工場で雇われ生活していたらしい。
軍や政府が人を探しているというのは聞いていたらしいが、怪我や髪型で別人だと思われていた。
「それで、キミは俺の事知ってるの?」
もし本当に記憶があるなら、こんなことは聞かないだろう。だから本当にないのだと分かってしまった。
悲しくて、つらくて、だからこんな嘘をついてしまった。
「キミはね、ヒーローなんだよ」
こっそりと回収していたらしい渡烏の残骸を集めて修理し、ヒーロースーツとした。
記憶はなくとも身体に技術はあるのかすぐ操縦に慣れた。
ヒーローとサポートは一緒にいるものだ、という言葉のままにアメリカで一緒に暮らすことになった。
自分でも怪しい言葉だと思ったのだが、本人も工場の人もノリノリで見送っていたのでそういうものらしい。
やっぱりヒーローというものは分からない。
ただ一緒に過ごせるのが何よりも幸せで、
何よりも辛かった。
「いてて、ちょっとミスったな」
ある日帰ってきたシーズンは怪我をしていた。
軽いものだが、それでも今までになかったことだ。
土砂災害に巻き込まれた人を助けた時、ISの手だと掴めないと生身の手にして怪我をしたらしい。
「とりあえず唾つけとくか」
本人は笑っていたし命に関わるほどでもない。
けど、ヒーローだと言ったのは自分だ。自分がきっかけで怪我をさせてしまった。
その夜は寝られず、ずっと顔を見ていた。
「…………ちょっといいか?」
「なぁにぃ~」
ソファで寝転がって雑誌を読んでいるシーズン、その反対側からさかさまに覗き込んでいたホーネストは呑気な声を出した。
「んー別に嫌ならいいけど」
「なぁにさー」
微妙に口ごもるシーズン、何かあったかと考えるも心当たりはない。
「…………出かけにいかね?」
「んー買い物ー?」
「いやもうちょっと遠く」
「どこ~」
どこか煮え切らない態度でもごもごとしている。ひっくり返って顔を覗こうとすると雑誌で顔を隠した。
角度を変えて覗こうとするも、それに合わせて雑誌で隠される。
楽しいので続けたいのだが、雑誌で顔を覆ってしまった。
「む~」
「……」
「むむ~」
「…………」
「むむむ~」
「…………………」
なぞの根競べが始まったが、負けたのは、
「…………………旅行とか、いかね」
「」
さてどっちだったのだろう。
日本のある観光町、そこに2人はいた。
荷物を旅館に置くと町に繰り出した。
「…………あれ食べる?」
「…………たべる」
いつも以上に静かな2人。
ぎこちなく食べる様子を見て店員は妄想を膨らませた。
観光名所で写真を撮るも視線はどこかに飛んでいる。
「良ければ写真をとりましょうか?」
そう提案した観光地の職員、どこかギクシャクしている様子を見てたくさん写真を撮った。心のシャッターもきった。
気が付けば日が暮れている。丘に登り穏やかな夕焼け町を照らす景色を眺める2人。
ゆっくりとした時間が流れる中、
「………………ねぇ、いつから?」
風に溶けるほどの小さな言葉がこぼれた。
「…………だいたい半年前」
「……そっか」
日が沈み2人の影が消えていく。
「…………なんで?」
「別に…………知ってるやつだし、ヒーロー活動も楽しかったし」
「………………」
「あと………………………………約束したろ」
そこが限界だった。
ボロボロと溢れて涙が止まらず、それでも横を見ることなく前を見続ける。
「ごべ、ごめんね、わだしがじぶんのわがままに、つぎあわせぢゃった」
「…………」
「じ、じのきーばすごいがら、わだじなんかだと、だめだとおもっで」
「………………」
「あのね゛し、しのぎーわだしね」
嗚咽交じりに出てくる言葉を、聞いてくれる相手がなんと思っているのかは分からない。
でも言わなければいけない。
どんな答えが返ってきたとしても、それだけのことをしたのだと分かっているから。
「し、じの、じのきーのこと」
風が吹き、言葉と一緒に少女を飛ばした。
ゆっくりとフェンスを越えて、暗い森の中に引っ張られていく。
あぁこれが罰なのだと思いながら静かに目をつぶる。
約束を果たしてくれた好きな相手、なのに自分はズルをしてワガママを言って、
今日1日は楽しかった。
学生の時と違い、相手から誘ってもらえた。
約束も果たしてもらって充分なほど幸せな時間だった。
だからこれは、罰なのだろう。
ズルをしてだまして、ワガママだった自分への。
ゆっくりと広がっていく夜空をみて、最後に呟いた。
「好きだよしのきー、あの時からずっと」
初めて口に出せた本音が、身体ごと黒い風に攫われていった。
全身で体感していた風がやみ、少し肌寒い程度の優しい気温となっている。
「?」
ゆっくりと目を開けば見覚えのある黒いマスク、その腕の中で抱えらえていた。
「………………やっぱりヒーローだね」
「…………記憶が戻っても言い出せなかったビビりだよ」
「ううん、そんなことない」
頭を預けると、装甲の壁があるがそれでも相手の心臓の音が聞こえてる。
「あのね、しのきー…………私ね「知ってる」え………………」
勇気を出した言葉は、ヒーローの仮面を解いて顔を見せた相手に塞がれた。
「ん………………」
顔が離れ改めて、自分の思う相手の顔を見た。
「俺も好きだよ」
この日、崖から落ちた女の子が黒い影に攫われたという話が広まった。
SNSでは画像の荒い動画が出回り、AIだとか幽霊だとかそこそこ盛り上がったが正体不明の噂のヒーロー、
次の日、観光地の中でおんぶして歩くカップルが、通り過ぎる人から暖かい眼で見られていた。
「なんで背負ってんだ…………」
「歩けないから仕方ないも~ん、誰のせいだろうね~」
歩けないという割には元気な彼女、その下で彼氏は渋い顔だった。
「…………ね、帰ってもね、……………しよ、ね」
こっそりと呟かれた言葉に振り返りもせず返事もしない。
彼氏の背中に顔をうずめた彼女は真っ赤な耳で返事を待ってた。
「………………それ本音なら、学生の時のやつ俺悪くないよな」
「もー! ばか!」
デリカシーのない彼氏、その背中を叩ポカポカと叩く彼女は顔まで真っ赤になっていた。話し、はしゃぎ、笑いあう。その2人は全身からお互いの本心を伝え合う。
世界中で人助けをする
数多の人がその正体を探っていたが、ある女性の時を助ける時にだけ紙袋マンになることは、世界中でたった2人だけの秘密である。
なにこの、このシリーズにあるまじき正ヒロイン感。
原作でヒーローといえば別でしたけど、まぁええかの精神。お次はメンダコぼっちオタクですかね。結構書いたはずなのにまだまだいるなぁ。