「……は?」
スコール・ミューゼルは現在大地からの電話の内容が頭に入ってこずにそんな声をあげることしかできていなかった。
正確には度重なるトラブルの対応に体も精神も疲労しきっている状態で大地からもたらされた情報を理解はしているのだが、理解したくないし聞きたくないし対応したくないという一種の精神の防衛機構が働いたため、素っ頓狂な聞き返ししかできない状態だった。
「お疲れの所本当に申し訳ないと思っているのですがね、別支部のやらかしとは言え、約定の反故とビジネスチャンスの妨害に対しての直談判というのが現在唯一連絡先を知っているミス・ミューゼルのアドレスしかなかったのです。ご対応いただけますか?それとも話はなかったことにしてそちらの武人を自由にさせますか?」
淡々と語る大地に対してミューゼルの思考はさらにストレスで低下する。。
「ミスター、私も現在日本支部に確認を取らないとわからない状況でして……少々疲れのせいかうまく対応できかねない状態です。大変申し訳ありませんが、一度休息を挟んだ後に対応させていただいても構いませんか?休息後速やかに対応しますので、どうかご決断を早まらないで頂きたいのです。結果をこのアドレスでご連絡しますので。日本支部には後で私が……私があの水膨れに連絡するのね……失礼ミスター変なことを言いましたね……あはは」
本当にだいぶ疲れているのだろう。若干変な会話の順番でこれ以上話しても状況が悪くなると大地は判断して話を終えることにした。
「分かりました。貴方のような方の心労が伝わる声色は正直聞きがたい物です。では2日後に正式な回答を頂きます。ゆっくり休んで下さいミス・ミューゼル。夜分遅くに失礼しました。」
そう言うと大地は通話を終了させた。
通話の切れたことを確認したミューゼルは電話をベットへ投げて大きなため息をついて頭を両手で抱えた。
「もう……やだ……こうなったらもう焼けよ!明日は休むわ!」
そう叫ぶとミューゼルは先ほどベットへ投げた電話を取り、別のアドレスへコールする。
「私よ!いつもの子空いてるかしら?そう、ならお願いするわ!時間は明日の昼まで!オプション全部つけるわ!チップも弾むからすぐ連れてきてちょうだい!」
マシンガントークのように話したミューゼルはそのまま電話を切り、部屋の掃除を軽くし始めた。
数十分後、ミューゼルの住んでいる部屋のインターホンがなり来客を招き入れる。
「よく来てくれたわね、上がって。」
「はい、いつもご指名いただきありが「そんなのはいいの!早く来なさい!」……キャッ!?」
ミューゼルは来客の腕を引き、そのままの勢いで寝室へ消えていった。
その後部屋からは朝方まで艶めかしい声が響いたとかいないとか。
詮索すると言うのも野暮なものであろう。
~2日後~
大地は現在ターンXのいる静止衛星軌道上へ来ていた。
そこで大地達は新しく就航したヨーツンヘイム級2番艦『ムスペルヘイム』が初航海で地球へ来るので様子見に来ていた。
現在月と地球を結ぶ航路はヨーツンヘイム1隻に直掩にマヒロー3機と言う編成で輸送任務を行っていたが、地球内での販路拡大による納入数増加により輸送量も増加して新しくヨーツンヘイム級の増産を行った。
結果、ヨーツンヘイム級2隻による輸送で輸送量は大幅に増加。
しばらくは問題ない状態になった。
ー御大将閣下殿、ムスペルヘイムを視認。ー
「うん、こっちのモニターでも見えた。初航海は順調のようだね。」
<だね~、これで更に輸送量アップだね!>
そんな会話をしながら、しばらくしてムスペルヘイムは大地達のいる場所まで行き停船した。
するとムスペルヘイムの左舷の格納庫ハッチが開き、ウァッドやモビル・リブのパーツが入っているコンテナが放出される。
放出されたコンテナは40ftコンテナサイズの物だが両端にクッションのような布地を束ねた素材がむき出しになっている状態だった。
これはコンテナの片側には単独で大気圏突入するためのバリュートを、もう片方に大気圏内で減速するためのパラシュートが取り付けられている状態である。そのため地球に降下後はギャルセゾンが空中または海上で回収し、MR社工場へ運ばれるシステムになっていた。
コンテナの排出が終わると直掩のマヒロー隊が手慣れた様子でコンテナ群を綺麗に宇宙空間で整列させて、その後ムスペルヘイムの右舷の格納庫ハッチへ向かった。
するとムスペルヘイムの右舷の格納庫ハッチが開き、先ほどのコンテナより大きな四角い物体が4つ放出される。
それはターンXの変わりに∀の捜索や白騎士の捕捉を行うために月で開発していた偵察衛星達だった。
放出された偵察衛星はマヒロー達が折り畳まれた部品を展開していき、自立稼働可能状態になると事前にプログラムされた場所へ移動を開始した。
その後マヒロー達は整列させたコンテナ群へ行き、1つずつコンテナの投下作業を開始した。
「ムスペルヘイム!輸送任務ご苦労様!マヒロー隊も作業と艦の護衛これからもよろしくね!」
とターンXに乗った状態の大地が輸送部隊に手を振ると作業を止めたマヒロー隊は敬礼してムスペルヘイムはブリッジ部から発光信号で『お任せください』と返信が来た。
それを見届けた大地はターンX達と共に久方ぶりに月面基地へ向かい始めた。
降下作業をモニターして降下したコンテナをギャルセゾン隊が回収してる様子を見ていた大地の乗るターンXコックピット内にコール音が鳴り響く。
ー御大将閣下殿、ミス・ミューゼルより秘匿回線通信です。ー
「わかった。繋いでちょうだい。ルナ、逆探妨害よろしく。」
ー肯定、回線開きます。ー
<コアネットワークを噛ませて逆探妨害開始!>
ターンXとルナに頼んだ後、一呼吸おいて大地はミューゼルからの呼び出しに応じた。
~数十分後~
結論から言うと、現在日本の亡国企業支部は好きに潰していいからそれで手打ちにして欲しいと言う内容だった。
その内容にターンXの中で大地は苦々しい顔になっていた。
日本支部の組織内は現状他の支部から見ても看過できないほど内情が腐っており、いずれ何かしら制裁を加えないといけない状態だったと言う。
今回大地に接触してきたのは日本支部の支部長で、亡国企業の意向を好き勝手に利用する俗物になってしまっていたようだ。
いるよね、下っ端の時は良い子だけど上になると急に天狗になって好き勝手に動いて周りに迷惑かける人。
「それで?内情を聞く限りミス・ミューゼルは日本支部を私に潰させたいのですか?」
「滅相もございません。ミスターのお怒りも理解したうえでのご提案です。ミスターにその気がなければ順当に我々実行部隊が対処するまでです。」
「そうですか、ですが私にはそのような戦力は無いのです。用意するにしても時間が掛かる、そちらが責任を持って彼を片付けて頂けるのでしたら問題ありません。」
「わかりました。では我々が対処いたします。」
ミューゼルは安堵したような声色になったので大地はここで更に詰める事にした。
「で?そちらの支部長がちょっかいをかけてきたことはチャラになりましたが、ビジネスの話を妨害した事に対してはどう対応なさるおつもりですか?」
「……え?」
「だってそうでしょう?亡国企業は私に対して2つやらかしていたのですよ?彼の首1つでは足りないと思いませんか?」
「……」
「まぁ、私もあまり意地悪をするつもりはありません。ミス・ミューゼル、あなたが次の日本支部の支部長になっていただければすごく助かるのですがね?」
「……私が?そんなに私を気に入られたのですか?」
「あなたは少し甘い所はあるが、見所がある。後数年も磨けば更に良い人材になるでしょう。そういう手合いとする話は楽しいのです。駆け引きができてね?」
「……てっきり私と閨を共にしたいのかと思っておりましたよ?実際は上からも最終手段として考えとけと言われてましたし。」
「正直ですね、そういう女性は好みではありますが私も貴方を少しは調べているのです。男性もイケる口なのですか?」
「……よくご存知ですね……イケますが正直余程の殿方でなければ靡きませんわ。」
「そうだったのですね、ではその余程に入れるように少しは頑張ってみましょうかね。それで支部長の件はご了承して頂けるのですか?」
「その件に関してはお時間をいただきたいですわ。トップの席を決めるには私の一存で決定できませんもの……お返事には数日頂きたいのですがよろしいですか?あと、あの俗物の始末についてはすでに私が直接動いています。本日中には方がつきますが、良ければお会いしてご報告致しましょうか?」
「えぇ、構いませんよ。仕事が早くて助かります。私もお会いしたいところですが、現在日本に居ないのです。またの機会にして頂けれると助かります。」
「あら、それは残念ですわ。私的にもミスターには少し興味が出てきていましたのに……出国の記録がありませんがどちらに?ギンガナムが予測しておりましたがまさか見上げないといけない高い場所から見下ろしているのでしょうか?」
「それは光栄、ですが半分正解です。」
「半分?」
「えぇ、私も見上げているのですよ。そちらをね?ではご連絡お待ちしております。」
そう言うと大地は返事を待たずに通信を切った。
するとルナとターンXから、労いの言葉をもらい雑談しながら月へ向かい続けた。
大気圏内のギャルセゾン隊が無事コンテナを全て回収しステルス航行でMR社工場へ向かった事を確認し、モニターしていたディスプレイを閉じようとしたらモニターに偵察衛星からのアラートが表示される。
ー御大将閣下殿、太平洋上にIS反応を2機検知、パターン照合、1機は白騎士と断定もう1機は不明機体です。ー
「なんだって?」
ー偵察衛星にて追跡を開始。進路は太平洋上のようです。光学観測装置オンライン、映像共有を開始します。ー
ターンXの報告後、モニターに新たにウインドウが展開されて少し画質は荒いが白騎士と思われる機体の隣に水色のドレスのような見た目のISが映し出されていた。
おそらくもう1機の方は篠ノ之束が搭乗しているISなのだろうと大地は思った。
数分観測していると2機は空中で静止して、束のISからドローンのようなものが複数展開、散開していき、白騎士が高速機動を行いながら機体から白い閃光が何発も放たれて展開していたドローンが撃ち落されていく光景を偵察衛星の映像共有機能で大地は見ていた。
<大地、これって……>
「あぁ、荷電粒子砲が実戦に使えるレベルの状態になってる。」
ー偵察衛星の観測システムで推定出力計算完了。威力は低出力のビーム兵器と同等、射程も5㎞以上飛翔後に荷電粒子の減衰が見られました。ミサイル程度を迎撃するのなら約10㎞圏内は射程に入ると推測。ルナの稼働データを元に計算しても、無理な連射をしなければ30分以上の継戦能力はあるでしょう。ー
「そうか……そうかぁ~」
ターンXの解析データを聞いて、コックピット内で頭を抱える大地。
<大地?>
「篠ノ之 束……やはり始める気なんだね。白騎士事件を……君の宇宙へ羽ばたく夢の翼を自分で破壊の翼に変えてしまう事を分かっているのか……」
<大地……>
ー御大将閣下殿……ー
「もう止められないんだよね、きっとこの先は原作通りISの時代が来ちゃうかな。そしてギム・ギンガナムとの決闘……頭痛くなってきたよ。」
<大地、今日はもう休んだ方がいいよ!>
ー肯定、心的ストレスのバイタル状況イエローです。速やかな休息を。ー
「ありがとう、でもこれからの事も考えると休んでる暇はないよ。月面基地に着いたらすぐ図面を作って製作を開始しないと!」
<本当無理しないでね?>
「そこは大丈夫、無理だと思ったらすぐ休むよ。だから早く『ヘルメスユニット』と決闘時に使うMSを完成させなくっちゃね!」
<わかったよ!私達も協力するからちゃちゃっと完成させて休もう!>
ー肯定、我々も全力で支援します。ー
「ありがとう、じゃぁみんなで頑張ろう!」
そして大地達は月面基地へ到着し作業を始めたのであった。
白騎士事件への準備は密かに進んでいた。
次回へ続く
~同時刻太平洋上~
「束、本当にやるのか?」
「うん!こうなったら徹底的にISの力を世に証明するんだ!各国のミサイル発射施設へのバックドアも着々と設置で来てるし、後はちーちゃんの予定次第かな?」
「そうか、すまんが最近バイトを始めてな……おそらく1か月後くらいじゃないと1日は空けれないんだ。一夏の面倒も見ないといけないからな。」
「大丈夫だよ!ちーちゃんが大変なのもわかってるし!なんなら決行日はいっくんを家に預けるといいよ!箒ちゃんも喜ぶからね!」
「それはありがたい。だが良かったのか?MR社の人の話を蹴って?」
「もう!その話はいいんだよ!束さんの発明をMSなんて機械人形に組み込もうなんて考えてる凡人なんて相手にするだけ無駄だよ。」
「だが、ちゃんと話を理解して束の発明の良さに気づいていたのだろう?もし次会いに来たら少し位話は聞いてやれ、私も同席するから良いだろう?」
「……納得いかないけど、ちーちゃんが言うなら考えるかな……」
「わかってくれれば良い、では時間も時間だから帰るか。」
「そうだねちーちゃん!帰って箒ちゃんの頬をすりすりしなくちゃ!」
まったく現金な奴だと思いながら千冬は先に帰路に就いた束を追いかけて行った。
~同時刻亡国企業日本支部~
「ひ、ひぃ!私が何をしたと言うのだミューゼル!何故実行部隊が日本にいるのだ!」
壁際に後ずさりながら冷や汗をかいた男はただ叫ぶことしかできなかった。
「貴方は亡国企業の信用を貶めたのです。我々が今最も扱いに気を付けなければいけない人物と亡国企業が交わした約定を反故にしかけ、尚且つその人物が行おうとしていた商談をぶち壊しにしたと言うやらかしを……そして我々も良いように使ったようで、さぞ楽しんだのでしょう?」
ミューゼルは右手に持ったサイレンサー付きのハンドガンのスライドを引いて初弾を装填する。
「ま、待ってくれミューゼル!MR社の月乃だろう?あんな小娘の妄想を本気にしていたのか?後でMS共同開発の件でアポを取る予定なんだ!」
「……はぁ、本当にあなたは幹部会の意向を聞いていないのですね?」
「へ?」
「MR社のミスター・月乃には1年間の不干渉、共同MS開発は保留となっているのです。裏もとらずに部下が持ってきた情報を上辺だけ理解して……私の苦労も知らずに、これだから日本の水膨れは!」
そう言い放ちミューゼルは銃を男に向ける。
「み、水膨れだと!?第一私がいなくなったら日本支部はどうなると思っているのだ?私がいたから政府とのパイプが(パシュン!)……」
言葉を言い切る前に彼の眉間に数ミリの風穴があき、それ以降言葉を発することはなかった。
ミューゼルは硝煙が立ち上る銃を持ったまま倒れた男へ近づき、更に心臓に2発発砲する。
「任務完了……はぁ、これで1つはチャラですよミスター」
と自分以外誰もいなくなったオフィスの一室で窓の外の月を見ながらミューゼルは呟いた。
お読みいただきありがとうございます。
次回あたりにはあの事件に持っていきたい所。
気づけば11話、皆様の評価やお気に入り登録の数が日を追う事に増えていき正直小生びっくり。
とても感謝している事と共に、引き続き自分の読みたい作品の自給自足を続けていきます。