大地は真っ白な世界にいた。
(あれ?俺は……何してたんだっけ?ここは…?)
辺りを見回すと懐かしい気配を感じて気配の方を見た。
そこには以前会った神の使いが胡座をかいて座っていた。
『久方ぶりだね大地君〜』
(貴方は……神の使いさん?え?俺やっぱ死んだん?)
『ん〜、死んでる死にかけの状態?かな?』
(死んどるやんけ!)
『まぁ、ルナちゃん達が頑張って生かしている感じかな〜』
(ルナ達が……ターンXは大丈夫だったか?自己修復で何とかなる損傷だったはずだが……ルナには悪い事をした……月面基地にターンXのナノマシンを保管してたからそれで修復してくれるといいけど……)
『はぁ……』
(どうかしたの?)
『君ってやつは……』
(…?)
『自分がほぼ死んでるのにターンX君とルナ君の心配かい?』
(だってもう死ぬの2回目だし……ターンXとルナは俺の我儘でISの世界に一緒に来てくれた存在なんだ!俺より大事さね!)
その言葉を聞いて神の使いの口元は優しく微笑んだ。
『君のターンX達に対する愛は本当なんだね。』
(もちろん!この月乃大地がターンX達への思い!間違いなく愛だ!愛するためなら修羅にもなる覚悟!)
『はいはい、どこぞのブシドーにならなくていいから……と、そうだった。こんな戯言言いに来たんじゃなかったよ。』
(戯言て……)
『パンパカパーン!月乃大地君!よく今回の試練をクリアしたね!おめでとう!そんな君に神の使いさんから報酬を持ってきたよ!』
そう言い、両手を広げてどこからともなく紙吹雪と『試練達成おめでとう!』と垂れ幕が出てきた。
それを見て、大地は何とも言えない表情で神の使いをみていた。
『……え?神の使いからの報酬だよ?なんか全然喜んでないみたいだけど…?』
(あぁ……欲しかったターンXと暮らせて、好きな推しと一緒に仕事できてるし……現状で満足かな?∀も回収したみたいだし。)
『あれま……思いのほか欲がないね〜。でも、∀は居なくなっちゃうよ?』
(どういうこと?)
『あの機体はギム・ギンガナムが僕との取引でこちらに来た機体なんだ。約定が破綻した今、∀は元の世界に帰る事になる。おそらく繭の中にね。』
(それは……なぁ、報酬ってなんでもいいの?)
『場合によっては代償が発生するかもよ?』
(∀をこの世界に留まらせて、∀達の願いを叶えてやって欲しい。代償は幾ら払っても構わん!)
大地の願いを聞いて、神の使いは訝しんだ。
それに対して、大地は言葉を続ける。
(∀が繭に包まれたのを見て思ってたんだ。もし、∀が繭に入らずにロランとディアナと共に安らかな余生を過ごし、MSの平和利用を考える未来があったらどれほど良かっただろうかとね。この世界でそれをやってみてほしいんだ。夢で∀とリンクした時に∀の少女から聞いた。俺はその未来を見てみたい!)
大地の話を聞いて、神の使いは数秒思案顔になり大きく笑い始めた。
『アハハハハハハ!やっぱり君は面白いね!いいよ!どうせこの世界に今∀がいるから代償も必要ない!少しの代償がかかるけど∀君の望む人もこの世界に招待しようじゃないか!』
(それって……!?)
『ただし!今回の代償として、今後も僕を楽しませる事!君〜、まともぶってるけど本質はかなりぶっ飛んでるからね!おっと、そろそろ君の蘇生が完了するみたいだね。ルナちゃんの2次移行で。』
(ルナが2次移行!?凄い!)
『おや?ルナちゃん、今までターンXの姿から変わるから大地君に嫌がられるかもって言って2次移行してなかっただけだったけど、君の意思じゃないのかい?』
首を傾げる神の使いに大地はきょとんとした顔になる。
(そんなわけないだろ!ルナはルナだ!それにターンXは元から度重なる改修をしている機体だ。形が更に変わるという事は搭乗者に合わせたより良い改修がなされるという事。喜びどすれ嫌がることなんてしない!)
言い切る大地の熱量に神の使いは少し引いていた。
そして白い世界の中、大地の視界が暗転し始める。
『お、おう……本当ターンXバカだね君……さて時間だ!今後もいつ訪れるか分からない試練を楽しみにしておきたまえ!』
(え?まだあるの?)
『当たり前さ!君が呼んだターンXはそれほどの機体なんだよ。だってターンXは……』
神の使いの最後の言葉に大地は驚きつつ、視界は完全に暗転した。
ー神格を獲た裁きを司る機体なのだからー
〜マウナケア医務室〜
そこには部屋中央に鎮座した医療ポットと、それを見つめるルナがいた。
BOID達が医療ポットを設置し終えて、居なくなった数分後に束達が部屋へやってきた。
千冬と束が真っ先に部屋は入り、医療ポットをのぞき込む。
「大地!」
「だー君!」
千冬達の呼びかけに反応することはなかったが、大地の外見は綺麗で上半身しか見えていない身体には胸元にX字状の傷跡があった。
それを確認した2人は近くに立っていたルナを思いまして、ルナを見て固まる。
「ルナ……なのか?」
「ルナちゃん?」
2人の目の前には、以前会った姿とは異なり少女というよりは女性と言ったほうが良いほど成長した状態のルナが立っていた。
その姿は、スラリと長身にで千冬や束と目線が同じ位、腰まで伸びた白髪の髪に胸元に虹色のX字状の模様が入ったワンピースを着た美しい姿だった。
そして束達に呼ばれるまで閉じていた瞳はゆっくりと開かれ、月のような金色の双眸を束達に向ける。
<うん、そうだよ。千冬、束。>
前まで元気いっぱいだったルナとは違い、落ち着いた女性の声で対応され、二人は驚いた表情を作っていたが、束があることに気づいて話しかける。
「ルナちゃん。2次移行したの?」
<そうだよ。大地を守るために私が決めて2次移行したんだ。>
「そっか、ルナちゃんもISだもんね。後でデータ取らせてもらってもいい?」
<ごめん、束。それは無理かな。今回の移行で私はターンタイプ2機とIS1機のエネルギーを元に機体を再構築したの。そのせいで私にも未知数な部分が多い機体になっちゃったんだ。このデータを使われた機体が後の世に出ると、世界がどうなるかわからない。稼働時に取れる観測データは好きにとってもいいから、それで許して。>
少し困った笑顔で対応するルナに束はわかったよと言って引き下がる。
「それで、ルナ。大地は大丈夫なのか?」
<身体は修復できた。ただ、脳の損傷がひどくて今私が大地の脳内神経回路の再構築をしているんだ。完了するのに数週間はかかるかもしれない。そこから大地の意識が戻ってくるのにどのくらいの時間がかかるかは神のみぞ知るって奴かな……>
「そんな……」
「だー君……」
<心配しないで?この後月面基地に医療ポッドを移送して、そこで経過観察して回復に専念するから。MR社は……ターンXと私で遠隔指示を出して何とかするしかないかな。>
不安顔になるルナに対して、医務室の入口から声をかけられる。
「なら、私がサポートするわ。」
<スコール・ミューゼル……>
そこには、スコールとオータムが立っていた。
スコールはゆっくりとルナのもとに飛び、ルナに受け止められた。
「あなた、ミスターの身内ね?」
<そうだよ~、ルナっていうの。>
「そうなのね、ルナちゃんそれで先程の話なんだけど。今回の件でおそらく私は亡国企業に居られなくなったわ。だから、私をMR社で匿ってほしいのよ。」
<まぁ、妥当だよね?MR社と∀を失ったんだもん。でも貴方をMR社に招く理由は?私とターンXでMR社は維持できるよ?>
「維持だけならできるでしょう。でも、ミスターが目覚めたときにMR社がより大きな会社へ発展していたら喜ぶと思うわよ?私もそれなりに企業間の交渉事をしてきたもの、役に立てるしミスターが目覚めたら秘書にでもさせてもらおうかしら。ミスター程の人間になればある程度の容姿を持った女性秘書を近くに置いておくのもステータスになるわ。」
<実体化した私がいればいいような気もするけど……実際私はしばらく月から動けなくなるし……ターンXが監視の者でいいんならいいよ?秘書とかは後に大地が目覚めてから決めよう。実際大地は貴方の事気に入ってたし。報酬とか指定は?>
「そうね、ある程度生活に困らない額をもらえればそれでいいわ。可能ならこのオータムも一緒に雇ってほしいのだけれど可能かしら?」
「スコール……」
<オータム、データにはなかったけどスコールの恋人だよね?使えるの?>
「あん?」
「オータム抑えて、オータムの実力は確かよ。そうじゃなきゃ亡国企業の実行部隊に入ることはできない。私が保証するわ。」
<……わかったよ。ならこの後地球に送り届けるから、その後こちらに合流できるようなったらMR社まで来てね。>
「感謝するわ。それじゃ、織斑千冬さん、篠ノ之束さん。これからよろしくね?」
会話を終えたスコールは、千冬と束の方を向いて挨拶をする。
それに対して、二人は警戒を解くことはなかった。
「あまり信用はできないな。よろしくするつもりはない。」
「そうだよ、だー君をそそのかす年増なんてしらない!」
それを聞いて、スコールは笑顔を崩さなかったがオータムが反応する。
「はん!ガキどもが!調子こくんじゃねぇぞ!」
そう言いオータムは、懐から何かを取り出そうとするが付近に待機していたBOIDがオータムに抱き着いて形状を変えオータムの手足を拘束した。
「クソ!離しやがれ!」
「オータム……流石にお説教が必要なようね。」
「ま、待ってくれスコール!そ、それだけは!わかった!わかったもう何もしない!しないから!許してくれ!」
スコールの冷たい表情を見たオータムが焦りながら謝罪をすると、ルナがオータムに近づいて来る。
<オータム、私はあなたを助けたんだよ?>
「助けただぁ?」
<千冬と束の姿を見ても同じこと言える?>
「……!?」
ルナに言われてオータムが千冬と束を見るとそこには、ISを展開して武器を構える2機のISの姿が視界に入った。
千冬の展開する白騎士は雪平を、束の群咲は杖のようなものを構えていた。
それを見たオータムは血の気の引いた顔になり、ガタガタと震えはじめていた。
<わかった?大地のお気に入りの恋人だったから助けたけど、次はないよ?>
「お、おう……すまなかった。」
そしてルナの言葉が止めになったのか、オータムはスコールに抱えられ、それ以上何も言う事はなかった。
それを確認したルナは千冬と束に振り返り軽く微笑んだ。
<千冬、束、大地を守ってくれてありがとう。>
「いや、礼を言われる程の事はしていない。」
「そうだよ、ルナちゃんは気にしなくていいよ!」
<ありがとう。とりあえずこれからの事だけど、月面基地に着いたらマスドライバーユニットで4人を地球に送り届けるよ。千冬と束はこれからもMR社の地球支部で頑張ってくれると助かる。大地の状況は逐一連絡するから。>
ルナの言葉で、千冬と束は少し微笑み安心していた。
こうして4人はルナ対応の元、月面基地を少し見学した後に地球へ帰ることになった。
~マウナケア格納庫~
マウナケア、キラウエア、エトナの3隻態勢での月光蝶除去作業終了したコレン・ナンダーは格納庫へ戻ってきていた。
すると、ターンXに呼ばれて格納庫詰め所へ向かった。
「おーいターンX!呼ばれてきたが何があったんだぁ?大地の見舞いに行きてぇん……だが、よ……」
詰所のスライドドアをくぐり頭をかきながら入室したコレンは、室内の椅子に座った女性と、そのそばに立つ銀髪褐色の男性を見て声が出なくなる。
そしてコレンはそのまま室内にいた女性の前へゆっくりと向かい、静かに目元に涙を浮かばせた。
「あ、あなた様は……本物……なのですか?」
コレンの言葉に、詰所内の椅子に座っていた女性は椅子から立ち上がり微笑んだ。
「久しいですね。コレン、また会えて嬉しく思います。生前は苦労を掛けましたね。」
女性の言葉を聞いたコレンは、声を上げて涙を流した。
そして銀髪褐色の男性はそれを静かに見守っていた。
次回へ続く。
お読みいただきありがとうございます。
最近、朝が寒すぎてベッドから出たくない日が続いてますね。
先日初めて葱鮪鍋を食べましたが、あれ美味しいですね。
今シーズンの家の鍋料理のレパートリーに入れたいと思いました。
では、また次回に。
今後も私の妄想に付き合って頂けると嬉しい限りです。