※原作設定の一部改変があります。
篠ノ之邸襲撃から数日が経ち、大地はMR社にて事務作業をこなしながら医療施設の隔離病棟の1室に来ていた。
そこには1人の黒髪セミロングの少女が寝かされており、腕には点滴の管が繋がれており静かにバイタル計測器の音とかすかな寝息だけが響いていた。
(まさか、サイレント・ゼフィルスに乗る前のマドカと出会うなんてな……)
大地はそう考えつつ、寝ている少女へ近づいて顔を覗き込んだ。
その顔は、千冬に瓜二つと言われても過言ではない程似ており、初めて会った時の千冬より見た目はかなり幼い印象を覚えた。
織斑マドカ、それが彼女の名前である。
原作知識を持っている大地にとって、今回の接触は想定外でもあった。
織斑計画(プロジェクト・モザイカ)、遺伝子操作とクローニングによる究極の人類を作ろうとした狂気じみた計画。
今回の襲撃後、ルナとターンX、そしてこの計画を知る数少ない人である束にいろいろと調べてもらった結果わかったことがあった。
計画では完成体とされた織斑千冬と、その番として作られた織斑一夏の2人が唯一の成功試験体とされた。
そこで計画は一時中断、この二人を現代社会へ解き放ち、どう生き、どう子を育むのかを経過観察し、2人の間にできた子供を回収し研究、計画を次の段階へ移行させると言う予定だったそうだ。
だが、そこは人体実験をしていた研究者達である。
経過観察期間中の手すき時間を利用し、彼らは遺伝子操作やクローニング技術を用いて新たな研究費を稼ごうと思いついた。
まぁ、パトロンである裏の勢力に対するサービスみたいなものだと思っていたらしい。
要は、究極の人類ではなく一段も二段も性能を下げ、一点の性能に特化した戦闘用や慰安用などの個体生産である。
ただ、慰安用個体に比べ戦闘個体は精神面の安定がネックになっており製造後の戦闘訓練や実戦投入を行わないと精神の安定性が把握できないというある意味では、特化系の欠点が露呈した。
そのため、各国の裏に潜む人体実験を行う組織の者たちは慰安用の個体や遺伝子操作やクローニング技術を購入し、国ごとに持っている技術を駆使し戦闘用個体の安定生産研究を行い始めた。
その結果、織斑計画を行っていた研究所は慰安型の製造がメインになりつつ得た利益を使いもう一度究極個体の製造を開始した。
今更ながらに研究者たちは気付いたのだ。
サンプルをもっと増やせばデータを更に入手できるし、今回の利益で容易に究極個体を製造できると。
そして、研究者達は織斑千冬や一夏の様な放任的な物ではなく、研究所内で慰安型個体達に育てさせる、俗にいう愛情を受け育った場合のデータ採取用として『ロストナンバー』の製造を開始した。
製造自体は織斑千冬の遺伝子データがあったため数十回の失敗作を作りつつ、ほぼ完成品に近いマドカは完成した。
その後、研究所の一角に設けられた『育成所』で彼女ら、慰安型、失敗作、ロストナンバーの全てが放り込まれ生活をしていたという。
そして、定期的に失敗作を戦闘用個体への転用実験などで脳波の調整や身体機能強化用の投薬実験が行われ、1人、また1人と育成所の住民は数を減らしていった。
そんな中、世にインフィニット・ストラトスが産声を上げた。
研究所へ支援していたパトロン達は一気に投資先をIS系にシフトしこの研究所でもISの研究を最優先にすることが支援の最低条件となり、彼らは分野外のISの研究奔走のためロストナンバーを急遽ISのテストパイロットとして教育を開始した。
だが、コアに限りがあり自称厳重に管理されているISコアを持ち込んでくれたパトロンの隠蔽が甘かったのか、研究所にISコアが持ち込まれたと同時期に、謎の組織からの襲撃を受ける可能性があるとの連絡が研究所にもたらされた。
その結果、研究所を放棄することが即座に決まり、証拠隠滅のため育成所の個体は全て処分することになった。
ロストナンバーのみを連れ出すという案もあったが、ISパイロットの教育をするようになってから慰安型への依存傾向が確認され、居ない時の精神面が大分不安定になってしまった。連れ出すにしても慰安型も込みになると大所帯になるため襲撃側に悟られる恐れもあり、ここで処分を決定した。
その際、ロストナンバーを率先して面倒を見ていた複数の慰安型からの妨害を受け、ロストナンバーは施設を脱走しその後行方不明。
その後、研究所は襲撃され、研究員の一部を除いて死亡が確認されている。
これが、数年前の話なんだそうだ。
大地の原作知識だと、マドカは千冬と一夏が研究所から出た時には存在しており、自分が連れて行ってもらえなかった事を恨み、その憎悪で後の世に出るであろう試作第3世代ISを強奪し、主人公である織斑一夏の陣営と度重なる戦いをするはずであった。
だが、実際目の前にいるマドカは原作よりさらに幼い容姿をしており、調査報告では千冬達が研究所から出た後に作られたらしい。
どういう事かと思考するも、俺がこの世界に来たことやMSの登場ともしかしたら関係性があるのかと思考しつつ、一旦考えるのを止めてマドカの寝顔を見る。
おそらく、研究所を出て亡国企業に拾われて間もないため未だに復讐心などを募らせる前に保護できたのか、ここ数日の幾度かの覚醒中に話をしてみたが原作並みのきつい雰囲気は感じられなかった。
大地は、調査結果のデータを脳内で思い出しながら更に思考の海に沈もうとすると、病室の扉の開閉音が響き、大地は来訪者へ視線を向ける。
「…山田さんのお見舞いは良いの?」
「……あぁ、先程済ませた。」
大地の視線の先には、暗い表情の千冬が立っていた。
「その……彼女の様子は?」
「何度か覚醒しているけど、今は眠ったよ……。」
「そうか……もう一人の方は…クロエと言ったか?」
「あぁ、そっちは束さんがついてるよ……彼女の身体とISのデータを取りつつ看病するって。」
「そうか……」
話しつつとぼとぼとした足取りで大地の近くまで来ると、千冬はバツの悪いような表情になり何かを言いたいのか口を開きかけてから閉じるのを数回繰り返す。
それに対して、大地は優しい表情を崩さずに千冬が発言するのを待っていた。
数十秒以上口ごもった千冬は意を決して腰を90度に曲げ話し始めた。
「……す、すまなかった。」
「………」
「わ、私は……普通の人間ではない。俗に言えば人造人間だ……私は一夏を連れて施設から出たときから知っていて……お前と出会って…付き合い始めてから何時か言おうと思っていたのに、お前の優しさに甘えて言えずにいた。それにお前はもう知っていたとは……」
「……束さんが言ったのかな?」
「あぁ、今回捕獲された奴に私と同類のやつが居ると……調査して経緯を全て大地に話したが、以前から大地が気づいていたと……」
「そうか……」
頭を下げて話した千冬は、頭を上げるも視線は下を向いて大地と目を合わせようとしない。
それに対して、大地は口を開こうとするが千冬の方が先に次の言葉を発した。
「いや……だよな。こんな人もどきの私がお前の隣に立とうとしていたなんて……作り物より普通の人間である束の方が「千冬」……っ!?」
「それ以上言葉を発したら俺は怒ってしまう。」
「だが……」
まだ言葉を紡ごうとする千冬に対して、大地は肩をすくめて微笑む。
「それを言うなら、俺はこの世界の人間でもないし、身体のほとんどが機械なんだよ?」
「あ……」
「そう考えると、千冬の方が俺よりよっぽど人間ってやつだよ?」
「そんな……でも、お前は……」
「……俺は千冬が笑ったり、一夏君のことを思っていたり……今この瞬間俺の事を考えて、苦しいのをおさえて話してくれている。それだけで、凄く優しくて人間らしいよ。俺にとってはそれが真実だ。」
「大…地……」
「だからそんな自分を卑下しないで。千冬が自分を卑下するのは弟の一夏君、そしてそこで寝ているマドカちゃんも卑下しているんだよ?」
「それは……嫌だ…!」
「ならこれ以上は気にせずに人間らしく生きて行こうよ!」
「……あぁ!そうだな、私達は人間だ。」
そして、大地は表情が明るくなってきた千冬へ歩み寄り優しく抱きしめて互いの顔が視界いっぱいになる。
「……大地…///」
「だからこれからも俺の隣でよろしくね……人間の千冬さん。」
「まったく……何時になったらさん呼びが抜けるんだ?……こちらこそよろしく頼む、人間の大地さん?」
「ふふ、善処するよ。」
「はは、する気もないくせに。」
互いが話しながらも顔の距離は近づいていき、千冬が言い終わる頃には2人の唇の距離は0となっていた。
数秒すると、2人の唇は別れを惜しむように離れると頬を紅潮させた大地は真剣な顔に戻る。
「千冬さん、君と一夏君が良いならば……家族を増やす気はないかい?」
「私は構わない。弟がいるのだ、妹が増えたところで問題はない。私はお姉さんなのだからな……マドカの育ての姉達の代わりにはなれんが、守ることを誓おう。一夏にはあとで納得させる。それに問題があるとすればマドカの方だ……完成品である私を恨んでいるのではないか?」
「それはどうかな……心配事は杞憂だったみたいだよ?マドカちゃん。」
「……なっ!?」
大地の発言に驚いた千冬は突き飛ばすように大地から離れ、マドカの眠るベットの方へ視線を向けると、静かにベットから起き上がり不安げな表情で千冬を見やる。
「……わ、私を……認めて…くれるのか?織斑千冬。」
「お、お前…!お、起きて!?」
「あぁ……そこの男が、寝たふりをしていれば良い話が聞けるかもしれないと言ってな……」
「あ……あわ……だ!大地!お前ってやつは!」
「あはは、ごめんごめん。実は何度か千冬さんの事について話をしていたんだ。少なからず千冬さんに対する恨みがあったみたいだし、変えられないつらい過去の事も聞いたよ。」
「それは……」
戸惑う千冬が大地からマドカへ視線を向けると、軽く困ったように微笑みながらマドカが話す。
「ここから先は私が言おう。確かに織斑千冬に対する恨みはある……それに、織斑千冬は本来存在しない私を見て嫌悪するのではないかと……ずっと思っていた。だが、そこの男が言ったのだ。織斑千冬はそんな言葉を一切思っていないだろうと……それに、思いを託された責任を感じているのなら、私を育ててくれたお姉ちゃん達の分まで幸せに生きることが最大の恩返しになると。そして、織斑千冬が居たから私はこの世に生を受けることができたのだと……お前達を信じて、頼って良いと……」
「マドカ……」
「だから、私は死んだお姉ちゃん達の分も含めて少しはまともで明るい人生を送ってみたいと思う。だから織斑千冬……その…私を…………妹と…認めてくれるか?」
不安そうな上目遣いで話すマドカに対して、千冬はゆっくりとマドカの元へ歩み寄り、そのままベットの上で身を起こすマドカを抱きしめる。
「無論だ、私はお前を育てた姉達に及ばないだろうが姉としてお前を守ることを誓おう。」
「お姉ちゃん……」
「あぁ、今この瞬間から私はお前のお姉さんだ。」
「……ぐすっ……おね…お姉ちゃん!……ひぐっ!……おね…ちゃん!」
「あぁ……そうだ、私がお姉ちゃんだ。今まで辛かったな……これからは私達がお前を守ってやる。」
「う、うぅ……お姉ちゃん!お姉ちゃん!うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
抱きしめられたマドカは、そのまま千冬の言葉と抱擁により安心したのか大粒の涙を流しながら泣き始めてしまった。
それを優しい表情であやし続ける千冬を見て、お邪魔虫だと判断した大地はそのまま静かに病室を後にした。
病棟内の廊下を大地が歩いている最中、ルナが実体化して横並びで歩き始め話しかけてくる。
<良かったね大地!>
「あぁ、とりあえずマドカちゃんの件は解決だね。」
<この後はどうするの?>
「流石に、あのまま部屋に居続けるのは悪いと思ったから出てきちゃったけど……山田さんの所にでもお見舞いに行こうか。用事もあるからね。」
<これは大地がまた……>
「どうかしたかい?」
<いや~なんでも~!そうだね~、そういえばあの秘書二人組はどうするの?>
「あぁ……その事か。」
ルナの発言に大地の声色は一段低くなる。
先日の篠ノ之邸襲撃の件についてと、所属不明ISの件をスコールとオータムに話してみたのだが、スコールはそっけなく捕まえた二人は早々に処分しましょうと提案し、オータムは苦虫を嚙み潰したような表情で舌打ちをしていた。
原作でも隠すとこはしっかり隠していたオータムが表情を崩して大地に反応する当たり、それなりに苦労して手に入れたISが意図も容易く落されたのが相当頭に来ているのだと思えた。
「まぁ、今回の件については彼女達…少しやり過ぎだと感じるね。流石に俺の身内に手を出したんだから。」
<うわぁ……怒った大地の声色ギンガナム戦以降初めて聞いたかも……>
「ここまで露骨に白を切る2人には少しお仕置きが必要かもね……どうせこの後大打撃を受ける組織の人間だ。どちらに尻尾を振り続けるのが賢明なのかわからせないとね……」
<なんか悪人みたい……で、どうするの?>
「取り敢えず……近い内にやってみるか。バレるだろうが正体偽って地下の試験場にスコールさん達を呼び出して模擬戦かな?二人とも俺がIS乗れることは知らないだろうし。」
<大丈夫?スコールのISの性能は未知数なんでしょ?>
「それもそうなんだけどね……ルナ、君はそのISに勝てないと思っているの?」
<あはははは!そんなわけないじゃない。どの位出力を絞らないと行けないかを考えるので不安なだけだよ。>
「ルナもわかるようになってきたね、さてと……今日の夜はターンXと久々に模擬戦だからその時にターンXとも予定を詰めようか……サイクロプス隊の件については今慣熟訓練中だし……ラファールの件でデュノア社にアポもとらないといけないからね。」
<そうだね!改めて夜に決めよう!必要そうなデータ集めておくね!>
「よろしく!」
こうして大地とルナは会話し終えると、表情と声色が戻っているかを確認し山田真耶のいる病室へノックした。
ノックをして数秒後に許可を告げる返答が来たので、大地は病室の扉を開ける。
「お気分はどうですか?山田さん。」
「つ、月乃さん!?……え、え~っと…まだ少し痛みますがもう大丈夫です!」
「あまりご無理をなさらぬように、私の方からも国際IS委員会日本支部へは連絡をしていますので、完治なさるまでゆっくりしていってください。」
「お、お心遣い……ありがとうございます!」
ベットから体を起こし、見える範囲でも所々包帯を巻いている山田真耶へ大地は微笑み対応し、山田真耶は若干赤面しつつ眼鏡をずらして応対していた。
そして、大地がベット脇にある椅子を取り掛けようとすると少し肩がびくりとはねた気がして少し離れた位置に腰かける。
すると、山田真耶は表情をまじめなものにして大地へと質問を投げかける。
「あの……私と飛んでいた自衛隊の方たちはどうなりましたか?」
「あぁ……あの方たちですね、機体に被弾はしていましたが無事基地へ帰投しパイロット達も無事だそうです。そうだ、伝言を預かっていました。」
「無事でよかった……でも、伝言ですか?」
「はい、『無事で何より。退院したら隊の皆と飯でも食いに行こう。』だそうです。」
「……」
「?」
伝言を聞いた真耶は、少し暗い表情になり俯いてしまう。
それを見て、大地は原作知識で朧げに覚えている山田真耶の設定を思い出しもしやと思った。
「その……隊の皆となると男性ばかりです……よね?」
「自衛隊には女性士官も居ますが割合は少ないためおそらく居たとしても男性比率の方が高いかと。」
「わ、わたし……その……男性……恐怖症で……」
「そ、それは配慮不足でした。怖いですよね?私と個室で2人きりなど。女性を呼びます。」
「い、いえ!月乃さんは大丈夫というか……!私も何とかしないとって思ってて……でも怖くて…先輩が信頼されている男性ならまだ症状が出にくいというか……とりあえず今この状況は大丈夫です!」
「そ、そうですか。とりあえず、自衛隊の方々には事情説明の連絡を入れておきますね。」
「あ、ありがとう……ございます。」
一度椅子から立ち上がり距離を取ろうとする大地に真耶が必死の形相で止めたため、大地は再び椅子へ腰かけ、少しの間沈黙が訪れる。
そして、再度口を開いたのは真耶であった。
「……わ、私の話を聞いてもらえますか?」
「えぇ、時間はありますので、ゆっくり話してください。」
「……ありがとうございます。」
そして、大地が完全に聞く姿勢になってから真耶は少しずつ話し始めた。
今まで自分の身体が他の同世代女性と比べて発育が良いのを自覚し、周りからの視線や異性からの無理なアプローチなどを多々受けており、男性恐怖症になってしまった事。
ISと言う分野へ行けば、女性比率が高く安心できるのではないかという簡単な理由でIS戦技訓練校を志望し入った事。
そこで出会った先輩、織斑千冬に憧れて自分も誰かのために動ける存在になりたいという事。
そして、それほど裕福な家庭ではないため、日本代表候補性の職務につきながらお金を稼ぎ、実家に仕送りをしつつ通信制の大学へ通い、昔からの夢であった先生になるため教員免許を取得するために勉強中である事を大地へ話していた。
更に、先程国際IS委員会日本支部から代表候補生を降ろされる通達が来たこと。
それを静かに聞いていた大地は、山田真耶と言う人間がとても頑張り屋さんで芯のある女性だと再認識していた。
「強いんだね、山田さんは。」
「……え?」
「あぁ、言葉足らずだったね……」
「貴方は真っ直ぐとした芯を持ち、優しい心を持っている強い方なんだなと思ったんです。」
「そ、そんな……!わ、私なんて先輩にも遠く及ばなくて……!」
微笑みながら話した大地に対して、真耶は照れくさそうな顔をしつつ目を逸らす。
それに対して、大地は更に言葉を続ける。
「それこそ謙遜ですよ。家族のために頑張り、そして次の世代を育む担い手になろうとするその努力。我々から見ても立派としか言えませんよ。」
「で、でも私なんて……月乃さんのように世界中に知られるような凄い方に褒められることなんて……」
「私も必死だっただけですよ。それに、どんなに名前が売れていようと偉いわけではありません。ここ日本では少ないですが、海外では私とて今や『死の商人』とまで言われているのです。私が販売したMSの一部が武装され、今では紛争地域に投入され今この瞬間も人の命を奪っているのです。」
「それは……」
「笑えますよ……人の未来と命を守るため、宇宙開発のための作業用、または災害救助に復興、土木作業のために世にばら撒いたMS達が今は武器を持ち戦場を駆け未来と命を奪う側に回っています。予想はしていたことです。戦車とて農作業用のトラクターに鉄板を張り付けて大砲を付けるところから始まったのですから。宇宙作業用マルチフォームスーツとして世にISを出した束博士も似たことを思っているかもしれませんね。」
「で、でも!私は、その技術のおかげでこうして生き残ってここに入れます!研修でMSにも乗ってみましたが、あれはこれからの世に必要なものだと思えました!だから……えっと…だ、大丈夫だと思います!」
自虐気味になった大地に真耶が頑張って励ます姿に大地は不覚にも吹き出して笑ってしまう。
「あははは!……し、失礼しました。こんなにも頑張って励ましてくれた方は初めてでして……ありがとうございます。そう言う言葉が後々私を支えてくれる励みになるのでしょうね。ですが、ここからは少し酷なことを言います。山田真耶さん……代表候補生を降ろされ、これから大変でしょう?ご自身の生活の事も……」
「……そ、そうなんですよね…お給料も……実家への仕送りとかどうしよう…」
先程と一転し暗い表情になる真耶、それもそうだろう。
代表候補生としてISの試験や搭乗訓練を行うことにより支給されていた給金はそれなりであったが、候補生を降ろされた現在、真耶は実質リストラ状態なのだ。
大地は、そこで実家の仕送りが一番に出るあたり本当に優しい方なんだなと思い、救いの一手を出す。
「なので、山田真耶さん。良ければMR社、または系列のR&C社にて働いてみませんか?」
「……え?わ、私がですか!?」
大地の勧誘の言葉を聞き、暗い表情から驚愕の表情になる。
それを見て大地は少し口角を上げ話を続ける。
「はい、通信制とはいえ大学の講義やレポート作成、教員免許の取得と大変だと思われるのでそちらを優先していただいて構いません。始めは空き時間で始めるバイトのような形態で開始しましょう。」
「あ、あの……でも、私はその……男性の方が……」
「勿論そこも配慮します。ちなみに小さいお子さんだったら男女問わず大丈夫だったりしますか?」
「それは…大丈夫です!」
「それは上々、でしたら2つの兼任業務アルバイトをしていただきたい。」
「2つ……ですか?」
「えぇ、1つはR&C社でのISテストパイロットとしての業務です。これはあなたの先輩である織斑千冬さんと同じ職場になります。そしてもう一つは先生の補佐としてのアルバイトです。テストパイロット業務よりは補佐業務の方がメインになると思われます。」
「え……?先生の…補佐ですか?」
「はい、実は私の知り合いに孤児院兼農場を運営なさっている方がいるのですが、小学生以下の子供達には施設内で読み書きなどの教育を施しています。そこで先生をしている女性の方がいるのですが、最近保護児童の増加のため手が回っていないらしく、週に1~3日ほど昼間の短時間だけ補佐してくれる人材を求められていました。孤児は男児の割合がとても多いので少々お気持ち的な面で苦手かもしれませんが、貴方なら適任だと思いました。小学生以上の子達は学校に通っていますので業務時間中は会うことはないと思います。先生になりたかったのでしょう?実地研修の一環だと思ってくだされば良いかと。給金はこの額を考えていますのでご検討していただければ……もちろん断っていただいても構いませんし、こちらから何かすることはありません。引き続き治療に専念していただき、その後の就職活動への支援も致します。」
「えっと……その……え!?こ、こんな額!?」
大地が説明した後、空中投影ディスプレイで真耶の前に展開して業務内容と報酬の記載された画面を見せた。
そして真耶は業務内容より報酬の方に驚愕し声を上げていたようだ。
「あ、あの……!こんな高額な報酬…いいんですか!?(代表候補生の支給金より多いんだけど……!?)」
「問題ありません、これでもアルバイトなんで少なめにご提示したんですが……あぁ!もし今ご了承いただけるなら更にISも1機お付けしますよ!」
「えぇ!!そ、それは流石に……」
「私からご提示できるのはこれくらいなので、是非ご検討(ゴンッ!)うぉぉぉぉぉ!」
「えぇ……!?!?」
笑顔で話していた大地は、急に金属を殴りつけたような轟音と共に後頭部を両手で抱えて蹲る。
唖然とした真耶はそのまま大地の後方へ視線をやると、ISの腕部を部分展開し殴った姿勢で立っている織斑千冬その人の姿であった。
「……せ、先輩?」
「……まったく、少し目を離せばすぐにお前は助けたいと思った人間に対して法外な報酬を払おうとする!そうやって今度は私の後輩まで口説き落とそうとするのか!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ……久々に脳が揺れた……」
「えぇ!?だ、大丈夫なんですか?ISで殴られて……えぇ!?せ、先輩何やっているんですか!あなたの鉄拳で一体どれだけの訓練校同期の跳ね返りの方々が沈んだのか!しかもISで生身の人を!」
今起きた光景に驚愕しつつ千冬に言うのに真耶に対して、千冬は何食わぬ顔……というよりは嫉妬した乙女の顔になっていた。
「ふん、こんなもので大地は落ちんよ……それに素手で殴ると痛いんだこいつは……なぁ、大地?」
「う、うぅ……流石にISの拳で殴られたのは初めてだよ千冬さん……一瞬ルナのバリア展開してなきゃ意識持っていかれたかも……俺なんかしたかい?」
「ふん!己の発言を悔い改めろ!」
「えぇ…!?だ、大丈夫なんですか!?」
そこで、悶絶から回復してきた大地は何事もなかったように起き上がり平然としていたため、真耶は口をあんぐりと開けて何も言えずにいた。
「あぁ……今振り返ったけど、確かに配慮が足りなかったかも……ごめん千冬さん。」
「わかればいい……」
「山田さん、見ての通り平気ですよ。私の身体は少し特殊でね、この程度ならまだ大丈夫なんです。」
「え、この程度って……えぇ……」
「でも君の話してくれたことに感銘を受けたのも事実なんだ。俺にも山田さんの目指す未来の手助けをさせてくれないかい?そのための提案でもあるんだ。」
「えっと……その……手続きとか色々あって、お時間かかるかもしれませんが……よろしく…お願いします……!あと、名字呼びに慣れてなくて……その…真耶…でいいですよ?///」
「嬉しい!俺の事も名前で呼んでくれていいよ!ありがとう真耶さん!大歓迎だよ!」
「は……はい!だ、大地さん!///」
「まったく!お前は……まったく反省しておらんではないか!」
ゴーーーーン!
「うぉぉぉ……また脳が揺れるぅぅぅぅ……」
「だ、大地さん!?」
「真耶も真耶だ!こんな男に誑かされて!」
「ひ、ひぇ!?」
こうして、山田真耶の病室には明らかに金属同士がぶつかり合う音と千冬の叫びが響くのだった。
次回へ続く
~隔離病棟の一室~
「フランスの第2世代か~!拡張性重視で面白い機体に仕上がってるけど、やっぱり性能が平凡ちゃんだよね~!機動性を上げるのとコスト削減ってのは分かるけど、もうちょっとSEとの相性の良いナノマシンベースの装甲を採用しないからだー君のビーム兵器に耐えれなかったんだよ~!」
ゴボッ……
「まぁ!だー君が損傷したこの第2世代を使ってその企業と交渉するって言ってるんだからある意味では良い方向に行ったのかな~!」
ゴボッ……
「でも、私も流石にこんな子を作っちゃった要員の一人なんだなってのは覚えておかないとね……だー君が背負ってる重み…ちょっと理解出来ちゃった……もうこんな事させないためにも、私もゴー君達のアプデや情報収集頑張らないと……さて、暗い話は終わり!束さんも決意したし!今日帰ったらお父さんとお母さんに相談しなきゃね!事後承諾だ・け・ど!嬉しいな~!箒ちゃん以外に妹ができるのは!」
ゴボッ……
「ねぇ、君は目覚めたらどう思うのかな?クーちゃん?」
液体に満たされた医療カプセルの中に浮く少女は何も言わずにただ静かに呼吸していた。
お読みいただきありがとうございます。
話を追う事に文字数がどんどん増えていっている気がします。
取り敢えず、今回織斑計画についてはオリジナル要素を加えておりますがご容赦ください。
サイクロプス隊とクロエに関しては次話で触れていきたいと考えています。
切りどころがわからない……!