前話の次の日の早朝、大地は1人月面基地居住区画の自室から出てきた。
その首には沢山の愛された証拠が付けられており、こんな姿をマスコミにでも撮られればスキャンダルになるくらいには確実な程の跡であった。
そして、出てきた自室の自動扉が静かに閉まる前に見えたのはベットのしわだらけになったシーツの上に力尽きたように寝ている2人の女性の姿だった。
大地はその2人の姿を見つつ閉まり切った扉を数秒見てから、廊下を歩きだしMS格納庫へと歩き始めた。
(やっぱり……この感覚は幸せな感情が強いけど慣れないな……)
<大地~昨日はお楽しみだったね~!>
「うぉ!?ルナか……おはよう。正直こんなに幸せでいいのか不安になるよ。」
<おはよう大地!大地はもっと幸せになって良いよ思うよ?それにしても、一人で部屋から出て来てどうしたの?>
「あぁ、気晴らしに少し歩いたらシュタイナーさん達に連絡を入れようと思ってね。」
<あぁ、作戦開始は明日だったもんね。>
「そうなんだよ、この作戦で亡国企業との片がつけばいいんだけどね。ターンX準備の方はどう?」
ー指定時間を過ぎたため、通信を再開。肯定、シュタイナー率いる計4機の有人メッサーに加え、予備戦力としてグリムエッジ部隊もウドガルドに待機させています。ー
「正直、戦力過多な気がするけどもしもの備えはするべきだろうね。」
大地はルナとターンXと会話しつつ、格納庫へとたどり着く。
そこで、月面生産施設からルナ用の機体補修用ナノマシンが詰められたコンテナが運び込まれており、それをルナの拡張領域内へ取り込み始める。
今回、大地は以前から考えていた亡国企業への襲撃作戦を行う事を決定していた。
クロエとのISコアリンクを行った際、クロエ自身が酷い目にあったわけではないようだが幹部たちによる玩具を使った遊びは見せられていたようで、定期的に決まった日に開催されていることを知り、作戦を行う事を決定。
そしてスコールに巻きつけた首輪の事を知らずに、オータムが『次はあの高級ホテルの最上階でおっぱじめる気だぜあいつら。護衛に呼ばれたが断った。』との発言をターンXが確認しており、信憑性の高い情報と判断。
オータムが言ったホテルを第1目標とし、他にもターンXと束の調査で可能性ありだと判断した場所も目標に加えて今回の作戦は実行される予定である。
作戦予定を考えつつ、ルナへのナノマシン取り込みが完了した大地はしばらく見ていなかったMS格納庫内のMS達をゆっくりと見まわして少し物思いにふけた後、シュタイナーへ通信を繋いだ。
「シュタイナーさん、今大丈夫ですか?」
『えぇ、問題ありませんよ社長。今丁度朝食を隊の全員と食べ終えたところです。』
「それはよかった。作戦の準備は問題ありませんか?」
『えぇ、戦時中とは違い潤沢な資材がありますからな。後は乗り込んで降下するだけです。』
「そう言っていただけて安心です。今日の夜には俺もウドガルドへ入ります。ブリーフィングは改めてそこで行いましょう。」
『了解しました。それで、社長に一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?』
「問題ありません。どうかしましたか?」
『できれば今日の夜、俺とミーシャの3人で飲みませんか?男同士の話ってやつです。』
「飲みですか……良いですよ!ですが、ガルシアさんやバーニィさんは?」
『あの二人は飲めるが強くない……いつも俺とミーシャが潰してしまいますんで最近は誘っても来んのですよ。』
「あはは、ミーシャさんが強いのは知ってますがシュタイナーさんも強いのですね。」
『自分としては嗜む程度なんですがね……取り合え了承いただきましたので、ブリーフィング後にでも低重力区画で飲みましょう。社長の好きなウメシュ?でしたかも先日発注してウドガルドに在庫してます。』
「なんと!それは嬉しい!では後程。」
『了解しました。道中お気をつけて。』
こうして、通信を終えた大地は久々に気兼ねなく飲めることに小躍りするほど喜んだ。
そして、来週に予定しているデュノア社との商談のための手土産を月の生産施設へ行き、回収した大地は再度月面基地の自室へ戻り愛しの二人を優しく起こしてから、マドカとクロエと合流して再度基地内で寛いだ後に月面設置型ヘルメスユニットのカーゴで静止衛星軌道上のウドガルドへと飛び立った。
~ウドガルド~
「じゃぁだー君!また後でね!」
「大地よ、気を付けるのだぞ。」
「わかった。なるべく早く帰るから。マドカちゃんとクロエちゃんをよろしくね。」
ウドガルド内転送ゲート前で、大地は束と千冬を抱きしめて一時の別れの挨拶をする。
そして、マドカとクロエとも少し言葉を交わした後、束達4人は転送ゲートでMR社に帰っていった。
それを見送った後に振り返るとそこにはサイクロプス隊の面々揃っており、表情はわずかにニヤニヤとしていることが分かった。
「お熱いですな、社長。」
「隊長の言う通りです。こうも見せつけられるとガルシアが妬きますよ。」
「中尉!いや、ミーシャさん……!確かにそう思いますけど、俺までからかわんでください。バーニィもなんか言え!」
「あはは……社長って結構熱烈なんですね。その首の後とか……凄い…」
「……もう、好きにして…」
大地の事をからかい始めたサイクロプス隊の面々に対して、大地は溜息一つで肩を落とした。
そして、少し話した後に大地は自分の首に手を触れたかと思うと先程まで首筋についていた沢山の愛された後が瞬時に姿を消した。
その光景を見ていた面々は唖然として大地を見やる。
「しゃ、社長……それは一体?」
代表して、シュタイナーが聞いてい来たので大地は何食わぬ顔で答えた。
「あぁ、俺の身体は訳アリでしてね。身体のほとんどがナノマシンで構成されています。正直、愛されてる証拠は自然代謝で消えるまで残しておきたい派なんですが今回の作戦も鑑みて今消しました。また付けてもらえばよいだけなので。」
「事前に聞いていたとは言え、目の前で見せられると驚きの一言ですな。それはそうと、そろそろブリーフィングを始めましょう。よろしいですね?」
「えぇ、ではブリーフィングルームへ行きましょう。」
何食わぬ顔で答える大地に対して、シュタイナー達は驚きの表情を隠せないままブリーフィングへ移動した。
そして、今回の大地とシュタイナーが意見を出し合い決定した作戦内容が部隊に共有された。
内容としては、オータムとクロエからの情報により判明している今回の第1候補であるパーティー会場はニューヨークの某高級高層ホテルの最上階で行われ事がわかっており、ルナとターンXに束の調査でさらに詳細な情報も入手、それを元に今回は軌道上からの降下による強襲作戦が選択された。
なお、第2第3候補はさ程離れていない場所であるため万が一第1目標でなかった場合も急行が可能だと判断し参加せずにまとまって動く方針を取った。
メッサー各2機ずつ搭載したギャルセゾンを2機、特殊な降下ポッド内に収納し軌道上より北大西洋に降下、ターンXのナノマシンをポッド周囲に散布させ目視以外でのステルス性を持たせ地上または海上からの迎撃ミサイルから狙われる確立を減らす。
大気圏突入後、海上から高度約2000で降下ポッドをパージし、ギャルセゾンにて飛行開始、海面すれすれを飛行しニューヨーク市内某ホテルを目指し、そこを強襲する。
なお、ビーム兵器の使用はサーベルのみ限定許可、他にも爆発物系の兵装制限を設け付近の一般市民への被害を最小限に抑えるように徹底、基本的に全機は今作戦のために新たに開発した特殊作戦用MMPマシンガンを主兵装として装備する事が決められた。
このマシンガンは、従来のMMPマシンガンと形は同じであるが無薬莢方式が採用されて発砲時に付近への薬莢による落下被害が起きない共に、火薬の量を極端に減らされ、弾頭の形状も減速率の高い形状に変更されており市街地内での発砲時も付近の建物に過貫通しないようにルナとターンXに計算してもらい設計されている。
ただ、デメリットもあり米所属IS及び、米所属戦闘MSであるジムとの戦闘を考慮できなかったため、万が一対IS&MS戦闘時に該当機への直撃を与えても衝撃のみ伝わるが装甲の貫通はできないとルナとターンXが回答を出している。
そして、襲撃時に亡国企業の幹部陣の包囲が可能だった場合は同伴でついていく大地がムーンブロッサムで対応することになった。
そして、細かいタイムスケジュールなども調整しブリーフィングは終了した。
~ウドガルド内低重力区画~
ブリーフィングを終えた大地はガルシアとバーニィが自室へ戻ったのを確認してから、シュタイナーとミーシャの3人でウドガルド艦内食堂の奥に設けられた飲み用のスペースへ来ていた。
そこは昔からあるバーのような木材を使ったバーカウンターなどが設置されており、シュタイナー達が余暇を使ってDIYで作ったそうだ。
ここは空調システムが独立しており、タバコを吸っても他の部屋に紫煙が混入しない設計になっており、タバコを吸いたいという執念でシステム構築まで行うサイクロプス隊(主にシュタイナー)の面々に大地は正直呆れを通り越して称賛していた。
バーカウンターの席に着いた3人はバーテンダーとして配置されているBOIDに注文をし、シュタイナーが角瓶、ミーシャがRED、大地が梅酒をそれぞれロックでグラスを合わせる。
「「「乾杯!」」」
そして、温度と共に全員がグラスに口をつけてその美味さに顔を綻ばせる。
「社長、良い飲みっぷりですな。」
「ははは、前にいた世界からずっと梅酒が好きで自分のご褒美として飲んでたんですよ。」「なるほど、それは良いですな。」
「シュタイナーさんこそ、日本のウイスキーを飲むのは正直意外でしたよ?」
「はっはっは!意外とハマるものですよ。日本のウイスキーはスッキリした飲み口のものが多くて良い物です。最近はアメリカのジャックダニエルと交互に飲んでおります。」
「ジャックダニエルも良いですね、ほのかに甘みがあり私も好きな酒です。」
シュタイナーと大地が会話し、シュタイナーが愛飲している煙草に火をつけて一息入れながらミーシャに視線を向ける。
「ミーシャ、折角の飲みの席なのにいつものREDなのか?」
「えぇ、隊長。私と言ったらこれでしょう。この世界にも存在して同じ味、飲まないわけにはいかないでしょう。」
「ミーシャさんらしいですね。私の知るミーシャさん達の世界でも飲まれてて、一時期憧れて買ったこともあります。」
「なんと…!社長が私に?」
「えぇ、ハイゴックの戦闘もでしたがケンプファーでの奮戦も素晴らしい物でした。憧れないのが無理というものでしょう。私があなた方の世界を作品として知ったのは幼少期の頃でしたから。」
「それは、無理もありませんな社長。では酒はだいぶいける口で?」
「それがそこまで……なんせ薄給で働いていたので、趣味の模型作りに集中するあまりお酒はあまりけなかったんですよ。」
「ははは!社長らしいですな!」
ミーシャとも雑談が始まり、だんだんと酒が消費されてBOIDが提供してくれたつまみに食べつつ、3人は程よく酔い始めていた。
そこで、あらかたの雑談が終わったあたりでシュタイナーがある話題を切り出す。
「社長、可能なら教えてほしいのですが。」
「…どうされました?」
「バーニィの事です。先日話していたアレックスのパイロット、訳ありなのでしょう?」
「……」
「話してもらわなくても問題ありませんが、バーニィの事も考えて俺とミーシャくらいは知っておいた方がいいんじゃないかと思いましてね。」
「それは……」
「そうです社長、あの2人はわかっていないようですが何か訳ありなのは俺にもわかりました。話した方が楽になる事もあるというものですよ?」
「ミーシャさんまで……わかりました。正直俺からバーニィさんへ言うつもりのない内容ですが……もし、必要だと判断したら喋ってください。」
シュタイナー達が切り出した話題に対して、大地はグラスに残った少量の梅酒と氷を手でカランと音を出しながら回して少しだけ下を向いた後に話し始めた。
そこで、大地はゆっくりと酔いがさめていくのを感じながら劇中、ジオンに憧れた中立コロニーの子供であるアルフレッド・イズルハ(通称アル)によって出会う事になるアレックスのパイロット、クリスティーナ・マッケンジーとバーニィについて、出会いからバーニィが死ぬまでの話しを始めた。
「……と、ここまでが俺の知っている内容です。正直、バーニィさんにアレックスのパイロットについて聞かれたときは冷や冷やしましたよ……。」
大地の説明が終わると、シュタイナーとミーシャも表情を少し暗い物へと変わる。
そんな中、シュタイナーは半分程吸ったタバコを灰皿に押し付けて消した後すぐにテーブルの上に置いていた煙草を取り出しマッチで火をつける。
そして、煙草の紫煙を一気に肺に吸い込み吐き出した後、口を開いた。
「まさか、そんなことになっていたとは……私が同じ立場でも同じことをしたでしょうな。バーニィのやつ、アルを送り届けるついでに日常って奴を謳歌していたみたいだ。」
「ははは、自分も同意です隊長。あいつは俺等と違って新兵で軍人になりきれてなかった。束の間と言え、コロニーの平和な光景に軍人であることを一時忘れてしまったのでしょうな……若い。」
「あぁ、若いな……学徒兵動員の決定後、特殊部隊であるうちの隊にバーニィのような若い兵が補充された時、もうあの戦争は終わるなとミーシャと確信していたものだ。まだ学び盛り遊び盛りの歳だろうに……戦争ってのはどの時代も人の命の重みが軽くなっちまうものだな……守るために戦ったのに。話がそれましたな……社長がバーニィをやたら気に入っている理由もこれでわかりましたよ。」
「えぇ、そうですな……そして今回の生ではそう言った光景をあまり見ない生涯にしたいものです。私も同意です、社長はお優しい方だ。」
シュタイナーに返答しつつ、ミーシャは氷の解け切ったグラスの中身を一気に煽りそのままテーブルの上に置いていたREDのボトルを持ちグラスにストレートで注ぎ更に口をつける。
それを見た大地もグラスに注ぎなおした梅酒を一気に煽ってグラスをテーブルに置く。
「そんなことありませんよ。結局こうして貴方達を戦う駒として利用しているのですから。」
そういう大地の手が若干震えていることを、シュタイナーとミーシャは見逃さなかった。
「問題ありませんよ。我々も世界が全てが綺麗事だとは思っていない。それに、出会いはどうあれ、信用しなければここまでついていこうと思いません。」
「その通りです社長。滅びゆく者のために戦った時よりよほど良い。それに、ここまで簡単に酒が飲める環境、手放せません。」
2人の発言に対して、大地は軽く笑い腕時計で時刻を確認し立ち上がる。
「2人ともありがとうございます。その言葉を聞けただけで嬉しい気持ちが込み上がってきます。……流石に作戦前夜に話し込み過ぎましたね。私は休ませていただきます。BOID、すまないが片づけをお願いね。」
「そうですな、明日に備えて我々も寝ることにしましょう。」
「えぇ、そうしましょう。」
そう言って部屋から出て行った大地に合わせて、シュタイナーとミーシャも席を立ち自室へ帰ろうとしてミーシャはふと、大地が開けていた梅酒の瓶に目をやる。
そこには先ほど開封した750ml入っていたはずの梅酒の瓶が空になっていた。
(ふん、酒好きの俺でもあれを1回に開けれんというのに……とんだ人の下に着いたものだ。)
ミーシャは、社長への信頼度を上げてシュタイナーと別れ自室で眠りについた。
~後日~
サイクロプス隊の面々は、降下用の特殊カプセルに詰め込まれた状態でウドガルドを離れ低軌道上まで降下し地球を周回していた。
そして、少し静かな時間を過ごしていると各機体のコックピット内に機械音声で通信が入る。
ー総員傾注、こちらターンX。180秒後、降下ポイントへ到達。降下強襲作戦を開始する。各員、降下に備えよ。ー
「「「「了解!」」」」
各機体からの返答を確認し、ターンXの誘導の元に大地はゆっくりと高度を下げ始める降下ポッドの進路上へ移動し大気圏突入用にビームバリアとステルス用のナノマシンを展開し通信を入れる。
「では、俺が先行します。降下ポッドは俺に追従するように動きますが、大気圏突入中は通信ができませんので気を付けてくださいね。」
「了解しました。ナビゲーションよろしくお願いします。」
「任せてください!」
シュタイナーから通信を確認した大地はそのまま追従する降下ポッドに合わせて夜の北大西洋へ降下を開始した。
~次回へ続く~
~MR社内~
「なぁ……スコール。」
「なぁに?オータム?」
「その、良かったのか?俺には見えないけどスコールには首輪がついてて……前俺が言った会話もあの野郎に聞こえてたんだろ?」
「あぁ……その事ね。」
「その事って……いいのか?亡国企業が潰されるかもしれねぇんだぞ?」
「まぁ……妥当よね……ごしゅ…社長も前回の一件で相当お怒りの様子だったし、私もこうして首輪までつけてもらえた……そのせいで亡国企業へ情報を流すこともできない状態だし、消されるのも時間の問題よ。幸いゴールデン・ドーンが手元にあるのが救いね。」
「……スコール…もしかした本機であの野郎の事を…」
「大丈夫よオータム、私は貴方をしっかり愛するわ。でも、ミスターは好きな人ではあるけどちょっと違うのよ。」
「違う?」
「あの方はね……私のご主人様足り得る人よ。」
「(あの野郎……スコールを誑かしやがって……ぜってぇ殺す…)」
お読みいただきありがとうございます。
4月に突入してから一気にタスクが増加し、ヒィヒィ言いながらも書きたいものを書き続けています。
さて、40話も書いてしまってますが原作に中々入れない模様……まだまだかかるかもしれませんね……いや、かかります。
この作品の執筆以外何も考えずに、デカい肉を食べたいと思ってしまってます。
今後もゆっくり更新ですが、書き進めていきますのでお読みくださる方は次回をお待ちいただけると幸いです。