篠ノ之束からメッセージを受け取ってから約半年が経過した。
大地は「月の民」と言う偽名で1日置きに束から来るメッセージを通じて文通まがいの事をしていた。
月で眠っていた太古の存在で最近コールドスリープから目覚め、月を開拓中という設定で 束と当たり障りのない話していた。(まさか信じてくれるとは思わなかったよ。)
その後マルチフォームスーツは完成し、インフィニット・ストラトスと言う名前に決まり3か月後の技術発表会で発表する事となったと報告を受けた。
それに対して「頑張って!応援している!」と伝えて以降は学会準備で忙しいのか連絡が来なくなった。
その間にMR社はさらに事業を拡大させていた。
日本、米国、ロシアを筆頭に各国の軍へウァッド&モビル・リブの販売をMR社が発表したのだ。
だが、あくまでMR社は作業MSとしての販売を行い、軍事転用する改造に関しては一切携わらないと発表。
そのため各国の兵器開発企業はMS用の武装開発に着手し、様々なコンペティションが行われていた。
そんな中、大地は米国に来ていた。各国の軍への初の引き渡しは挨拶を大地本人がしようと決めていて、各国を渡り歩き最後の納入先として米軍へのウァッド納入のため、渡米したはずなのだが。
ウァッドの納入はその日のうちに無事に終わり、ペンタゴンから副国防長官を名乗る人物が納入場所へ現れたので挨拶を交わしていると、副国防長官から懇意にしている兵器企業もウァッドを購入したいようで渡米していることもあり是非直接商談して欲しいと言われたのが始まりである。
もちろん大地は断りを入れたのだが、何度も頼まれ最後には富豪じゃ無いと泊まれないと言われるほどの超高級ホテルを宿として案内され断るに断れず、仕方がなくその企業と連絡を取り会うことになったのだが。
電話越しに担当と名乗る女性が指定した合流場所に大地は不安しか感じなくなっていた。
渡米から3日後、何故か米国の兵器開発コンペティション会場にバイオスーツを纏いMR社CEOとして大地は参加していた。
「軍事転用に携わらないと言ったのに何故私が連れてこられたのか……」
と零すと隣からブロンドの髪を腰まで伸ばし、特徴的な赤目の女性から声をかけられる。
「ミスターはこの場所がお気に召しませんか?」
「……君は……電話越しで聞いた声ですね、もしかしてミス・ミューゼル?」
「えぇ、覚えていただいて光栄ですわ。」
そこには、ここを合流場所に指定した米兵器開発企業ヴェリタス・システムズ社(通称VSカンパニー)の担当員のミューゼル、スコール・ミューゼルが女性的なラインがはっきり見えるタイトなスーツ姿で微笑みながら立っていた。
(まさかこの段階で原作主人公との敵対勢力側である亡国企業から接触があるなんて……そしてアニメ版や小説の挿絵で容姿は知ってたけど、原作約10年前の今もまったく容姿が変わってないな。美魔女にもほどがあんだろう、好みではあるけど……)
<(大地~?)>
(わ、わかってるよ。正直前世と今世で合計年齢がもうほぼ30代なんだ……全然守備範囲に入っちまうから仕方がないでしょうよ!それに、百合の間に挟まるほど腐っちゃいないさ!)
<(わかってるけど……なんかモヤモヤする。)>
(すまんな、後で機体ピッカピカに磨いてあげるから!ね?)
<(いつもそうやってごまかす!磨くのもいいけど今度月基地に帰ったら私で思いっきり飛んでくれるならいいよ!)>
(わかったよ、俺もルナと宇宙を飛ぶの好きだからな!)
<(うん!それにCEOなんだから鼻の下伸ばさずに偉そうにふるまうんだよ!)>
(わかってるよ、なるべく偉そうに演じてみるよ。)
ルナとの思考通信を終えてミューゼルとの会話へ戻る。
「商談がしたいと言われわざわざ来たというのに、私が携わらないと言った兵器のコンペティション会場を合流場所にするなんてずいぶんなご身分でありますな。VSカンパニーのミス・ミューゼル?」
「それに関しては申し訳ありませんわ、ミスター・月乃。ですがこのコンペティションにてわが社の兵器がいかに優秀かを見ていただいたうえで商談を行いたいのです。」
「私はあまり兵器が好きではないのですがね。」
「お戯れを、先ほどMS用の試作携行火器の展示コーナーにて目を輝かせながら見ていたのを拝見しておりましたよ。」
「すまない、私の発言の仕方が悪かった。兵器を見るのは好きだが、実際に使われるのが好きではないのです。あれらは実際に使われないのが一番なのですから。と言ってもあなた方に言うのは失礼に当たるかもしれませんが。」
「失礼ではございません、ミスター・月乃に同意いたしますわ。その考えが我らが高性能な兵器を開発するための原動力なのです。各国の『力の均衡』を保つための道具。戦争などの争いを起こさないための『抑止力』は最高の性能によってしか成り立ちませんわ。そのため我々は使わせないための『抑止力』を販売しているだけなのです。」
「それもそうですね。私が販売しているMSもその抑止力の一端を担える存在と世界が認めたという事なのでしょう。さて、ミス・ミューゼルが来たということはそろそろ始まるのですか?」
「はい、後数分でわが社のデモンストレーションが開始されます。ご一緒してくださるかしら?」
「わかりました。その後会食を交えて商談でしたね?」
「その通りです。では行きましょうミスター」
「わかりました。ミス・ミューゼル」
そして大地とミューゼルはデモンストレーション会場へ向かいVSカンパニーの発表を見学した。
~数時間後~
大地はミス・ミューゼルと共に、コンペティション会場を後にしミス・ミューゼルがお勧めだというレストランの個室で夕食を共にしていた。
ルナに部屋をスキャンしてもらったが盗聴器の類は見つからず、個室は完全防音になっているようだ。
原作知識を持っている大地にとってきな臭いとしか言いようのない状況のため、警戒をしていた。
バイオスーツを着用しているので、食べ物に薬物が検出されると体内に解毒用ナノマシンが注入されるようになっているのでとりあえずは問題はないと判断し料理に舌鼓を打っていた。
「お口に合いましたか?ミスター・月乃?」
「えぇ、とても美味しいです。特にメインのテキサスバーベキュー、ブリスケットが食べれるなんて感激しました。デザートも期待できそうですね。てっきりフレンチなどもっと格式のあるレストランに連れて行かれるのではないかと冷や冷やしておりましたよ。」
「それは良かったですわ。この後のデザートも期待なさって下さい。ここのアップルパイは格別なんですよ。こちらとしてもあなたの事は調べておりますのよ?どちらかと言えばミスター・月乃は庶民肌のようでしたので、ある程度格式を持ちつつ現地の美味しい物を提供できるこちらのお店を選ばせていただきました。私もどちらかと言えばお高すぎる料理よりこちらの料理の方が好ましいですわ。」
「そうなのですか?貴方のような可憐な方はドレスを纏い、格式の高い場所が似合いそうですがね?」
「ご冗談を、私とて格式の高い場所は好ましくはありますが……あそこの独特な腹の探りあいが当たり前という空気は好きではありません。」
ミス・ミューゼルがグラスを傾けながら少し視線を出入り口で控えるウェイターに向けると、数人のウェイターがアップルパイの乗った皿を大地とミューゼルの前へ置く。
焼き立てなのがわかるほどに、香ばしいパイ生地とリンゴ、そしてシナモンの香りが辺りに漂い大地の口角が自然と上がる。
ウェイター達が配膳を終え、ミス・ミューゼルと大地のグラスへシャンパンを注いだ後に全員が退出。
退出後に外からガチャリと扉が施錠される音が響いた。
(なるほど、後は店の人間か内側からでないと開けれない仕様か……内緒話にはもってこいってわけか。)
扉の方を数秒見た後に大地とミス・ミューゼルは目の前に置かれているアップルパイを食べ始めた。
濃厚なリンゴの甘みにサクサクの生地が心地よい歯触りで後から鼻腔を刺激するシナモンの香りを堪能しているとナプキンで口元を拭いたミス・ミューゼルから声をかけられる。
「とてもお口にあったようで嬉しいですわ。ですがここからのビジネスのお話をしましょう。パイのように甘いとは保証することはできませんが……」
ミス・ミューゼルの表情は穏やかだった笑顔だが先ほどとは一変して目は獲物を狙う狩人とは程遠い獰猛な獣に近いそれだった。
やはり原作10年前のスコールか、目が抑えきれていないとこを見るにまだ交渉事の経験が足りないと見えるな〜と思いつつ大地はスコールの表情に一瞬だけ目を向けた後、何事も起きていないようにアップルパイを食べ進める。
「そのままお聞きいただいて構いませんわ。MR社のMSは既存のどの技術とも違う物であり、あの運動性能とコンパクトな駆動系は世界各国のロボット技術の中でも数歩以上先を行く物と見ました。その技術はまさに成熟したものだと我々は思うのです。故にミスター・月乃、あなたはきっともっと高性能なMSをすでに開発されているのではないでしょうか?例えば……実戦に耐えうる純戦闘用MSとか……?」
話をしながらテーブルで両手を組んでこちらを見てくるミス・ミューゼルに対して、アップルパイを食べ終わりナプキンで口を拭き、一息ついた大地は皿を脇に押し、ミス・ミューゼルの顔を見つめる。
「お褒めいただき光栄です。先程パイのように甘いとは限らない……と言われましたが、それではメインディッシュに頂いたブリスケットのような濃厚で芳醇なお話をされたいのですか?我が社のウァッドを購入するとのお話のはずでしたが違う物を持ってきたようだ……違うかい?ミス・ミューゼル?」
少し目を細めて大地はスコールを見つめると、スコールは一瞬表情が力んだがすぐに表情を戻して話を切り出す。
「話が早いようで助かりますわミスター・月乃。では率直に、極秘裏にMR社とVSカンパニーで新型の純戦闘用MSの開発をしませんか?我々の兵器開発ノウハウとMR社のMS技術を合わせれば次世代の抑止力足りえる軍用MSができると確信します。軍事転用に関しては携わらないということは重々承知しておりますが、コンペティション会場にてあなたは『あれらは使われないのが一番だ』と仰った。共同開発が成功すれば紛争などの早期終結や起こりえたはずの戦争を未然に防げるとはお思いになりませんか?もちろん、MR社の関与は完全秘匿した上で利益の50%をそちらにお支払いするご用意があります。どうでしょう?メインディッシュには良い濃厚さがあると思うのですが?」
大地は静かにシャンパンを飲み干し、スコールの目を見据えながら落ち着いた声で返答する。
「確かに、この話はメインディッシュ以上に濃厚だ。とても魅力的な話ではありますね……ですが、それは我々MR社が影ながらではあるが戦争産業に本格的に参入する事にもなる。我がMR社は今後来るであろう宇宙開発事業の先取りとして創設したのです。それに、現在進行形で増え続ける顧客対応と同時に純戦闘用MSの共同開発となるとリソースが足りないのですよ。MR社は起業からまだ1年ほどで、職員も施設も成熟していない状況なのです。」
大地はここで一息おき、少し鋭い視線に変える。
「それに、ミス・ミューゼルは純戦闘用のMSをまるで見たことのあるような発言をなさる。我々とて純戦闘用MSは一つの案として考えておりましたがそこまでの明確なビジョンは持っていなかった。VSカンパニーか、それに準ずる組織などでもしかして明確な設計案などをすでにお持ちなのですか?」
その言葉でミューゼルの表情が固まる。
これはと思った大地は更に畳みかけようと口を開く瞬間。
コンコンコン
とドアをノックする音が響いた。
次回へ続く
お読みいただきありがとうございます。
書くの楽しー!ってなるとたまに何書いてるか訳わかんなくなります。
まぁ、自給自足なので良しとしましょう。