オイラの次走は萩ステークス。オープンレースということで、オイラと同じデビュー戦や未勝利戦を勝ってきた人たちが相手になります。
情報収集を怠らず。特に、デビュー戦ではできなかったことが今回からはできます。
(レースの、情報。併走や模擬レースでは感じ取れない、レース独特のものがある。しっかり、把握しておかないと)
「今は、ネットでいろんなレースが見れる。それこそ、メイクデビューまで」
これらは全てURAの公式チャンネルがウマチューブで挙げています。大きなG1レースからメイクデビューに未勝利戦まで。幅広く取り扱っているのがURAの公式チャンネルです。
今度対戦する方々のレースも、勿論アップされている。
「……」
「ただいま~。ホノちゃんもう帰って、っと。勉強中だったみたいだね。静かにしておくよ」
見る。穴が空くほど見る。どこが強みで、どこが弱点なのか。ラップタイムにコーナーの曲がり方、競り合いでの強さをしっかりと見ます。
こういうのは、トレーナーがやるべきことかもしれません。多分ですけど、トレーナーさんも同じことをやっている。本当はオイラがする必要なんてないのかもしれない。
だけどオイラは自分でやります。だって、心配だから。万事を尽くしていないと思ってしまうから。
(コーナーでわずかに膨らむ癖を矯正できていない。これは多分治せない癖みたいなもの。こっちの子は末脚の持続を要警戒、ただコーナーを曲がるのがそこまで得意じゃない。ほぼ全員そう、コーナーが課題になっている)
「なら、次のレースはコーナーを意識。最短経路で第4コーナーの中腹辺りで間違いなくバ群が開ける。ここから抜け出して……」
「相変わらず凄い集中力。こういうところがあるから、ホノちゃんが勝ちあがるのはそこまで心配してないんだよね」
メンタルで左右されない、どんな状況・状態でも最善を尽くす。人事を尽くして天命を待つ、です。
後は、オイラ自身の基礎力の向上。普段通りのトレーニングをして、問題がないように仕上げます。
「よし、いつも通り良い調子だねホノイカヅチ。この調子を継続していこう」
「フヒ。も、もう少し負荷を強めても平気ですよ?」
「う~ん、それもちょっと考えたけど、まだ強くしなくても大丈夫かな? ケガでもしちゃったら元も子もないし、何より身体づくりの方が先だ」
もう少しトレーニング強度を上げても問題ありません。なのでトレーナーさんに進言したのですが、毅然とした態度で断られました。その理由も、納得がいくものです。
「君の末脚は天性のものだ。その力を最大限発揮するためにも、今は身体の強度を高めていこう」
「……ダートのトレーニングもそのためですか?」
「そうだね。足元の負担を軽減しつつ、より強い力を発揮するための土台作りだ。ケガは怖いからね」
トレーナーさんはオイラのことを心配してくれている。フヒ、嬉しいですね。
「わ、分かりました。なら、このままダートトレーニングを継続します」
「うん。より本格的なトレーニングはもう少し先の話にしよう。君がもっと輝くためにもね」
「フヒヒ……、褒められちやほやライフ……!」
「褒められちやほやライフのためにも頑張ろうか」
頑張らねばなりません。オイラの目的達成のために!
総じてオイラの道のりは順調。しっかりと、やるべきことをやれています。
なので。
《第4コーナーでホノイカヅチが抜け出した。最内の最短経路を進むホノイカヅチ、ダンツキッスイを内から躱して先頭に立ちますホノイカヅチ》
《コース取りが上手いですね。他のウマ娘が外に振らされる中、ただ一人しっかりと内を走れていますよ》
《見事なコーナリング、これがジュニア級ウマ娘の走り。そしてホノイカヅチがそのまま先頭に立ちます。後続は間に合うか? ダンツキッスイ必死に粘る。最後の直線、先頭に入ってきたのはホノイカヅチだ!》
予測通りに進んでいるこの状況もまた、オイラにとっては当然のことです。
(後方勢の末脚は織り込み済み。後は競り合いに強い11番を警戒だけど、11番はオイラの近くにはいなくて外にいる)
「万事抜かりなし。オイラの仕事に陰りはありません」
地面を踏む。ちょっと重い今日のバ場、足を持ち上げるのに力が入りますが、普段からダートコースで鍛えているので関係ありません。なんら問題なく足を動かせます。
天気は曇り空。どんよりとしていますが、雨は降っていないので視界は良好。こちらもまた問題なく走れます。
先頭を走る。足音を近くに感じる。ですが、その足音が大きくなることはありません。常に同じ音を響かせている。
(差は2から3バ身。後はこのリードをキープしたまま進むだけ)
残り200の標識を確認。今まで以上に力を込めて地面を踏む。
衝撃で芝が抉れ、土が露出した。これまで以上に風の抵抗が強くなり、オイラを押し戻そうと立ちはだかります。
風を切り裂いて進む。抵抗などお構いなしに走ります。
《ホノイカヅチ強い強い、ホノイカヅチが3バ身差をつけて独走している。これはもう決まったも同然だ、これはもう決まりました!》
《いや~、ほれぼれするような強さですね。これは間違いなくクラシック候補ですよ!》
《ホノイカヅチがリードを保ったままゴールイン! 萩ステークスを制したのはホノイカヅチ、5番人気のホノイカヅチが見事萩ステークスを制しました! メイクデビューと同じ盤石の走り、まさしく勝つべくして勝つ戦い方! 今後のレースが非常に楽しみになる一戦でした!》
気づけばゴールする。立ち止まってもいいけれど、もう少しだけ走っていたい。コーナーのあたりまで走って、オイラは減速、立ち止まりました。
荒い呼吸。走り終わった後はいつものことです。だけど、すぐさま整えます。
「……フゥー」
オープンレースもしっかりと勝ち切ることができました。これもまた、オイラが仕事を徹底したからこその勝利。当たり前を完遂することができた。
そ、そして……!
「やっぱり凄いわホノイカヅチちゃん! カッコいいー!」
「第4コーナーから一気に伸びてきたな。メイクデビューに続いてこれなら、文句なしの本命候補だろ」
「強かったぞー! 次も応援してるからなー!」
ふ、フヒ、フヒヒ! これですよこれこれ! ファンの人がオイラを褒めてくれるこの瞬間、この歓声! これこそがオイラの求めていたものです!
「フヒ、フヒヒ……! もっと褒めて、オイラをちやほやして……!」
ニヤニヤが抑えきれません。オイラの褒め称える声は一つたりとも聞き逃しません。この瞬間のためにオイラは走って。
「う~ん。でも正直、勝ち方は地味だよな」
「強いのは分かるけど、地味と言われたらそうだな」
「バッカお前ら、地味だから強いんだよ。言わんとしたいことは分かるけど」
グハァッ!? よ、余計なものまで拾ってしまいました。な、なんてことを言ってくれるんですか!
いや、確かにオイラの勝ち方は地味ですけども。当たり前のことしかやってないから、確かに地味ですけども。
(けど、派手派手なレースはオイラにできないし)
追込や逃げもできないことはないです。差しもまぁ、先行と近い位置なので問題なく走れます。やろうと思えばできるんですよ。
けど、なぜわざわざリスクを冒す必要があるのか。先攻で走れて、なおかつ勝てるのに、どうしてリスクの高い勝負にしなければならないのか。
(逃げは確かに、レースの理想で花形ともいえるスタイルでしょう。けれど、一番前を走る都合上スタミナの消耗が激しいですし、なによりペース配分が難しい。加えて、想定外に弱い)
差しや追込、こちらにも弱点があります。捲りのスタイルである関係上、必ずと言っていいほど外を振らされることです。これはよろしくありません。距離のロスもスタミナの消耗もありますから。
先行にもちゃんとした弱点がある。けれども、最も勝ちやすいスタイルなのは先行です。これは、今までの歴史が証明している。
(ちやほやされるのに派手さはいるかもしれませんが、負けるリスクを冒す必要はない。オイラはオイラのやるべきことをやればいい)
そ、それにあの人たちは分かっていないだけです。先行の良さを、当たり前の良さを。ふ、フヒヒ、そう考えればいいわけです。
「堅実で盤石な勝利! これからも頼むぞ~!」
「頑張ってねホノイカヅチ~!」
オイラのことを分かってくれる人だっていますからね。そう、分かってくれる人がいるんです。だから、何の問題もありません。
観客席に目を向けます。オープンレースのためかまだまだ人は少ない。局所的に埋まっているだけで、大体の場所はがらりとしている。
その中で目に入るのは、横断幕を掲げている人。オイラの、トレーナーさんだ。
「お疲れ様ー! 頑張ったねー! その調子で次も勝って、褒めてもらおーう!」
大きな声でオイラのことを褒めてくれる。
「フヒ、フヒヒ……!」
や、やっぱりあの人はオイラのことを褒めてちやほやしてくれます。オイラの目に狂いはありませんでした。オイラは何も間違っていなかった。
今回は横断幕だけではなく、お手製のタオルも用意しているみたいです。文字は、【ホノイカヅチ一筋】と書かれている。フヒヒ!
「フヒヒ。つ、次も頑張ろう」
次はいよいよ朝日杯。今日以上に人が集まるでしょう。そこで勝てば、オイラはさらに多くの人から褒められる。間違いありません。
(出てくるウマ娘の情報、まとめなきゃ。後は今回のレースを見返して、反省点の改善。朝日杯までのトレーニングは……トレーナーさんに一任。準備を万全に)
意識はすでに次のレースへ。気づけば整っていた息、周りがへばっている中、オイラは控室へと戻るために歩を進めました。そして、控室ではまたトレーナーさんが褒めてくれました。フヒヒ。
◇
そんな萩ステークスから1週間程経った頃、オイラのトレーニングにあるウマ娘さんが加わってくれました。
「初めまして、アストンマーチャンです。お近づきの印にこちらをどうぞ」
「あ、どうも……ホノイカヅチ、です。あ、これ、マーちゃん人形……」
「おや、ご存じでしたか。マーちゃんのネームバリューも、かなり広まっているみたいですね。ぶい」
アストンマーチャンさん。この前開催されたG1レース、スプリンターズステークスを制した女王です。現在トゥインクル・シリーズを賑わせているウオッカさん、ダイワスカーレットさんの同期でもあります。
どうしてそんな方がオイラのトレーニングに、なんて思っていましたが。どうやらトレーナー間で交流があったそうで。オイラのトレーナーさんと着ぐるみを着たアストンマーチャンさんのトレーナーさんが話しています。
「ありがとうございます。合同トレーニングまでしてくださって」
「いいよ~。可愛い後輩の頼みだからね~。それに、マーちゃんのことを覚えててくれるからね~」
「あなたにもこちらを進呈しましょう。マーちゃん人形ver1.5です」
「あ、どうも……顔のパーツが細かく変わってる」
む、むむ。それは看過できません。トレーナーさんに危機が!
「こ、これはオイラが預かります! トレーナーさんは早く、ホノちゃん人形を作ってください! 後オイラを褒めてちやほやしてください!」
「あ、うん。どの道トレーニングするから俺が預かるかな……後、ホノちゃん人形はもうちょっと待ってね。作るの難しくて」
「でも、御幸トレーナーは筋が良いです。いずれはマーちゃん人形の作成にも携わってもらいましょう」
「だ、ダメです。トレーナーさんにはオイラの人形だけ作ってもらうので」
「それはしょんぼりマーちゃんです」
しょんぼりしていますが、こればかりは譲れません。一刻も早くホノちゃん人形を作ってもらわないと……!
あ、でも。作り方を教えてもらっている上に、こうしてトレーニングにも付き合ってくれています。それなのに断るのはいかがなものでしょうか?
(め、メイヂヒカリ様だってきっと、恩を仇で返すなと仰るはず。等価交換、こちらもお返ししなければなりません。ですがそうなると……ぐ、ぐぬぬ~!)
悩ましい、非情に悩ましいです。トレーナーさんにはオイラだけ見てほしい、褒めてほしい。マーちゃん人形を作るのは、アストンマーチャンさんにも目が向くということで。
でも、ほぼ無条件で協力してくれています。なのにオイラのワガママを貫いてもいいのでしょうか? いえ、きっとダメです。絶対にダメなことです。
最終的に。
「……いえ、お手伝いしてもらっている立場なのに、ダメですね。マーちゃん人形の作成、オイラは何も言いません」
「おぉ、許可が取れました。これはにっこりマーちゃんです」
「で、ですが! トレーナーさんは一番にオイラを褒めてください、オイラの人形を作ってください! 良いですね!?」
「それは分かってるけど……まぁいいや。それじゃあトレーニングを始めようか」
貰うばかりではいけません。こちらもしっかりお返ししなければと、オイラのワガママは取り止めました。
「そういえば聞いたことある? アグネスタキオンが気に入っているウマ娘の話。ホノイカヅチちゃんと同世代らしいよ」
「噂には。凄いらしいですね。まぁホノイカヅチの方が凄いですけど」
「君も大概担当に脳を焼かれてるね~。良いことだよ」
よし頑張りましょう今すぐ頑張りましょう俄然やる気が湧いてきましたよー!
明日と明後日は仕事が忙しくなるので投稿できない可能性が大です。ご了承ください。