※9/25タキオンとのやり取りを修正。
夜の寮。朝日杯に出走するウマ娘のデータを集めつつ、トレーナーさん達が口にしていたウマ娘のことを調べていました。名前を出していなかったので苦労しましたが、アストンマーチャンさん経由で知ることができました。なんでも、ダイワスカーレットさんとアグネスタキオンさんが仲良しだから聞けたそうです。
「……この子ですね。名前は、ディープスカイ」
10月の初めにデビュー。可もなく不可もなくですか。ただ、このメイクデビューは4着に沈んでいます。11月の初め、つい最近未勝利戦に臨んだそうですが、こちらも2着に敗れている。
レース映像を見返します。期待されているということはそれだけの理由がある、先の未来で戦う可能性を考慮して、今のうちにデータを集めます。
その結果を述べますと。
「なんとも言い難いですねこれは。身体は大きいですが、どうも扱い切れていない印象を受けます」
メイクデビューも未勝利戦も、内容としては普通。皐月賞ウマ娘であり、トゥインクル・シリーズ4戦4勝という輝かしい戦績を残したアグネスタキオンさん。そんな方が目をかけているから注目が集まっている。言い方は悪いですが、それ以上でもそれ以下でもない。そんな感じのウマ娘さん。
ただ、光るものはあります。大柄な肉体。小柄なオイラとは対称的ですが、ディープスカイさんはその体を扱い切れていない。そんな印象を抱きました。
(先の2戦で負けたのも、まだ体の使い方を覚えていないのが大きいでしょう。もし扱えるようになれば)
「……警戒はしておくべきですね。向こうにはアグネスタキオンさんがいますから」
クラシックを制したウマ娘さん。それにかなり頭が良いと噂ですから、サポート役としてこれ以上の人はいないでしょう。まず、間違いなく勝ち上がってくるはずです。
「ただ、スカイさんは朝日杯には出れない。だからデータ収集は後回しにしておいて……朝日杯のメンバーで注意すべきは……」
「ホノちゃ~ん、そろそろお風呂閉まっちゃうよ~」
黙々と情報を集めます。今この時も戦いは始まっている、情報は欠かさず集める。朝日杯が施行されるレース場の情報に、その他諸々のことも考えないと。
……そして、その結果。
「フヒ……フジキセキ寮長に怒られた」
「当たり前だよ。お風呂の時間だって言ったのに、ホノちゃんず~っとPCと睨めっこしてたんだもん。時間を超えてるんだから寮長も怒るよ」
「フヒヒ……反省」
情報収集に夢中になりすぎたオイラは時間のことも忘れ。お風呂が閉まる時間ギリギリに滑り込んで、フジキセキ寮長にやんわりと怒られました。入れてくれた寮長には感謝しなければいけません。
「で、でも! お、お風呂に薔薇が浮かんでいました! あ、あんなの初めてっ!」
「うん、それはテイエムオペラオーさんの仕業だね。そういえばいつも最後の方に入ってるって言ってたっけ」
「ふ、フヒヒ。やっぱり強いウマ娘さんは毎日薔薇風呂に入ってるのかな……!」
「多分テイエムオペラオーさんが例外なだけだよ」
情報収集も程々にしないと。お風呂に入れないのはダメ、絶対。
◇
次の日。トレーニングが休みなので、運動場でみなさんのトレーニングを観察していると。
「ふぅン、君はホノイカヅチ君だね?」
「……フヒ?」
「これは失敬。私はアグネスタキオンだ。なにやら一心不乱に書き込んでいる姿が見えてね、思わず声をかけてしまったよ」
目にハイライトがないウマ娘、アグネスタキオンさんと謎に発光している人……人? がいました。なんで人が発光しているんでしょうか? 人型のナニカかもしれません。
興味津々と言った様子のアグネスタキオンさん。その視線は、オイラが手に持っているノートへと注がれています。
「もし君が良ければだが、そのノートを見せてもらってもいいかな? 勿論それなりのお礼はするつもりだ」
「あ、あの、その」
「ほら、タキオン。あんまり無茶は言うものじゃないって。ごめんね、タキオンがどうしても気になるって言うから」
発光している人、人間だったんですね。アグネスタキオンさんのトレーナーだそうです。いつも発光しているって噂は本当だったんですね。
それにしても、ノートですか。別に見せるのは構いませんけど、いったいどういう意図があるのか。
(な、なんでわざわざオイラのところに? 他のウマ娘さんだってたくさんいますし、その中でオイラに声をかける理由なんてあります?)
も、もしかして不躾な視線を送っていたのでしょうか? 知らない間に、お2人を不快にさせてしまっていたのでしょうか!? も、もしそうなら謝らないと!
それに、アグネスタキオンさんはいろいろと良い噂を聞きません。他のウマ娘を実験台にしてたり、授業をサボって怪しげな実験をしていたり、生徒会の手を煩わせている危険人物なんて噂が立っている方。怒らせてしまったら、オイラも実験台にされる!
「ごご、ごめんなさいごめんなさい! ノートはお見せしますので、どうか発光だけは、発光だけは勘弁を……!」
「人聞きの悪いことを言わないでほしいんだが! 私はただ君が書いているノートの中身が気になっただけで」
「お、オイラまだ普通のウマ娘でいたいんです! 発光だけはちょっとな~って思ってるんです! だからどうかご勘弁を!」
「人の話を聞いてほしいねぇ! 別に君を実験台にするつもりはないし、モルモット君以外にするつもりはないよ! というか、誤解が広まるから止めてくれたまえ!」
その後しばらくの間、オイラはひたすらに謝り続けました。
10分後、どうやらオイラの誤解だったようで。
「じゅ、純粋に、オイラのノートが気になっただけ、ですか?」
「その通りだ……全く、嫌なら別に構わないのに、なんでこんな反応をされるのか。心外でしかない」
「普段の生活態度を見直した方がいいと思うよ。絶対そのせいだし」
「何の話だモルモット君」
オイラが書いていたノートを見せてほしいだけだったみたいです。一心不乱にノートに書きこんでいるオイラの姿が気になったそうで、中身を見てみたくなったと。
どうしましょう。正直な話、中身はただのトレーニングの改善案なので見せても構わないのですが。
「君の噂は聞き及んでいる。現在ジュニア級で2連勝中、朝日杯でも大本命に推されているホノイカヅチ君」
「お、オイラが大本命……! フヒ、フヒヒ……! 本命、本命……!」
「そんな君が書き記しているノート、気になるのが当然って、聞いてないね。なんだい? この子は」
アグネスタキオンさん、良い人。噂なんてなにもあてになりませんね。
特段隠すような内容は書いていません。オイラが見て、感じたままのことを書いているだけなので。見せる分には問題ないですから。
「い、良いですよ。別に変なことは書いてないので、そこは残念かも、しれませんけど」
「ありがたく見させてもらうよ……ほう、トレーニングしているウマ娘達の記録か。自分にどう活かせるか、どうすれば上手くメニューに落とし込めるかの考察、か」
「え、えぇ。オイラのトレーニングに活かせるものがあれば、と思って。そのノートはトレーニングメニュー用のものなんです」
アグネスタキオンさんは興味深そうにノートを眺めています。そんなに面白いでしょうか? オイラの書いたものが。
「ほうほう、かなり事細かに書いてある。勤勉なんだね、君は」
「どれどれ……これは凄いね。君が全部書いたのか?」
「ふ、フヒヒ。全部オイラが感じたことですぅ」
2人とも、オイラが書いたノートを絶賛してくれます。フヒ、フヒヒ。オイラのことを評価しているみたいで、とても嬉しいです。
アグネスタキオンさん達が拝見している最中、さらにウマ娘さんがやってきました。
「あ、あのぅ、タキオンさん? 急に走ってどこかに行ったかと思ったら、何をしているんですかぁ?」
「ふ、増えたっ」
身長がとても高い、それにいろいろなところが大きいウマ娘さん。ちんまいオイラと比べると何もかもが大きいです。並んだら凄い目立ちそうです。
ゆるふわな雰囲気。とてもレースで走るウマ娘には見えない覇気のなさ。今がトレーニング中じゃないからかもしれませんが、それぐらいおっとりとしている子です。
「おや、スカイ君。すまないね、どうしても気になる人影があったものだから」
その人はディープスカイ。栗毛の大柄な彼女が、オイラを見てびっくりしていました。
「あ~!? ホノイカヅチちゃんだ!」
「フヒ?」
「噂には聞いていますよぉ。緻密な計算でレースを支配する、ジュニア級の凄い子だってぇ!」
初対面ですが分かりました。ディープスカイさんはとても良い人です。嘘もなくオイラを褒めてくれる人、それすなわち良い人。この法則は外れたことがありません。サンプル数は3つです。
それにしても、ディープスカイさんですか。今はまだ未勝利ですが、いずれはライバルになる人。
「要警戒しておかないと」
ぼそりと呟く。ディープスカイさんを警戒していることを。その呟きが聞こえたのか、アグネスタキオンさんがずずい、っと顔を近づけてきました。
「ほほう! 君はどうやらスカイ君が気になっているようだね!」
「え、あの」
「いやはや、流石はジュニア級王者最有力候補、お目が高いねぇ! そうとも、スカイ君はいずれクラシックを取れるような子だ!」
「フヒ!? ち、近っ」
「今はちょ~っと体の使い方に困っているが、いずれ実力を発揮できるようになれば万事解決、なにも問題はない。というか、私が問題なくしてみせるさ! あともう1人、トゥーレ君も外せない! この子はデイリー杯を勝っていて」
饒舌にディープスカイさんのことを語るアグネスタキオンさん。気に入っている、という噂はどうやら本当のようです。あともう一人、トゥーレさんについても。おそらくキャプテントゥーレさんのことでしょう。一月前のデイリー杯を勝ったウマ娘さんです。
褒められて照れくさそうにしていたディープスカイさん。唐突に、オイラの方へ手を合わせてきました。ご、ご利益はありませんよ?
「ねぇねぇ、どうかわたしの相談に乗ってくれませんかぁ? 今度の未勝利戦、どうしても勝ちたくてぇ」
「フヒヒ……とはいっても、オイラとディープスカイさんじゃ体格が違いすぎるから、アドバイスできることが少ないです。本に書いてあることしか言えませんよ?」
運動場で偵察をしていたらこんなことになるとは。まさかこんなにも褒められるなんて。
(お、オイラ、もしかして凄い? 有名人だったりします?)
まだ2勝しただけ、重賞も勝っていません。それでもここまで注目されているなんて、オイラはかなりの有名人に違いありません。褒められちやほやライフ計画も順調ですよ。
(これで朝日杯も勝てば、ジュニア級王者としての地位を確立できます。そうなれば、今よりもっとちやほやされる!)
フヒ、フヒヒ。楽しみで仕方がありません。きっと、ファンの人達からたくさん褒められるはず!
「フヒヒ、フヒヒ……!」
「怪しげな笑みで笑ってますねぇ。なんだかおもしろい子です、ホノイカヅチちゃん」
「その意見には同意するよスカイ君。いやはや、それにしても興味深い資料だ。コピーが欲しいものだね」
「あんまり困らせない方がいいよタキオン。ホノイカヅチちゃんは引っ込み思案な子らしいし」
「光って困らせているトレーナー君が言うことかい?」
「光ってるのは誰のせいかなぁ!?」
オイラが思いのほか高評価であることを知れた今日。偵察に来た甲斐がありました。
「いやはや、それにしてもこれは凄い。トレーニングの分析も相当なものだ」
「そうだね。彼女の強さはここからきているんだろうな」
「わたしも頑張らないと!」
「堅実なレース運びに電光石火の末脚、ぜひとも検証したいものだ。ポッケ君のところの子も気になるしね」
これはトレーナーさんにも報告しなければなりません。えぇ、計画達成の日は近いですよと!
順調に注目されつつあるホノちゃん。やったね。
9/25追記 おいは恥ずかしかっ! 生きておられんごっ!(修正しながら)