ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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ホノちゃんはいいぞ。


ジュニア級王者の誕生

 な、なんとか無事にレースを終えることができました。朝日杯、中々に厳しい勝負でしたね。

 

(マークが集中していたから自由に動けない、限られた選択肢の中で最良だったのがオイラにとって不利な展開。仕方がないとはいえ、やっぱりレースは好きじゃありません)

 

 自由に走れない、思った通りに走れない。加えて、オイラの予想していた展開とは大分違った。いつも上手くいくとは思っていなかったですけど、辛いものがあります。

 

(これも仕方がない。予測が外れることだってあります。癖だって修正できる可能性がありますし、思い通りにならないことが普通)

 

 その中で最良の選択を重ね続ける。リスクのある道筋ではなく、リスクを最小限に済ませる道筋を選び続ける。それがオイラの鉄則、レースにおける仕事です。

 

 そ、それに。オイラは勝ちました。ジュニア級王者を決める戦いに、オイラは勝ったんです。

 ということはつまり。

 

「凄かった、凄かったわホノイカヅチー!」

「新しいジュニア級王者の誕生だー!」

「ホノイカヅチさいこー!」

 

 フヒヒ! これこれ、これですよ、この歓声が欲しかったんです!

 メイクデビューの時よりも、萩ステークスの時よりもずっと大きな声。会場が一体となってオイラを褒めたたえ、オイラの勝利を祝福してくれている。

 初めての重賞、それもG1の舞台で受ける歓声は格別で、特別な気分に浸れます。なんと気持ちの良いものでしょうか。

 

 フヒヒ、フヒヒ。どんなにキツいレースでも、この声があれば何度でも走れます。この称賛のためならば、オイラはレースを頑張り続けることができます。

 

(も、もっと褒めて、ちやほやして! もっと、もっとオイラを褒めてー!)

「フヒ、フヒヒ……!」

 

 なんて甘美な称賛の声。この声だけでオイラはレースを走れます。もっとちやほやして、お褒めの言葉をください。なんなら永久に褒めてください。オイラ頑張りますので。

 

 応援の声にニヤニヤしていると、全身汗だくのキャプテントゥーレさんがオイラの方へとずんずん歩いてきました。なにやら怒っているようにも見えて、一瞬気圧されそうになりましたが。

 

(……違いますね。オイラに怒っているわけではない。どちらかと言えば、自分自身への怒り)

 

 態度こそ怒っているように見えますが、オイラを見据える瞳に怒りはない。つまりは、怒りの対象はオイラではないということ。な、ならよかったです。いえ、良くはありませんね? どうしてオイラのところに来るのかは分からないですし。

 

「ホノイカヅチ!」

「ひゃい!? ななな、なんで、しょうか」

 

 大きな声で呼ばれたので、思わず声が上ずってしまいました。けれどもキャプテントゥーレさんは気にせず、黙ってオイラを見つめている。

 ジッと、オイラを見つめ続けている。視線をあっちにこっちにさ迷わせているオイラをよそに、悔しそうに歯噛みしていました。

 

「負けたよ、完膚なきまでに。そもそも、アタシは4着だから勝負にすらなってたか微妙だけどね」

「あ、そ、そうです、かね? あんまよく分かんないです」

「だけど、次は負けないよ。皐月賞か、はたまた前哨戦か。次戦うのがいつになるかは分かんないけど、今度は負けない」

 

 ビシッと、こちらに指を突きつけています。どういう意図があるのかは分かりません。

 

「首を洗って待っていな、ホノイカヅチ! ジュニア級の王座は譲ったけど、クラシックではそうはいかない! アタシは、アンタの上に立ってやる!」

「は、はぁ」

 

 えっと、オイラは何を言われているんですかね。お礼参りでもされるのでしょうか。だ、だとしたら準備しておかなければダメでは?

 いや、そもそもの話お礼参りされてもお家がなんとかしてくれそうですし。というよりは、キャプテントゥーレさんの性格でそんな計画企てなさそうですし。果たして、これにはどういった意図があるのでしょうか? 次もまた一緒に走ろう、的なものでしょうか。

 

(そ、それなら十分にあり得ますね。同じ世代なんですから、これから先何度も戦う機会はあるでしょうし。きっとそうでしょう)

 

 その割には眼光が鋭いとか、オイラずっと睨みつけられてますけど、他意はないはずです、うん。

 

 と、とりあえずお返事をしなきゃ。なにも答えないままなのは不自然ですから。

 

「あ、そ、そのぅ、次もよろしくですぅ……」

 

 気の利いたことが言えないオイラ、惨敗。レースでは勝てても会話では勝てないのが証明されてしまいました。

 キャプテントゥーレさんも呆れたような表情を浮かべています。うん、失敗しましたねこれは。間違いなく。

 

「なんか、気の抜けるヤツだねぇ。さっきまでの凛々しいアンタはどこに行ったのやら」

「! り、凛々しい? お、オイラが?」

「あぁ。レース中のアンタ、チラっとしか見えなかったけどそりゃあ凄かったよ。なんつーか、仕事人って感じで」

 

 凛々しい、凛々しいですか。ふ、ふふ、フヒヒ。オイラはそっちの路線でもイケるみたいですね。

 

(凛々しい路線、かっこよさ路線は悪くないかもしれません。女性ファンにキャーキャー言われる日もきちゃったり!?)

 

 なんて夢が広がる光景なのでしょう。レース中のオイラは凛々しい、これは新たな知見を得ました。それにしても急に褒めてくれるなんて、キャプテントゥーレさんは良い人なのかもしれません。

 

「凛々しい……カッコいい……フヒ、フヒヒ……っ!」

「ほ、本当になんなんだアンタは。こっちの調子が狂うってレベルじゃない」

 

 引かれているような気がしますけど、気のせいですよね。なんたってオイラは凛々しいので、凛々しいので!

 

「そ、それでは、また。レース、お疲れさまでした」

「あ、あぁ。急に素に戻るねアンタ」

「フヒヒ……」

 

 会話もほどほどに、オイラは控室へ戻る準備を整えます。その前にウィナーズサークル、ですね。勝ったウマ娘はインタビューに答えなければなりませんから。

 

 

 そして、このウィナーズサークルでの時間もまた、至福と言っても過言ではありませんでした。

 

「おめでとうございますホノイカヅチさん! これでジュニア級ながらG1ウマ娘として君臨、世代の顔役と言ってもいいでしょう!」

「今回は外からのレースでしたが不安はありましたか? 外からでもあれだけのレース、お強いですね!」

「勝利の秘訣になったものは何でしょうか!」

 

 記者さん達はオイラの勝利を喜び、誰もがオイラを褒めたたえます。フヒヒ、な、なんて幸せな時間なのでしょう。

 メイクデビューも萩ステークスも褒められました。ですがここはG1レース朝日杯、記者の数も段違いです。多くの人がオイラの勝利を祝ってくれている。

 

「フヒヒ、フヒヒっ!」

 

 褒められて喜んでいると、遠くの方のひそひそ話が聞こえてきます。遠いところでも、オイラ達は聞き分けることができるので。

 

「それにしても、めっきり名前を聞かなくなったあの名家から、久しぶりにG1ウマ娘が誕生するとはな」

「G1つってもジュニア級。だけど、めでたいことだよな」

「いやいや、この強さならクラシックだって取れるだろ。今のうちに注目しといた方がいいって!」

 

 フヒヒ。い、いろんな人から褒められる。凄く嬉しい、なんて幸せなのでしょうか。これが、これがオイラの望んでいた景色です!

 

(ジュニア級G1でこれですか。この先は、いったいどれだけのものが待ち構えているのでしょう!)

 

 今から楽しみで仕方ありません。インタビュー中はずっと顔が緩みっぱなしでした。

 

 また、控室に戻れば。

 

「凄かったぞ、ホノイカヅチ!」

「と、トレーナーさん?」

「終始不利な展開を押し付けられていたのに、全く苦にすることなく走り抜いた。しかも、大外を回して勝った! 本当に凄いよホノイカヅチ!」

 

 控室に戻った開口一番、トレーナーさんが興奮気味に言いました。

 

「ふ、フヒ。こ、これも当然ですよトレーナーさん」

「君にとっては当然かもしれないけれど、俺にとっては凄いことだよ! あそこで安易に内に入ろう、としなかった判断力も見事だ!」

「あ、あそこで内に入れば、マークの具合から囲まれてましたし。だから、内に入らなかったので」

「うん、そうだよね。その判断をすぐに下せるなんて、やっぱり君は素晴らしいウマ娘だ!」

 

 トレーナーからの褒められ。フヒヒ、フヒヒ!

 

 トレーナーさんの言葉に嘘はない。この勢いで察しはつきますけど、トレーナーさんは純粋な心からの言葉でオイラを褒めている。

 

「冷静なレース運びに、終盤での末脚。それもこれも君が努力してきたものだ。その努力は誇るべきものだし、褒められて然るべきもの。本当に良く頑張ったね、ホノイカヅチ」

「ウェヒヒ……で、ですが。まだジュニア級、なので。これからが本番みたいなところ、じゃないでしょうか?」

 

 もっと褒めてと思いましたが、それは後に取っておきましょう。オイラの言葉に、トレーナーさんも気を引き締めたみたいです。キリっとしました。

 

「そうだね。来年度からはクラシック級、とりわけクラシック三冠に挑むことになる。今回でジュニア級王者の地位を確立したけれど、油断しない方がいい」

「ふ、フヒ。朝日杯を勝っても皐月賞で負ける、なんてざらにありますので。油断をしないようにいきましょう」

 

 朝日杯と皐月賞を同時に勝ったウマ娘。代表的なのはやはりナリタブライアンさんでしょう。クラシック三冠ウマ娘の凄い人です。

 ただ、意外にも数が少ない。やっぱり、条件がいろいろと違うのが関係しているのかもしれませんね。

 

 ですが、関係ありません。数が少なかろうが何だろうが、オイラのやるべきことは決まっているんですから。

 

「お、オイラは仕事を徹底するだけなので。勝って、褒めてもらうために頑張るのでっ!」

「その意気だ、ホノイカヅチ。褒められちやほやライフのために、勢いのままクラシック三冠も勝とう!」

 

 さ、三冠は言いすぎじゃないでしょうか? いえ、確かに目標ではありますけども。

 

「さ、三冠はさすがに。まだまだ分からないですし」

 

 しどろもどろに口にすると、トレーナーさんはそんなことはない、とばかりに。

 

「君の強さならば三冠も夢じゃないよ。シンボリルドルフやナリタブライアン、かの英雄に並ぶことだって不可能じゃない! 君は未来の三冠ウマ娘だ!」

「う、うえええぇ? そ、そこまではちょっと」

「君ならいけるさ! それだけ凄いってことだよ!」

 

 うへ、うへへ……! な、なら、頑張っちゃおうかな?

 

 

 これで、オイラのジュニア級の戦いは終わり。3戦3勝、素晴らしい成績を残すことができました。

 次はクラシックの舞台。トゥインクル・シリーズでの勝負は、ここから本番と言っても過言ではありません。

 けれど、やることは変わらず。オイラはオイラの仕事を徹底する。それだけです。

 

「全てはそう、褒められちやほやライフのために!」

「これからは認知度も高めていこう。より多くの人から褒めてもらうために!」

「お、お~……!」

 

 頑張りましょう、いろいろと。




※続くよ。でも明日は仕事が忙しいので空けます。申し訳ありません。
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