ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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年が明けてついにクラシックへ。


強さと葛藤

 年が明けて、ホノイカヅチもいよいよクラシック級へと上がる。トゥインクル・シリーズはここからが本番と言っても過言ではないだろう。

 閑散としたカフェテリア。資料を片手にご飯を食べ、これから先のことを考える。ホノイカヅチのことを。

 

 ジュニア級の成績は文句なしに最高、3戦3勝の成績を残すことができた。今や世代の顔役と言っても申し分ないのがホノイカヅチである。

 ただ、クラシック級になると話は別だ。いくらジュニア級で好成績を残したとはいえ、クラシック級で結果を残せない可能性も十分にあるのだから。

 

(気を引き締めて、クラシックの1つは取りたい。いいや、彼女の実力ならば)

「クラシック三冠だって夢じゃない。あの時の言葉は、偽りでも何でもない」

 

 朝日杯を勝ったホノイカヅチに言ったこと。シンボリルドルフといった三冠ウマ娘に、君もなれると俺は言った。勢いのままに、君ならば勝てると。

 最初こそ勢いだったけど、言葉に偽りはない。ホノイカヅチならば三冠を取れると本気で思っている。

 

 その理由は、レースにおける姿勢だ。ホノイカヅチは他のウマ娘とは違う、特異な面が目立つ。

 

(自我を出さない、最短で最高の効率を求めてレースをしている。ちょっと寂しくはあるけど、最も勝ちやすい戦い方をしている)

 

 良くも悪くも機械的なレース運びをするのがホノイカヅチだ。闘争心が薄いから競り合いにそこまで強くないって弱点はあるけれど、そもそも競り合いが必要な状況にもっていかない。酷く理知的に、恐ろしく合理的にレースを詰めていく。

 レースは仕事と考える姿勢が可能にするスタイル。徹底して相手の弱点を突き、己の強みを押し付ける、支配者的レース運び。それがホノイカヅチの仕事(レース)だ。

 彼女の気性を考えると、追込の方が良い時計を出すだろう。あくまでトレーナーとしての勘でしかないけれど、本来は追込のはずだ。勝ちやすいから先行にシフトしている、そんな感じがする。

 

 だけど追込はしない。その理由はたった一つ、不安定だから。

 

(どこまでも徹底して勝利のみを追及する。勝利のためならば、自分が苦手なことでも関係なく走る)

 

 褒められたいから、ちやほやされたいから。勝ったらみんなが褒めてくれる、だから一番勝てる方法でレースをする。うん、分かりやすいことだ。

 そりゃ、追込で強い子だっている。三冠ウマ娘のミスターシービーがそうだし、かの英雄も差しと追込の後方脚質だ。本当に強いウマ娘は場所を選ばない、万人を魅了する輝きを放つことができる。

 それでも選ばないのは不安定だからだ。展開に左右される、リスクとリターンを天秤にかけた時にリスクの方が大きい。少なくともホノイカヅチはそう判断したんだ。

 

(それに、スタートだって悪くない。わざわざ後方でスタートする意義が薄い。これも絡んでいる)

 

 元来、追込で走るウマ娘の多くはスタートが苦手ってのもある。その点ホノイカヅチはスタート技術もそれなりにあるし、前に出れるのに後ろに下がる必要性はない。これが選ばない理由の1つでもある、か。

 

 素質については語るまでもないだろう。ジュニア級の顔役にもなっているのだから。

 さらには普段の努力。実は年明け、神社の帰り道にホノイカヅチと会ったのだが、彼女は新年早々トレーニングをしていたのだ。ジョギングみたいな軽いものに筋トレ、学園と変わらないトレーニングを年明けから取り組んでいた。

 思わず声をかけた。新年早々熱心だね、と。それと、どうしてこんな日でもやっているのかと。正月だから休もうと思わなかったのか、と。思わず聞いてしまった。

 その結果、彼女は澱むことなく答えた。

 

「こ、これくらい当然、ですので。休みだとか、新年だとか関係ないんです。こ、これもまた、オイラのやるべきことなので」

 

 彼女の強さが分かった気がする一幕だった。帰り際に褒めたら凄く喜んでいた。

 

「素質があって、苦手なことにも取り組む姿勢があって、なおかつ努力を怠らない。本当に隙が無いウマ娘だ」

 

 彼女にとっては当たり前でも、普通の人からすれば常軌を逸していると思われてもおかしくない。ホノイカヅチの強さは、この普通にある。普段から彼女が口にしている言葉通りだ。

 

「当たり前のことを当たり前に、やるべきことを十全に……か」

 

 口から漏れ出る彼女のモットー。なんともストイックな言葉だ。やっぱり、あの子は強い。

 

 強いからこそ、不安になる。ホノイカヅチは才能に恵まれていて、努力を怠らなくて、どこまでもストイックで……クラシックを勝てるウマ娘。トゥインクル・シリーズの蹄跡に名前を残せるような子だ。

 そんな彼女だからこそ痛感する。俺自身の、実力のなさを。

 

(俺は彼女に相応しいトレーナーに、なれているのだろうか?)

 

 俯き、考える。ホノイカヅチの努力に見合うだけの自分になれているのか? と。

 

 ホノイカヅチは自分のために努力を怠らない。それこそ、常人の何倍も努力をしている。

 俺はどうだろうか? 常識的な範疇でしかやっていないんじゃないか、もっとやれるんじゃないか。そう言いたくなるような毎日だ。

 どうしてそう考えるのか。その理由は、これまたレースが関与している。

 

(ホノイカヅチは頭が良い。レースIQが高くて、いかんなく発揮している)

 

 レース場のコースの把握に出走するウマ娘の情報、全てを当たり前のようにインプットし、少しの隙も無く実行するほど頭が良い。

 そして、彼女は自分自身でデータを集めている。やれることは自分でやる主義なのか、こちらに丸投げすることなく自分でも調べるのだ。その完成度は……俺が調べたのと遜色ないレベル。いや、下手したら俺より上だ。競技者目線で立てるのだから。

 極端な話、彼女は俺がいなくても輝けるウマ娘だ。自分でなんでもできて、褒めてくれる言葉さえあればどうにかできる。

 本当に俺である必要はあるのだろうか。そう考える時がどうしてもある。

 

 食事を食べる手が止まる。自分の不甲斐なさを痛感して、食事が喉を通らなくなる。

 

(……ダメだな。彼女は頑張っているのに、俺は)

 

 資料に目を落とす。自分で作った資料を確認して……残った食事を一気にかきこむ。

 

 考えたって仕方ない。自分の無力さを嘆いたってしょうがない。それこそ、考える暇なんてない。

 

(俺は俺のやるべきことをやるんだ! 彼女が最大限力を発揮できるように、彼女が一番輝けるように!)

「考えすぎるなんて性に合わない。やっぱり行動しないと!」

「そうそう、その方がいいよ~」

「うわぁ!? ま、マーちゃんのトレーナー、さん?」

 

 椅子から立ち上がり、決意を新たにしたところにアストンマーチャンのトレーナーがいつの間にかいた。存在感は凄いのに気づかなかったのは、いつの間にか考え事に没頭しすぎていたのだろうか。

 相変わらずの着ぐるみ。どうやって食事をするんだと思いながらも、彼はこちらをジッと見ている。人形の無機質な瞳が向けられていた。

 

「あんまり考えすぎても、出ない時は答えが出ないからね。悩むくらいなら即行動、悪くないと思うよ」

「は、はぁ」

「それに、ホノイカヅチちゃんみたいな子にはグイグイ行く方が合ってるんじゃないかな? 彼女、そこまで自己肯定感高くないし」

 

 それは分かる。彼女はどちらかというと卑屈寄りの考えだ。

 

「僕の方も、助けられる時は助けるから。困ったことがあったらいつでも相談してね~」

「……なんでそこまでしてくれるんですか?」

「ん~? 可愛い後輩のためってのと、マーちゃんグッズの作成手伝ってもらってるからね。そのお返しはしないと」

 

 人形の頭をグイっとずらして食事をしているマーちゃんのトレーナーさん。そうやって食べるくらいなら、いっそのこと外せばいいのに。

 

「それは無理な話だね。マーちゃんの魅力をもっともっと広げないと」

「ナチュラルに心を読まないでくれますかね!?」

「アハハ。ま、なんにせよ困ったことがあったら相談してよ。僕も、必要があれば君に相談するからさ」

 

 言いたいことは言ったのか、食事を始めるトレーナーさん。なんだか、気を遣われたみたいだ。

 

(……よし、まずは頑張ろう)

 

 俺もホノイカヅチに倣う。当たり前のことを当たり前に、やるべきことを十全に。その精神で打ち込むんだ。いつかきっと、彼女に相応しいトレーナーになるために。

 

 

 

 

 

 

 1月の半ばになった頃、URA賞の発表があった。前年に活躍したウマ娘を表彰される、URAが主催する催し。俺達はそのパーティ会場に来ている。

 

 なぜいるのか。当然、招待状が来たからだ。

 

《最優秀ジュニア級ウマ娘にはホノイカヅチさんが選出されました。おめでとうございます!》

「フヒ、フヒヒ……! お、オイラが世代の頂点……!」

「そうだよホノイカヅチ。君が、世代の顔役だ」

 

 大方の予想通り、ホノイカヅチが最優秀ジュニア級ウマ娘を獲得した。ホノイカヅチも嬉しそうに笑っている。

 係の人に呼ばれ、壇上に上がるホノイカヅチ。他に選出されたクラシック級の子だったりシニア級の子だったり。いろんな子達と一緒に、会場中の視線を浴びている。

 ただ、ホノイカヅチはあまり人前に出るようなタイプではない。視線をあっちにこっちに忙しなく動かし、ものすごく挙動不審な動きをしている。これもまた愛嬌だろう、と思わず苦笑い。

 

 会場中から温かい拍手が響き渡り、受賞したウマ娘達を祝福する。今後の彼女達の活躍を祈るように、これからもどうか無事に走れるようにと願いを込めて。

 

 

 授賞式を終えたホノイカヅチは、どっと疲れたような表情をしていた。顔も少し青く、疲労具合が見て取れる。

 

「ふ、フヒ……。い、いろんな人から見られた……」

「お疲れ様。まぁそういうものだからね。だけど」

「け、けど! た、たくさん褒められました……! フヒヒ、フヒヒ……!」

「うん、そうだね。いっぱい褒められたね」

 

 だけど、褒められたことを思い出してか上機嫌に。これもまた彼女のいつも通りだ。ひとまず彼女を労いつつ、手ぬぐいを手渡す。

 

 その後は今後の目標を確認。壇上でのインタビューでも宣言したけれど、改めての確認だ。

 

「年明けの始動戦は弥生賞。皐月賞と同じ条件のレースで具合を確かめよう」

「り、了解、です。弥生賞からの皐月賞。そこから日本ダービー、ですよね?」

「そうだね。合ってるよ」

 

 弥生賞から始動してクラシックの皐月賞に挑む。弥生賞は皐月賞と同条件だし、前哨戦としてはもってこいだろう。ポピュラーなローテだ。

 現時点で表明しているメンバーでは、朝日杯でも走ったキャプテントゥーレが出走してくる。二度目の対決、対策も練ってくるだろう。

 

 ならばこちらも対策を。やれるだけのことをやる、できるだけのことをやる。ホノイカヅチの言葉通りに。

 

「頑張ろうかホノイカヅチ。目標はクラシック三冠制覇だ!」

「は、はひぃ。が、頑張ります」

 

 さぁ、クラシックシーズンの始まりだ。




始動戦は弥生賞に。このあたりからライバルも増え始めてきますよ。
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