ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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冷静に考えてこれまでの協力者がほぼティアラ路線な子について(ジェンティルドンナも一応含む)。アグネスタキオンぐらいしかいねぇ!


ホノイカヅチの1日

 オイラのトレーニングは朝の5時から始まります。

 

(……朝。マリちゃんを起こさないように、そっと部屋を出ないと)

 

 布団から起き上がり、同室のマリちゃんを起こさないよう、物音に気を付けて着替えます。もう慣れましたし、なにより気配を消すのはそれなりに得意。これまでマリちゃんが起きたことは一度もありません。

 着替え終わったら寮の外へ。20分ほど軽いストレッチをした後、走り込みに出かけます。

 

 朝の冷たい空気。2月の半ばということもあり、まだまだ冷え込む日が続きますね。こういう日は起き上がるのも億劫な人がいるでしょう。オイラはそこまで感じませんが。

 河川敷までくれば寒さはさらに跳ね上がります。水場からの冷たい空気が肌に触れ、思わず身震いする人もいる。

 

「腿の高さは一定に……呼吸の乱れもなし……心拍数問題なし……次はステップを交えてのトレーニングに移行……」

 

 けど、オイラには関係ない。寒かろうが何だろうが、オイラのやるべきことは変わらない。やるべきことをこなす、できることをやり続ける。それが、早朝トレーニングの意味。

 

 周りに視線を向ければ、オイラ以外にも走っている子がいる。さすがにこの時間で走っているのは1人とか2人ぐらいしかいない、ですね。

 そちらに意識を割いている時間はありません。走り込みに、自分のやるべきことに集中。

 

「ジグザク走行……終われば次はアップダウン走……その次は」

 

 1つ1つ丁寧に。全てを十全にこなします。クラシックの戦いはもう始まっている、全てにおいて尽くさなければなりません。

 

 

 90分の早朝トレーニングが終われば寮へ。部屋に戻ると、大抵マリちゃんが起きています。

 

「あ、おはよ~うホノちゃん。今日も朝から熱心だねぇ」

「ふ、フヒ。お、おはようございますマリちゃん。やるべきこと、やらないといけないので」

「そっかそっか。やっぱホノちゃんは偉いね~」

「ッ! フヒ、フヒヒ……っ!」

「あとチョロいねホノちゃん」

 

 身支度を済ませてご飯へ。ご飯を食べ終わったら学園へ。その後は授業を受けて放課後を待ちます。休み時間にはレース理論の本を開き、知識を吸収。

 

(叶うならシンボリルドルフさんのレース理論を聞きたいけれど、オイラに伝手がないのが)

 

 そもそもオイラは仲の良い相手すら希少なんですけどねアハハ。嘆いても仕方ないですし、スマホを開いて海外の論文にも目を通します。今では大分読めるようになりました。

 休み時間もフルに活用。オイラにできることを最大限やり通す。

 

 そんな折、オイラのクラスに来訪者がやってきました。

 

「さ~て、ホノイカヅチ君のクラスはココかな?」

「げっ、アグネスタキオンさんだ」

「ここに来るなんて珍しいね……あ、ホノイカヅチちゃん呼ばれてるよ」

「フヒッ!?」

 

 急に名前を呼ばれてびっくりしましたが、どうやらアグネスタキオンさんだったようです。珍しいなと思いつつも、オイラを視界に収めたアグネスタキオンさんは真っすぐにこちらへと歩いてきました。それはもう愉快な笑みを携えて。

 なんの用だろうと身構えていると、アグネスタキオンさんは紙束を出してきて。

 

「この前興味深いトレーニング理論を教えてもらったお礼だ。私なりの改善点を書いたレポートだよ」

「あ、ありがとうございます……っ!」

 

 紙束を受け取り、ざっと目を通しますが完成度がものすごいです。なかなか興味深いものになって返ってきました。

 

「フヒヒ……っ」

「どうやらお気に召したようだね。もし私に聞きたいことがあれば、理科準備室にくるといい。それに私も、君の理論を聞きたいからね」

「その時は、よろしくお願いします」

 

 用件はそれだけだったのか、アグネスタキオンさんはそのまま立ち去りました。クラスの子達は目を丸くしてオイラを見ていますが、それよりもこの理論に目を通すのが先。

 

(オイラ風にアップデートされていますね。どこかでオイラの情報を見ていたのか、はたまた)

 

 言うなればオイラ用のトレーニング理論、と言ったところでしょうか。これは是非ともトレーナーさんにお見せしなければ。今の練習を調整しましょう。

 

「集中している時のホノイカヅチさんはカッコいいんだけどね~」

「普段がね」

「可愛いよね」

 

 ッ! 可愛い、オイラを可愛いと言いましたか? ふ、フヒ、フヒヒ!

 

 

 午前中の授業が終わってカフェテリアへ。今日は授業が早く終わったので、混む前に席を取ることができました。

 アグネスタキオンさんから貰った資料を片手に食べていると、オイラの前の席に誰か座りました。

 

「もう、ホノイカヅチさんご飯食べながら資料見てる。お行儀が悪いですよ?」

「はひっ、た、タルマエ、さん」

「ご飯時ぐらい、資料から目を離して。はい」

 

 タルマエさん、ホッコータルマエさんだ。オイラの数少ない友人で、苫小牧の宣伝をよくしている。見ていた資料を取られて、端に追いやられます。確かに、行儀が悪かったですね。

 

「でも、珍しいですね。いつもはご飯をしっかり食べてから目を通しているのに」

「フヒヒ、アグネスタキオンさんから貰ったトレーニング理論が、面白くて。ついつい夢中になってしまいました」

「タキオンさんか……変なことされてない? もしされそうになったら、真っ先に私かスティルさんに相談してね?」

 

 その後は他愛もない雑談、というよりはどうすれば苫小牧により誘致することができるかのお話を聞いていました。オイラから振れる話題、ほとんどないですからね。もっぱらトレーニングかレース理論ぐらいですし。流行りのものとか分かりませんし。

 でも、そういえば。

 

(タルマエさんって、ウマッターやウマスタグラムをやってたはずです)

 

 流行りのSNS。オイラはやっていませんが、タルマエさんは苫小牧のPRもかねてやっていたはず。少しだけ興味がありますし、ちょっと聞いてみるのも良いかもしれません。

 

「あ、あの、タルマエさん。1つ聞きたいことが」

「だから苫小牧の観光客を増やすためには、ってどうかしたの? ホノイカヅチさん。私に聞きたいことって」

 

 苫小牧のことを話しているタルマエさんに割り込むように質問します。昨今のSNS事情について。

 

「た、タルマエさんってウマッターやウマスタをやって」

「いい? ホノイカヅチさんはやっちゃダメ」

「はひっ」

「確かにやってるけど、ホノイカヅチさんはダメだよ。ネットはとっても怖いところなんだから」

 

 聞こうと思ったのに、タルマエさんが強い圧で凄んできたので聞けませんでした。ネットは怖いところだからダメ、オイラはやらない方がいいの一点張りで聞いてくれませんでした。な、なんででしょうか?

 

(そ、そんなに怖いところなんでしょうか、ネットは)

 

 オイラがネットを使う時は動画を見る時か論文を見る時です。SNSを活用したことはありません。覗いたこともない。

 タルマエさんがここまで言うくらい怖いところなんでしょうか? だ、だとしたら、オイラはやらない方がいいかもしれませんね。

 

(で、ですが。オイラも有名になってきました。ウマッターを覗けば、オイラを褒めてちやほやしてくれる人がたくさんいるのでは?)

 

 ……よし、その内隠れてこっそりやりましょう。バレないように上手くやります。この手のことでバレたことはありませんので、問題はないです。

 

 カフェテリアでの食事は基本タルマエさんと一緒に。たまにスティルさんが混じるぐらいでしょうか。一緒に食べる人がいるだけでも、オイラにとってはありがたいことです。

 

「そ、それではタルマエさん、また」

「うん、またね。ホノイカヅチさんも午後の授業頑張って」

「タルマエさんこそ。て、テストの時とかは、分からないところ教えますので」

「頼りにしてる。それじゃあまた!」

 

 ご飯を食べ終わってまた教室へ。午後の授業を受けつつ、頭の中では今日の放課後をどう過ごすかを考えます。

 

(今日はスティルさんがいないので通常のトレーニング。場所はトレーニングルームに集合でしたね)

 

 その前に、トレーナー室で新しい理論を見せるのが吉ですね。今日の変更は無理でも、今後に活かすことはできるはずですから。

 授業に関しては問題なくついていけます。学年でも10番以内に入るくらいには成績良いので。フヒ。

 

 

 

 

 

 

 放課後は勿論トレーニング。トレーニングルームに集合して、今日の内容を確認します。

 

「あ、と、トレーナーさん。これ、アグネスタキオンさんから貰った、トレーニング理論の改善案、です」

「アグネスタキオン? とりあえず見るよ……うわ、凄いねコレ。かなり事細かに書いてある」

「こ、今後はこれも踏まえた上でメニューを作るのが良いと思います」

 

 情報共有も忘れずに。貰った資料をトレーナーさんにも確認してもらって、今後のトレーニングに役立てます。

 

 今日は主に筋トレ。ボクシングでパワーの強化に努めます。

 それに、ボクシングは考えることが多い。

 

(より強く飛ばせる角度、フックやジャブ、ストレートの使い分け、どの使い方がより効率的にサンドバッグを殴ることができるか)

 

 最大限の効率を求めて動く。1秒でも無駄にしないために、少しの時間で鍛えるために。サンドバッグをひたすら殴り、オイラはトレーニングに没頭します。

 

「右フック、左ジャブ、左ジャブ、右ストレート、左アッパー……」

「相変わらず凄い集中力だ。しかも、俺が指示した順番通りにちゃんと実行している」

 

 殴る、殴る。ひたすらに殴る。トレーナーさんの指示通りに、寸分の狂いもなく実行する。

 1つのサイクルが終われば次のサイクルへ。次のサイクルが終わればさらにそのまた次のサイクルへ。機械のように正確に、1つの乱れもなくトレーニングを続ける。

 

「ストップ! いったん休憩にしようホノイカヅチ!」

 

 どれだけの時間が経過したか。気づけば足下に汗の水たまりができそうなほどトレーニングをした後、トレーナーさんからのストップが入る。サンドバッグを殴るのを止めて、タオルを受け取ります。

 トレーニングが終わればいつもこう。全身から出てくる汗を拭きとり、水分をしっかりと取って次に備えます。

 

「いつも凄い集中力だね。ここまで持続する子はなかなかいないよ」

「フヒ。お、オイラの得意分野ですので。いつも、気づいたら時間が過ぎていることが多いんです」

「思考力が凄いんだろうね。それに殴る角度も一定、リズムも一定。完璧な打ち込みだ」

 

 フヒヒ、褒めてくれるトレーナーさんはやはり最高です。トレーナーさんの褒め言葉が骨身に染み渡って、幸せな気分になれます。

 その日は一日ボクシング。充実したトレーニングになりました。

 

 

 日が沈んで、19時より前には寮に帰宅。お風呂を済ませて宿題も終わらせた後は、個人の時間。

 

「……」

「お~、相変わらずレースのお勉強か。本当、いつ休んでるんだろうねホノちゃん」

 

 次の弥生賞の出走メンバーが固まってきました。ならば、対策を取らなければなりません。

 過去のレース映像、特に重賞を勝った子は重点的に見る必要があります。弥生賞は皐月賞に繋がる大事なレースというのもありますが、それ以上に。

 

(万事を尽くしてレースに臨む。これは当然のことです)

 

 勝ったレースのコースは? どんなレース展開だったか? 得意としているものはなにか、逆に苦手としているものは何か? 徹底して情報を洗い出します。

 

 無論、一日で見つけることは無理です。けど、毎日やっていれば見つけることができます。見つけるまで観察すればいい話です。

 

「仕掛けた位置的に……カーブでの曲がりは……スタートの技術はちょっと拙い……修正することも加味して……」

「本当に凄い集中力。次の弥生賞頑張ってね~」

 

 これを22時まで続けます。22時になると就寝の時間。すぐに眠りにつかなければいけません。睡眠も大事ですから。

 

 

 これがオイラの1日。まぁ、誰もがやってそうな普通の1日ですね。




ちなみにホノちゃんとめちゃくちゃ相性が悪いウマ娘も勿論います。誰かって?メジロラモーヌ。
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