ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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迫るダービー

 いろいろとあったNHKマイル観戦から少し経って。今日もダービーに向けたトレーニングをやっている。

 

「それでは、今日は私が併走しますね?」

「は、はいぃ。よ、よろしくお願いします、スティルさん」

 

 スティルインラブとの併走。オークスで東京レース場を走ったことがある彼女から所感を聞き、ある程度の情報を整理。後はVRウマレーターなどを駆使して、できる限りの対策を重ねる。これが本番までの基礎的な部分だ。

 

 ただ、やっぱり実践で東京レース場を使いたかったのが本音。実践に勝る経験はないというし、ホノイカヅチ的にも安心できるから。

 

「だとしても、ケガをする可能性を考慮したらどうしようもない部分がありますね。皐月賞から青葉賞、またはNHKマイルに進むのは、結構な過密ローテですし」

「そうだね~。あまりおススメできるものじゃないよ。アレはギムレットちゃんが凄かっただけだし、当のギムレットちゃんも、ね」

 

 ちなみに、アストンマーチャンにも協力してもらっている。主にサポート役だ。

 

 スティルインラブと一緒に走っているホノイカヅチ。それにしても、本当にありがたい提案だったな。

 

(トリプルティアラウマ娘との併走なんて、そう簡単にできることじゃない。この出会いに感謝だ)

 

 いまだ達成者が2人しかいない偉業。そのうちの1人であるスティルインラブは、今度走るダービーと同条件のレースで勝った実力者。彼女の技術を余すことなく身につけたいところだ。心配はせずとも、ホノイカヅチならしっかりと自分のモノにするだろう。

 遠目からでも分かる、スティルインラブの動作に注目している動き。観察し、思考し、学んでいる。相変わらず、凄い集中力だ。この集中力を、走っている最中に発揮するのだから恐ろしい。

 

「……やっぱり、ホノイカヅチの最大の武器はあの集中力だね。判断力・レースIQ・末脚の鋭さ。どれも高水準だけど、走っている最中にあれだけ集中できるのは本当に凄いと思う」

 

 スティルインラブのトレーナーさんも冷や汗を流していた。恐ろしさを感じているのだろう、ホノイカヅチの能力に。

 

「現段階で、これだけ高い水準を保っているのは凄いと思うよ。どれだけの努力を費やしたんだろうね、彼女は」

「そう、ですね。ただ、本人はこれを当たり前のことだと思っているみたいです。勝つためとかじゃない、レースを走る上で当然のことだと」

「う~ん、多分メンタリティが常人と違うんだろうね~。実にプロフェッショナルな思考だ」

 

 彼女は勝つための努力を努力と思わない。やって当然のことだと考えているし、誇るものではないと本人は豪語していた。なんとも仕事人のような思考である。それはそれとして、頑張っていることを褒めたら凄く喜ぶんだけど。

 

 後は、ホノイカヅチが勝つことでお家の方も活性化しているみたいだ。業績が上がり続けているらしい。

 

「ホノイカヅチちゃんの親戚が経営している会社、軌道に乗ってるんだってね。この前ニュースでみたよ」

「本家の方も、URAでの発言力が増したらしいとか。もっとも、お家自体がそこまで権力に固執していないのか、あんまり変わってないらしいですけど」

「一族総出でホノイカヅチのことを褒めちぎってますね。かなり嬉しいみたいです、彼女の活躍が」

 

 よくアニメやドラマとかだと、この流れに乗じてホノイカヅチを利用する存在が出てきがちだ。けど、そういう動きは少しもない。可愛い一族の子が中央で活躍しているだけで嬉しいのか、政治利用なんて微塵も考えていないそうだ。

 一番喜んでいるのは、ホノイカヅチが最も尊敬しているご当主様、メイヂヒカリである。実は皐月賞制覇後に手紙が届いたのだ。

 

(アレは凄かった。メイヂヒカリ直々の、凄い達筆な文字だったな)

 

 筆ペンかなにかでしたためであろう手紙、ホノイカヅチの活躍と健康を祈る内容のものが俺達宛に送られてきた。ホノイカヅチも凄く喜んでいたな。メイヂヒカリ様からの手紙だ、って。

 

 褒められてテンションアップ、テンションが上がることでレースへの意欲もさらに上がる。クラシック二冠に向けて、視界は良好といったところだ。

 

「第3コーナーの手前は上り坂、一転してコーナーでは緩やかな下り、です。起伏があり、最後の直線では純粋な力勝負が試される。クラシックディスタンス……王者を決めるのに、相応しい舞台だと言えます」

「……はい、大丈夫です。頭に叩き込みました。後は、実践で微調整します」

「大丈夫、みたいですね。それなら、後は最後の直線での走りを、また」

 

 だから後は、ライバル達がどう動いてくるか。ここに焦点が当たる。

 皐月賞でさらに強く根付いたはずだ。正攻法でホノイカヅチを倒すことは限りなく不可能に近いと。

 

(あれだけマークされていたのに、一瞬の隙間を抜け出して飛んできたんだ。日本ダービーでは、奇策で来ることも考えておかないと)

 

 東京レース場は実力が顕著に出るレース。2400mというクラシックのこの時期では最長の距離、いかに自分自身の実力を発揮するかを考えるはずだ。

 けれど、そこで立ちはだかるのがホノイカヅチ。現時点において、自力で彼女に勝る相手はいない。断言してもいい。彼女の実力は抜きんでていると。

 

 そうなると現れるのは、意識外の策だ。こっちが予想していないような、博打の勝負を仕掛けてくる陣営が出てくる。その可能性が高い。

 誰だって勝ちたい気持ちは同じ。真っ向勝負で勝算の低い賭けに出るよりも、まだ確率の高い博打に出た方がマシだ。だって、勝てる可能性があるのだから。

 

「同世代の子、キツいだろうね~。マークも気にしない、プレッシャーも効かない、あらゆる面において動じない。どこまでも仕事として徹底している」

「爆発力がない……確かに欠点ですが、あれほど高水準だともはや関係ありませんからね。真っ向勝負でホノイカヅチを超えるのは、かなり厳しい」

 

 マートレさんとスティトレさんからもこの評価。それほどまでに、ホノイカヅチの実力は高いというわけで。

 

「これでレースIQも高い。涙目だよ涙目」

「あ、アハハ……ほ、誉め言葉として受け取っておきます」

「誉め言葉だよ、ちゃんとね」

 

 隙のない強さを発揮するホノイカヅチ。彼女が動揺すること、か。

 

(褒められないとかも、レースになれば関係ないし。仕事とプライベートは切り離すタイプだから)

「弱点が本当にないな、改めて考えると」

「それは言えてるね。ホノイカヅチちゃんの弱点は弱点として機能してないから」

 

 レースまで後もう少し。しっかりと備えておこう。

 

 

 

 

 

 

 トレセン学園の別の場所では、アグネスタキオンのチームがトレーニングをしている。間近に控えた日本ダービー、その対策のために励んでいた。

 

 ディープスカイ。NHKマイルカップを制した彼女は、勝利に慢心することなく先を見据えている。

 

(ホノイカヅチちゃん……トゥーレちゃんが何度挑んでも勝てなかった相手ぇ。わたしは、勝てるかどうかぁ)

 

 尊敬しているアグネスタキオン。彼女はケガにより日本ダービーに出走することが叶わなかった。

 仲良しのキャプテントゥーレ。激走の代償で、日本ダービーの出走を断念せざるを得なくなった。そのことを思い出し、悲しい気持ちになるディープスカイ。

 

 ただ、落ち込んではいられない。次の勝負はもう始まっているのだから。

 

「ほらほらスカイ君、脚が鈍っているよ。まだ疲れるのは早いだろう?」

「は、はいぃ! もっと、もっと頑張らないとぉ……!」

 

 キャプテントゥーレが負けた相手に、今度は自分が挑む。そのことに脚が竦みそうになるディープスカイ。

 

 彼女の強さは知っている。そんな彼女が3回挑んで、3回負けた相手。

 自分なんかが勝てるのか。NHKマイルカップを勝ったとしても、日本ダービーは無理じゃないか。マイナスの思考がディープスカイの頭を支配する。

 

 だが、彼女は託された。キャプテントゥーレに、年内の対戦が見込めない彼女に頼まれたのだ。

 

「アタシの代わりに、アンタが勝ってくれスカイ。タキオンさんの教えを間近で受けている、アンタなら!」

 

 走れない自分の代わりに、ホノイカヅチに勝ってくれと頼まれた。それが、ディープスカイの心を奮い立たせる。奥底からやる気を滾らせる。

 

(トゥーレちゃんの仇は、わたしが取りますぅ! ホノちゃんに勝って、わたしがダービーウマ娘になるんだぁ!)

「やぁぁぁ!」

 

 闘志溢れる走り。普段の朗らかな雰囲気とは違う覇気に、同じチームのダイワスカーレットも感心していた。

 

「へぇ、やるじゃないスカイ。その調子で頑張んなさいよー!」

「はいぃ!」

 

 先輩であるダイワスカーレットの激励。ますますやる気が上がるディープスカイだった。

 

 

 ディープスカイが頑張っている中で、アグネスタキオンは難しい表情を浮かべながら資料を見比べている。資料の中身は、ホノイカヅチのデータだ。

 

 アグネスタキオンが独自に集めたデータ。これまでのレースを分析し、対策を立てようと試行錯誤している。

 その結果は芳しくない。理由はただ一つ、データ通りの数値しか出していないからだ。

 

(ホノイカヅチ君の強さはデータに現れない、というよりはデータ通りの力を発揮するから厄介だ)

「どうしたものかね、本当に」

「本番で自分の実力を十分に発揮する。君達だからこそ、よく分かることだろう? タキオン」

「その通りだよトレーナー君」

 

 隣にいるアグネスタキオンのトレーナーも同意の意見。いつもと違い、発光していない。それはつまり、アグネスタキオンの薬を飲んでいないということだ。

 

 研究する間を惜しんでまで、アグネスタキオンはホノイカヅチの対策に力を入れていた。全てはそう、ディープスカイを勝たせるために。

 

 トレーニングを一から見直し、隙間時間もホノイカヅチの対策にあてるよう指示した。ウマ娘が取る作戦、とりわけ王道の走りをピックアップし、あらゆる作戦を頭に叩き込ませた。

 休み時間だけではなく、カフェテリアでの食事もそうだ。片手間に勉強し、帰ってからも勉強漬け。ホノイカヅチが取りそうな作戦を、最善の選択肢を予知できるように時間を費やした。

 ディープスカイはしっかりとこなす。その先にある勝利を手にするために。これくらいしなければ彼女には勝てないと分かっているから。

 

「走り込みが終われば、次は将棋ソフトだよスカイ君ー! 時間は一分一秒も惜しめない、課題はちゃんとやったんだろうねー!」

「や、やりましたぁ! 授業中にやって、怒られちゃいましたけどぉ!」

「些細な問題だ!」

「いや、授業はちゃんと受けて?」

 

 万全の状態で挑んで、なお勝てるかどうかあいまいな相手。それでも、尽くせる手は全てを尽くす。彼女が、ホノイカヅチがそうやっているように。

 

 その甲斐もあってか、ディープスカイは着実に成長している。NHKマイルカップよりも成長していると断言できるほどに。

 ホノイカヅチ対策の勉強にしても、全てでないにしても覚えることができている。準備は、ちゃんとできているはずだ。

 

(……だが、厳しいと言わざるを得ない。皐月賞とこれまでの走りからして、彼女は)

「当たってほしくない勘だが、どうだかねぇ。君はどう思う? トレーナー君」

「う~ん……俺としても当たってほしくないけど、現実はそう優しくないから」

 

 揃って溜息を吐く2人。その溜息をディープスカイに悟られないように、なんとかして誤魔化していた。

 

 

 どの陣営も覚悟を決める。現状無敗にして世代最強のウマ娘、ホノイカヅチに対して鋭い視線を向けている。

 誰の対策をする前にまずはホノイカヅチ。彼女に勝たなければダービーの勝ちはない、そう断言する陣営も出てくるほどに。

 

 気合いを入れる。一生に一度の夢舞台に上がる。勝って、己が世代の頂点であることを証明するために。ダービーウマ娘の栄誉を手にするために。




明日は忙しいので投稿できないです。
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