ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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少し短めです。


力になりたい

 急いで指導している女性教官の下へ向かったものの、当たり前の様に断られた。

 

「今は指導中だから後にしてちょうだいね」

「あの、そこをなんとか!」

「あ・と・に・し・て・く・だ・さ・い・ね!」

「あ、はい。すみませんでした」

 

 ウマ娘達を指導している最中なのに、俺の質問など答えてくれるはずもなく。ものすごく威圧されてお帰り願われた。我ながら気持ちがはやりすぎたな。気になることがありすぎて暴走してしまった。反省しなければ。

 

 指導が終わったタイミングを見計らい、もう一度教官のところへ。

 

「あの、もう大丈夫でしょうか?」

「えぇ大丈夫よ。全く、急にまくしたてられたらびっくりするじゃない」

「す、すみません。昔から気になったことは調べたくなるタチで」

 

 恥ずかしい限りだ。と、俺の恥は今は良いとして。聞きたいのはホノイカヅチのこと。

 

「あなたが指導している生徒の中に、ホノイカヅチと呼ばれるウマ娘はいませんか? ほら、茶髪で片眼を隠した」

「あぁ、あの子ね。確かに私が指導しているわ」

「その子のことについて教えて欲しいんです。なんというか、気になったので」

 

 俺のお願いに教官は頷き、快く教えてくれた。指導中のホノイカヅチの様子から併走の成績、さらには普段の態度まで。

 

「優秀そのものね。さすがは名家の子、ってところかしら」

「学業も優秀で、レース成績も、ってことですか?」

「その通りよ。あの子の頭の良さは相当なもの。レースでもいかんなく発揮されるわ。学んだことを普通に実践するんだもの」

 

 教官のお墨付き。どうやらホノイカヅチは、相当頭が良いらしい。

 

(実際、レース中も全然動じずに走っていた。レースの地頭も相当なものなんだろうな)

 

 思い出すのはさっきの併走。ホノイカヅチは特に苦にした様子を見せずに走っていた。当たり前の動作を、当たり前のようにこなす。それができるだけの頭脳を持ち合わせている、ってことか。

 そしてレース成績。これは併走で1着だったことから文句のつけようがないだろう。

 

「あの子のレースに派手さはない。普通で、堅実な走り。だからこそ、あの子は強くなるわ……て、言いたいんだけどねぇ」

 

 教官の声には少しばかり不安が混じっている。その不安というのはやはり、普段の彼女の態度だろう。

 

「どうにもやる気が出ていない、というか。いえ、全くないというわけじゃないんです。ないわけじゃないんですけど……」

「まだ上があるのに、それを発揮しようとしない、ってところですか?」

「そういうことね。どうすればあの子がやる気になってくれるか分からなくて」

 

 困ったような仕草を取る女性教官。確かに、まだまだ上がありそうな雰囲気があったが。

 

(末脚にも陰りがあった。まだまだ先があるような、そんな感じがした)

 

 手加減、というわけではないだろう。むしろレースに対しては真摯に向き合っていた。ということは、なにか別の理由があるのか?

 

 一応、先ほどホノイカヅチが沈んでいた理由についても尋ねてみる。落ち込む前、教官と話していたから知っているはずだ。

 

「もう一つ。レースが終わった後、ホノイカヅチとなにか話していませんでしたか?」

「別に気になるようなことは話していないけれど、どうかしたの?」

「いえ、その……彼女、教官と話し終わった後落ち込んでいたみたいだったので。もしかしたら、あなたに何か言われたのかな、と」

 

 教官と話していた時は見ていない。気づけば会話が終わっていて、その後の彼女がまた一人で寂しく、隅の方で縮こまっていたのを見ている。その姿には、どことなく寂しさを感じたのだ。

 どうしてそんなに寂しそうにしているのか、なにか酷いことでも言われたのだろうか。教官に限ってそんなことはないと思うが、もし何かあったのならば。

 

(俺に、力になれることはないだろうか?)

 

 協力してあげたい。落ち込んでいる子の力になりたい。その一心で、彼女の気持ちを知りたかった。

 そのためにはまず、教官になんて言われたのかを知る必要がある。手がかりがきっとあるはずだから。

 

 ただ、この反応を見る限り教官は白だろう。何を言っているのか分からない、そんな表情を浮かべている。

 

「う~ん、特段何も言ってないわ。勝ったのに叱るなんて論外だし、いつも通りの実力を発揮したんだから特に言うこともないし」

「そうですか。そうなると、何が彼女の琴線に触れたんでしょうか」

「申し訳ないけれど、分からないわ。こちらとしても下手なことは言えないし」

 

 教官は何も言っていない。だけど、ホノイカヅチは確かに落ち込んでいた。その理由は何だろうか?

 知りたい、気になる。下世話かもしれないけれど、凄く気になる。

 

 その後も教えてくれる教官。しかし、これといった確証を得ることはできなかった。なぜ彼女が落ち込んでいたのか、その理由が。

 

「私から教えられるのはこれくらいかしら。ホノイカヅチさんは普通に優秀な生徒ね」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 教官から得られる情報はもうない。ということは、残された道は。

 

(本人に聞くしかない、ってことか)

 

 彼女の交友関係は分からないから、本人に聞くしか残された道はない。またしらみつぶしに探すのが良いだろう。

 

 

 

 頭を下げながらお礼を言い、その場を立ち去る。次にやるべきことも決まった。

 

(ホノイカヅチ本人に話を聞く。どうして君はあの時落ち込んでいたのか、何か気になることがあったのか。その真意を探る)

 

 彼女を探そう。あまり褒められた行為ではないかもしれないけれど、落ち込んでいた理由が知りたい。そして、それが俺に何とか出来るのであれば。

 

「何とかしてあげたい、からな」

 

 どうしてそこまで彼女が気になるのかの理由も、今は隅に置いておく。寂しそうな彼女の真意を知りたい。その一心で俺は行動する。足を動かして、ホノイカヅチを探し続けた。

 

 

 

 

 

 

 今日も普通の日でした、うん。

 

(普通に併走して、普通に勝って、普通に終わって……特に褒められることなく終わったなぁ)

 

 教官はもうちょっとオイラを褒めてくれてもいいと思うんです。ホノイカヅチさんすごーい、とかホノイカヅチさんかっこいー、とか褒めていいと思うんですよ。何なら一緒に走ってくれた子も、オイラのことを褒めたっていいはず。ちやほやしてくれてもいいはずです。

 けれど、走った子達はオイラを睨むばかり。親の仇のように睨んで、オイラはその迫力にビビって震えあがる。どうしようもありません。

 

 気持ちは分かります。というか、睨むのが当然です。

 

(そりゃそうですよね。負けたら悔しいですもん。褒めようなんて思いませんよね)

 

 でも、それでも褒めてほしい。オイラは当たり前のことを当たり前にこなしているだけだけど、それでも褒めてほしいんです。厚かましくても、図々しくても! オイラは褒められてちやほやされたいんです!

 とは言いつつも。

 

「現実は甘くほろ苦いものです。褒められるのも、ちやほやされるのもいつになるのか」

 

 やっぱり、トゥインクル・シリーズで活躍する他ないのでしょうか? ファンの人ならばオイラのことを褒めてくれるはずですし、間違いなくオイラが望んでいた景色が待っているはずですから。

 どの路線を走りましょうか? やはり、メイヂヒカリ様が走ったクラシック競走を走るのが定石でしょうか。

 グランプリレースも外せません。メイヂヒカリ様は、それはそれはすごかったそうですから。特に有記念はかなりの盛り上がりだったとか! オイラもいつかは、メイヂヒカリ様も走ったレースに出られるでしょうか? そう夢に見ます。

 

 まぁ、厳しいでしょうけど。

 

(クラシック三冠レースは、選ばれたウマ娘しか出走することを許されない。多くのウマ娘の中から選ばれた十数人のウマ娘のみが走ることを許された、権威のあるレースなんですから)

 

 オイラがその枠に入り込めるかどうか。どちらかと言えば無理よりですね。オイラにそこまでの強さがあるとは思えませんし。

 

 でも、夢を見るくらいは許されるはずです。クラシックレースに出走して、なんなら全部勝っちゃう夢を見るくらいは。

 クラシック三冠ウマ娘は歴代でも達成者が少ないです。セントライト様にシンボリ家のルドルフさん、ミスターシービーさんにナリタブライアンさん、みなさんはオイラ達にとって憧れの的です。

 もし仮にオイラが三冠を取ったら……。

 

「ち、ちやほやされる……! みなさんに憧れの眼差しを向けられる……! フヒ、フヒヒ……っ!」

 

 きっとたくさんの人が褒めてくれます。オイラのことを凄いと言ってくれます。そ、想像しただけで気分が上がりますねっ。

 

 

 難しいことは分かっています。メイヂヒカリ様でもできなかったことですから、オイラにできるとは到底思えません。

 ですが、夢くらい見たっていいですよね? なんたって夢なんですから。

 

「子供からもサインをねだられて、老若男女問わず人気者……フヒヒ……っ!」

「おーい、トリップしてないで帰っておいでホノちゃーん」

 

 結局。同室のマリちゃんに何回も呼び掛けられるまで、ずっとクラシック三冠を取った妄想をしていました。マリちゃんの呆れた視線が痛かったです。

 

(さすがに高望みしすぎですよね。身分を弁えろ、って話です)

 

 これまで多くのウマ娘が挑戦しては阻まれてきた三冠ウマ娘の称号。オイラが取れるはずがありません。分不相応な夢を見る前に、トレーナーにスカウトされるという相応な現実を見なければ。

 

「だ、大丈夫……いつものように、いつものことをこなせばいいだけだから」

 

 ただでさえオイラは普通のウマ娘。スカウトされるかどうかも分からない、明日のことさえも分からない身です。今度の選抜レースで結果を残すことだけを考えなければいけません。

 

 それに、懸念点はまだあります。

 

(もし、スカウトされても褒められなかったら……)

 

 トレーナーさんが厳しい人だったらどうしましょう? レースで勝っても褒めてくれず、オイラのことをちやほやしてくれない人だったらヤバいです。オイラの精神がもちません。

 

(せ、せめてオイラに理解のあるトレーナーさんを~! ワガママなのは分かっていますけど、それでもオイラを褒めて褒めて褒めちぎってくれるトレーナーさんを何卒~!)

 

 虚空に向かって祈りをささげるオイラ。

 

「相変わらず変なことやってるねホノちゃん。もうお風呂行っちゃうよ?」

 

 マリちゃんに変なものを見る視線を向けられていました。とにかく、オイラのことを褒めてくれるトレーナーさんを希望です。




ちなみにマリちゃんの設定は特に決めていません。
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