ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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ホノイカヅチつえぇぇぇ!


終戦と次なる戦い

 決着。レースは終わり、ファンは大きな歓声を上げている。新たな勝者の誕生に、皆一様に心を躍らせていた。

 

《勝ったのはホノイカヅチ、勝ったのはホノイカヅチです! シニア級最強の双璧を形成していた【緋色の女王】でさえも破ること叶わず! この有記念で再び【雷光】が走りました!》

《いやぁお見事ですね。まさにここしかない、ってタイミングで抜け出してきました! あれは対処不可能ですよ!》

《2着のダイワスカーレットはクビ差、3着のドリームジャーニーは半バ身差。接戦となりました年末の大一番! 今勝者を祝福するように、中山レース場は大歓声に包まれています!》

 

 ホノイカヅチは菊花賞以来いろいろとあった。彼女の走る理由について賛同できないファンは少なからずおり、見に来ているファンの中にも一定数いたのは紛れもない事実だろう。

 それでも、見事なレースをした。シニア級のダイワスカーレット相手に、接戦を演じたのだ。三冠ウマ娘という称号を抜きにして、クラシック級がシニア級を押しのけて優勝したのだ。

 

 確かに、今まで見たことがない三冠ウマ娘かもしれない。どこか隔絶とした雰囲気を放って、カリスマ溢れる三冠ウマ娘とは異なるかもしれない。

 普段のレースとはギャップが凄いかもしれない。クールさはないかもしれない。

 

 ただ、彼女は証明した。

 

「凄かったぞホノイカヅチー!」

「次も絶対に、絶対に頑張ってねー! 変な奴の声なんかに負けないでー!」

「俺達はいつまでも応援してるからなー!」

 

 己の強さを。冬のグランプリレース、年末の大一番で見事に示したのだ。前例がない、不純な考え。そんなことを考えていたファンの思考を一蹴するほどの、見事な勝利。

 ファンも理解したはずだ。確かにちやほやされたいのが動機だとしても、彼女はレースに一生懸命なのだと。一切手を抜かず、一生懸命にやっているのだと。

 

「なぁ、俺記事を見てちょっと批判してたけど、さ」

「……言いたいこと、分かるぜ。やっぱアレだよな?」

「どんな理由でも一生懸命なんだから、今までにないからって批判するのは間違ってた」

 

 今回のレースで理解は深まった。ホノイカヅチというウマ娘について、彼女のことについて。こんなウマ娘がいてもいいのかもしれない、と。見直す良い機会になった。

 完全になくなったわけではない。それでも、確かに声は小さくなった。不純などと口にするファンは少なくなった。

 

「っ、お疲れ様ホノイカヅチー! 次も頑張れー!」

「応援してるからなー!」

 

 かつて批判的だった者も、ホノイカヅチに向けて声を飛ばす。勝利を祝福するように、また謝罪の気持ちを込めて。少しだけ、ホノイカヅチに対する理解が深まった。そんな有記念だった。

 

 

 歓喜の声が響く中、アグネスタキオンは悔しさを滲ませている。奥歯を噛みしめ、不甲斐なさを感じている。

 

 可愛がっている後輩の敗北。それ以上に……自らも負けてしまった。そう言わんばかりの表情。ホノイカヅチのレースに、舌を巻いていた。

 

「……やられたね。あのタイミングで抜け出されたら、さすがにどうしようもない」

「完全にぃ、意識の外に追いやっていたタイミング、でしたものねぇ。あれはもう、どうしようもないですぅ」

 

 同意するように頷くディープスカイ。今回のレースを回顧し、何が悪かったのかの検証を始める。

 

「道中は完璧だった。大きなミスなくレースを展開し、なおかつスカーレット君自身の走りを貫くことができた。それは間違いない」

「だろうね。だから、何がまずかったと言えば最後の直線。ここで1つ、綻びができた」

「スカーレット君の意識が外に行った。内への意識を怠った。これに尽きる」

 

 口で説明するとなんてことない事象だ。ただ内にいるホノイカヅチの警戒を怠っただけの話であり、単純かつ明快なミス。すぐにでも修正できるようなものだ。

 もっとも、それはあくまで口で説明すればの話。レースの展開を一から見ていれば、軽々しく口にできず修正できるような内容ではないことが分かる。

 

「けど、それは仕方ないことだ。走っているのはホノイカヅチ君だけではないし、他のウマ娘にも意識を割かなければいけない。なによりも最後の勝負所なんて考える余裕すらないんだ。コンマ一秒でも早く走らなければいけないのだから」

「何より痛いのは、最内を陣取られたことだ。最内を取られたのは間違いなく」

「外に振らされたから、だ。しかしあの状況、外に振らされるのもまた仕方ない。じゃなければ外から躱された可能性が非常に高いのだから」

 

 また、展開も向いてなかったと言える。今回のレースではドリームジャーニーが早仕掛けをしたことからも分かるように、ほとんどのウマ娘が第3コーナー辺りから仕掛けようとしていた。後続のウマ娘が、外から一気に雪崩れ込んできたのである。

 ダイワスカーレットからしたら、意地でも抜かせないためにスピードを上げるだろう。コーナーでスピードを上げたらどうなるか、待ち受けている答えはこれまたシンプルだ。

 

「いつも以上に外に振らされて、最内を走り続けることができなかった。しかも、内を詰めるなんて考えすらも浮かばないほどに、スカーレット君の勝負根性を利用された……と言ったところか」

「そこまで気が回ることはない。油断すればあっという間に差し切られるような末脚だった、スカーレットを責めることはできない」

「分かっている、分かっているさ。分かっているけどもっ」

 

 ここまでの総評で、アグネスタキオンは今回の敗北に納得している。結局はこちらのミスを待たれて、最後の最後に差し切られた形だ。文句のつけようがない。

 だとしても、やはり可愛がっている後輩の敗北は悔しい。そして。

 

(あの局面で、最後に差し切る末脚があるだと? 本当に彼女は、ステイヤーとは真逆の性質を持っている)

「残り100mで逆転するなど、本当に中山が苦手か? と言いたくなるよ。実際苦手ではあるんだろうが」

「あ、あんまり変わらないですもんねぇ。本当に、誤差レベルでしか」

「いや、結構変わってるよ。数値に出ている。それでもなお、あの場面で自分を貫くことができる……やっぱり、メンタル面が恐ろしい」

 

 ホノイカヅチの強さが恐ろしい。たった100mで全てを逆転する末脚など、これまでのステイヤーとは一線を画すウマ娘であることは確実だ。

 

 無論、アグネスタキオンもホノイカヅチの末脚はちゃんと頭に入れてあった。たった数完歩でトップスピードに乗る末脚だと。

 

「仕掛けどころも抜群に良かった。スカーレット君の意識が外れた一瞬の隙を突いて潜伏し、常に最内の一番前をキープし続けていた」

「ほとんどが外を回っていたから、内を走っていた子は少ない。前が開かなければ閉じ込められて終わりだからだ」

「だけど彼女は、おそらく内が空くことを読み切っていた。スカーレット君ならば、外から上がってくるウマ娘と競り合うと。ペースを上げて、必然的に内が空くことになると」

 

 ダイワスカーレットの勝負根性を利用された。何が何でも前を譲らない気性を逆手に取られた。そう考えることもできる。

 

 何度考えても結論は変わらない。今回自分たちは読み負けたのだと。

 

「……まぁいい。いつまでも気落ちしてても仕方ないし、次のレースに向けて対策を取ろうか、トレーナー君」

「そうだね。スカイも来年度からシニア級に上がるし、凄くキツくなるよ。覚悟しておいてね」

「は、はいぃ」

 

 帰る準備を整えるアグネスタキオン陣営。今回の敗北をしっかりと刻んで、次に備えようとしていた。

 

 

 ターフの上で1人、ホノイカヅチは空を見上げる。12月の晴れ空が、彼女の勝利を祝福するように照らしていた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 呼吸が整わない。それだけの激戦であったことを物語っている。彼女は今、レースのことを振り返っていた。

 

(本当に、賭けでした。少しでも内に意識を持っていかれたら、負けてたのはオイラの方だった)

 

 最後の勝負所、ダイワスカーレットが犯した最大のミス。内の意識を怠り、外にもっていきすぎたこと。これが勝敗を分けた部分だと改めて振り返る。

 

 ホノイカヅチにとっても計算外だったことはいくつかあった。間違いなく、今までのレースで一番ミスが多かったレースだと、そう思っている。

 

(内に閉じ込められたのもそうですし、道中も外に回ることができなかった。オイラが内を選択したのは仕方なく……どうしようもなかったから)

 

 一歩間違えれば負けていたのは自分。そのことをしっかりと刻みつける。

 

(展開がオイラに向いていた。みなさんが外に回っていって、ダイワスカーレットさんの意識が外に向いたほんの一瞬。オイラは潜伏し続けた。幸いにも、オイラ影を薄くするのは得意ですので)

 

 最良のルートが取れないならば、今取れる最善の選択肢を模索しとり続ける。その結果が最後の直線で全て捲る戦法だ。作戦は、大ハマりした。

 

「フヒ、本当に、疲れました」

 

 勝つために最善を尽くすことができた。そして、かつてメイヂヒカリが制したレースを自分も勝つことができた。そのことが嬉しい。

 

 なによりも。

 

「お疲れ様、頑張ったねー!」

「来年も君が主役だー!」

「変なこと言ってる奴なんかに負けんなー! 俺達は応援してるからなー!」

「フヒ、フヒヒ……! ちやほやたくさん、オイラ褒められてる……っ!」

 

 ファンの声援がしっかりと届いている。疲れた体にスーッと染み渡る声援に、耳をピコピコさせるホノイカヅチ。

 

 さらには。

 

「頑張ったねホノイカヅチ! いつも頑張ってて偉いよ!」

「ふ、フヒ。トレーナーさん、オイラ強い子っ」

「あぁ。いつも頑張ってて偉い、努力を怠らない天才ウマ娘! さすがはホノイカヅチだ!」

 

 トレーナーからの称賛。本音をぶつけてくれる彼の存在は、ホノイカヅチにとってありがたいことこの上ないだろう。

 

 ウィナーズサークルでのインタビューを最低限に済ませて、控室でライブの準備をするホノイカヅチ。

 

 トレーナーも部屋から退出して、後は着替えるだけだ。それだけなのに。

 

「っ」

 

 急に力が入らなくなった。突然、糸の切れた人形のように倒れ伏す。

 

「ぐ……っ」

 

 なんとか起き上がるも、椅子を支えにしてようやく起き上がれた感じだ。誰が見ても疲労困憊と口をそろえる状態であり、よろしくないのは確かだろう。

 

(今回のレースはそれだけ集中していました。体力を削られていてもおかしくありません。気持ちが、切れちゃったのでしょう)

 

 ただ、心当たりはあった。今回のレースが激戦だったこと、いつも以上に集中し続けていたことである。

 

「ず、ずっと頭働かせてましたし。外に回れないか考えていましたし。疲れていても、おかしくありません」

 

 ならばと、ふらふらと歩いて机に置いてあるお菓子に手を出す。無造作に掴み取り、包装を開けて口の中に放り込んだ。

 

「お行儀、悪いですけど。良いですよね? オイラしかいませんし」

 

 お菓子を食べ、糖分が頭に回ったことで少し回復する。少しの異物感と共に、ホノイカヅチはまた床に倒れこんだ。

 

(ひんやり……気持ちいい……)

 

 このまま横になりたい衝動に駆られる。疲れを癒すために、ずっと横になっていたいと誘惑される。

 

 でも、ライブがあるから仕方ない。数分も経てば回復したので、のっそりと起き上がって準備を再開する。

 着替え、準備を進める中でふと思う。

 

(……でも、オイラってこんなに体力なかったでしょうか? 菊花賞は、そんなことなかったのに)

 

 いつも以上の疲労を感じていることに疑問を感じつつも、準備を終え。気づけばすっかり回復していた体を動かして、彼女はライブ会場へと足を運んだ。




女将2凸のテイオー天井その他SSR2枚……フーン(血涙)
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