ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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スタンプガチャ来たので引きました。スピクラフトが2凸になった。


遠征と悪夢

 年明けに発表される、前年度トゥインクル・シリーズで活躍したウマ娘を表彰するURA賞。ほぼ確信のような気持ちを抱きつつも、その時を待っていた。

 

 結果はというと……ホノイカヅチは見事最優秀クラシック級ウマ娘を受賞。しかも、最も活躍したウマ娘に与えられる称号である年度代表ウマ娘にも満票で選出された。満票選出は本当に珍しいことなので、誇らしい気持ちでいっぱいだ。

 問題があるとすれば、相変わらず記者のインタビューには特定の人以外答えようとしない、ことぐらいか。答えてくれないと分かっているためか、それともホノイカヅチを刺激しないためか。藤井さんや乙名史さんが代表して聞く感じになっている。

 

「年度代表ウマ娘の選出、えらいめでたいですわ! この気持ちを誰に届けたいです?」

「ふ、フヒ。ま、まずは、メイヂヒカリ様に。お家のみんなにも、ちゃんと伝えるつもり、です」

「ご家族も褒めてくれることでしょう! それで、今年度の目標などはありますか? レースについてもお聞かせください!」

「れ、レースは、阪神大賞典と、春の天皇賞、出走予定、です。後は、今年は海外遠征、予定してます」

 

 海外遠征、という言葉に報道陣が色めき立つ。インタビュー中は一部無言だけど、やはり声を出さずにはいられなかったのだろう。

 ホノイカヅチが海外に舞台を移して戦う。興奮しないはずがない。どこを走るのか、海外でも通用するのか。想像するだけでも楽しいはずだ。

 

 でも、懸念点もある。下手なことを言えないから誰も口にしないが、おそらく思っていることは一緒だろう。

 

(過去無敗の三冠ウマ娘は2度遠征をして、結果を残したことはない。シンボリルドルフも、ディープインパクトもまた、海外で敗れた)

 

 シンボリルドルフに至っては、海外戦の影響で引退したとも言われている。ディープインパクトは凱旋門賞3着。掲示板内に入っているので良いと思うかもしれないが、彼女ほどのウマ娘でも勝てなかった。

 だからこそ、期待と同時に不安もある。もしこれでホノイカヅチも勝てなかったら、と。

 

 果たして結果を残せるのか。これほどの強さを持っているホノイカヅチでも負けたら。そう考えると、どうしても不安になるだろう。それでも、彼らは記者なので質問をする。皆が気になっているだろうことを。

 

「海外ではどのレースに出走するおつもりでしょうか? やはり、凱旋門賞でしょうか?」

「フヒ。ま、まだ決まって、ないです。ですよね? トレーナーさん」

「はい。まだどのレースを走るかは決まっていません。ですが、凱旋門賞も走る予定ではいます」

 

 出走するレースの選定といつ頃から渡るか。それを聞いて、インタビューの時間は終わった。

 

「ふぅ。今日もお疲れ様、ホノイカヅチ」

「フヒ……や、やっぱり人多いところ、好きじゃないです……」

「うん、でも我慢してよく頑張ったね。偉いよホノイカヅチ」

 

 親戚の集まりではそうでもなかったけど、どうもホノイカヅチは人がたくさんいるところが好きじゃないみたいだ。性格柄分かっていたことだけど。

 ただ、ホノイカヅチは注目を集めている。現状無敗の三冠ウマ娘、シンボリルドルフやディープインパクトですらたどり着けなかった世界に足を踏み入れている。彼女の同行は、日本中のレースファンの注目を集めているだろう。

 

 今年1年も忙しくなる。そう予感していた。

 

 

 

 

 

 

 レースは決まらずとも、練習をすることはできる。今日は外でのトレーニングではなく、サトノ家が開発したVRウマレーターを使用してのトレーニングを行っていた。

 

(何度か使用したことはあるけど、凄いなコレ)

 

 まるで本物のような景色と匂い。本当に海外に来たかと錯覚するほどよくできている。これがVRだなんてちょっと信じられないな。サトノ家のテクノロジーは凄い。

 

 ホノイカヅチは、海外のレース場をいろいろ設定して走っている。1人で、黙々とだ。

 

「コースの反発……土の固さ……芝の状態……うん。VRでも、ある程度のことは分かります」

 

 ブツブツと呟いては、あぁでもないこうでもないと試行錯誤しているのがこちらからも見える。その間俺のやっていることと言えば。

 

「ホノイカヅチ。君の走ってみた感想を聞かせてくれないかな? 俺がノートに書き留めておくから」

「と、トレーナーさん? 別にいいのに」

「効率化だよ、効率化。こうした方が、ノートに書く時間がない分より効率的にできるだろう?」

 

 ホノイカヅチが走った感想を、ノートに書き留める作業だ。これも大事な作業だから、手を抜くわけにはいかない。申し訳なさそうにしているホノイカヅチに気にする必要はないと答えて、俺はノートに書いていく。

 それに、彼女の意見だけではない。

 

(やっぱり初めて走るからか、少しぎこちなさを感じる。これを修正するためにはどうしたらいいだろうか?)

「ストライドの幅を修正するか? より強く踏み込むことよりも、滑るように移動することが大事かもしれない。後は」

 

 俺が実際に見て抱いた感想もノートに書く。外から見てどう感じたか、ホノイカヅチが気づかないことがあるかもしれないから。そう思い、自分の意見も書いておく。

 

 今もホノイカヅチは試行錯誤している。海外の芝にどう対応するかについて。というか、日本でも海外芝のトレーニングができるのは本当に革命的だ。改めて、技術の進歩は凄いものだな。

 

(いつもこれでトレーニングできたらいいんだけど、そうはいかないからな。今のうちに、できるだけ使い倒しておきたい)

 

 ただ、問題点もある。VRウマレーターは希望者が殺到しているため、そうやすやすとは使えない、ということだ。

 基本的に海外遠征組に優先権はあるが、あくまで優先されるだけ。勿論希望の予約が取れない日だってある。そうなれば、海外芝のトレーニングは積めない。経験値が貯まらない。

 

(予約は1ヶ月に2、3回ほど。この回数でどうにかやりくりするしかない、か)

「幸いにも1日予約で取れるから、そこだけは安心だな……っと。ホノイカヅチのトレーニングに集中しないと」

 

 限られた時間で最大効率のトレーニングを。特に海外芝はこれまで何度も日本勢が阻まれてきた壁、絶対に走れるようになっておきたい。彼女の望む景色のためにも。

 

 

 1日みっちりトレーニングをした後は、VRウマレーターから出てミーティング。改めて練習の所感を共有し、今後に活かす。

 

「そ、そういえば、トレーナーさん。レースは、決まったんですか?」

「海外の出走するレースかい?」

「そ、そうです。できる限り早く決めておかないと、予定とかありますし」

 

 遠慮がちに聞いてくるホノイカヅチ。確かに、早いうちに決めておくに越したことはない。なんせ海外遠征だ。渡航の問題に環境の問題、早いうちに決めておかないと大慌てで動くことになる。今のうちに決めておいた方がいいだろう。

 

 一応、URA賞のインタビューでは言及してなかったが、数レース絞ってある。その中で大目標になるのは凱旋門賞……ではない。

 

「候補はあるよ。俺達は凱旋門賞じゃなく、キングジョージに向かう予定でいる」

「き、キングジョージ……!」

「ホノイカヅチ的にはこっちの方が合ってると思うんだ。タフなコースだからね」

 

 キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス。イギリス最高峰のレースであり、欧州でも権威のあるレースとして知られている。俺は、このレースを大目標に定めることにした。

 アスコットレース場で開催される約2406m、L区分*1のレース。前半は下り坂、後半は全て上り坂という特殊過ぎる形状のアスコットで走ることから、タフな勝負になることが多い。

 スタミナ豊富なホノイカヅチならば、アスコットでも走ることができるだろう。そう判断してのことだ。

 

「ただ、キングジョージは7月だ。春の天皇賞が終わって、体調が整い次第すぐに向かうことになる。それだけが懸念だけど」

「だ、大丈夫、です。調子、しっかり整えますので」

「そっか。ただ、キングジョージに直行するのは避けたい。他にも候補があるんだけど」

 

 1つ目はプリンスオブウェールズステークス。こっちは約2004mのI区分*2で、キングジョージと同じアスコット開催のレースだ。一度アスコットに慣れるためにも、ここは走っておきたい。

 

 他にも候補はあるが、大目標に掲げるのはキングジョージでもう1つはプリンスオブウェールズステークス。この2つを取りに行く。イギリス最高峰のレースに、ホノイカヅチが挑戦するんだ。

 

「フヒ、フヒヒ……! い、イギリスの、最高峰の舞台……!」

「うん。チャンピオンステークスに並ぶ、イギリスで最も権威のあるレースと言っても過言じゃない舞台だ。そこで君は、みんなから褒められてちやほやされる。想像しただけで凄いと思うよ」

「か、勝てるかどうか、分かんないですけど……フヒ、世界中の人がオイラを……フヒヒ!」

 

 ホノイカヅチのテンションも上がっているようだし、海外遠征はこれでいいだろう。他のレースに関しては追々だ。もしかしたらもう1つ走るかもしれないし、もっと走るかもしれない。現段階では決めることじゃないな。

 

(向こうの芝に対応できるかどうかも絡んでくるしな。VRと現実じゃ違うこともあるから、VRでできたからって過信しない方がいい)

 

 これで海外遠征の大まかな目標も決まった。後は、日本のレースを仕上げるだけ、なんだけど。

 

(こっちもこっちで問題が出てきそうなのが。いや、ホノイカヅチに問題があるわけじゃないんだけど)

「今日はこの辺で解散しようか。お疲れ様、ホノイカヅチ」

「フヒ。お、お疲れ様です、トレーナーさん」

 

 彼女が帰るのを見送り、俺も荷物をまとめて家へと帰る。不安要素はあるけど、こればっかりは俺達にはどうしようもない。考えても仕方ないことだ。

 

 

 すぐさま家へと帰り、やるべきことが終わったらすぐさま寝る。明日の予定を組み立てながら、気づけば深い眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 ──日増しに夢を見る日が多くなってきた。いつもの夢、変わらない悪夢が襲ってくる。

 違う。むしろ日を追うごとに増していく。焦燥が、不安が、恐怖が。どんどんと膨れ上がっていく。

 

 夢も少しずつ、形を変えて鮮明になってきた。ホノイカヅチには追いつけず、遠いどこかへと行ってしまう夢。見えなかった部分が鮮明になっていき、俺へと襲い掛かる。

 ホノイカヅチはレースに出ていた。どのレースかは分からない。分からないが……とても大きな何かと一緒に走っている。

 多分、ウマ娘だ。たくさんのウマ娘と一緒のレースを走っている。俺は見ていることしかできない。

 

 ……側で見ているわけじゃない。まるで自分はそこに立っていないかのように、テレビの画面越しみたいにホノイカヅチを見ている。

 

どうして俺はあそこに立っていない? なんでホノイカヅチの隣にいるのが自分じゃない?

 

 場面が変わる。疑問が解消されることはなく、また次の場面へと切り替わる。

 

 いつもの夢だ。倒れこむホノイカヅチを、俺は見ていることしかできない。痩せ細っていく彼女を、俺はただ……見ていることしかできない。

 

 この悪夢は、俺に何を報せたい? 俺に、何を伝えたいんだ。後悔の気持ちを、見ていることしかできない無力感を押し付けて。俺に、何を望んでいる?

 触れたくても触れられない。心配したくても何もできない。夢の中の俺は、無力だ。

 

「側を離れてしまった。離れるべきではなかったのに」

「僕の醜い気持ちが、彼を傷つけた。あってはならなかったのに」

「後悔しても遅い。僕はもう、後悔しても意味はない」

「また僕は、間違えた」

 

 そう声が響いて、視界が白くなっていく。彼とは誰のことだ? あそこにいるのはホノイカヅチで、彼女の事じゃないのか?

あぁ、いつもの目覚めだ──

 

「最善の選択は、彼にとっての最善はきっと──」

 

 この悪夢から、また覚める。

 

 

 

 

 

 

「……本当に何なんだよ、クソ!」

 

 思わず声を荒げて飛び起きる。カーテンを開け外の景色を見る。

 空はようやく白くなってきた頃、朝焼けの景色が目に飛び込んできた。

 

(この頃どんどん酷くなってくる。この悪夢は、俺に何を伝えようとしているんだ?)

 

 答えは出ない。出ないけれど、今日も一日が始まる。支度を済ませて、俺は家を飛び出した。言いようのない空虚な気持ちを抱きながら。

*1
2101~2700mのレース

*2
1901~2100mのレース




なんかいろいろとありそうな史実海外遠征。
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