ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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現在の状況はどうなのか。


春の感謝祭

 春のファン大感謝祭。去年は人形を渡して歩いていた。

 

「ホノイカヅチは今年はどうするの? 競技に出たりする?」

「で、出ない、です。集団、苦手なので。こ、今年も、トレーナーさんと一緒にいます」

「そうなんだ。じゃあまた人形を渡そうか」

 

 ホノイカヅチは団体競技が苦手、さらには人が多いところも好きじゃないということで、去年と同じようにホノちゃん人形とマーちゃん人形を配ることに決めた。別に競技に参加することが強制ってわけでもないしいいだろう。個人的には、みんなと仲良くなってほしいから競技に参加してほしいんだけど。

 

(こういうのは無理に勧めても逆効果だしな。天皇賞も控えているし、負担のかかるようなことはしたくない)

 

 まったりと過ごそう。そう決めたファン大感謝祭前日のことである。

 

 

 そして、本番の日。

 

「本物のホノイカヅチさんだ! 握手してくださ~い!」

「え、え?」

「すいません、ホノちゃん人形をください! この年度代表ウマ娘ver.を1つ!」

「お、押さないでください押さないでください! 人形はたくさんあるので!」

 

 俺達はたくさんのファンに囲まれていた。三女神像前で人形を配ろうとリヤカーを引きながら歩いていたら、突如として押し寄せてきたのだ。

 目当ては勿論ホノイカヅチ。よくよく見たら、ホノちゃん人形を持ってきているファンが大多数であり、この場にいる全員がホノイカヅチのファンなのだと察せるほどの恰好をしている。タオルだったり、中には法被を着ている熱心なファンもいた。

 

「生のホノイカヅチさん、レース中とは違った良さがある! 良い~!」

「あ、あの、その」

「あ、あんまり囲んだらダメなんだった。よしみんな、適切な距離感を保って!」

 

 1人の号令の下、彼ら彼女らはキッチリ並ぶ。取り囲むのを止めて、迷惑がかからないようにと距離を保ち始めた。と、統率が凄い。

 

 ひとまず、彼女達の素性を尋ねないと。いや、聞かなくても大体のことは分かるけど。

 

「え~っと、君達は? なんとなく分かるけど」

「はい、私達はホノイカヅチさんのファンです!」

「レースのホノイカヅチさんも、レース外のホノイカヅチさんも好きな同志たちです!」

 

 同意するように頷く彼ら。かなり人数が多いな。

 

「レース中の鋭い視線も、それ以外のオドオドとした雰囲気も。レース運びも愛くるしさも! 全部全部ひっくるめてファンなんです! このファン大感謝祭で、改めてそのことを伝えたくて!」

「同志たちみんなで集まったんです。今が大変な時期だから、ちゃんと伝えておかないとって」

「大変な時期?」

 

 ある言葉に引っ掛かりを覚えて尋ねると、彼らは拳を震わせながら頷いていた。怒りが見えている。

 

「菊花賞以来、ネット上で心無い言葉を投げる人が増えているじゃないですか。走る動機が不純だとか、ホノイカヅチさんを否定するような声が」

「あ、あぁ。確かにあるね」

 

 数が減ったとはいえ、今でもホノイカヅチのアンチは存在している。そもそも根絶することが無理だけど、少ない方がいいのは事実だ。ただでさえホノイカヅチは少数の声、というよりは悪い声を聞いてしまうような子だし。

 

「私たちそれが許せなくて! こんなにも可愛いホノイカヅチさんに、あんな酷い言葉を投げるなんて!」

「フヒッ!?」

 

 急に可愛いと褒められてホノイカヅチが嬉しそうに反応した。彼らの言葉も純度100%なので、疑う余地なんてものは存在しない。

 

「そうだそうだ! 彼らはホノイカヅチちゃんの可愛さを知らない!」

「こんなに可愛いホノイカヅチちゃんの魅力が分からないなんて、人生損してるわ!」

「100年に1人の才女! 天才肌のウマ娘! 末脚の鋭さは日本、いや世界一!」

「フヒ、フヒヒ……っ!」

 

 凄い。彼らもまたホノイカヅチを褒めることに余念がない。かなり磨かれている。

 

 彼らの熱意は分かった。このファン大感謝祭で接触を図ってきたのも。おそらくだけど、自分たちの存在を認知させるためだろう。それも、悪い意味の目立ちたがりではない。

 

「彼らにホノイカヅチさんの魅力を教えることも大事ですけど、今はホノイカヅチさんにファンがいるってことを教えてあげたくて」

「やっぱり、言われっぱなしは傷つくと思ったんです。だからみんなで、ファン大感謝祭でホノイカヅチちゃんのところに行こうって」

「俺達の応援の声を直に届かせようと思ったんです。こういう機会しかないですし。ホノイカヅチさんはSNSもやってないですし」

 

 SNSをやってない理由に関しては触れないでほしい、ではなく。ファン大感謝祭で直接言葉を伝えに来てくれるなんて。凄く行動力のある人たちだ。

 この場にいる全員が一緒の気持ちみたいで、うんうんと頷いている。やっぱり、ホノイカヅチのファンとしてはアンチの声が我慢できないのだろう。

 

(記事もようやく沈静化してきた。アンチの声も、少しずつ小さくなっている。その状況で、この声は本当にありがたい!)

「みなさん、ホノイカヅチのことをいつも応援してくださってありがとうございます。トレーナーとしてもありがたい限りです!」

 

 ホノイカヅチが気にすることなく走ることができる。ファンの声が力になってくれる。そう思うと、感謝せずにはいられない。無意識に頭を下げていた。

 

「ふ、フヒ……お、オイラにもたくさんのファンがいます。こ、こんなに大勢に応援されてる……! オイラ、人気者っ!」

 

 ホノイカヅチの言う通り、気づけば三女神像前の噴水広場が埋まりそうなほどのファンだ。競技も何もやってないのに、多くの人がここにきてくれている。それだけの人が、ホノイカヅチを応援してくれている。

 

 とにかく、今やるべきことは。

 

「それでは、ホノちゃん人形の年度代表ウマ娘ver.の頒布を始めます! お求めの方は一列にお並びくださーい!」

 

 ホノちゃん人形を配ることだ。ここまで来てくれたファンのみんなに、感謝の気持ちとして贈らなければ!

 

「新バージョンのホノちゃん人形だ!」

「押さないでくださ~い! 数はしっかりと用意してま~す!」

 

 2人で配り切れるだろうか? そう考え始めていたけれど。

 

「僕達も手伝うよ、御幸君」

「ホノちゃんが有名になってマーちゃんも嬉しいです。後、マーちゃん人形もよろしくお願いします」

 

 マートレさん達も加わってくれたので、4人体制で人形を配る。次から次へと、途切れることなく人形を求める人たちがやってきて。

 

「これからも応援してます!」

「天皇賞の後は海外遠征、ですよね? 頑張ってください!」

「海外のレースも欠かさず見ます! 日本から応援しています!」

 

 全員一言ずつ、ホノイカヅチに対して激励の言葉を送っていた。あぁ、本当に。

 

(彼女はちゃんと愛されているんだな)

 

 いろいろとあったのは確かだ。彼女の願いを、思いを否定されたことだってあった。

 だけど、このファン大感謝祭で確信した。それだけではないのだと。ちゃんと応援している人達はいて、声はこうして届けることができるのだと。

 

「フヒ、フヒヒっ……! お、オイラ、人気者。凄く、ちやほやされてる……! は、ハッピー褒められちやほやライフ……っ!」

 

 ホノイカヅチも大満足だ。凄く嬉しそうに、いつもは縮こまっている彼女が、こうして人前に立って対応している。自信満々に、堂々と。

 

(良かったね、ホノイカヅチ)

 

 彼女の望んだ光景が今ここにある。そう思ったファン大感謝祭だった。

 

 

 

 

 

 

 気づけばファン大感謝祭は終わりの時間を迎え、ホノイカヅチやマートレさん達と一緒に後片付けをしている。

 

「ホノちゃん人形もマーちゃん人形も。どっちも全部はけましたね。凄く嬉しいです」

「いや~、マーちゃん人形の香港スプリントver.を作っていた甲斐があったよ。ファンの人達も凄く喜んでくれてた」

 

 大成功と言ってもいいだろう。本来の趣旨からはかなり外れているけど、ファンとの交流がメインだから問題ない、はず。後からたづなさんに怒られても、その時はその時だ。

 

「ふ、フヒヒ……ひ、久々に、疲れました。人、あんなにたくさん」

 

 ホノイカヅチも珍しく疲弊している。あれだけ多くの人を相手にしたのは初めてかもしれない。ファンとの交流、今まであまりしてこなかったから。

 疲れた、とはいっても、ホノイカヅチの目は輝いている。それも当然だろう。

 

「あ、あんなにちやほやされたの、初めて……! お、オイラ、大・大・大人気……っ!」

「そうだよホノイカヅチ。君は人気者だ」

「まぁシンボリルドルフちゃんやディープインパクトちゃんでもできなかった、初の無敗の四冠だからね~。そりゃ人気はあるよ」

 

 動機は何であれ、しっかりと結果を残している。だからこそ、ちゃんと人気に結びつく。いわばこれは、ホノイカヅチの努力の結果だ。

 

「頑張ったホノちゃんをよしよししてあげるのです。マーちゃんのなでなでです」

「フヒ、フヒヒっ」

 

 嬉しそうに顔を綻ばせている。微笑ましい光景だ。このファン大感謝祭は、ホノイカヅチにとって忘れられない思い出になっただろう。

 

 

 次のレース、春の天皇賞ももうすぐ。天皇賞が終われば、次は海外遠征だ。

 

(順調に行っている時こそ、気を引き締めないとだな)

 

 阪神大賞典は余力を残して勝つことができた。天皇賞に問題なく臨むことができる。勝利を盤石の物とするために、日々のケアを怠らないようにしよう。




ホノちゃん大人気。
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