ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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前回のあらすじ ZDALと邂逅した。


その名は

 突然俺達の目の前に現れたウマ娘。彼女は今欧州を騒がせている、英国の二冠ウマ娘。

 

「シーザスターズ……っ」

「『そうとも。私こそがシーザスターズ!』」

 

 キラキラとしたオーラ、王子様のようなルックスに、思わずこちらも気圧されてしまいそうな雰囲気。それでもなお、彼女の輝きから目を離すことができない、そんなウマ娘が俺達の前に立っていた。

 

 ホノイカヅチは警戒するように、俺の後ろに隠れている。俺も、彼女を守るように間に立つ。

 何をしに来たのか、目的が分からない。身構えていた俺達を前にして、シーザスターズは気にした様子を見せていない。彼女はここ欧州を主戦場にするウマ娘、宣戦布告に来た可能性も0じゃない。

 なにを言われるのか。ジッと待っていると。

 

「『まずは君達に賞賛を。先日のプリンスオブウェールズステークスは見事だった。思わず私も乗り上げてしまったよ』」

「……え?」

「『素晴らしいレースだった。思わず感嘆の息を漏らし、あまりの美しさにレースに出走できない身を呪いたくなるほどに! あぁ、私も隣で走りたかったっ』」

 

 拳を震わせ、心底悔しそうに。プリンスオブウェールズステークスに出走できなかったことを悔いているようだった。周りのウマ娘はシーザスターズを心配するように囲んでいる。

 

 なんというか、一気に毒気を抜かれた。急にホノイカヅチを褒めたと思えば、あの場で自分も走りたかった、そう口にしたのだから。宣戦布告でも何でもなく、ただレースの感想を述べただけ。警戒しすぎただけだったのかもしれない。

 

(プリンスオブウェールズステークスの出走条件はシニア級であることだから、まだクラシック級の彼女は出れないもんな)

「『まさしく勝つべくして勝つ戦い方、王道の走りこそが至高! そう思わせるほどの走りっぷり! どこを切り取っても素晴らしいレースだったよ!』」

 

 さらにこのシーザスターズという子、感情表現が豊か、というか少しオーバーだ。さっきまで悔しそうに歯噛みしていたのに、今は上機嫌にホノイカヅチの下へと歩み寄っている。俺の後ろにいる、ホノイカヅチの下へ。

 ホノイカヅチは分かりやすく戸惑っている。ただ、そんなことはお構いなしにシーザスターズはグイグイ詰めていく。

 

「『この感動を、君に伝えたかったんだ! 私は今日、目的の1つとしてここに来た!』」

「ひ、ひぃっ」

「『容姿もまた素晴らしい。レースファンは君を芸術品と呼んでいるそうだが、言葉通りだ! あぁ、なんと素晴らしいっ!』」

 

 凄い、めちゃくちゃに褒めちぎっている。ホノイカヅチもニヤつきが抑えきれていない。戸惑いながらも褒められて嬉しいのだろう。

 でも、俺の周りをぐるぐるするのはちょっと、遠慮してほしい。シーザスターズが距離を詰めると、ホノイカヅチがその分距離を離す。距離を離されたらシーザスターズがまた距離を詰め、その分だけホノイカヅチがまた離れていく。

 それを俺の周りで延々とやっていた。俺の身体を盾にするようにホノイカヅチが動いているから、こうなるのも当然なんだけど。目は回らないのだろうか。

 

 そんなやり取りをやり続けていると、シーザスターズと一緒に登場したウマ娘の1人が彼女に耳打ちをしに行く。会話の内容は聞こえないけど、どうやら止めようとしているらしい。

 

「『すまないね。ついつい興奮してしまった。素晴らしいものを見た興奮に、私の衝動が抑えきれなかったよ!』」

「はひ、はひぃ」

「『謝罪を。すまなかった、ホノイカヅチ』」

 

 丁寧にお辞儀をするシーザスターズ。い、いや。そこまではしなくてもいいんじゃないだろうか。ホノイカヅチも慌てているし。

 

「あぅ、その、び、『びっくりしましたけど、そこまでは別に』」

「『いや、筋はしっかり通さないといけない。でないと怒られてしまうからね。これは私の誠意だ』」

 

 キッチリと謝罪をする。なんというか、派手で目立ちたがりなのかなとも思ったけど、それだけではなさそうだ。しっかりとした芯が、彼女にはあるのかもしれない。

 

 

 謝罪の後、改めて彼女と向かい合う。残りの目的についても気になるところだ。

 

「『シーザスターズ。君は感動を伝えることが目的の1つと言ったね? 他には何かあるのか?』」

「『あるとも。感動を伝えるのが目的の1つ、そして2つ目の目的だが』」

 

 俺が目的について問うと、シーザスターズはホノイカヅチへと指を突きつけた。真っ直ぐと、一切の淀みもなくだ。

 なにを言うつもりなのか。自信に満ち溢れ、ギラついた視線をホノイカヅチへと向けている。堂々と、彼女は言い放った。

 

「『君達の次走はエクリプスステークス、らしいね? レース後のインタビューでそう語ったそうじゃないか』」

「……『そうだね。君の言う通り、ホノイカヅチの次走はエクリプスステークスになったよ』」

「『ならばやるべきことは決まっている。あなた方への宣戦布告だ』」

 

 エクリプスステークスで対戦することになる、その宣戦布告だと。どうやら、最初に抱いていた不安は的中したらしい。不安、というよりは考えに過ぎないけど。

 

 ホノイカヅチの次走はエクリプスステークスになった。プリンスオブウェールズステークスからキングジョージに直行するのもいいと思ったが、ホノイカヅチに余裕が見られたのでもう1つレースを走ることになった。

 それがエクリプスステークス。サンダウンレース場で開催される9ハロン209ヤード、2002mの中距離戦だ。プリンスオブウェールズステークスとも距離が近く、走るのに申し分ないということで、エクリプスステークスを走ることが決まる。

 エクリプスステークスはイギリスレースの上半期における中距離ウマ娘の最強決定戦と名高い。アスコットのように起伏が激しいわけでもないので、ここを走るくらいは問題ないと判断した上での決定だ。

 

 ただ、宣戦布告と言うけれど。

 

「『君は確か、愛ダービーに出走するんじゃなかったのかな? 愛ダービーとの間隔は短すぎるから、出走は厳しいと思うけど』」

 

 シーザスターズが出走するレースの予定には、アイルランドダービーがあったはずだ。6月後半開催のダービー、7月の頭に開催されるエクリプスステークスにはとても間に合わないと思うのだけれど。

 

 俺の指摘に対し、シーザスターズは気にした素振りを見せない。その質問は分かっていた、そう言わんばかりの態度だ。

 

「『その心配は無用だよ御幸トレーナー。何故なら私の次走はエクリプスステークスに変わったからね』」

「『そうなのか?』」

「『嘘は言わないさ。どうもバ場の状態が不安らしくてね、私のトレーナーは回避する方向性で動くらしい。その代わりのエクリプスステークスだ』」

 

 彼女曰く、愛ダービーからエクリプスステークスにレースを変えたらしい。これは知らなかった情報、というよりはまだ出回ってないんじゃないか?

 スマホを開いてニュース記事について検索をかける。当然、シーザスターズのだ。

 すぐに見つかった。トップの記事の見出しは──【英二冠ウマ娘のシーザスターズは愛ダービーの出走を断念。次走に選ばれたのはエクリプスステークス】。

 

「『最初はどんなバ場だろうと走れる、私の強さに陰りはない……そう思っていたのだがね』」

 

 俺が記事を確認しているのも分かっているのだろう。不敵な笑みを浮かべながら、シーザスターズはホノイカヅチへの闘志を隠そうとしない。曝け出している。

 

「『これは神様の思し召しかもしれない。なぜならば、君という極上のウマ娘と戦えるのだから』」

「……っ」

 

 珍しく、ホノイカヅチが睨んでいる。闘志を出さない彼女が、レースは仕事だと割り切っている彼女が。シーザスターズに対抗するように睨んでいる。

 初めてだ。こんな彼女を見るのは。今まで闘志をおくびも出さなかった彼女が、闘志らしきものを見せているのは。

 

「『なんで、オイラなんですか? 別に、オイラじゃなくてもいっぱいいるじゃないですか。強いウマ娘なんて』」

 

 出てきた言葉は、少し棘のあるような言い方。本当に珍しい彼女の反応だ。

 棘があったとしても、シーザスターズは気にした素振りを見せない。むしろ笑みを深めて、ホノイカヅチへの関心を深めている。

 

「『その理由は単純で簡単だよホノイカヅチ。君がこの欧州においてトップ層に君臨するほどの実力者であり』」

 

 コツコツと。またホノイカヅチに近づいて。シーザスターズはただ──不敵に笑う。

 

「『君と私が、同種のウマ娘だからだ。気になるのは当然だろう?』」

 

 そう言った。

 

 シーザスターズとホノイカヅチが、同種のウマ娘?

 

(……正反対じゃないか?)

 

 思わず2人を見比べてしまうが、似ている要素などこれっぽちもない。体格も性格も何もかも違うし、似ている部分を探すのが難しいレベル。少なくとも俺はそんな感想を抱く。

 ただ、ウマ娘の2人は別。ホノイカヅチはなにも喋らない。シーザスターズの言葉に対して、否定も肯定もしなかった。

 

「『エクリプスステークス。私は出走する予定だ。君との戦いが楽しみで仕方がない。君はどうかな?』」

「……『別に変わりません。オイラはただ、オイラの仕事をするだけなので』」

「『ほう、仕事と来たか! 君の仕事ぶりは素晴らしい、体感する時が今から楽しみだ! 闘志を抑えるのに苦労しそうだよ!』」

 

 睨むホノイカヅチと、楽しそうなシーザスターズ。対称的な2人の話は、唐突に終わりの時間を迎える。

 

「『さて、そろそろ帰らないとトレーナーがうるさいからね。この辺でお暇させてもらうよ。迷惑をかけたね、ホノイカヅチに御幸トレーナー』」

「あ、いや、『別に迷惑ではなかったけども……用件はもう終わったのかい?』」

「Yes.『プリンスオブウェールズステークスのおめでとうと、君への宣戦布告。2つの用事を済ませることができた。後はそうだね』」

 

 先ほどの闘志はどこへ消えたのやら、まるでいたずらっ子のような笑みを浮かべ、ウインクをする。

 

「『君達と仲良くなっておきたかった。そんなところかな? おっと、そうだ! 忘れないうちに私の連絡先を渡しておこう!』」

「あの」

「『これがLANEのIDで~これがウマッターやウマスタグラムのID、電話番号にメールアドレスも』」

 

 多い多い、凄く多いって。なんでそんな一気に渡そうとするの。LANEのIDだけでいいでしょ。ホノイカヅチはウマッターとかウマスタグラムはやってないんだから。

 

 

 いろいろと交換し終わった後、シーザスターズは静観していた彼女のファンらしきウマ娘達と一緒に去っていった。

 

「『それでは! レース本番の日を楽しみにしているよ! 君との戦いが、楽しみだ! 君も同じ気持ちだと嬉しいな!』」

 

 手をひらひらさせて、最後まで楽しそうにしていた。こっちは疲れたというか、嵐が去ったような感覚に見舞われている。

 

「なんというか、濃い子だったね。ホノイカヅチ」

「フヒ……キラキラ、してました」

 

 ホノイカヅチもどこか疲れたような表情をしている。ただ、少しだけ嬉しそうな気配も感じさせた。あれだけグイグイくる子は苦手かと思ったけれど、ホノイカヅチ的には楽しい気持ちもあったのかもしれない。睨んでいた記憶は忘れよう。

 

「でも、嫌な感じはしません。プライベートなら、仲良くなれそうな、そんな気がします」

「レースは?」

「……」

 

 シーザスターズとの邂逅。何というか凄い子だったな、いろいろと。

 なんにせよ、この後はゆっくりと過ごそう。せっかくの休養日なのだから。




ウマッターとウマスタグラムはよせ、止めろ!
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