ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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ついに邂逅したZDAL。どうするのかホノちゃん。


最大の強敵

 シーザスターズとの邂逅から1週間が経った。彼女とは今でもやり取りしているらしい。

 

「また来たんだ。結構な頻度でメッセージ送ってくるね」

「フヒ。ご飯の画像とか、いろいろと。美味しいからオイラにも食べてほしいとか」

 

 最初こそ身構えていたけれど、送られてくるのは普通の友達が送ってくるような内容ばかり。美味しいご飯の話とか今日あった出来事の話とか、身構えるのもバカらしいメッセージばかりだ。友達が増えたようで何よりである。

 ホノイカヅチも、シーザスターズの性格柄苦手意識があるんじゃないか? と思っていたけれど、悪い気分じゃないのかマメに返している。微笑ましい限りだ。

 

 とはいっても、油断はできない。エクリプスステークスで戦うライバルというのもあるが、もう一つ大きな理由があった。

 それが、日本にいるネオユニヴァースからの言葉である。

 

(この前、スティルインラブ経由から話が来た。シーザスターズというウマ娘について)

 

 スティルインラブのトレーナーさんから来た通話。日本からわざわざ警告の電話をしてきた。彼女がこの前言っていたこと、忠告を。

 

(シーザスターズ……彼女こそが、ネオユニヴァースが観測したZDALとやらの正体。そのZDALというのは、強大なライバルの意味)

 

 ネオユニヴァースのトレーナーさんが一緒になって教えてくれた。そのおかげで判明したんだ。シーザスターズこそが、ホノイカヅチにとっての壁になると。

 

(確かに、彼女は強い。レース映像を見ているけど、クラシック級でもひと際抜けた強さを誇っている)

 

 対戦相手ということで、あの日以降俺達はシーザスターズのレースを見るようになった。メイドン……こっちのデビュー戦から英ダービーに至るまでのレースを余すことなく。

 その結果分かったことは、彼女もまた王道のレース展開で相手を倒してきたということ。その上、元々持っている素質が段違いであることだ。

 

 今も一緒にシーザスターズのレース内容を見ている。映像は、圧巻の一言だ。

 

「3月に体調を崩して、ぶっつけ本番で挑まざるを得なくなった2000ギニー……それでも完勝している」

「デビュー戦は、落としてますけど。それ以降のレースは全部圧勝しています。距離不安が囁かれていたダービーでさえも」

 

 好位追走からの鋭い末脚で抜け出すスタイル。まさしく王道の代名詞と言えるような展開。彼女の強さを世界に見せつけるには、十分すぎる内容が広がっている。

 中にはこっちで有名なトレーナーが6人もウマ娘を輩出し、大本命とされていたシーザスターズに対し包囲網を敷いていたものもある。必ず勝つために、多くのウマ娘を送り出して勝ちの目を広げようとしていた。

 加えて、そのレースは距離不安が囁かれていたレース。英ダービーの話だ。

 その上で、シーザスターズは1と3/4バ身差で完勝。最後の直線で影すら踏ませない走りっぷりに、欧州中は沸き上がったらしい。

 

 疑う余地はなく、今年のクラシック級ウマ娘の中でも最上位に位置する存在。それがシーザスターズだ。

 

「この子がエクリプスステークスに出走してくる、ってわけか」

「……強敵、ですね」

 

 エクリプスステークスには他にも有力なウマ娘が出走してくる。欧州のシニア級最強格であるコンデュイットなどが良い例だろう。

 それでも、一番にマークすべきは誰か? と聞かれたらシーザスターズと答える。それだけの強さを映像だけで感じさせられた。

 

(持っている輝き、とでも言うべきか。何かをやってくれるという雰囲気がある。こういう子は、普通の物差しでは測れない強さを発揮してくる)

 

 ホノイカヅチも、現状はシーザスターズを一番に警戒する予定らしい。彼女の映像を一番見返しているのが何よりの証明だ。ノートも、凄くボロボロになっている。

 

(いつも遅くまで練っているんだろう。シーザスターズの対抗策を)

「こっちでも変わらず、頑張り屋だね君は。いつもお疲れ様」

「フヒヒ。こういうの、自分でやらないといけませんから」

 

 そう言った矢先、ホノイカヅチはなにかに気づいて。慌てたように俺の方を向いた。

 

「あ、で、でも! トレーナーさんを信用してないとか、そういうのではないです! そう、決して! これはオイラがやらないといけないから、オイラがやるからこそ意義があるというか!」

「落ち着いてホノイカヅチ。俺は何も言ってないよ」

「オイラ、トレーナーさんを信用していますので! それだけは確かなので!」

 

 別に彼女の言葉を疑うつもりはない。彼女は嘘が嫌いだから、俺を信用しているというのも本当のことなんだろう。ちょっと嬉しい気持ちだ。

 

 なんとかホノイカヅチを落ち着かせて、改めてレース対策会議をする俺達。映像を見ている中で、1つだけ引っかかることがあった。

 

(シーザスターズが言っていた、自分とホノイカヅチが同種のウマ娘という言葉……あれは、どういう意味なんだ?)

 

 彼女は言っていた。ホノイカヅチの実力を認めるのと一緒に、自分と同種のウマ娘であると。断言しきっていた。

 言葉の真意は分からない。けれども、何か察するものがあったのか、ホノイカヅチは否定も肯定もしなかった。

 

(……ホノイカヅチは何かを察したのかもしれない。シーザスターズの、言葉の意味を)

「ねぇ、ホノイカヅチ。シーザスターズが自身と君が同種のウマ娘って言ってたけど、何か思い当たる節はある?」

「フヒ?」

 

 聞いてみた。ホノイカヅチは察していると思ったから、同種のウマ娘の意味について。恥ずかしいけど、俺には気づくことができなかったから。

 

 映像を見ていたホノイカヅチがこちらを向く。その目は真っすぐにこちらを見ており、真剣さを感じさせるものだった。

 

「オイラとシーザスターズさんは、同じ位置で勝負するウマ娘です。オイラ達の勝ちパターンは基本的に好位追走からの抜け出し……これは変わりません」

「でもそれは、ほとんどのウマ娘がそうだろう? わざわざシーザスターズがそんなことを口にするかな?」

 

 確かにそれは似ているかもしれないが、そんなのは他のウマ娘も同様だ。強いウマ娘全員と似ているとでもいうのだろうか。

 ただ、ホノイカヅチの視線がさらに鋭さを増す。思わず気圧されてしまいそうなほどに。

 

「……それだけじゃありません。シーザスターズさんがオイラを同種のウマ娘と呼んだ理由は、きっと」

 

 語りだすホノイカヅチ。シーザスターズが考えているであろうことを耳にして、俺は我が耳を疑った。

 

(……まさか、本当にそんなことがあり得るのか?)

 

 慌てて映像を見返す。今までのレース映像を一から、全て。とある部分に注目して見返した。

 

 その結果分かったことは、シーザスターズとホノイカヅチには酷似している点があるということ。そして、それによって。

 

「今度の勝負は、かなり厳しいです。今までで一番、もっとずっと厳しい」

「……そうだね。これまでのライバル達を下に見ているわけじゃない。だけど」

 

 次のエクリプスステークスはきっと、今まで以上に厳しい勝負になるんじゃないかと思った。ホノイカヅチもそう感じているのか、自分の口から厳しいことになると口にしている。

 ディープスカイたちが弱いわけじゃない、ダイワスカーレットを下に見ているわけじゃない。ただ、それだけシーザスターズというウマ娘が、ホノイカヅチにとっての強敵になりえる。

 

(ネオユニヴァースが観測した世界でも、きっと)

 

 一筋縄ではいかなかったんだろう。勝敗は分からないけれど、わざわざ強大なライバルとして警告するぐらいだ。それだけの相手というのは想像に難くない。

 

 

 そういえば、結局あの夢はアレ以降一度も見ていない。すでに役目は終えたとばかりに、ぱたんと止んだ。

 不安はない、と言えば嘘になる。どうして見なくなったのか、その理由を知りたい気持ちはある。

 けどそれ以上に、見なくなってよかったと安堵していた。

 

(見ていて気分の良いものじゃないから嬉しいけど)

 

 ホノイカヅチが衰弱していく悪夢。もう大丈夫と思ってもいいだろう。見なくなったのはそういうことだと、自分の中でポジティブな気持ちを持つ。

 

「ひとまず、研究を重ねよう。シーザスターズの弱点を見つけるんだ」

「……はい」

 

 次のエクリプスステークスを勝つ。今はそのことだけに集中するんだ。ホノイカヅチの勝利のために。

 

 

 

 

 

 

 今日は一日中、トレーナーさんと一緒にシーザスターズさんのレース映像を見ていました。彼女の弱点を探るために。

 

 結果分かったことは、彼女はオイラと同じく王道のレースを展開すること。ありていに言えば、特に見つからなかった、というべきでしょうか。

 

(しいて言うなら長い距離がそこまで得意じゃなさそう、ってところでしょうか。それも誤差レベルのことですが)

「ダービーを勝ってるから信憑性がとても薄い。セントレジャーはハナから捨てるつもりらしいですが」

 

 もし出走していれば、もしもを起こすかもしれない。それだけの実力を、彼女は兼ね備えています。

 

 断言できます。今まで戦ってきた相手の中で、彼女は一番強いと。そう断言できる。

 理由は1つ。今まで抱かなかったものを、オイラは抱いているから。

 

(彼女を見ていると、胸がざわつきます。悪い知らせのような、なにかがオイラに危機を報せようとしているような)

 

 何といえば良いのかは分かりません。もしかしたら、これが闘志と呼ばれるものなのかもしれない。特定の相手だけには負けたくないという、オイラには理解できないもの。

 

 まぁ、アレですね。いざ抱いたとしても、オイラにはやっぱり理解できない。

 

(やるべきことをやるだけ。ただそれだけでいい)

 

 勝てば当然、負ければ仕方ない。そんなレース運びを心掛ける。いつもと変わらない、できること全てをオイラは尽くすだけ。

 

 気持ちを新たにしたところで、オイラはスマホを取り出します。開くのは──ウマッターとウマスタグラム。つい最近、どうにか作ることができました。

 オイラの褒め言葉を見つけるため、なんて理由ではありません。見るのはただ1つ、シーザスターズさんの情報。

 

(ネットには転がってない情報があるかもしれません。探しましょう、彼女の弱点となるものを)

 

 だけど、流れる情報はあまりにも多い。砂漠の中にある砂粒を探せと言われているようなもの。本当にあるのかどうかさえも分からない中で、オイラは情報を探す。

 

「……これも違う……アレも違う。これも対策にならない、もっと考えないといけない」

 

 その中で作戦を練る。練った紙を破り捨てる。もう一度作戦を立てる。これでもないと破る。

 練る。破る。練る。破る。練る。破る。そんなことをずっと続ける。

 

(……気の遠くなるような作業です。本当に、レースというのは)

「楽じゃありません、本当に」

 

 日付が回るまで対策を練り続けて。トレーナーさんが止めに入るまで続けました。

 

「今日も、良い案は浮かばなかった?」

「……はい。やっぱり、一筋縄じゃいかないです」

「それでも。きっと突破口はあるはずだ。絶対に見つけだそう」

 

 トレーナーさんの言葉に頷いて、オイラは眠りにつく。これがもはやルーティーンになりつつありました。

 

 

 トレーニングもサボらずやって。トレーニングが終わればエクリプスステークスの対策を練って。代わり映えのしない1日をずっと過ごします。

 

 そんな日々を過ごして──運命の日が、エクリプスステークスがやってきました。対策は、今も見つかっていません。




結局弱点は見つからんかった模様。
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