ホノイカヅチは褒められたい   作:カニ漁船

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今回は短め。


目標に向かって

 目標をジャパンカップに決めた翌日。一本のニュースがテレビで報道される。

 

《な、なんと! 現在欧州を賑わせているウマ娘の1人、シーザスターズがジャパンカップに参戦することが明かされました! シーザスターズと言えば、イギリスのクラシック二冠ウマ娘にして中距離最強と呼ばれるウマ娘の1人です!》

《エクリプスステークスでホノイカヅチとの激闘が記憶に新しいですね。多くのファンを虜にしている彼女が、まさかまさかのジャパンカップに出走! 本当に大ニュースですよ!》

《まだクラシック級、能力は発展途上と言ってもいいでしょう。その時点で世界最強ウマ娘であるホノイカヅチと渡り合う実力がありますからね。ジャパンカップではさらなる力を発揮してくることでしょう》

《も~この時点で楽しみなのですが、さらにはイギリスのセントレジャーウマ娘コンデュイットも参戦予定だと明かしました! やはりこれは、ホノイカヅチへのリベンジではないか? と目されており》

 

 シーザスターズのジャパンカップ参戦が本格的に報道された。まだまだ期間があるし、ここから回避する可能性も全然あり得るのだけれど。

 

(それだけは絶対にない。シーザスターズは、確実にジャパンカップに出走してくる)

 

 シーザスターズに限ってはそれがない。ホノイカヅチが必ず出走すると宣言している以上、彼女が逃げる必要はどこにもないのだから。

 エクリプスステークスでの戦いは今も覚えているはずだ。ウマ娘はみな闘争心が高い、負けっぱなしではいられない。だからこそ、リベンジを果たすため確実にジャパンカップに出走してくる。それが分かっているからこそ、ホノイカヅチはシーザスターズに教えたんだ。自分が、ジャパンカップに出走することを。

 

 そもそも、どうしてシーザスターズと戦う必要があるのか? ホノイカヅチに聞いてみたことがある。別に無理して戦う必要はないんじゃないか、また無茶をすることになるんじゃないか? と。

 彼女は、揺るぎなく答えた。

 

「シーザスターズさんは、きっとオイラと戦いたがっています。インターナショナルステークス、退屈そうにしていましたし」

「別に、オイラには関係ないですけど。それでも、戦いたいと思っているなら、また戦うだけです。そして、オイラが勝ちます」

「……心にぽっかり穴が空いたまま引退するのは、悲しいですから。オイラの魂が、そう言っているような気がするんです」

 

 なんにしても、ホノイカヅチはジャパンカップに出走する。その大部分の理由は、シーザスターズと戦うためだ。彼女と戦うために、ジャパンカップを選んだ。

 

 秋の天皇賞と有記念は厳しいだろう。出走できないことはないだろうが、ジャパンカップの参戦に比べたら厳しいのは事実。秋シニア三冠の中で戦うとなったら、やっぱりジャパンカップになるだろう。

 日本ではなく、凱旋門賞やイギリスのチャンピオンステークスといった海外のレースで戦うことも考えていた。それこそアメリカのBCターフがあるわけだし、出走するには申し分ない舞台がある。

 だけど、今のホノイカヅチの状態を考えたら海外遠征はできない。ただでさえ状態が悪いのに、さらに負担がかかる海外遠征は論外だ。だから、ジャパンカップをシーザスターズと戦う舞台に選んだ。

 

 問題は彼女の方が来てくれるかどうかだったけど……杞憂に終わった。ホノイカヅチ曰く、ホノイカヅチが出走するなら嬉々として参戦するつもりらしい。本当に杞憂だった。

 

(シーザスターズにとっても得難い勝負だったんだろう。レース後の2人は倒れてしまったから)

 

 死力を尽くした勝負というのは貴重だ。近い世代に自分と同じだけの実力を持った相手がいないといけないし、その上で同じ位置で勝負できるような相手じゃないといけない。ホノイカヅチとシーザスターズは、まさにドンピシャだ。

 ジャパンカップに出走するメンバーはまだ固まっていないけど、シーザスターズは確定で入ってくる。一番警戒すべき相手は、間違いなくシーザスターズだ。

 

(懸念点はいろいろある。前回みたいな消耗戦はできないし、瞬発力で勝負せざるを得ない。今のホノイカヅチの状態で、消耗戦は無理だ)

《シーザスターズの出走は嬉しいですが、出走する理由に関しては特に明かされていませんよね? どうしてチャンピオンステークスではなくジャパンカップを選んだのでしょうね?》

《いいじゃないですか、海外の有力ウマ娘が来てくれるんですから! シーザスターズの来日が今から楽しみです!》

 

 テレビを聞きながらも、今後のことを考える。今のホノイカヅチを最善の状態で出走させるためにも。

 

 

 

 

 

 

 本家のお屋敷。メイヂヒカリお抱えのトレーニング場では、ホノイカヅチが走っている。

 

「……タイム、ガタ落ちしているね」

「こればっかりは仕方ないよ。つい最近まで寝たきりだったんだから」

 

 スティトレさんの呟きに頷くしかない。今日から本格的に復帰ということで一本タイムを測ってみたのだが、マートレさんの言うようにタイムがかなり落ちている。

 

(ただ、予想していたタイムよりは酷くない。これはまだ予想で来ていたことだ)

 

 だからこそ。

 

「悪くないタイムだよホノイカヅチ! 復帰後でこのタイムなら上々、むしろかなり良いタイムだ!」

 

 突然褒め出した俺にびっくりする2人だが、すぐに意図を察したのだろう。同じようにホノイカヅチを褒め始めた。

 

「うんうん、これならすぐにでも戻りそうだね~。やっぱりホノイカヅチちゃんは凄いや」

「うん。もっとタイムが落ち込んでいてもおかしくないのに、たったこれだけで済ませるなんて。さすがはホノイカヅチ、といったところだね」

 

 さらにはアストンマーチャンやスティルインラブもホノイカヅチを褒め始める。その結果どうなるかというと。

 

「フヒ、フヒヒ……! お、おいら、凄い子!」

 

 ホノイカヅチのテンションが上がる。テンションが上がるとどうなるか? ホノイカヅチの調子が上向く。調子が上向けば、ストレスがどんどん軽減されていく。軽減されれば、ホノイカヅチはさらにやる気を出す。つまりは、復帰するための好循環が生まれる。

 

 褒められるのが大好きなホノイカヅチ。嘘偽りのない言葉で褒め続ければ、落ち込んでいる今の状態からでも復帰は十分可能。これが、復帰のための最善策だ!

 

「まさか、褒めることが復帰に繋がるなんてね~。いや、真面目にどうなってるの?」

「確かにメンタルが身体の調子に影響を与える例はたくさんあるし、ホノイカヅチが倒れた原因もそうなんだけど……ここまで顕著なのは逆に凄いよ」

「それは本当にそうです。でも、効果があると分かるからこそやる意味があります……よしよし、予定よりも一本多く走れてる! えらいよホノイカヅチ!」

 

 マートレさん達の言うように、褒めれば褒めた分だけ調子が上向くというのは凄いことだ。確かにメンタルの良し悪しは身体に影響があるが、ここまで分かりやすい子はそうそういないだろう。

 ただ、効果自体は微々たるもの。完全回復するには程遠いし、ここから毎日褒め続けたところで全盛期まで戻るかは分からない。むしろ戻らない可能性の方が高い。

 

(確かにタイムは予想していたよりも悪くない。だけど、それは予想をはるか下に見積もっていたからだ)

 

 それでも、やる意味はある。どんなに小さくても、効果がいずれなくなったとしても。やり続ければいつかきっと。そう信じて彼女を褒め続ける。

 

「いいよいいよ! コーナリングの勘も大分取り戻してきたんじゃない?」

「休み明けなのに、見事な走りだね~。いや~、惚れ惚れしちゃうよ」

「トレーナーさん?」

「待ってマーちゃん。ちゃんと趣旨分かってるよね? ホノイカヅチちゃんを褒めなきゃいけないの分かってるよね?」

「いやはや、ここまで勘を取り戻すのが早いなんてね。やっぱりホノイカヅチは才能に溢れるウマ娘だ」

「トレーナーさん……」

「スティル? 分かってると思うけど、これも必要なことだからね? むしろスティルもしっかり褒めないとだからね?」

 

 ……そのせいでマートレさんとスティトレさんには別の苦労をかけてしまったけれども。申し訳ないけれど、このまま協力してもらわないといけない。どうにかして2人を説き伏せないとだな。




(冷静にシーザスターズってまだクラシック級なんだよな…)
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