幻想博打録カイジ 作:名もない石
今回より東方とカイジのクロスオーバー作品を書かせてもらう「名もない石」です!
拙い文章ですが、どうかお楽しみください!
9/28 投稿を再開するにあたって、よりカイジらしさと東方の作品の良さを出す為に文章の修正を入れております。
幻想郷への入り口
夜の帳が降りた
六畳間の古びた畳が身じろぎするたびにギシ、と不快な音を立てて軋む。その音だけが淀んだ空気の中で静寂を破っていた。
ちゃぶ台の上にはまるで敗北者の墓標のごとく並んだ品々──気の抜けた安い発泡酒、無数の吸い殻でハリネズミのように埋め尽くされた灰皿、そして無情にも「ハズレ」の三文字を告げる皺だらけのスクラッチくじ。
カイジは畳の冷たさを背中に張り付かせながら天井の染みを虚ろな瞳で見上げていた。その染みはまるで彼の人生そのもの。
いびつで、薄汚れ、修復の見込みなど永遠にないように思えた。
「……はぁ」
深い、深いため息が湿った空気に溶けて消える。
パチンコ『沼』での死闘──あの地獄のような博打に勝利し、莫大な借金という重い鎖から解放された瞬間、確かに彼は信じていた。
人生が変わる、と。これからの日々に圧倒的光明が差し込むのだ、と。
──だが、現実は残酷っ……!
財布には小銭がわずかに転がるばかり。勝負の余韻も、命を預け合った仲間たちとの熱い絆も、すべてが朝露のように消え去っていた。
「結局……オレに残ったのは“借金が無い”ってだけ……! マイナスがゼロになった……ただそれだけ……!」
皮肉なことに借金という重荷に首を絞められもがき苦しんでいた頃の方が「生きている」実感があった。
負ければ地獄、勝てば天国。
その極限の緊張感。ヒリつくような命のやり取りこそが彼の生命力を燃やす燃料だったのだ。それを失った今、残されたのは「色褪せた日常」という名のあまりにも退屈な牢獄だけだった。
ガリッ……ガリッ……。
十円玉でスクラッチを削る音が部屋に単調に響く。銀色の薄い膜が剥がれ落ち、その下から現れるのは──
ハズレ。またハズレ。
まるで運命そのものがカイジを嘲笑うようにささやかな希望すら次々と砕かれていく。
「クソッ……!」
思わず声を荒げると、薄い壁を隔てた隣の部屋から坂崎のわざとらしい咳払いが聞こえた。
『……カイジくんよ』
坂崎の声はまるで枯れ井戸の底から響くように諦めと疲労に満ちていた。
『そろそろ……ウチを出てってくれねぇか……』
──何度目だろうか。この死刑宣告じみた台詞を聞くのは。
「……チッ」
カイジは舌打ちで答える代わりとした。
わかっている。いつまでも他人の善意に甘え寄生し続けていいはずがないことくらい。だが出て行ったところで行く当てなど──砂漠で一粒の砂金を探すような雲を掴む話だった。
点けっぱなしのテレビからは能天気なバラエティ番組の笑い声が垂れ流されている。その無邪気な響きが今の己の惨めさをより一層浮き彫りにする。
カイジはリモコンを叩きつけるように操作し、電源を切った。
「……やってらんねぇ」
重い腰を上げ薄汚れた上着を羽織る。
冷蔵庫は空っぽ。ポケットには百円玉が数枚転がるだけ。コンビニで安い缶チューハイでも買って喉を焼くか、それとも夜風に当たって腐った頭を冷やすか──
そうして彼は、まるで己の居場所を探し彷徨う亡霊のように、六畳間を後にした。
ㅤㅤㅤㅤㅤNowLoading…
ㅤㅤㅤ
ㅤ
夜道を歩くカイジの足音だけが静寂に包まれた住宅街に響く。
街灯の光が作り出す影は長く、まるで彼の歪んだ人生の軌跡を象徴しているかのようである。
その時だった。
背筋を見えない氷の刃が貫くような気配……!
振り返ると、街灯の黄色い光の中に一人の女が立っていた。長い金髪を夜風にたなびかせ、まるで舞台上の女優のように幻想的な美しさを湛えながら。
だが、その背後に漂う空気は明らかにこの安っぽい住宅街のそれとは異質だった。
「
「……ッ!」
その声は蜜のように甘く、しかし決して覗き込んではならない底知れぬ深淵を秘めていた。
カイジの全身が、蛇に睨まれた蛙のごとく石のように硬直する。
知らない人物のはずなのに、己の過去も、罪も、心の奥底の欲望も──まるですべてを見透かされているような恐ろしい眼差し。
女は月光を纏うように微笑みながらゆっくりと歩み寄ってくる。
「今の生活に……満足しているのかしら?」
「……は?」
「坂崎さんのお家に居候して、安い煙草をふかして……ただ死を待つように生きているだけの毎日。それでいいの? それであなたは、“勝った”と言えるのかしら?」
──ざわ……!
ざわ……ざわ……!
カイジの喉が乾いた音を立てた。心臓が狂った太鼓のように激しく打ち鳴らされる。
女の言葉ひとつひとつが見えない矢となって胸の奥の最も痛い部分を的確に射抜いてくる。
「誰だか知らねぇが……あんたにオレの何がわかるってんだっ……! それに、あんたには関係ねぇだろ……ッ!」
強がるカイジの言葉に対し、女の口元がまるで獲物を前にした猛禽類のように不気味に釣り上がる。
その笑みは絶対の勝利を確信した狂気のギャンブラーのそれに酷似していた。
「関係なくなんてないわ。──あなたはまだ“本当の勝負”に挑んでいない。本当に欲しかったものを……まだ、掴んでいないのよ」
瞬間──世界の法則が歪んだ。
チカッ、と街灯が消え、女の背後の空間が文字通り「裂けた」。
暗黒の空間から無数の不気味な瞳が覗き、赤いリボンのような境界線が現実を飲み込んでいく。悪夢の入り口が開かれたように。
「なっ……なんだっ……!? 空間が……裂けて……!? や、やめろっ……!!」
カイジの悲鳴すら嘲笑うように、女──”
「さぁ、次の博打を始めましょう。命を賭けるにふさわしい、“幻想”の舞台で──」
抵抗する間もなく、視界が圧倒的な闇と無数の瞳に呑まれカイジの意識は深い井戸の底へと急速に沈んでいった。
ㅤㅤㅤㅤㅤNowLoading…
カイジが意識を取り戻すと、そこは深い、あまりにも深い森の中だった。
むせ返るような湿った土の芳香、名も知らぬ鳥たちの甲高い囀り、そして鬱蒼と生い茂る木々の葉が風に踊る音──都市の喧騒や排気ガスの匂いとは正反対の原始的で、どこか暴力的なまでの自然の静寂に包まれていた。
コンクリートの地面も、電柱も、あの不気味な金髪の女の影も、もはや幻のように消え失せている。
「どこだよ……ここは……」
身体を起こそうとした瞬間、足元の見慣れぬ毒々しい色のキノコが目に入る。心臓が早鐘のように打ち鳴らされた。パチンコ『沼』の最終局面に立たされた時よりもさらに激しく。
頭を振り、混乱した記憶の断片を必死に繋ぎ合わせようとする。
あの女──この世のものとは思えない美しさと、悪魔のような笑みを浮かべていた存在。
『次の博打』『幻想の舞台』──意味不明な言葉を紡ぎ、空間そのものが文字通り「裂け」、無数の瞳に睨まれながら闇に落ちて……。
「思い出せねぇ……そこから先が……ッ!」
バチンッ!
己の頬を全力で平手打ちする。乾いた音が静まり返った森に響く。
頬を走るジンジンとした痛みは間違いなく現実。しかしその痛みは今の超常的な状況を何ひとつ説明してはくれない。
──なぜここに? どうやって? そもそもこれは現実なのか?
考えても答えは濃霧の向こう側。埒が明かない。
「クソ……クソっ……!」
頭をかきむしりながらカイジはよろけつつも立ち上がる。
とにかくこの不気味な森を抜けるしかない。歩き続ければ国道に出るはずだ。出口を見つければきっとコンビニか、せめて錆びれた自販機くらいはある。元の生活に戻れる道があるはずだ……!
そう信じなければ、自我が崩壊しそうだった。
* * *
どれくらい歩き続けたか。一時間か、二時間か。傾斜のきつい獣道。足は鉛のように重く息はヤスリをかけたように荒い。
「……ハァ……ハァ……いつまで……歩けばいいんだよっ……」
最初は理不尽な状況に対する「怒り」が支配していた。
だが、今では骨の髄まで染み込むような圧倒的孤独感と得体の知れない場所を彷徨う恐怖心が確実に精神を蝕んでいた。
(誰でもいい……誰か人間に会いたい……! この際、あの悪魔のような
そんな泣き言にも似た祈りが胸に渦巻いていた、その時──
──ガサガサッ。
静寂を切り裂く音が前方十メートルほどの茂みの奥から響いた。カイジの全身が氷水を浴びたように硬直する。
「……ッ!」
野うさぎ……だろうか? いや、運が良ければ山菜採りの人間かもしれない……!
だが最悪の場合──野生の猪、あるいは熊。こんな深い森で遭遇すれば武器を持たない人間などただの柔らかい肉の塊だ。
「……や、やめろよ……勘弁してくれよ……!」
ガサガサガサ……。
音は確実に近づいてくる。草を分ける気配がまるで死神の足音のように迫っていた。
カイジはゴクリと喉を鳴らし、震える手で身を守るようにじりじりと後退する。
「来る…ッ!」
淡い期待を抱きながらも背筋には氷柱のような冷汗が伝う。
──そして、茂みが勢いよく揺れた。
現れたのは……「毛玉」だった。
丸々とした、ふんわりとした毛玉のような奇妙な生き物。
「は? な、なんだコレ……?」
犬でも猫でもない。動物と呼んでいいのかすら疑わしい不可思議な存在。
だが、黒曜石のような目が二つ、じっとこちらを凝視している。
「おいおい……冗談だろ……なんだよコイツ……ぬいぐるみか? いや、違う……生きてるっ……!」
毛玉はふわりと重力を完全に無視するように宙に浮かび、ゆっくりとカイジに近づいてくる。
見た目は確かに愛らしい。無害にすら見えるマスコット的な風貌。
だが──次の瞬間。
カイジの心臓が破裂しそうなほどの悲鳴のような鼓動を刻んだ。
(な、何故か分からねぇが……やべぇっ……!)
鉄骨渡り、Eカード、血のマニキュア──数々の死線を潜り抜けてきたカイジの勝負師としての直感。幾度となく味わった「死の予感」。それが高圧電流のように全身を貫いた。
こいつは愛らしい見た目をした「死」そのものだ……!
カイジは本能的にきびすを返し逃げようとした。だが──
「うわっ……!」
枯れ葉に隠された太い木の根に足を取られ無様に地面に尻餅をつく。
その瞬間──
──ガバァッ!!
毛玉の身体が悪夢のように縦に真っ二つに裂け、不釣り合いなほど巨大な口と
その顎がまさにさっきまでカイジの首があった空間を──鋼鉄をも噛み砕くような恐ろしいスピードと力で襲う。
「なっ……! あ、あぶねぇぇぇっ……!!」
ガチンッ! ガチンッ!
毛玉は空虚を噛み続ける。その牙が打ち鳴らされる音は岩をも粉砕する破壊力を如実に物語っていた。
「な、なんだよコイツはっ……! ただの毛玉じゃねぇっ! ば、化け物だっ……!」
カイジは地面を這うようにして後退し、必死に距離を取る。額からは滝のように冷や汗が流れる。もし転倒していなかったら──自分は今頃首から上を食い千切られ、この名も知らぬ森の養分になっていただろう。
その圧倒的な死のリアルがカイジの魂を完全に凍てつかせた。
「く、来るな……! 来るなぁっ……!!」
毛玉は悪魔のように目を細め再び宙に舞い上がる。今度こそ獲物を逃がすまいと、その巨大な口から粘着質な唾液を垂らしながら。
──くそッ……! 走れっ……!
カイジは恐怖を振り払うように己を奮い立たせ、泥だらけの地面を蹴って全力で走り出した。
背後から迫る化け物は先ほどまでの、のんびりした様子が完全な虚構だったかのように猛禽類の速さで追いすがる。
「なんで……なんでこんなことばっか……!」
借金地獄、仲間たちの裏切り、死の鉄骨渡り、パチンコ台との格闘……人生における理不尽の数々が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
そして今、この狂った森で得体の知れない毛玉の化け物に命を狙われている──!
圧倒的理不尽ッ……!
「クソ…クソクソクソっ……!!!」
運動不足の身体、疲労で悲鳴を上げる脚。肺は酸素を求めて必死にもがいている。
それでも生きるという勝負師としての執念だけで足を進める。
──しかし、肉体のスタミナは無情にも限界……!
心臓は今にも破裂しそうだ。酸素が脳に行き渡らず、視界が白く明滅する。足の裏の感覚はとうに麻痺し、地面を蹴っているのかすらわからなくなる。
「はぁ……はぁ………息が……これ…やべぇっ…!」
毛玉の化け物の黒い目はまるで逃げ惑うネズミを楽しむ猫のように容赦なくカイジを追い詰める。
足が、動かないっ……!
ズザァッ……!
ついにカイジは力尽き地面に無様に崩れ落ちた。全身が鉛のように重く、もはや指一本動かすのが精一杯だった。
振り返れば目の前の化け物は確実な勝利を確信したようにあの恐ろしい口を限界まで大きく開いている。カイジの全細胞が最後の警鐘を鳴らす。
──生きたい。生き延びたいっ……!
「誰か……誰かいませんかーっ! 助けてくださいっ! お願いしますぅぅっ……!!!」
喉が裂けるほどみっともなく必死で叫ぶ。
しかし、心の奥底では「これがオレの人生の終わりか……」という絶望が冷たい泥水のように広がっていた。
化け物は獲物の断末魔を味わうように口を完全に開き、カイジの頭部へと飛びかかってきた──!
──その、瞬間だった。
──バシュゥゥゥッ!!
どこからともなく虹のような色彩を纏った光の球が流星のごとく森の木々を縫って飛来し、化け物の側面に直撃した。
『Ggyuaaaaaa!?』
化け物は落雷に打たれたようなけたたましい悲鳴を上げ、身体を大きくのけ反らせる。
目は恐怖で白く見開かれ凶悪な牙は虚空を無意味に裂き──次の瞬間、爆発音と共に黒い煙を上げて地面に転がりピクリとも動かなくなった。
圧倒的、窮地からの生還……!
カイジは現実とは思えない光景にただただ息を呑むことしかできない。
「な、なんだっ!? 何が起こったんだ…今っ!?」
極度の混乱と恐怖の余韻で身体の震えが止まらない。しかし同時に──確かな「生への希望」が胸に熱く込み上げてきた。
荒い呼吸を整えながらカイジは必死にその光球が飛来した方向を見つめる。
──そこにいたのは、漆黒のワンピースを着た金髪の少女だった。
頭には可愛らしい赤いリボンが結ばれている。フワリと、当然のように宙に浮きながら。
……この人間の子供にしか見えない小さな少女があの神業のような攻撃を……!?
「えっ……ま、まさか……あんた…君が?」
疑問が頭の中で竜巻のように渦巻く。だが、理屈よりも先に目の前に"人間らしき存在"がいることが何よりも嬉しかった。
張り詰めていた糸が切れ、涙腺が緩むのを必死にこらえながらカイジは声を振り絞る。
「あ、ありがとう……! 本当に助かった……! 君のおかげで……オレ、生き延びた……!」
感謝の気持ちが洪水のように溢れ出す。
死の淵から救い出された圧倒的安堵と、言葉の通じる存在に出会えた喜びが胸の奥で熱く絡み合っていた。
少女はそんな泥だらけで涙ぐむ中年男を見て太陽のように明るく無邪気に微笑んだ。
「気にする事はないのだー!」
その笑顔は春の陽だまりのように暖かくカイジの恐怖で凍てついた心をそっと溶かしていく。
──ああ、助かった。本当に助かったんだ。
しかし、呼吸が落ち着くにつれすぐに現実的な疑問が湧き上がる。
「なぁ、少し聞きたいんだが…ここは何処だ?」
少女は軽やかに、まるで近所の公園の名前を教えるように答える。
「魔法の森なのだー!」
「……ま、魔法の森……だと?」
なんだそれは。ふざけているのか。
カイジの顔に怪訝な表情が浮かぶ。まるで絵本や童話の世界から抜け出てきたようなあまりにも現実離れしたネーミング。
もしかするとこの少女は奇抜な格好をした地元の子供で、変な遊びの設定に入り込んでいるだけなのでは……?
「はは……その…お嬢ちゃん。ここは日本の何処ら辺かな…?」
できるだけ優しく大人の対応で尋ねるカイジに対し、少女は少し頬を膨らませた。
「お嬢ちゃんじゃなくてルーミアって名前でちゃんと呼んでほしいのだー!」
「あ、あぁすまなかったな。オレは伊藤開司だ」
「カイジかー。そーなのかー!」
ルーミアと名乗った少女は羽毛のように軽やかに宙に浮いたままにこにこと微笑んでいる。
カイジは唖然とし、肩の力が完全に抜けた。
ワイヤーも何もない。この少女、今、完全に自力で空を飛んでいる……。
いや、驚いている場合じゃない。今は現状把握だ。
「あぁ、よろしく頼む。で、ルーミアちゃん。ここは日本の何処なんだ……?」
ルーミアはきょとんとした顔で首を傾げるようにして答えた。
「日本って……なんなのだー?」
──は?
カイジの全身が再び石化する。
流暢な日本語を話しているのに日本という国のことを知らない……?
いや、普通に考えればおかしい。名前からすると外国人かもしれないが、それにしたって「日本」を知らないはずがない。頭の中で無数の疑問符が爆発する。
「……ま、待て……どういうことだ……? なんで知らないんだ……? いや、でも……でも……」
認めたくはない。認めたくはないが、薄々感じていたことが圧倒的な現実味を帯びて迫ってくる。ここは……自分が知っている「地球」ではないのではないか、と。
あの牙を剥いた毛玉の化け物も、謎の光の球を放ち、さらには重力を無視して宙に浮くこの小さな少女ルーミアも。
すべてがカイジの常識という名の範疇を完全に軽々と超えていた。
「……まさか、これは」
喉の奥から吐き出すように呟く。
──まさか、オレが……。
カイジは頭を抱え、泥だらけの足元の地面をじっと見つめる。
ふと、古畑の借金の連帯保証人になる前、パチンコ屋で博打仲間が無理やり勧めてきたライトノベルのことを思い出す。
現代の人間が、突如として魔法のある異世界に転移するという荒唐無稽で現実逃避の極みのような物語。
「……あの時……確か現代の人間がファンタジーな別世界に転移するって話だったな……」
全く興味がなかったカイジは「んなアホな話あるか」と即座に突き返したが──今、この不可思議な森と化け物、そして宙に浮く少女を目の前にしてその設定が恐ろしいほど合致していることに気づく。
「……オレも……あの小説みたいに……異世界に……飛ばされた……のか……?」
──いや、待て。
こんなことを口に出したら現実と妄想の区別もつかないイカれた危険人物と思われかねない。
だが、目の前の光景はどう考えても異常だ。
化け物は今も黒焦げになって倒れており、ルーミアはそれを全く気にする素振りもない。誰がどう見てもここは「普通の世界」ではない。
「……どう考えたって……普通じゃねぇ……よな」
ざわ… ざわ…
ざわ…
ざわ…
ざわ…
ざわ… ざわ…
ざわ… ざわ…
冷静に状況を分析しようとする理性と、信じられない現実に激しく動揺する感情。
その狭間でカイジは長らく眠っていた「勝負師」としての本能を無意識のうちに呼び覚まし始めていた。
ここで現状を正しく把握できなければ死ぬ。それだけは確実だ。
ルーミアはカイジの顔を覗き込むように近づき、不思議そうに声をかけた。
「……カイジ、大丈夫なのだー? なんだか顔色が悪いのだー?」
カイジは深く息を吸い、顔を上げ、何とか冷静さを取り戻そうとする。
全身はまだ微かに震えているが、頭だけはフル回転させなければならない。
「……あぁ、すまない。……で、ルーミアちゃん。改めて聞きたいんだ。この世界は一体なんなんだ?」
ルーミアはまるで「今日はいい天気だね」とでも言うように、にこにこ笑いながら答えた。
「ここは『
──幻想郷……?
全く耳慣れない響きにカイジの眉が険しく寄る。しかしルーミアは楽しそうに言葉を続ける。
「幻想郷はね、外の世界とは結界で切り離された特別な場所なのだー。人間だけじゃなく妖怪や魔法使い、いろんな生き物が暮らしているのだー!」
カイジは思わずツッコミを入れたくなる。
「妖怪や魔法使いって……んなおとぎ話みたいな連中が本当にいるわけねぇ……」
言いかけて言葉が途切れる。目の前で楽しそうに宙を舞っている少女を見ればもはや自分の持っている常識など一片の価値もないことは明白だった。
ルーミアはくすくすと鈴が鳴るように笑い、決定的な一言を放つ。
「ちなみに、私も妖怪なのだー! 宵闇の妖怪なのだー!」
カイジは思わず硬直した。
──妖怪……だと?
「……は? 妖怪って……お前、人間みたいにペラペラ喋ってるじゃねぇか! どういうことだそれは!」
ルーミアは肩をすくめ、自慢げに胸を張る。
「妖怪だって知性のある妖怪はこうして人間と同じように話せるのだー!
しれっと、とんでもなく恐ろしいことを言った。カイジの頭の中で常識という名の城がガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
妖怪・異世界・魔法。人を食う存在。すべてが「現実」として目の前に突きつけられている。
勝負師として数々の修羅場をくぐり抜けてきたカイジだが、この状況はエスポワール号やパチンコ「沼」よりも遥かに理不尽で、理解不能な盤面だった。
しかし──同時に久しく忘れていた熱い感情が胸の奥で蠢き始める。
圧倒的な未知への恐怖。そして……己の「命」という最大のチップを賭けた、新たな勝負への予感だった。
お読みいただきありがとうございました!
ルーミアって妖怪は優しいですね…!一体何の妖怪なのでしょうか!(すっとぼけ)
良ければ是非感想や評価をお願いします!モチベにも繋がりますので!
カイジがモテてる姿…見たい?
-
美心がいるだろ…ッ!裏切るのかッ?!
-
見てぇに決まってるだろッ!