機動戦士ガンダム:UC0081 異惑星重力戦線 作:izuminnー3305
それからシンは士官学校の生活を送る傍らで群青色と浅葱色にペイントされたザクⅠの専務試験パイロットをしていた。
採掘衛星、ア・バオア・クーで行われた試験運用は良好で“黒い三連星”の異名を持つエースパイロット相手にシンはニュー・タイプの力で模擬戦闘で圧倒し、僅か一分で三連星が乗る三機のザクⅠを撃墜した。
一方、試験運用の映像をダークコロニーのコンピューター室で椅子に座り、視聴していたキシリアはシンの異常な反射運動に目を付けていた。
「ザクⅠのスペックは前機の物に比べて低くはなっているが、あの機動力は異常だ。やはりダイクンが唱えていたニュー・タイプと言う新人類なのか?」
右手に持つシンとザクⅠの資料に目を通すキシリア。そして一つの結論に辿り着く。
(もしギレン兄が勝利のみを求める戦いをすれば、人類はおろかニュー・タイプに未来はない。やはりあの時、ダイクンの血を絶つべきではなかったな)
キシリアがそう心で語っているとジオン軍用ノーマルスーツを着こなし、ヘルムを取ったシンがキシリアの右側から現れる。
「ジョウジ・シン少尉、到着しました」
シンはそう言ってキリッとした姿勢で敬礼をする。
するとキシリアは自分が座る椅子の左側に立つジオン男性軍服を着こなす男性兵士に資料を渡し、立ち上がるとシンに向かって敬礼を返した。
「ご苦労だった少尉。すまないが、外してくれ」
キシリアが書類を渡した男性兵士は敬礼をして、その場を去る。
「少尉、唐突な質問をするが、それに対して答えるも答えなくてもいい。君は・・・ニュー・タイプなのか?」
キシリアの質問にシンは一瞬、ウッとなるが、自分の持つニュー・タイプの力の感じ取った直感を信じて答えた。
「はい。キシリア閣下が申し上げるニュー・タイプだと自分は確信しています。幼い時から薄々と感じていました。鋭いの一言では理由にはならい五感、今を生きているのに未来が分かってしまう不思議な感覚、ダイクンが唱えたニュー・タイプだと自分は思っています」
「では、その事は誰にも言わず、そして独自でニュー・タイプを極めたのか?」
キシリアからの更なる問い掛けにシンは迷わず頷いた。
「はい。誰にも言っていません。力の訓練は日本の剣道に伝わる精神統一で扱えるようにしました」
シンの答えに納得するキシリア。
「なるほど。ではニュー・タイプである少尉に頼みがある」
そう言ってキシリアはこれから歩むべき人類の道を語り、全てを聞いたシンは覚悟を決めた表情で敬礼をした。
「分かりました!ジョウジ・シン!キシリア様の為に全力で協力いたします!」
「ああ、よろしく少尉」
そう言ってキシリアもシンに向かって敬礼をした。だがシン自身はニュー・タイプで感じ取っていた。キシリアでも人類に明日はないと言う事を、だからこそシンは本当に人類の未来の為に動く事となった。
⬛︎
お互いの連絡先を交換したシンはソフィアとの文通を通して、お互いに関係を深めていた。
シンは士官学校で起こったガルマが登山行軍訓練中に滑落事故を起こしたが、友であるシャアと共に助け合いながら無事に下山出来た事やその事がきっかけでガルマと友になった事をソフィアに手紙で伝えた。
一方、ソフィアは通ってもいない女学院での事を手紙で伝えていた。だが、その裏腹では本当の自分を隠したままシンに嘘を伝える事に悩んでいた。
ある日の昼時、高級感がある私服を着てソフィア専用の屋敷の寝室で彼女はテーブルに座って万年筆で手紙を書いていた。だが、途中で書く手を止めて深い溜め息を吐いた。
(どうしよう。このままシンに本当の私を伝えないままで。もし本当の私を知ってもシンなら・・・でももし、シンが本当の私を知ったら・・・)
幻滅、そんな不安が頭を過ったソフィアは寒気が感じた様に両手で上腕を握りながら今にも涙が出そうな悲しい表情をする。
それから翌日の朝。水色のジオン女性高官服を着こなしたソフィアは一人で屋敷を笑顔で走りながら出た。
すると彼女の後を追う様に路地に止まっていた一台の黒い車が走り出した。
街の近くにある公園まで来たソフィアはジオンの男子士官学生服を着こなし噴水の前で立って待っていたシンに声を掛けた。
「お待たせシン!待たせちゃったかしら?」
少し不安そうなソフィアの問い掛けにシンは笑顔で首を横に振った。
「いいや。俺も丁度、来たばかりだ。それじゃ行こっか」
「うん!」
そしてシンとソフィアは笑顔で手を繋いで街へと繰り出した。
それから色んな場所を巡りながら互いの事を知って行き、時には子供の様に楽しんでいた。
昼時になるとシンとソフィアは近くのレストランのオープンテラスで食事をする事となった。
「いやぁーーーーーっまさかソフィアが日本通、しかもアニヲタだったとは」
椅子に座るシンが笑顔でそう言うと向かいに座るソフィアは照れ臭い様な笑顔で頷く。
「えへへっそうなの。可愛い女の子が活躍する作品を観てから凄く好きになっちゃって」
「へぇーーーーっ俺も日本のアニメや漫画は好きだ。そうだ。次会った時に俺のオススメの漫画を持って来るから試しに読んでみて」
シンが笑顔でそう言うとソフィアは満面の微笑みをする。
「いいの?ありがとうシン」
そんな二人の楽しい会話を気付かれない場所に止まっていた例の車の後部座席の窓からキシリアが見ていた。
「なるほどな。ここ最近、ソフィアの様子が明るくなったのは彼のお陰か」
そう言ったキシリアは運転手に向かってハンドサインを送り、車を静かに走らせた。
その日の夕暮れ。楽しい時間を過ごしたソフィアはシンと別れて屋敷へと帰り、そして自分の部屋へと戻るとそこにはキシリアが窓から夕日を見ながら立っていた。
「キっ!キシリア姉様!どうしてここに⁉」
驚くソフィアに向かってキシリアは振り返ると彼女に向かってゆっくりと歩む。
「ソフィア、今日はシンと過ごせて楽しかったようだなぁ」
キシリアが笑顔でそう言うとソフィアは動揺する。
「なっ!何の事ですか?今日は友達と街で遊んでいただけですよ」
「ほぉーーーーっザビ家の肩書きが嫌いで友達作りから離れたお前がいつ友達を作ったのかな」
少し意地悪な笑顔で言うキシリアの姿にとうとうソフィアは折れてしまった。
「すみません、キシリア姉様。でも!彼は悪い人ではありません。それにシンは例え私の素性を知っても・・・⁉︎」
ソフィアが最後まで言おうとした時にいきなりキシリアがソフィアを優しく抱き締める。
「すまない、ソフィア。私も昔はお前と同じくザビ家の肩書きを嫌っていた。だが時代の流れでそうも言っていられなくなった。だからこそ時代の波に飲まれず自分らしく生きるお前が羨ましい」
「キシリア姉様・・・」
そう言いながらソフィアが顔を上げるとマスクを着けていても分かるくらいの明るい笑顔をするキシリアは彼女に頷く。
「ソフィア、お前は自分らしく、そして自分の意思を信じて生きていきなさい」
励ます様に、そして背中を押す様に言葉を掛けるキシリアの姿にソフィアは思わず涙を流しながらキシリアに抱き付く。
「ありがとうございます。キシリア姉様」
そう言いながらソフィアは心の中で固い決意をするのであった。
⬛︎
それから数日後の昼時、キシリアからの呼び出しでシンは公王庁の謁見室に呼ばれていた。
(一体何だろう?重大な話しがあるからとキシリア様から呼び出されたが、何で公王庁の謁見室なんだ?)
そう心の内で自問自答するシン。すると目の前の公王の座の左側にある扉が開かれ、デギン公王とキシリアが揃って入って来る。
シンは姿勢を正しピシッとした表情で入って来た二人に敬礼をするが、キシリアの後に入って来たソフィアの姿にシンは目を大きくする。
(なっ!ええぇ⁉︎ソ!ソフィア‼︎何であいつが陛下とキシリア様と一緒にいるんだ⁉︎)
あまりにも信じ難い光景に心の内で驚愕するシン。
「よく来てくれたな。休んでよろしい」
公王の座に座ったデギンの声掛けにシンはハッとなりながらも冷静を保ち、敬礼をやめた。
そしてデギンの右側に立つキシリアがシンに訳を話し始めた。
「シン少尉。今の状況が理解出来ていない事であろう。なぜ友人がここに居るのか?その理由は、!」
キシリアが重要な部分を言い出そうとした時にソフィアは自身の左腕をキシリア前に出して止め、覚悟を決めた表情でキシリアに向かって頷く。
それを見たキシリアも軽く頷くと一歩、後ろへ下がる。そしてソフィアは静かに深呼吸をして自らの口でシンに本当の自分を話し始めた。
「シン。今まで黙っていて、ごめんなさい。私はザビ家の次女、ソフィア・ルル・ザビなの」
ソフィアの口から出た真実にシンは驚く。
「嘘!・・・だろお⁉︎」
そしてソフィアは自らの口で嘘を吐いていた事、そして自身の味わった苦しみを包みなくシンに話した。
「そうだったのか・・・お前も、いえ!ソフィア様も辛い経験をなされていたのですね」
急な敬語を使ったシンの姿勢にソフィアは慌てる。
「そんな!シン!急に畏まらなくていいから。いつも通りで大丈夫だから」
「そっか。ありがとう、ソフィア」
すると二人の会話に割って入る様にキシリアが一歩、前に出てシンに問い掛けた。
「お前の胸の内はソフィアから全て聞いた。それでお前はソフィアがザビ家の人間である事を知って幻滅するか?それとも・・・」
キシリアが最後まで言い終える前にシンは固い決意の表情と姿勢で答えた。
「いいえ!例えソフィアがザビ家の人間でなくても私、いや!俺にとって!大切な友人である事には変わりありません‼︎それに・・・彼女と過ごす内に俺は彼女の事が好きになってしまいました」
シンの口から出たソフィアに対する恋愛感情に聞いていたソフィアは頬を赤くしながら両手で口を隠しながらハッとする。
そしてシンはデギンとキシリアに向かって深々と頭を下げた。
「陛下!キシリア様!どうか‼︎ソフィアと結婚を前提にお付き合いさせて下さい!お願いします‼︎」
シンの突然のプロポーズにソフィアは驚くが、すぐにシンの右側に向かい、彼と同じくデギンとキシリアに向かって深々と頭を下げた。
「お父様!キシリア姉様!私からもお願いします‼︎シンとのお付き合いを許して下さい!」
二人の揺るぎない姿勢にデギンとキシリアのクスリッと小さく笑った。
「いいだろソフィア。そなたの想いと意志を尊重してシンとの結婚を前提にお付き合いを許そう。シン、許した以上は生半可な気持ちは絶対に許さんからな」
二人は喜びに満ちた笑顔で頭を上げ、シンはデギンに向かって敬礼をした。
「ありがとうございます!公王陛下‼︎」
「私も異論はない。ただしソフィア、彼は軍人の卵だ。付き合う以上は彼の側に居なくてはならいぞ。これからどうする?」
キシリアからの覚悟を試す様な問い掛けにソフィアは迷わず、覚悟を決めた表情と姿勢で答えた。
「私も!シンと同じく軍医科専攻の学生として士官学校に入学します‼︎まだ軍に対する嫌悪感はありますが、それでもシンの側に居れるのであれば!私は最後まで耐えられます姉様‼︎」
ソフィアのその姿勢にキシリアは納得する様にほくそ笑みながら小さく頷く。
「分かった。ギレン兄とドズルには私から伝えておこう。シン、妹を頼んだぞ」
「はい!キシリア様‼︎」
シンとキシリアはお互いに敬礼を交わした。
後日、デギンとキシリアの計らいでソフィアは特待生として士官学校へと入学する事となった。