ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE!   作:ケガレモ

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一章──怠惰なショウジョ、何を願いて
『築かれ行く日常』


 

──やばい、もう頑張れなさそうだ。

 

雲一つない青空を背に、ルルはそんな事を考えていた。今日は連邦生徒会の一室で書類仕事に励んでいた。正午から今の三時までひたすらに、珍しくサボったりせず。  

 

だが、そんな忙しなく動いていた手も、今は動くことを忘れたように微動だにしない。面倒臭くなったのも理由の一つに挙がる。しかしながら、そんなものじゃない。──ルルは絶望しているのだ、目の前の光景に。 

 

デスクの上、(かろ)うじて確保できた書くスペース以外、そのすべての空間を占領するのは、山のように積み重なる書類の束だ。それはデスクの上にも留まらず、床にすら置かれている。

 

納得はしている。ここは連邦生徒会、キヴォトスの政治を担い、管理する機関、入ってくる仕事は多いのだろう。──ただ、これだけは思うのだ。

 

「その膨大な量の仕事を一人に任せる労働環境ってやばくないか? よく今までこれで仕事回ってたな、連邦生徒会⋯⋯」

 

「ふふ、確かにルルの言う通りやばい仕事量だよね。やる気が出ないのも仕方がないくらいにね」

 

漠然と言うには明確なルルの疑問に、共感する声が一つ。その声が聞こえてきた方を見れば、ルルの正面、部屋の奥に(しつら)えられたソファに寝転び、大きなドラゴンのような尻尾をだらしなく揺らしている、桃髪の少女がそこにいた。

 

右手に持ったスマホを上に構え、明太子味のポテチをソファーの横にあるミニテーブルに、いつでもすぐ食べれるように設置し、その他にも必要なすべての物を近くに配置した彼女は、怠けることに余念がない。

 

我が物顔で居座っているが、この部屋はルルが貰ったものだ。侵入禁止の看板を立てたはずなのだが、なぜルル以外の人がいるのだろう。というか、彼女はいつからいたのだろう。

 

「⋯⋯ここ、オイラが貰った部屋のはずなんだけど、なんでアンタがいるんだ? 早く出てってくれよ」

 

「は? 嫌に決まってるんだけど。だって外に出たら、リンに見つかるじゃん?」

 

何言ってんの?──といったニュアンスを含んだ声。それに、ルルも呆れる他ない。彼女がリンに見つかることを嫌う理由は、自分が今サボっているところを見られ、烈火の如く叱られることを酷く恐れているためだ。だったら、仕事サボんなよ、とルルは思うのだが──。

 

「そっか。まぁ、それならオイラから言うことはないよ。別に、アンタがいたってそこまで邪魔って訳じゃないし」

 

「おお、流石はルル。リンと違って太っ腹だね。ま、私はそう言ってくれるって思ってたけど」

 

部屋の主から許可を貰い、笑みを浮かべる侵入者。その図々しい様にルルはお手上げして諦め、彼女のことを気にしない事にして、心の平穏を保つことにする。

 

書類仕事と先程まで格闘していたルルに対し、ぐうたらと怠惰を謳歌するこの少女の名前は、モモカと言う。ルルはまだ、モモカが働いているのを見たことがない。

 

現在のルルの格好だが、連邦生徒会の白を基調とした制服の上に、青パーカーと変な服装をしている。なぜか似合っている(やっぱり元がいいからかな)というのは置いておいて、問題はその制服を今現在もポテチを口に頬張っている、カウチポテトを地でいくこいつも同じく着用しているということだ。

 

そう、モモカもルルと同じく連邦生徒会のメンバーの一人なのだ。モモカは先生の上司に当たり、先生の助手であるルルの上司であったりするのだ。

つまり先生は、中間管理職みたいな立ち位置にあるのだが、連邦生徒会のトップであった連邦生徒会長という人から、ほぼすべての権利や権力を譲渡されているので、実際の立場は先生の方が上であったりもする。この辺はあんまり詳しくはないが。

 

「ところでモモカ、これはオイラからのちょっとした忠告だ。そろそろこの部屋から出た方が良いぜ」

 

「なんで? ここから動きたくないんだけど、理由は何?」

 

相変わらず、上から目線でふてぶてしいモモカ。そんな態度の彼女に、今更何か言う気は起きないが、来たる災禍に忠告してやるくらいはいいだろう。まぁ、明言はしてやらないが。

 

「ま、後で分かるよ。忠告はしたぜ? 後で文句はなしな」

 

「ふーん? ならいいや。あと一時間くらいしたら部屋から出るつもりだから、もう少し位良いよね」

 

──いいよね、断言しやがった。まぁ、それはさて置き、そろそろだ。

 

バタンッと、狭い空間に鋭く音が木霊する。その音にギョッと反応する者が一人、ニヤリと笑う者一人。

その音の発生源は部屋の入り口──つまりドアからで、雑に開かれたドアの中から整然と、一人の少女が姿を現した。

 

少し蒼みがかる、腰まで伸びた艶めいた黒髪。前髪の間から覗くのは、青空を写したような透き通る美しさを持つ双眸だ。その女性的な起伏に富んだ肢体を、皺のない連邦生徒会の制服に包んでいる。

そんな特徴を持つ者は、この連邦生徒会のメンバーの中に一人しかいない。その人物の名前は──、

 

「リンっ!?」

 

「はい。リンです」

 

笑顔を浮かべるリン。しかしながら目は笑っていないし、なにより額には青筋が浮かんでいる。そしてその空色の瞳には、モモカだけが映っている。

それを認識した──否、リンがこの場に現れてから、モモカの表情は冷や汗が顔の面積の大半を彩っている。

 

「えー、いやーその⋯⋯何て言うかさ?」

 

焦り上戸、とでも言うべきか。モモカはまだ何も言われていないというのに、焦る口調で言い訳のような、それでいて全く以て意味を感じない言葉を並べる。そんなモモカに、リンは大きく溜め息を吐き、

 

「ルルさん」

 

それから、リンはルルの方に振り向いた。どうして振り向いたのか、その理由をしっかりと察して、ルルはリンに頷く。

 

「分かってるよ。そうだな、後はリンのご自由にどうぞってこった」

 

「ふふっ、ご配慮ありがとう御座います」

 

笑顔で見つめ合うリンとルル。それをある意味傍観していたモモカは、勘付いたようにはっとした。

 

「もしかして私、終わった感じ?」

 

その質問に、ルルはニヤリとモモカに微笑み、

 

「ちゃんと、忠告はしたぜ?」

 

それからのことは、あまり憶えていない。絶望に顔を染め上げたモモカをリンは、その襟元を万力で握りしめ、通路を引きずって行く様子をルルは見届けた。そしてその数分後、どこからか絶叫が響いた事。それ以外は憶えていない。

 

モモカは反面教師として、ルルに少なくない影響を与えた。ルルはこの光景を初日にも見ている。そこから感じ取ったのは、身の毛のよだつ恐怖であり、ルルの体は怖気に鞭叩かれ、勝手に書類に向かっていた。

リンのあの怒気が自分に向くことを危惧すると、さしものルルも仕事に勤勉にならざるを得なかったのだ。

ちなみに、モモカがここに居るとリンにスマホで伝えたのはルルだ。

 

「モモカには反省して貰おう。ま、アイツはいくら叱っても反省するとは思えないが」

 

そう呟き、モモカが消えた部屋の中には、再び沈黙が満ちた。ルルの傍にあるのは、山のように積み重なった書類。そして書類の傍にいるのは、溜め息を吐くルルだ。

 

モモカがいなくなり仕事に集中しやすい状態になったとはいえ、この量を見てやる気を出せるかと聞かれれば、多くの人は「殺しますよ?」と返答するのではないだろうか。

いや、そこまで物騒な言葉ではないだろうが、馬鹿げた仕事量を課してきた相手に抱く思いなど、殺意と似たようなモノだろう。

 

「さて、気分転換にコンビニでも行くとするかな」

 

そう言って、席を立ったところで再びドアが開く音がして、ルルは「ん?」と眉を立てる。

 

「や、ルル。調子はどうかな?」

 

と、気楽な口調で問いかけるのはあの胡散臭い大人──即ち先生だ。ルルは彼に「まぁまぁって感じだよ」と軽く返答してから、

 

「とんでもない仕事量に、やる気は既にゼロになりかけてるけどな。でも、こんな素敵な部屋を貰ったんだ。こんな好待遇を受けて、怠けるのは流石にちょっとな? だから、しっかり頑張ってるよ」

 

そう、ルルは連邦生徒会に入ってから部屋を一室(あて)がわれた。物置き部屋を片付けて作られたその一室は、一人暮らし始めのマンションの一室程度の広さしかないものの、ルルは大いに満足していた。

 

マンションの一室と形容したが、それと違い、トイレやシャワールームは別にあるため、中々のスペースはある。事実、ルルには勿体ないほど上等なデスクと、備品から持ち出したミニテーブルとソファを置いても、狭さなんて感じなかった。

 

それにそもそも、一般の職員は個人の部屋など持っていないので、例え狭かったとしても文句は言わなかったし、特別待遇を受けていることも理解している。

この部屋を宛がわれた意図や理由は知ってはいないが、それはこの厚意に感謝しない理由にはならない。

だからルルは、意図に多少は込められているであろう期待に応えるために、連邦生徒会に所属してからの四日間、しっかり仕事を頑張っていた。

 

「そっか」

 

「でもな、毎度気付いたら部屋にいてぐうたらと怠惰を謳歌するモモカを見ると、そんな気持ちも何度か揺れそうになったし⋯⋯あと、殺意も多少湧いたけどな」

 

「もともと、あの物置き部屋はモモカがサボるのに使ってた場所らしくてさ、『勝手にそっちが部屋を奪ったんだから、別にここでサボる位良いじゃん?』って理由で、ルルの部屋になった今でもサボり場にしているらしいよ」

 

「それは⋯⋯詭弁(きべん)にもほどがあるんじゃないか?」

 

実に自分勝手な性格のモモカのふてぶてしい顔を思い出し、ルルはアンニュイな吐息を溢す。と、それから「あっ、そうだ」とルルは彼に聞きたいことを思い出し、

 

「ところで話は変わるけど、先生はいつもあの量の仕事をやっているのか?」

 

山のような書類を一瞥し、そうルルは先生に尋ねた。それに、先生は「うん、そうだね」と頷き、いつも通りの──否、少し陰のある微笑を(たた)えながら、

 

「というか、ルルが来る前は私の仕事にその書類のエベレストの七割を追加でやってたよ」

 

「エベレストって単語の意味は知らないが⋯⋯そう、なんだな」

 

前に先生の執務室に入った時に見たが、彼の仕事の量はルルよりも多かった。立場的に、助手であるルルより彼の方が仕事量が多いのは納得できるが、その仕事量自体は納得できない。

 

彼より仕事量が少ないルルですら、地面に置かねばならないほどの書類の束をやれと課されているのに、先生はそれより多いのだ。当然だろう。

そして、ルルが来る前はそれより多かったと言う。その信じられない程のブラックな光沢を放つ仕事環境を聞いて、ルルは一言。

 

「──まじで?」

 

「うん、大マジ。疲労困憊(こんぱい)、徹夜上等って感じ」

 

「語感良く言ってるけど、リズムに隠れてる内容が地獄みたいだな。ここは、ドンマイって言うべきか?」

 

「あはは、それ言われたら私の顔から滝が発生するんだけど。それでも言う?」

 

「いや、遠慮しとく」  

 

この顔マジだな、とルルは思っていると、先生は先程までモモカが使用していたソファに、疲れ込んだように座り込んだ。そんな連邦生徒会の闇を感じる様に、ルルは先生も己も哀れに思い始める。

 

「あっ、そうだ気分転換にコンビニに行かない? 缶コーヒー買いに行こうと思ってさ。トークでも交わしながらさ」 

 

とそこで、ルルの心を翳す、嫌な感情に染まった暗雲を振り払うように、先生はそう提案する。

 

「おっ、奇遇だな。オイラも同じ事考えてたんだ」

 

「じゃあ、決まりだね」

 

そう言って、先生は重い腰を上げ、背筋を伸ばす動作をし、

 

「いきましょうか、お嬢さん?」

 

爽やかな笑みを浮かべ、先生はルルに右手を差し出した。その紳士的な彼の態度に、「ああ」と頷いて、

 

「え?」

 

「ん? コンビニ行くついでに捨ててくれるってことだろ??」

 

その手に、空になったケチャップボトルを置いた。凝然(ぎょうぜん)と目を見張る先生に、ルルは素知らぬ顔で笑う。

 

「あっ、うん。じゃあ、それでいいよ⋯⋯」

 

「ちぇっ」と悪態をつく先生だが、ルルはそれに微塵(みじん)も反応を示さない。ここ数日で、この大人の対応の仕方の感覚を掴めてきた気がする。簡単な話、毎度発生する予想外なイベントに、こちらも予想外で返してやればいいのだ。

 

そうして通路に足を進めた先生は、行く途中でも頬を膨らませ、不服顔をしたりしていたが、結局最後はどこか楽しそうに笑った。

 

──この大人は、本当に人生楽しそうだな。

ルルは彼のそんな様子に、そう心で呟いた。

 

 

*

 

 

──コンビニ。

 

正式名称はコンビニエンスストアであり、直訳で「便利な店」。この世界の至る所に存在し、何でも置いてある魔法の店だ。

 

飲み物やお弁当などの飲食物から、日常雑貨にグレネード弾まで──。偶に靴なんかも売ってるもんだから、過言抜きで何でもある。

恐らくとつけるまでもなく、ルルがこの世界に来てから最も利用した施設だ。深夜にカップ麺を買いに行くあの背徳感は、他に変えられないものがある。

 

そんなコンビニだが、ここ連邦生徒会、シャーレにも存在する。『エンジェル24』──それがシャーレに併設されたコンビニの店名だ。

しかしながら、あんまり人は来ない。連邦生徒会のメンバーの多くはだいたい通販などで、飲食物を買い求めるらしい。最近はすごいもので、ドローンが室内まで入って届けに来てくれるみたいだ。

 

そんな技術の進歩のせいで悲しいかな、コンビニの「いつでも、どこでも、何でも。近くで便利な働き屋さん」の(うた)い文句は優位性を失った。そんなコンビニを哀れに思った訳ではないが、ルルはここを贔屓(ひいき)にしていた。

 

と言っても、まだたったの四日間ではある。距離的に、ここはちょっとした運動を兼ねた気分転換にも丁度いいし、人がいるために安心感があるというのがここを利用してる主な理由だ。

 

「よう、ソラ。久しぶりだな」

 

入り口から二歩ほど進んだ後、ルルはそこにいる店員であろう人物に声をかけた。その声に振り向いたのは『エンジェル24』と書かれたエプロンを着用した小柄な金髪の少女だ。

 

ルルより一回り小さな背丈の彼女は、濃い空色の紫陽花(あじさい)のような綺麗な瞳を持っている。愛嬌のある顔立ちとイタズラに見える八重歯は、可愛らしいというより、愛らしいという評価が相応しいだろう。

 

「え? 久しぶりって⋯⋯三十分前、来てましたよね?」

 

少しの困惑が、金髪の少女──ソラの声に表れている。

それを気にする素振りもなく、ルルは飄々とした調子で話す。

 

「ん? オイラにとっては久しぶり、なんだぜ。そんで、アンタは相変わらず忙しそうだな。──ちゃんと休憩してる?」

 

「そ、そうなんですっ! 店長も酷いんですよ、ちょっと予定入ったって言ったきりで⋯⋯もう、四時間も帰ってきてないんですよ? おかしいと思いませんか?──はぁ⋯⋯」

 

表情には少しの怒りが込められ、言葉の最後に吐かれた溜息には疲れが見える。これに関してはドンマイと言う他ないだろう。そんな彼女にルルができることは労いだけだ。

 

「無責任な言葉だって思うけど、ま、頑張ってくれ。少なくともオイラは、アンタのこと応援してるからさ」

 

「⋯⋯まぁ、そうですね。ありがとう御座います。もう少し頑張ろうって思えました。⋯⋯えへへ」

 

「そりゃどうも」

 

少し照れたようにはにかむソラに、ルルは励ました甲斐があったと目を伏せる。──とそこで、

 

「──あっ、いたいた。ルル、先行かないでよ。ルルって目を離したらすぐに姿が消えるよね。ほんとに」

 

コンビニ特有の甲高く、中毒性の高いメロディーが店内に響き、開いたドアからそう話すのは、お察しの通り先生だ。彼の発言に、ルルは片目を開けて、

 

「なに親御さんみたいなこと言ってんだ? オイラはアンタの可愛い娘じゃないんだぜ?」

 

「え〜? 違うのー?」

 

「違うぜ、絶対な。逆にどうしてそう思ったのか不思議だよ。⋯⋯ま、今のオイラがガキンチョであることは否定しないけどな」

 

相変わらずの先生の態度に、ルルはもはや特に何も感じなくなってきたものだ。慣れとは末恐ろしいものだと思いつつ、視線を再びソラに向ける。

 

「あっ、先生もいらしたんですね。いらっしゃいませ」

 

自分の存在に気付いたソラに「うん」と軽く返事する先生。ルルはその様子を見て、ここに来た目的を果たすことにする。

 

「いきなりってのも変だけど⋯⋯『例のもん』、約束通りしっかり仕入れてるよな?」

 

「はい。『ケチャップ』ですね。奥の調味料の棚に並べてあります」

 

ソラはその方向を指差して、元気よくそう言った。

ルルはそれを聞き、内心でちょっぴり歓喜する。

 

「相変わらず物好きだね。ルル」

 

そう言いつつ、先生は右手に持っていた空のケチャップボトルをゴミ箱に投げ捨て、ホールインワン。

 

「ハハ。オイラにとって、ケチャップは命の次に大切なもんさ」

 

血のような紅にその身を染め上げ、透明な容器(ドレス)はその美しい液体状の素肌をあられもなく晒け出している。

その姿はまさしく「美」であり、キャップという名の禁断の扉を開き上げ、甘い口づけを交わしてしまえば、もはやそこから抜け出す(すべ)はこの世に存在しない。

 

シンプルな見た目に反し、その溢れる魅力は食欲だけでは説明できぬほどの人々の情欲を掻き立てる味の奥深さを持つ。それが、ルルが前世から好き好んで飲食する『ケチャップ』という代物だ。

 

まじでうまい、本当にうまい、ずっと飲んでたい。

自分でも、いつからこれを肌見放さず持つようになったのか、きっかけは覚えていないが、劇的な出会いではなかったことは覚えている。

 

そんなケチャップだが、連邦生徒会に来てから初めて『エンジェル24』に来た時、なんと店内のどこを探しても見つからなかった。それに気付いた時、膝から崩れ落ちる妄想をしたことを覚えている。

 

そこで、最後に頼みの綱の店員──ソラに聞いてみたところ、なんと仕入れてくれると言ってくれた。それを聞いた時、崩れ落ちた膝が飛び跳ねた妄想をしたことを覚えている。

 

──かくして、ルルは今日ここにケチャップを買いに来た訳だ。

 

「あっ、そういえば来週の週始め、出張することになったよ、私」

 

高い棚に置いてあるケチャップを、つま先立ちで取ろうとしてるルルに、先生がそんなことを急に言い出した。

 

「それって、オイラも行くのか?」

 

「初日は私だけ。で、二日目から君も行く感じ」

 

出張、それを聞いて特に思うことはない。 出張中は書類仕事をしなくて良いとか言うなら、今すぐにでも出張したい所存ではある。まぁ、そんなことある訳ないだろうが。

 

「なるほどね、ちなみにどこ行くんだ?」

 

浮き出た希望的観測を「やっぱないな」と振り払うように、棚に向かって伸びていた手を下へと戻して、ルルは先生に振り向き、質問する。

 

「アビドス自治区にある学校。アビドス高等学校ってとこ」

 

「アビドス⋯⋯柴石があるとこだったな」

 

あの店は、ルルのお気に入りである。出張中どこに泊まるか、というかそもそも泊まらないかは知らないが、食べに行ける機会は多いだろうし、結構嬉しいものだ。

理由はそれだけではないが、初出張としては中々に良い場所ではなかろうか。

 

「そそ、前一緒に食べ行ったよね」

 

「助手になるとか話しした日な。ちゃんと覚えてるよ」

 

「まぁ、細かい話はシャーレに帰ってからにしよう。ゆっくり休みながらさ。──よいしょっ、と」

 

そう言って、先生はルルが取り損ねていたケチャップボトルを取ってくれた。「はい」と渡されたケチャップボトルをルルは受け取る。

 

「そうだな。帰ってゆっくり、これが一番だよな。あと、取ってくれてありがとな」

 

個人的に遠くに行ったりするのは好きだ。未知に遭遇したり、または思わぬ収穫があったり。そういう面白い出会いがあったりするからこそ、人々は日々のストレスを払拭するために旅行なんてするのだろう。

この世界に来てからはそんなのばっかりで、今更言うのも変な感じはするが、楽しいと思えるならそれで良いだろう。

 

「さて」

 

次はどんな出会いが待っているのだろうか、とロケ番組の最後とかに聞こえてきそうなセリフを脳内再生しつつ、目当ての物を手に入れたルルは気持ちスキップでレジに向かった。

 




ケチャップのくだり、自分でも何書いてんだろうと正気に戻りかけましたが、もう一度読み直したらちょっぴり興奮してしまったのでそのままにすることにしました。

ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜

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