ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE! 作:ケガレモ
「──ぅ」
カーテンの隙間から差しているであろう陽光が、熱という針で
それによって、さっきまで顔に鬱陶しく照りつけていた日差しは消える。ルルは目を
その景色は、どこか幻想的であった。ルルの目前、 小さな精霊のような物体がフワフワと不規則なワルツを踊っている。それは陽光を背に浴びることで輪郭をはっきりと映し上げ、その様子を鮮明にして──、
「いやこれ、部屋に浮いてる塵埃だ。──まぁ、良いか」
腕を頭を後ろで組み上げて、気持ちよく体を伸ばす。 それだけでルルに起床を強制した陽光への不満は消え去り、代わりに一日の始まりを感じさせる爽やかな気分に変わった。
現在、ルルはミレニアムの寮で生活している。 ルルが金欠というか、ほぼ一文無しで今日まで生き延びられたのは、ミレニアムに入れたのが大きい。驚くべきことに、ミレニアムの生徒はミレニアムに広がる寮の一室を実質ただで借りることができるのだ。
電気代と水道代は無料であり、非常な好待遇と言える。 ロアの情報を得るためだけの理由で、入る学校をミレニアムに選んだルルからすると、棚からぼた餅なのは間違いない。最高だ。
そして、ミレニアムが負担してくれない食費はどうしていたかだが、なんと先生に相談したら直ぐにバイト先が見つかったのだ。今は連邦生徒会に入り、先生の助手になったことで金に関する不安は一切ない。やっと脱線していた人生の路線に戻れた感じだ。
「よし、朝のストレッチ終わり。やっぱり朝一のストレッチは気持ちが良いな」
毎朝の日課を終え、気持ちよく吐息を吐いてから呟いたルルは、それから時刻を確認すべく、ベットの横の棚に無造作に置かれた目覚まし時計に顔を向ける。
「⋯⋯ん?」
それを認識し、ルルは目を擦ってもう一度確認し直した。その十二個の数字が書かれた時計盤の中心から伸びる二本の針──そのうちの短い方は「7」付近を指し、長い方は「8」を指している。これはつまり、現在の時刻が七時四十分くらいで、ここから導かれる結論は──、
「遅刻ギリギリじゃないか⋯⋯っ!?」
その瞬間、ルルの体は宙に浮いた。それは布団から疾風の如く飛び出したからだ。グチャグチャになっている寝具のベッドメイキングは後回し、ルルは可及的速やかに行動を開始する。
顔に水をぶちまけ、歯ブラシ片手に寝巻きをベットに投げ捨て、代わりに先生が用意した半袖の連邦生徒会の制服に袖を通す。蛇口から滝のようにでる水道水を口腔に乱暴に出迎えて。
そして衝撃と共に洗面台の中心に向かって吐き出した。いつもの青パーカーをひとまず羽織るだけにし、部屋の隅にある冷蔵庫から水が入ったペットボトルと、
「これだけは、やっぱり外せないよな」
ケチャップボトルを一つまみ。そうして靴を履いたルルは虚空に向かい、こう呟いた。
「──ショートカット」
そうして散らかった寮の一室から一人の少女の姿が、蜃気楼のように掻き消えたのだった。
*
「あっ、今日は早いのね、先生」
ドアが開き、教室に入って来た黒髪黒目の大人、見方を変えれば好青年にも見えなくもない彼に向かって、彼女はそう話しかける。
「あはは⋯⋯前は散々だったからね。ま、あれはドチャンコに広いアビドスのせいだから、仕方ないよね」
若干皮肉の込められた言葉だが、言い訳する大人──先生の表情は微笑んで変わらない。そんな彼の相変わらずの態度に、呆れたように彼女は吐息を溢す。
「言い訳もここまでくれば賞賛ものよね。⋯⋯ドチャンコって、初めて聞く修飾語ね」
「言い訳だなんて心外だなぁ。実際アビドスが広いのは事実だし、私が迷子になった原因はそのせいだと思うよ?」
「アビドスがすごく広いってのは認めるけど、それは来る前から事前に知ってたことなんだから、迷ったのは先生の自己責任でしょ。──それでその、突っ込むか迷ったんだけど⋯⋯これって良いのよね?」
「ん? 何か気になることでもあったのかい?」
頬に少しばかりの朱を差し、少し
「なんで、さっきからシロコ先輩の耳をモフってるのよっ!!」
容赦なく、そう声を張り上げた。さっきまで見えた呆れのような色から一転し、今の彼女の瞳には変態でも見るような少しの軽蔑の色が含まれている。
「ん、気付いたらモフられてた。気配も感じなかったし、一瞬で間合いを取られた。──恐ろしい」
その彼女の張り上げる声に、狼耳をピクリと動かし反応したのは、彼女がさっき口に出した人物──シロコだ。淡白とした感じに、それでいて何でもないようにシロコは語る。銀光煌めく、灰色に近い配色の髪、その上には髪と同色のモフモフとした毛並みの狼耳がある。
先生はこの教室に入ったその刹那、入り口の傍にシロコが立っていることに気付いた。それからするりとシロコの元へ移動し、彼女の耳をモフり始めていたのだ。平然と、まるで当然のように。
だからこそ、彼女は突っ込まずにはいられなかったのだ。
「そういうことじゃないんだけど⋯⋯本当に、先生って何者なのよ⋯⋯」
今だにモフることを止めない先生と、モフられることにやぶさかではない様子のシロコに、もはや諦めてそう呟いたのはツインテールに黒髪を束ねる、猫耳を携えた少女──セリカだ。
双眸は情熱の赤に彩られ、彼女の激情的な一面がそこに表れている。ツンツンとした検のある物言いだが、彼女の本質は優しく、それでいて純正なツンデレ属性だ。それを理解している先生は、彼女のことを生暖かい目で見ている。
「私が何者なのかって? 日本育ち、日本生まれの極々一般的なナイスガイだけど?」
「ニホン? 聞いたことのない場所ね」
自称ナイスガイな先生は、セリカの疑問にそう応える。その回答に、セリカは首を小さく
「別に知らなくて良いよ。簡単に言うと極東にある小さな島国。そんだけさ」
そう、告げた。語る彼の表情は、どこか寂しそうに見えた──とセリカがそう思ったのも束の間、先生の両手の様子を見て、彼女はまた呆れた顔を見せる。
モフり、モフりと擬音でも鳴りそうな感じに、先生は会話の最初から今に至るまで、そのモフる手は一度も止まっていない。シロコの狼耳がどれほどの魅力を先生に与えているのか、その様子だけでも充分に理解できることだろう。
そんな最中、指先が少し奥へと耳に触れ、シロコはピクリと耳を
動物は気を許したり、信頼している相手には身体の一部を触れさせることを許したりするモノ。それは高い知能を持つ人族なども例外ではない。先生はシロコがそれなのだと再認識したことで、口の端の歪みが少し深くなり、モフる速度が指数関数的に上昇していく──、
「もうっ! いつまでやってるのよっ!!」
顔を真っ赤に染め、視線を横にずらしながら提言するセリカ。それに先生は「ごめん、ごめん」と指先で
「まぁまぁ、良いじゃないですか。生徒と先生が仲睦まじい関係を築けている証ですよ」
とそこで、何がとは言わないがメロンサイズなそれを持った少女──ノノミが穏やかな口調で、会話に参加する。彼女の緑色の瞳が、賛同を求めるようにセリカから先生に移る。それに、先生は仲間を得たとばかりに力強く頷き、
「そうだよ、セリカ。これはただのボディタッチくらいのものなんだよ。信頼関係を築く上でも、こういうことは必要なのさ。分かるかい?」
「ごめん、ダメな大人の言い訳にしか聞こえないのは私だけなの?」
そう言ってちらとノノミに視線を送るセリカだが、返ってきたのは微笑みのみ。ならばとシロコを見たが、彼女は先生にまたも狼耳を抵抗もせずにモフられ始めていた。味方はいない。そうなってしまえば、もはやセリカは口を閉じるしか選択肢は残されていなかった。
そんなセリカの発言の最中、一瞬にも満たない時間であるが、先生の目線がノノミの双丘に目移りする。が、先生は叩き上げた鋼の意思でその欲求をねじ伏せ、視線を他に移した。
情欲に溺れない、実に紳士的な神経を持ち合わせる先生だが、シロコの狼耳をモフりたい欲求は抑えられないのだから、不思議なものだ。いや、彼について理解しているならそれは間違った評価だろう。
先生、彼は生粋のケモナーである。彼という人間を語る上でこれだけは外せない要素だ。元々、ただの動物好きであった彼が、なぜ性癖へと変じたのはやはり環境が原因の一つと言える。
太陽系、第三惑星の地球、その中にある国々の一つ──日本は彼が生まれ、心身と共に性癖を育んだ場所だ。日本はいわゆる創作活動が盛んであり、それは他の国々にも高い評価を得ている。漫画、アニメ、ラノベなど、様々に紡がれる物語の中、特に異世界系とも称される題材では、度々見かける者達がいる。
動物の耳や尻尾を携えていたりする、身体の一部がその動物の特徴を模した構造になっている人のような見た目で、似て非なる種族。それらは作品によって名称は異なるものの、それらは主に「獣人」や「亜人」などと言われ、その特徴は殆ど同じだ。
そんな彼らとの最初の出会いは、一つのアニメだった。それはもう劇的で、運命のように感じたと今の先生は語る。昔、友人の家に訪問した時、それは彼の瞳に映り、そして焼き付くに至った。
まず目についたのは、大きなうさぎのような耳。太い尾と、黄緑色の瞳には水平でヤギのような瞳孔を見え、白い頭髪が幻想的な印象を助長する。薄い体毛は全身を覆い、白い頬には薄色の髭が生えていた。
んなぁー、と特徴的な鳴き声のような語彙を使う、その獣と人間のハーフのような見た目をした生者の姿に、先生は思わず見惚れ、感銘を受けたのだ。そこからは語るまでもない。それが、彼のケモナーへの一歩を踏み出したきっかけであった。
そんな彼はキヴォトスに来て、それはもう歓喜した。窓を覗くと眼下に歩いていたのだ、まさしく二次元の中にしか存在しなかった彼が。そうして、今のシロコの狼耳をモフる彼に至る。
「あれ、そういえばホシノは? 屋上で昼寝でもしてるのかな」
ふと思い出したように、先生は『アビドス廃校対策委員会』の教室を見渡し、一人の生徒の姿が見えないことに気付く。
「ホシノ先輩はまだ来ていません、珍しいですよね」
教室の中央においてある大きなテーブルを跨いだ先で、先生の問いかけに礼儀正しく応えたのは黒髪に、赤い眼鏡を掛けた少女──アヤネだ。心配などまるでないように微笑む彼女を見れば、己の先輩にどれほどの信頼を寄せているのか、よく分かる。
「本当にね。いつも誰よりも最初にいるんでしょ? ホシノって」
「はい、何かトラブルにでも巻き込まれていないといいのですが⋯⋯」
「そうだね。──あっ、そういえば⋯⋯」
そう言いかけて、先生は思い出したように手を叩いた。その小さな破裂音に反応し、部屋にいた者達の視線が彼に集まる。それを確認して、咳払いをした先生はさっきの言葉に付け加えるように話し始めた。
「今日は、私の助手兼、護衛兼、秘書兼、右腕(するつもり)が来る予定だから、よろしくお願いね」
「どんだけ兼ねてるのよ⋯⋯」
「ん、護衛って言った。その人、強いの?」
セリカの呟きは他所に、シロコは興味本位に聞く。相変わらず、戦闘狂的な考えがまず出てくることに先生は苦笑いを浮かべる。
「彼女は自分のことを弱いって言ってたよ。まぁ、私もまだまだ彼女と知り合ってから長くないし、その辺はあんまり分からないけどね」
「それは残念⋯⋯」
両手を挙げて、先生は分からないとポージングでアピール。少しがっかりしたようにシロコは目を伏せる。
「先生の助手、ですか。どんな人か会うのが楽しみですね」
「そうですね」
もうすぐ会うことになる先生の助手を想像し、ノノミとアヤネは笑みを交換する。しかし、きっと思い描いた人物像は的外れなモノになるだろう。あの助手は傾国級の美少女である反面、その中身はどこか近所のおじさんを想起させる調子の良い性格の、凄まじいギャップの持ち主なのだから。
「道に迷ってたりしないといいんだけどね。まぁ、
「もしかしたら、ホシノ先輩と一緒に来たりするかも知れないわね」
「ははは、そうだったら面白いね」
セリカの予想に、楽しそうに笑った先生は窓へと視線を向ける。眼下、砂が舞い散る校庭の様子と、その更に先にある校門を眺めた。それから先生は、口の端を少し開いて、
「⋯⋯やっぱり、似てるなぁ」
そう、静かに呟いた。
「何か言いましたか?」
その先生の呟きを聞きつけ、アヤネが先生に振り向く。しかし、その疑問を先生は手を横に振って否定する。
「いや、別に何でもないよ。
その言葉に、まだ来ていない一名を除いたアビドスの面々は頷いた。
*
吹き荒れる風に巻き込まれ、太陽光を反射して黄色く輝く砂が、風景に幻想的な要素を付け足している。それに加え、ボロボロに廃れたビルや、機能を失い捨てられたであろう廃車などが過去の栄光を語っていた。
その退廃的な美しさのある景観の中、青いパーカーを腰に巻き、カンカンと照りつける陽光に煌めく汗を暑そうに拭う少女がいた。そう、ルルだ。手足は鉛のように重く、一歩一歩地面を踏みしめた時に感じる重力が疲れを加速させる。地平線の先まで続く、砂が織り成す景色にルルは溜息を粗く吐いた。
「はぁ、どこだよ、ここ⋯⋯」
そう呟いて、ペットボトルの口を唇へと寄せて傾ける。グビグビと喉が小気味良い音を鳴らし、流れ込む水の冷たい感覚で一瞬の疲労感の消失を味わい、そして数歩歩いた先でまた疲労感が舞い戻ってくる。──それを何度繰り返しただろうか。右手に持っていた透明な容器を上に翳し、ルルは中身を確認する。
「あー、これはやばいな。もう水もなくなっちまった」
現在、神楽ルルは絶賛迷子だ。言い方を変えれば遭難だが、それは事が重大になった感が出て気が滅入るので、迷子という事にする。
砂が絡まりガサガサになった髪の毛を鬱陶しく思いながら、ルルは瞑目し、どうするべきか考えていた。まず最初に、『ショートカット』の能力を使い、柴石に近くにある人気の無い薄暗い小路に瞬間移動したところまではまぁ良かった。
この力『ショートカット』の能力の真骨頂は長距離移動にある。一度行った場所なら、時空の壁を跨がない場所ならどこでも行けるのだ。とはいえ、距離が遠くになるにつれて消費される神秘は凄まじく増えるので、便利な反面、あまり使いたくない代物だ。
それに、そう思う理由はもう一つある。前にも言ったが、この能力を自分が持っていると知られるのは色々と面倒なのだ。それに一度クソみたいなミスも犯してるので、使うかは大分躊躇った。
「でも、出張初日から遅刻するのは流石にな」
だが、出張初日での遅刻は『神楽ルル』の沽券に関わる重大な問題であるため、使用もやむなしだった。前世はこの能力を使い、地下世界で自由に移動していた。地下にいる奴はほぼ全員知人だし、例えバレても頼れる仲間がいたからそんな事が出来ていた。
それがどれほど恵まれた環境だったのかと、今は思う。そんな故郷に向けてこの能力を試しに使ったことがあるが、ルルが元いた地下世界に戻ることは出来なかった。それはつまり、やはりここは異次元にある世界──異世界とか言われる場所なのだと思う。
「まぁ、そんなことはどうでも良い。今はこの直面した問題の解決について考えるべきだ。──というのもさておいて、ほんとに人の気配がないな、アビドス⋯⋯」
まだアビドス自治区に入ってから数十分程しか進んでいないが、その間一度も止まっていないし、それに前提としてルルは神秘を持つギヴォトス人だ。最初の五分は逸る焦燥感で疾走し、体感二十キロはそこで進んでいたと思う。
だというのに、それで一度も人に会わず、そもそも人が生活している痕跡すら見当たらないのだから、現在のアビドスの廃れ具合には
「──ってか、五分で二十キロって時速二百四十キロで走ってたんだな。これじゃ、ヒナのこと言えないな」
前の自分の身体では考えられない
──アビドス自治区。
そこは砂に愛され、砂に呪われた場所。元々はとても栄えていた学園の一つであったアビドスだったが、突如自治区内で発生した度重なる大規模な砂嵐によって自治区は半崩壊し、殆ど機能しなくなった。アビドスは今や、砂に包まれた衰廃した場所になってしまっている。
それでも吹き荒れる砂塵にやられ、一度は枯れてしまった栄光を再び咲き誇らせたいと願い、学校の復興のために活動する者達がいた。それが今日の目的地、アビドス高等学校にいる生徒達だ。崇高な目標を掲げ、日々尽力している彼女達だが、一昨日まで危機的状況に陥っていたらしい。
というのも、とある不良集団がアビドスの校舎を自分達の基地にすると宣言し、数十日前から襲撃を続けていて、その度に彼女達は武力的交渉を以て不良らを退けてきたのだが、そろそろ物資が底をつきそうになっていたのだ。
また不良集団がアビドスに襲撃を仕掛けてこないとは限らず、物資の補給ができなければ、次の戦闘での勝利は限りなく不可能に近かった。そこで彼女達は、困っている生徒達に手を差し伸べる『連邦捜査部シャーレ』の先生に助けを求め、手紙を送った。
手紙を確認した先生は、彼女達を助けるべく一昨日は一人でアビドスに
アビドスの校舎を狙う不良集団を何とかしようと、先生は今日もアビドスに出張という名目で助けに赴いたのだ。そして今日の彼の出張には、本来一昨日も一緒に来るはずだった、彼の助手であるルルも来ることになった。しかし、その助手は絶賛迷子の子猫状態で、犬のお巡りさんの出現を願っている状態であった。
「たまげたことに、この世界にはマジで犬のお巡りさんは居るんだよな。まぁでも、こんなとこに来てくれることを期待するのは現実的じゃない。自分で何とかするしかないよな。──よし」
自力でこの迷子状態から抜け出すことを決心したルルは、横に振り向き、そこにあったものに向かって手を伸ばした。廃屋を囲う柵の間に挟まっていた丁度良いサイズの木の棒。それを取って、ルルは右手に持った枝を地面に突き立てる。
「どうだ?」
それから手を離し、枝に掛かる重力に次のアクションを任せる。すると、カタっと軽い枝が地面に当たる音がし、倒れた枝は目の前にあるY字路の右へ進めと教えてくれた。作戦名『運に丸投げ神頼みばっちこい作戦』の実行は、これにて成功だ。
「ハハ。我ながらあんまりな作戦だな。ま、運に関しては結構自信がありなんだよな」
これまで道に迷っても勘や運に頼って進めば、だいたい正解の道を引き当て、目的地に辿り着いていた。だから今回も自分の運を信じて、ルルは示されたその方向に歩みだし、
「ぁ、え⋯⋯?」
意識が暗転し、地面に無抵抗で落下した。次に額を劈くか如く生じた痛みという名の衝撃が、意識を再び現実へと回帰させる。
途端に、喉の奥から込み上げてくる熱を纏った不快感を必死に堪えつつ、己を嘲笑するように震える膝に視線を振る。
意思を込めても屍のように動くことを知らない己の肉体に、引き攣った笑みが浮かんだ。
「⋯⋯熱中症」
この現象に、思い当たることを呟いた。暑い場所で長時間動き続け、水分不足に陥ると発症しやすい病気。外出してから数十分しか経っていないのに、と言い訳したい気持ちは、身体に巡る酷い倦怠感と不快感によって今は後回しだと掻き消される。
ただただ今の己の状況を鑑みて、ルルは絶望していた。手足が動かなければ、助けを呼びに人を探すこともできない。まだ機能している喉も、時間経過で枯れた音を出すだけのモノになる。
──こんな所で、動けなくなるなんてな⋯⋯。
それでもまだできることはある。声を上げて、助けを呼ぶ。逆にそれだけしかできないが、しないよりはマシだ。
「──誰か、助けてくれ⋯⋯」
だが、もはや声は掠れ切っていた。こんな声が、人に届くことなんてないだろう。それを今、やっと理解して、ルルは考えないようにしていた一つの可能性に徐々に思考が奪われていくのを感じた。
──ああ、ここで終わってしまうのか。
そんな悔恨と虚無感に滲んだ不吉じみた思考に。
ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜
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ワンッ!(イエス)
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バウッ!(ノー)