ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE!   作:ケガレモ

13 / 16
次の投稿、2週間後ぐらいになります。
ちょーと予定入ってしまいましたので、よろしくです。


『追憶の邂逅』

 

「──いいよ」

 

そんな時、雪景色のように淡い、蕩けるような声が聞こえた気がした。 だが、きっと幻聴か何かだろう。ルルにまだ生きる希望を与えるために、脳が作り出した幻の類。

 

今思うと、この世界で死を間近に感じたのは二回目だ。

一度目は神秘の使いすぎだった。あの時はとっさの行動だったが、もしルルがあの時重力魔法を使わなければ、多くの命が失われていただろう。 だから死ぬと思った時、後悔は無かった。

だが、これは違う。無意味な死だ。(みじ)めな死だ。 みっともなくて、それでいて怠惰な自分が招いた残念な結果──、

 

「⋯⋯あれ? 聞こえてないかな」

 

再び、その鈴の音のような淡い雰囲気を纏う声が鼓膜を打った。 そして気付く、それは幻聴ではなかったのだと。その瞬間、ふと希望に唇が歪んだのを感じた。

 

「⋯⋯悪い、幻聴かと思ったんだ」

 

酷い耳鳴りに鎮まるように願いつつ、ルルはそこに居るであろう彼女に向けて、そう言った。

 

「そっか。──じゃ、とりあえず」

 

返ってきた言葉に、やはり幻覚ではなかったのだと安堵した。そして──、

 

「おおっ⋯⋯と?」

 

身体が宙に浮く、次に薄れていた意識で周りを確認してみるといつもより視界が高いことに気付いた。目線を下げると、頭のようなモノ──いや、間違えようのない人の頭が、そこに見えた。

 

「そんで、なんでオイラをおんぶしたんだ?」

 

それが今のルルの状態と事実だった。その問いに、「んん?」と首を傾げたように反応する彼女。

 

「まぁ、こういう時はお互い様ってやつじゃない?」

 

「いや、そうじゃなくてだな。なんでおんぶしたのかっていう──」

 

「だって、動けないでしょ君? 流石にまだ」

 

顔は見えないが、微笑んだように感じた彼女。それを見て、ひとまず信用していいなと、ルルは思った。というか、信用以前に彼女が居なかったら真面目に死んでいた可能性があるので、感謝の念が絶えない。

 

「うーむ。確かに、ぐぅの音しかでないな」

 

「ぐぅの音はでるんだね」

 

そう突っ込みを入れた彼女は、片手に持った水の入ったペットボトルを上に──ルルに向かって手渡してきた。それに ルルは「ありがとよ」と軽く感謝を返して、それを受け取る。 それからキャップを雑に開き、ボトルを上に傾け、音を鳴らして乱暴に喉に流し込んでいく。

 

「ぷはぁ。ホントにありがとよ、マジでデッドオアデット的な状況だったからさ。まぁ、あれだ。この恩はツケ払いにしとくぜ」

 

感謝感激雨あられ──。この言葉の使い時は、こういう時なのかも知れないと思いながら、ルルは水という名の、この状況ではポーションにも勝る回復アイテムによって、いつもの飄々とした調子を取り戻すことに成功した。

 

「うん。確かに、今の君、なんにも返せそうなモノ持って無さそうだもんねぇ〜」

 

「事実ではあるが、酷い物言いだな。⋯⋯まぁ、別に構わないけどさ」

 

「えーと、それで、君はどこに向かってたのかな?」

 

ルルの不満を込めた物言いには答えを返さず、代わりに彼女から返ってきたのは一つの質問だった。彼女の移動によって身体が上下に揺れるのを感じながら、ルルはその質問に答えるべく、口を動かし始めた。

 

「アビドス高等学校ってとこにな。ちょっとした予定があってね」

 

「──。へぇ、奇遇だなぁ。おじさんもそこに行くんだ。目的地は一緒だし、このまま君が大丈夫って言うまで、運んであげるよ」

 

「おお、それは有難いね。ちなみにだけど、そこってどんなとこなんだ? 知ってたらで教えてくれると嬉しい」

 

頭部しか見えない彼女に感謝の言葉を投げ掛けて、続けて良かったらと、質問を飛ばす。それに彼女はルルに「いいよ」と笑い、

 

「良いところだよ、簡単に言えば。まぁ、と言っても清掃も行き届いてないし、生徒の人数も少ない所だけどさ」

 

「そう、なんだな」

 

聞いて、それはそうだろうな、と納得してる自分がいる。言い方は悪いかも知れないが、こんな廃れた場所に人が沢山いるとは思えない。だから、そんな場所に建てられている学校に、生徒だけは沢山いる。なんてことはないだろう。

 

「このままおんぶして貰って楽してたい気持ちはあるんだが⋯⋯流石にこれ以上は申し訳ないから、もうそろ降ろしてくれると助かる」

 

少女が少女をおぶっているという絵面は、百合好きが声を上げて歓喜しそうなモノなのだが、おぶられている少女の中身が怠け腐った大人だと知ったら、話は変わってくるだろう。

 

それは当人も同じで、何とも言えぬ場違い感と己の情けなさに拍車が掛かっているようで、どうにも気が済まなかった。

彼女に申し訳ないと思っているのも事実ではあるが、それと同じくらいにそんな感情が心に浮かんでいるのである。

 

「ん? そう? じゃ、降ろすよ」

 

そんな軽い許可の声と同時に、ルルの太ももを下から支えていた両手はゆっくりと離される。そのことにちょっと安堵しつつ、ルルの小さな身体は物理法則に則って、地面に引き寄せられ着地するに至る。ちょっとまだ体がふらつくが、このくらいなら大丈夫だ。

 

「ありがとよ。それでアビドス高等学校まで、どのくらい掛かるんだ?」

 

ふと気になって、ルルは彼女にそう質問した。

 

「あと十分くらいかな。いやぁ、君も災難だったねぇ。あんな道端で倒れちゃうなんてさ。おじさんがたまたま居合わせなかったら、危なかったんじゃない?」

 

「そうだな。正直なところ、まじで危なかったよ。だから本当に感謝してるんだぜ?」

 

そう言って、ルルは目を伏せる。本当に、彼女には感謝しか出てこない。ルルの全身を(ねぶ)るように強烈に照りつけた日差しに、無防備に晒されながら、意識が朦朧していたあの状態だ。もしも彼女が来なければ、ルルはあのまま果たそうとした責務を全うできずに、乾燥した死体になっていたと思う。

 

「──ん」

 

それからルルは、さっきまでおぶって貰っていて全身が見えなかった、その恩人である彼女を両目で正面に捉えた。身長は、ルルより幾分かだけ小さいだろうか。腰の辺りまで伸びた、綺麗に流した桃色の長髪は彼女の行動一つでフワリと揺れるのは、見てて面白い。

 

ほんのり桜色の唇は、瑞々(みずみず)しく実に可愛らしい。整った顔に形良く配置されたパーツは、まさに美少女というのに相応しく、彼女の可憐さを一押ししている。

 

このキヴォトスには美少女が多い。それでも彼女の一際珍しい『それ』に、ルルは目が離せなかった。黄金色と深海色に染まった、世にも奇妙な色違いの瞳。確か、オッドアイなどと言われるモノで、それが自然に生まれる確率は万に一つもないらしい。その特異で神秘的な現実に、ルルの意識は寸刻に夢中へと連れ去られた。

 

「驚いた顔してるね。もしかして、おじさんのこの目かな。珍しいでしょ?」

 

どこか恍惚(こうこつ)とした色を持ったルルの視線に気付いたのか、彼女は愉しげに己の瞳に向けて人差し指を指す。

 

「⋯⋯まぁ、そうだな。正直、綺麗で見惚れちまったよ」

 

「それは嬉しい評価だね。──それじゃ、早く行こっか」

 

彼女はそうやって話を早々に切り上げて、ルルに呼び掛ける。それから、ふと思い出したようにルルはそれを口にすることにした。

 

「そういや、まだ名前聞いてなかったな。何て言うんだ?」

 

「んー? ああそう言えば、まだ言ってなかったっけ」

 

クルリと半回転。背を向けて歩いていた彼女は、ルルに向けて顔を前に出した。そんな振る舞いに、彼女の少女としての可愛さをルルに再認識させ、少し変な気分にさせられた。

そんな突然込み上げた訳の分からない感情を首を振って忘却し、ルルは彼女に(なら)い、動かしていた足を一旦止め、次の言葉を待つ。

 

「おじさんの名前はホシノ、小鳥遊ホシノだよ」

 

自らをおじさんと呼称する少女──ホシノに、ルルは不思議と嬉しいと感じた。微笑む表情に、淡く蕩けそうな透き通った声。それはどこか懐かしく、どこか寂しく、どこか羨ましい。

 

可愛いらしい。彼女にそう思ったのは事実だ。だが、感じた『それ』は別にあったのだと、今はっきりと理解した。

 

──彼女のその姿が、過去の(諦めていない)自分の幻影にぴたりと重なって見えたのだ。

 

なぜ、と疑問に思った。まだ名前しか知らない少女、それでもルルの中で特別だと叫んでいる何かがあって。尽きることを知らぬ疑問は、湧き水のように噴き出て来るのに、答えはこれぽっちも出やしない。

だから、ルルは最後にこの不可思議に「分からない」という結論で区切りをつけ、考えることをひとまず止めることにした。

 

「ホシノか、良い名前だな。じゃあ、こっちも自己紹介と洒落込(しゃれこ)むぜ。オイラの名前は神楽ルル、気軽にルルって呼んでくれ」

 

──そう、呼んで欲しいと思ったから。

 

「ルル『ちゃん』ね。うん、よろしくぅ」

 

「いや、ルルって呼び捨てにしてくれ。⋯⋯何と言うか、むず痒さっていうのか? とりあいずそうしてくれると助かる」

 

今のルルは見た目だけは可愛げのある少女であるため、そう言われるのは確かに普通のことではあるだろう。だが、やっぱり中身は変わらず『オレ』なのだ。

つまり何が言いたいのかというと、『オレは元男だから『ちゃん』付けは辞めて欲しい』ということだが、それは諸事情で言えないため仕方ない。

 

「えぇ〜? そう言われちゃったら、もうルルちゃんって呼ぶしかないかなぁ〜?」

 

だが、その要求は彼女に届かなかった。どこか嗜虐的に微笑む彼女に、ルルは簡単に反論する気力を奪われた。これ、いくら言っても意味ないな、と直感で理解したからだ。

どうしようもない現実に下へと溜息を吐き捨てて、顔をホシノに向き直した。再び歩みを開始したホシノの背を追い始めながら。

 

「それで、もうそろそろ着く頃じゃないのか?」

 

「えーとね。ほら、あっちに校舎が見えない?」

 

ホシノの右手が指差す方向に視線を向けると、風に流れる砂に所々隠されながらも、そこに見えたのは確かに校舎の形をした建造物だった。

 

「あー、ホントだな。あと200メートルいかないくらいか」

 

そう言うと、ルルは制服の裏にしまっていたスマホを取り出した。そこに顔を向け、画面の中心に見える短い文字列を瞳で捉える。それと、画面の右上を見てスマホの充電が1%しかないことに気付いたが⋯⋯まぁ、大丈夫だろう。

 

「今は、八時十七分ね。余裕持って間に合いそうだな、五分前行動込みでも」

 

アビドス高等学校に八時三十分までに来ること、それが先生と交わした約束だった。それがしっかり今回は守れそうで、ルルは安堵に吐息を漏らした。

 

「そうだねぇ。まぁ、間に合わなかったら君のせいにする気だったから別にいいんだけど」

 

「ハハ、そうならなくて良かったよ」

 

ホシノの心ない言葉は軽く流して、ルルは笑う。そんなこんなで、不思議な雰囲気の彼女と雑談を交わしているうちに、アビドス高校に到着した。

眼前、そこにあるのは学校の入り口──校門だ。その奥には大きな校舎が見え、校庭に舞う砂々が風景を神秘的に彩っている。──それにしても、

 

「⋯⋯デカいな」

 

流石は元々、キヴォトス三大学園に劣らない栄光を手にしていた学校と言う事なのだろう。それが今や砂に包まれて廃れているのだから、何とも言えぬ喪失感のような感情を抱いた。

そんな感傷に浸るのも僅かにして、ルルは再び目の前の校門へと視線を戻し──、

 

「──それで、これは一体どういう風の吹き回しなんだ?」

 

そして、ルルの前に立ち塞がるようにホシノの姿がそこにある事に気付く。彼女の表情は変わらず、接しやすいな微笑のようなモノが顔に張り付いている。それなのに、彼女はそこにいる。それは拒絶に他ならなかった。

 

そのルルの問いに、ホシノは一瞬の沈黙をその場に拡げて、

 

「──一つ質問するね。君はどういった要件でここに来たのかな?」

 

「質問を質問で返さないでくれ、と言いたい気持ちはあるが⋯⋯いいぜ。オイラはここにいる先生の付き添いに来たんだよ。オイラは先生の助手なんでな、呼ばれたから来たんだ」

 

「ふーん? そうなんだ。でもおじさん、先生に助手がいるなんて話、聞いたことがないんだ。その砂で汚れちゃった連邦生徒会の制服も偽物かも知れないよね」

 

肩をすくめ、首をゆるゆると横に振るホシノ。黄色と青の色違いの瞳には、隠し切れぬ懐疑的な黒さが見えた。その深く、(くら)い疑心の宿る瞳に、ルルは「へっ」と鼻を鳴らし、

 

「なるほど、つまりアンタはオイラを疑ってるって訳だな? それならオイラが先生の助手だって証明すれば、そこをどいてくれるってことで大丈夫だよな?」

 

「うん、そうそう。いやぁ、ごめんね? おじさんもさ、あんまり人は疑いたくはないんだけど、同じ(てつ)は踏みたくなくてさ?」

 

それは、冷たさを帯びた言葉だった。それはとても冷静で、冷徹で、それでいてどこか寂寥感(せきりょうかん)の滲んだものだった。

 

どうして、そんな風に感じたのかは分からない。分からないからこそ、ここで引いてはいけないのだ。この胸に残るしこりのようなモノが、永遠に取り除けなくなってしまうような気がするから。

 

「ま、人を疑うのはいいことだと思うぜ。じゃないと詐欺なんかに引っ掛かって損をしちまう。別にオイラだって、アンタを心から信用してる訳でもないしな」

 

そう言い捨て、さっき使っていたスマホを取り出す。これで先生に連絡し、ここに来てくれれば、先生がルルが助手だと証明してくれると思っての行動だ。──だが、

 

「──まじか」

 

思わず、といった様子でルルはそう呟いた。だが、それもそうだろう。なぜなら、スマホの電源が付かなかったのだから。

充電0%。画面の中央には赤いラインのある電池のようなデザインが表示されている。あの時間確認が、残ったエネルギーをギリギリまで消費したのだろう。だから必要なエネルギーが足りず、起動出来なかった。

 

──何が、大丈夫だろう、だ。何も大丈夫じゃないじゃないか。

 

その事実を理解して、ルルは現状が芳しくないことに若干の焦りを感じ始める。

 

「────」

 

──どうする? 神楽ルル。

充電を忘れた怠惰で無能な自分を叱咤(しった)しつつ、ルルはそう心に呼び掛けた。

 

ホシノに先生を呼んできて貰うのは難しいだろう。ここを離れる事になり、ルルが自由になってしまう。ルルが呼びにいくのもまた、他にもいるだろうアビドスの生徒達のいる校舎への侵入を許す事になり、それを彼女が許容するとは思えない。

ならば、彼女がアビドス高校の中にいる他の生徒に連絡を取ってもらうのが折衷案として、ルルができる最善の提案だろう。

 

「どうやら、悲しいことにスマホの充電がもうなくて、先生を呼べないみたいだ。──だから、アンタが呼んでくれないか? 中に他の生徒も居るんだろ?」

 

「確かに、それなら君が助手だって先生が証明してくれるだろうね。──でもさ」

 

そう言いかけて、ホシノは視線を更に尖った鋭利なモノにして、ルルを睨みつけた。

 

「さっき時間を確認してたよね。それで今は充電切れ? 嘘にしては見え透いてて、出来損ないなんじゃない?」

 

「いやぁ、そういうことも人生あるもんだと、オイラは思うぜ? 嘘は嫌いなんだ。──ほら、見てみろよ」

 

そう言って、ホシノに向けて電源の付かないスマホを放りなげる。それをホシノは片手で軽くキャッチしてみせると、電源のスイッチをカチカチと動かし、ルルの発言がでまかせではないことをその()で確かめた。

 

「⋯⋯本当みたいだね。じゃあさ、学校にいるみんなに連絡して見るからさ、君は一度家に帰ったらどうかな?」

 

「それはできないな。だって、そしたら遅刻になっちまうだろ? それは良くない」

 

「うへぇ。でもさ、おじさんが連絡するときに隙ができちゃうでしょ? それはちょーとできないかなぁ?」

 

こうなってしまえば、もはやルルにできることは無かった。校舎に向けて大声で叫んでみようかと、こうなることを予想し、考えてもいたが、疑われるような行為に走るのは賢明な判断とは言えないだろう。──それに、

 

「────」

 

ガチャ、と目の前の少女の方から機械的なパーツが擦れるような音が、鋭く響き渡った。その音の主は、一丁のショットガンだった。白を基調とした配色には、彼女の頭髪と同じく桃色のラインが銃身を迸っている。

 

グリップはホシノの右手に強く握られ、残った左手はその長い銃身を支えるように柔らかくも、射撃の衝撃に吹き飛ばされぬよう、正確な位置に添えられている。

なにより、忘れてはいけないのは──その銃口の先が、ルルに真っ直ぐと向いていることだ。

 

「ハハ、そいつを使わない選択肢もあったんじゃないか? ラブ&ピース、平和的に行こうぜ、ホシノ? ほら、じゅうを降ろして一緒に早く校舎に入ろうぜ」

 

銃を自分に向けた。──それだけで然程考える必要もなく、彼女の己に向ける敵意が理解できると言うものだ。

それでも、こうしてルルが軽口を叩くのは変えられぬ性分なのかも知れない。──だが、今はそれが好都合だ。

 

「できればそうしたいんだけどさ。君がここにいる以上、それは難しいかな」

 

変わらず、可愛げな笑顔をルルに向ける桃髪の少女。しかしながら、その目は笑っていない。不気味な気配を静かに振り撒くその表情に、ルルは息を詰め、しかし態度は悠然なものにして崩さない。

 

「ふーむ、これは困ったな。どうやら、オイラは悲しいことに危機的状況ってやつみたいだな?」

 

「うん、そういうことだねぇ。ルルちゃんも怪我したくはないでしょ? なら、早くここから立ち去って欲しいんだ。今なら携帯食料もつけるけど⋯⋯どう?」

 

「怪我はしたくないな、痛いのは嫌だし。──でも、オイラは強欲なんだ。それでも銃を降ろして欲しいと思ってるし、中にも入れて欲しいと思ってる。引くつもりは微塵もないよ、悪いね」

 

互いに交わし合う軽い口調とは裏腹に、剣呑(けんのん)と張り詰めるような空気が辺りを包んでいた。約束の時間なんてとうに忘れ、互いに譲らないその態度が今、(いさか)いから争いへと発展しようとしている。

 

ホシノの遠回しの最後の忠告は、ルルの戯言によって(かわ)された。その場には変わらず、おどけた雰囲気を保ちながらも悠然と(たたず)むルルの姿があり、それがホシノを苛つかせていた。

 

「──そっか。君は、痛い目を見ないと分からないタイプなんだね」

 

「あー、そういうことなのかもな。イタい視線は何度も浴びてきたんだけど」

 

最後まで飄々とおどけた態度を崩さないルルに、ホシノは焦れたように舌打ちし、トリガーに人差し指がかけ直され──次の瞬間。

 

「私が、来たぁ──ッッ!!!」

 

引き金を引かれると思われたその時、突如視界の端から大声を上げながら両者の間に滑り込んだ大人によって、それは未遂となった。

 

「先生っ!?」

 

ホシノの驚愕に満ちた声が辺りに響く。目の前の大人はそのホシノ反応を見て、格好つけたようにゆっくりと顔を上げ、

 

「うん。みんなのヒーロー、ナイスガイティーチャーの先生だよ」

 

そう言って二人をそれぞれ一瞥し、先生は状況を察したように微笑む。いつもの彼の笑顔にここまでルルは安堵するとは思わず一瞬、表情が緩んでしまったが、すぐに正した。

 

「ホシノ、彼女は私の助手だから、できればその物騒な物をしまってくれると助かるんだけど」

 

それからルルの傍に移動した先生は軽い口調で、それなのに有無を言わさない圧を伴った声をホシノへと向けた。

 

「うん、分かってる」

 

彼の言葉に素直に従い、ホシノは銃口を下げる。それと同時に、ホシノの視線が先生からルルへと向き、

 

「本当にごめんね? ルルちゃん。おじさん、勘違いしちゃってたみたい。おじさんにできることなら何でもするなら、許してくれると嬉しいんだけど⋯⋯」

 

「とりあえず、これから先オイラに銃を向けるのは辞めてくれ。それで許してやる。助けられた恩もあるしな」

 

正直、ホシノのした行動も理解できる。自分で言うのもなんだが、ルルは相当怪しい人物に見えるだろう。だから素直に許したが、打算も勿論ある。

 

相手が負い目を感じている時に、敢えて軽く突き放す。すると、もしもの時に手を貸してくれる可能性が高くなるのだ。

これは、これまで多くの人(モンスター)と関わり、ステータスの大部分をコミュ力に振ったルル──もとい『サンズ』の処世術でもある。

 

「ん〜、それだと後が怖いかなぁ〜。──まぁ、その時はその時か」

 

「──じゃ、話は終わった感じかな?」

 

目を伏せ、自分を納得させるホシノと、いつも通りの様子のルルを見て、先生はそう問い掛ける。

 

「そういや先生。一つ聞きたいんだけどさ。事前にオイラが来ることをホシノとか、アビドスの生徒達に言ってなかったのか?」

 

と、ルルはそんな彼に一つ疑問に思う点があり、先生に質問した。

 

「うん、言ってなかったね。言ってたら君を歓迎してたよ?」

 

そのルルの問いに、先生の代わりに返答したホシノに、本当にそうか?──と、疑問に思いつつ、「やっぱり、そうなのか」とルルは納得する。それからホシノも、ルルと同じく先生に眉を寄せて見つめた。

 

「──申し訳ないです⋯⋯」

 

ぐぅの音も出ませんと、その視線に耐えかね、先生は事実であったことを謝罪の言葉にした。さっきまでの格好良さは何処へ行ってしまったのか。その大人は、己より二回りも小さい二人の少女に、渾身の土下座を披露したのであった。

 





この世界だといくらアニメネタぶっ込んでも誰も知らないので、先生の決め台詞はクソかっこよくなるんでしょうね。

あまり強い言葉を使うなよ⋯⋯弱く見えるよ?

撃って良いのは、撃たれる覚悟のある奴だけだぜ?

とか、痺れますね?憧れますね?

ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜

  • ワンッ!(イエス)
  • バウッ!(ノー)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。