ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE! 作:ケガレモ
傍に設置された靴箱に、さっきまで履いていた靴をしまい、用意していたピンク色のスリッパを懐中から取り出し、それを履く。
先生の仲介によってホシノを説得できたルルは、アビドス高等学校の校舎に入るための準備に励んでいた。
「よし、っと」
それから準備が終了し、ちらとそれを見た。
靴箱の横に立て掛けてある大きな鏡。そこに映る自分の姿を見て、ルルは高揚感のようなものを感じ、少しだけ笑みが溢れていた。
少しオーバーサイズの青パーカーに白いTシャツ(連絡生徒会の制服)と、黒く、白いラインが両横に縦に引かれたズボン。
そして、最後の決め手にちょっとお茶目なピンクのモコモコスリッパ。
この四要素が揃ったこと──即ち、前世とまったく同じ格好になったことを意味する。イメージとしては、伝説の装備がボス戦前で全て揃ったみたいな、そんな安心感と興奮がルルを包んでいた。
「ねぇ、今。どっからそのスリッパでてきたの?」
「ん? 見ての通り、オイラのパーカーの内側だぜ」
そんな高揚を噛み締めていたルルに、水を差すように問い掛けた先生。そんな彼に、小さく唇を歪めて不満を露わにしたルルだが、それをすぐに消して、いつもの笑みを浮かべて応える。
「いつも思うんだけどさ、君のパーカーは四次元ポ◯ットか何かなの?」
先生は普段から、様々な物がルルのパーカーから飛び出してくることを知っている。愛用しているケチャップは当然として、髪の毛を
そんな様子から、某国民的アニメのひみつ道具が想起されたのも頷ける話である。
「ふーむ。四次元◯ケットってのは知らないが、なんとなく凄そうな物ってのは分かるぜ。ホシノは知ってたりするか?」
「う〜ん、おじさんも知らないかなぁ。それはさておき、みんなも待ってるし、早く行こうよぉ」
桃色の長髪を揺らして、ホシノは首を横に振ってルルに知らないことを示した。急かすように二人に向けて呼び掛けてから、ホシノは校舎の廊下を歩き出した。
そんな彼女の背に「そうだな」と軽く頷いて、ルルは後を追う。
それに少し遅れて、先生も「待ってよー」と言いながら、ルルについて行った。
*
「みんな、戻ってきたよ」
『アビドス廃校対策委員会』と看板が上部に取り付けられた一室。文芸部室といった感じで、中央には大きなテーブルが置かれ、そこには銃や手榴弾など物騒な物が置かれている。
だが、このキヴォトスではごく普通の、一般的な光景だ。
横にはホワイトボードがあり、そこには連絡事項や落書きなどがある。
先生は中に居るであろう人達に向かって、そう声を掛けた。
「やぁーみんな。おはよぉ〜」
うへぇ、と不思議な語彙を追加して、部屋に入ったホシノも先生に続けて挨拶をする。ホシノに続いてルルも中に入る。
「あっ、ホシノ先輩。お早うございます〜☆」
「お早うございます。先生もお帰りなさい」
若葉色の綺麗な長い髪を流し、凄まじい存在感を放つビッグサイズな胸部を携えた少女が、愛嬌のある笑みでホシノを出迎える。
そして、艶のある黒髪とエルフ族の特徴である長い耳を持ち、赤い眼鏡がインテリ風に似合っている少女が、もう一人の少女と一緒に、入ってきたホシノに笑顔で挨拶をした。
「うん、おはよぉー、みんな元気だねぇ」
そんな二人に対し、ホシノは眠そうな感じにもう一度挨拶し、部室の中央にあるテーブルに突っ伏して、身体をだらんと脱力させた。
「先生はさっきまでいたから良いとして⋯⋯おはよう、ホシノ先輩。今日は珍しく遅かったわね。──それで」
長い黒髪をツインテールに
その、周りを圧するかのような赤い双眸を以て、ルルを値踏みするような視線で睨みつけ、
「この人が先生の助手って言ってた人? あんまりぱっとしないわね」
と、眉を寄せながらルルに向けて悪口を飛ばした。
「セリカちゃんッ!? 流石に、失礼ですよ!!」
叫び、赤い瞳の少女──セリカに、赤い眼鏡の少女は慌てた様子でルルとセリカを交互に見て、冷や汗を滲ませる。
先生の助手という立場は、ルルが思っていたよりも大きな影響力を持つ。連邦生徒会長から直々に選ばれ、今の立場にいる先生。そんな彼の助手を務めているルルも大きな権力を有している⋯⋯らしい。
それを知ったのはルルも最近のことだ。
というか、なんでぽっと出の自分がそんな権力を持ってるのか本当に分からないのだが、それが事実なのだ。
赤い眼鏡の少女はそのことをなんとなく察しているらしく、そのためにセリカの言動に焦ったのだろう。
ルルがその気になれば、ここを潰すことは流石に無理でも、回りくどい方法で
「ど、どど、どうしようッ!? ねぇ、どうすればいい!?」
とんでもない動揺っぷりを見せ、
その理由は、赤い眼鏡の少女がセリカを右手で呼んで、耳打ちしていたことにあるのだろう。そこでセリカは事の重大さを理解した。そういうことだと思う。
そんなセリカの様子をルルは内心で、人が慌てふためいている様子はやっぱり面白いなと、嗜虐的な愉悦に浸り、もう少し眺めていようと思った──、
「ねぇ、ルル。笑ってないで早く何とかしてよ」
のだが、それは先生の発言によって阻止された。
表情に一切の感情を出していなかった筈なのだが、どうやら先生には気付かれたらしい。
普段の先生は頼りない感じを見せるのだが、人の感情には敏感だし、狡猾なので侮れない。
そしてやっぱり胡散臭い。いや、これは余計か。
「先生がそう言うなら仕方ないな。えーと、セリカだったよな?」
「──っ!! はい、なんでしょうか?」
さっきと真逆な態度で、敬語で訊ねるセリカ。
その様子を見て、彼女の根は良い子で素直なのだと理解した。
しかし、今回はその性格が災いし、思ったことを直ぐに口にして、失言になってしまったのだろう。
それなら、ここは寛容に受け止めようではないか。もとより、そのつもりではあったが。
「ハハ。別に怒ってないからそんな慌てなくていいぜ。ま、それはそれで面白いからいいんだけど。──あと、敬語を使うのはやめてくれよ? 年齢はそう変わらないんだからさ。とりあいず、これからよろしく頼むぜ、セリカ」
「え? そうで⋯⋯そうなのね。分かったわ。えーと⋯⋯」
ほっ、と安心したような素振りを見せ、元気な口調で話し始めていたセリカだが、その言葉を最後に詰まってしまう。
それにルルは察したように微笑み、視線をアビドスの生徒達に向ける。
それに気付き、全員の視線がルルへと集まり、それを見たルルは遅れての自己紹介へと移った。
「じゃ、ちょっと遅れちまったが、自己紹介だな。オイラの名前は神楽ルルだ。気軽にルルって呼んでくれ」
「ルルね。もう分かってると思うけど、私の名前はセリカよ。じゃあ、これからよろしく頼むわね」
セリカが溌剌な笑顔を作って、ルルに言葉を返した。
さっきまでの動揺っぷりが嘘のようで、彼女の胆力は素直に恐ろしいと感嘆した。それとも、忘れようとしているのか。
「はい☆じゃあ、次は私ですね。私の名前はノノミです。どうぞよろしくお願いしますね。ルルさん」
両手を合わせてそう言うのは、胸部がデッ、な少女──改め、ノノミだ。はんなりと笑みを浮かべていて温和な雰囲気こそ感じるが、どこか侮れないオーラも感じ取った。
「私の名前はアヤネです。これといった特徴はありませんが、どうぞよろしくお願いします」
「じゃあ、一応おじさんも、もう一回自己紹介しようかな。おじさんはホシノだよ。よろしくね、ルルちゃん」
丁寧な口調で愛想笑いを浮かべるのは、赤い眼鏡を掛けた少女──改め、アヤネだ。特徴がないと本人は言っていたが、礼儀作法は綺麗だし、普通に眼鏡美人だ。
そんな彼女に続いて、ホシノが再び蕩けそうな声を以て自己紹介をした。
「じゃ、これからよろしくな」
最後に、ルルの何か胡散臭いルルのウインクを以て、アビドスの面々とルルの自己紹介はお開きとなった。
「ん、知らない人が居る。⋯⋯もしかして、先生の助手の人?」
と、思ったのだが、背後から急に聞こえた淡々とした声からそれは間違いだったのだと気付かされた。
ドアを開けて、中を見るその少女は、銀色に光る艶のある灰色に近い配色の髪を持ち、そこにはモフモフとした狼耳がある。
その瞳は青空のかの如き綺麗な空色で、よく見ると瞳孔の色が両目で異なっていて、素直に綺麗に思った。
「あっ、シロコ先輩。突然消えたけど、どこに行ってたの?」
「ちょっとお花を摘みに行ってた」
「ああ、トイレね」
「⋯⋯ん」
セリカの質問に狼耳の少女──シロコは先生を一瞥した後、一瞬恥じらいのようなものを顔に見せたのだが、それはすぐに消えた。
多分、理由はシロコがお手洗いと遠回しに言ったのに、トイレとはっきり言ったセリカにあるのだろう。ここでも、セリカの性格がでているように思える。
「それで、あなたは誰?」
それから、シロコの視線がセリカからルルへと移る。
相変わらず、何を考えてるか分からないような表情で、狼耳の少女はルルを見つめていた。
「オイラの名前はルルさ。アンタの予想通り、先生の助手だよ。んで、アンタはシロコであってるか?」
「うん、合ってる。よろしくね、ルル」
「これで、全員が揃いましたね、では──」
いつもの会議を始めましょうか──と、シロコが戻り、全員が集まったことを確認し、アヤネが言おうとしてそれを止めた。
それに突っ込む者はいない。アヤネが止めた理由は誰であろうと明白であったからだ。
──それは、
「銃声ッ!?」
その音から数秒遅れて、セリカの声が飛ぶ。
その前からすでにこの場にいた者達はそれぞれ行動を開始していた。
ルルは己の仕事を全うすべく先生に一目散に向かい、頭を抱えて屈んで、障害物を盾に安全な姿勢を取らせた。
シロコは戦いになることをすぐさま感じ取り、インカムを取り付け、愛銃のコッキングレバー引き、その他諸々の準備を始めていた。
銃声にいち早く反応したホシノは、様子を確認するために窓の前へと移動する。
「⋯⋯うへぇ、まーた懲りずにヘルメット団の奴らが来てるよぉ」
そこに見えた光景に、そう感想を漏らすホシノ。
フワフワとした口調。だが、それに反してその瞳に光はない。
それは目線の先に存在する銃声を放ったであろう元凶を敵として定めた証左だった。
その手にはいつの間にか彼女の愛銃であるショットガン──『Eye of Horus』が握られ、ホシノは部屋の隅に置いた『それ』を一瞥した。
「二日前、追い払ったばっかじゃない!どうしてもう来るのよ!」
そう文句を言いながらも、急いでテキパキと戦闘準備を整え始めるセリカ。その一方で、アヤネも戦闘準備を始めていた。
テーブルの上に置いた操縦桿と、操作盤を巧みに使い、操作するのはドローン。取り付けられたカメラからの映像が、アヤネの目の前に置かれたタブレット型の端末の液晶面に映し出される。
アヤネの戦闘時の仕事は、主にサポートだ。
今のようなドローンを操作し、状況を確認したり、戦闘が始まれば物資などを運ぶことなど。
直接戦闘には参加しない彼女だが、もし彼女が居なかったら今のアビドスは存在し得なかっただろう。
「ルル、ありがとう」
「ハハ、感謝の言葉は要らないぜ、仕事だからな。できればボーナスなんか貰えると嬉しいんだけど──」
「ごめん。それはちょっと無理かな⋯⋯」
「ま、言ってみただけさ」
感謝を告げて立ち上がる先生だが、その表情には苦笑いを浮かべていた。それが今の状況に対してなのか、ルルの冗談に対してなのかは分からないが、それは今は関係ないだろう。
すると、先生はポケットから小さな機械を取り出す。
「──これは?」
「インカムだよ。とりあいず君には聞いて、見て欲しいんだ。アビドスの生徒達⋯⋯いや、彼女達が今もなお、なぜアビドスの生徒でいられているのかをさ」
「ほーん? なるほどな。つまりオイラは何にもしなくても良い訳だな?」
「それは⋯⋯そうなんだけどさ。まぁ、いいや。でも、もしピンチになったら助けてくれると嬉しいかな。──君の『ガスターブラスター』でさ」
突っ込みしたい気持ちを今の状況を鑑みて、グッと呑み込んだ先生は『ガスターブラスター』という単語を口にする。
その言葉に、ルルは隠し切れない驚愕が顔に現れ、それから目を細め、先生を凝視した。
「驚いたな。もしかして、あの時呟いたのが聞こえていたのか?」
パンケーキの化け物との交戦の時、ルルはぼそりとその言葉──『ガスターブラスター』と口にした。
だが、本当にぼそりと呟いただけで、近くにいたヒナにも聞こえないような小さな声だったはずだ。そのはずなのに、先生はそれを聞いている。
どうやって聞いたのか、そんなニュアンスを含んだルルの質問に「うん」とだけ頷く先生。端的過ぎる返答をした先生の真意を今すぐ、問い質したい気持ちはある。
「⋯⋯でも、今は後回しだな」
だが、状況が状況だ。ルルは首を振ってそう割り切り、先生の手からインカムを取り、耳に装着した。
「えっと、ドローン偵察による敵性反応は⋯⋯十、十五、二十……お、凡そ三十人。カタカタヘルメット団です!」
『えっ、ちょっと前より十人くらいも増えてないっ!?』
『わぁ、私達、人気者ですね〜』
『ノノミ先輩!? そんな呑気な事言っている場合じゃないでしょう!?』
『これは過去一番のピンチかもね〜』
部室に残る人物は、いつの間にかルルと先生とアヤネだけとなっていた。聞こえる音声はインカムからだ。
セリカとノノミの漫才的な会話とホシノのフワフワした呟きを聞いていると、ルルは先生がインカムに人差し指を当てるの見た。
──そして、彼の雰囲気が変わる。
「みんな、今回も私が指揮を執る。アビドスの存亡は、君達の腕に掛かっている。でも、私は知っている。君達にはそれを行える力が有るんだと。それなら──」
「やってやろうじゃないか」
その先生の、先生らしからぬぞんざいな戦意表明は、アビドスの生徒達、いや彼女達に響いた。
セリカ、ノノミ、シロコ、ホシノ、そしてこの場に居合わせたアヤネ。その言葉は全員の心に、感情に、熱を込めた。
インカムからは息を呑む音が聞こえた。
それが誰のものかは分からないし、知ろうとも思えない。
なぜなら言葉が聞こえなくても、顔が見えなくても伝わってきたのだ。
──彼女達の『ここを守る』という確固たる『決意』を。
そのことに気付いたのはルルだけではない。先生もまたそれに気付いて微笑み、表情を真剣なものへ変えた。
「それじゃあ、始めるとしようか」
その言葉を最後に、彼女達のアビドスを守る戦いが火蓋を切られた。
*
ホシノは校庭に布陣するヘルメットを被った集団──カタカタヘルメット団を見下ろしていた。
手袋を深く付け直し、右手に携えた愛銃の『Eye of Horus』を構え直す。
目線の先にいる彼女達は、それぞれ銃器を構え、いつの間にか設置した土嚢に身を隠しながら、出撃するタイミングを伺っていた。
その様子にどこか嘲笑的な気配を表情に浮かべつつ、内心で様々な思考を巡らせる。ホシノは次の命令を待ち、そして来た。
「──先生も人が悪いねぇ、おじさんに単騎突出を命令するとは思わなかったなぁ。まだ、予想はしてたけど」
その通信に、予想はしてるのに思ってはいなかったという矛盾するような発言を呟きつつ、ホシノは最後の準備へと取り掛かった。
──それは、黒い箱のように見えた。
だが、それはすぐに違うと気付かされる。さっきまで部屋の隅で役割が来るまで待たせれていたそれは、ホシノが持つ武器の中の何よりも大事にしている盾──それを『Iron Horus』と言う。
それは折り畳式の盾であり、箱のようなコンパクトなサイズから金具をとると、ホシノはそれを一気に展開する。そこに現れたのは、ホシノの矮躯をすっぽり覆い隠すほどの大きさを誇る、漆黒の光を吸い込むような大盾だ。
中央にはアビドスの校舎が白く刻まれ、その鋼鉄な見た目は重厚感に塗れ、小柄な少女が扱う物には到底思えない。
「よいしょっ、とぉ」
しかしそれを、ホシノは可愛げのある掛け声と共に左手に構え、ストッパーをつけ、盾を固定した。
「さて──少し、乱暴しちゃおっか」
鋭さを帯びる声をその場に小さく響かせ、ホシノは駆け出す。
正面、数十人の不良が前に布陣する場所に、他に目をくれずにホシノは飛び出すようにして躍動を開始する。凄まじい筋力と磨き込まれた技術を以て、盾と銃を構えて──突進。
「おお! 一人で飛び出してきたぞ。降参か?降参なのかな?」
「でも残念っ!私達は徹底抗戦するって決めてんだよね。開示だね、これは」
嘲るような煽り文句に反応する素振りもなく、ホシノはショットガンの銃口を向け──瞬間、連続的に光が発せられた。
さっきまで溌剌とした声を上げていた二人は、呻き声すら上げる時間もなく、地面へと倒される。流れるようなホシノの射撃。それは不良の腹と、胸部を精確に狙い落としていたのだ。
──否、それだけではなかった。二人が地面に倒れる頃にはショットガンの銃声は再び、別の方向へと鳴り響き、その結果としてまた一人と不良が脳天をヘルメットごと穿たれて、気を失うに至っていた。
ズサァ、と音を立てホシノは姿勢を低くし、盾を傘のように傾斜に構え、砂の上を滑るようにして疾走。驚異的なスピードで前へ、前へと進み出す。
「て、敵襲! 敵襲だ!」
「囲め、囲めぇ! 相手は一人だ。ほら行け、行けぇ!」
強引に進んで行くホシノに合わせ、大勢が駆け出して行く。
そこでホシノの視線が一人に向く。それに一瞬、たじろいだように思考を停滞させた不良だが、それでも受けようと銃口を向け、対応せんとトリガーを引こうとする。
だが、一瞬でも停滞は停滞。それが命取りだった。
勢いそのままにホシノは不良に盾を振りかざす。──いわゆるシールドバッシュだ。
盾の下部のフレームに顔を強く打ちつけられ、地面に崩れた不良の胸部にホシノはショットガンを突き刺した。
その感触に、その恐怖に不良はビクビクと身体を震わせる。
「や、やめてくれぇ!」
「ええ、でもさ? 君達が来たのが悪いよね」
ここに襲いにきた時点で、もはや慈悲など掛ける必要もない。
ホシノはそう言うと引き金を引いた。その衝撃で不良の身体は地面から飛び上がり、そして再び着陸したと思ったら、勢いそのまま無様に転がった。
地面に放されたさっきの不良のものであろう銃を足で蹴り散らした後、ホシノは再び進行──否、進撃を開始した。
「──イッ、テェ!馬鹿!私を狙ってどうすんだよ!」
「わ、悪い。でも、あいつ。動きが捉えられなくて──グハァ!?」
掻き乱し、いなすようにホシノは動き回り、ショットガンを振りかざして行く。雨のように降りそそぐ銃弾を盾に受け、衝撃が腕に伝わり、痺れと痛みを催した。
それでもなお、ホシノは表情一つ変えず、動きを止めることはない。それが己の役割であるならば、どんなことにでも耐えてみせる。──それがホシノの矜持なのだ。
「────」
だが、そこでホシノの足は止まった。
数十人超える人数の不良が、ホシノを中心にして囲い込んでいたのだ。先程聞こえた命令に従い、隠れていた者達もホシノの迎撃へと動き、殆ど前に出ている。
始まる、ホシノへの集中砲火。その猛火を盾で凌ぐも、凄まじい運動エネルギーによってホシノの動きは
「ハハハハ!! どんなに速くても囲い込んじまえば、問題ないよなぁ?」
「別に無理って訳じゃないけど、今回はおじさん一人だけじゃないから、ね──」
次の瞬間、ホシノの姿が消失する。どこからか不良の悲鳴が聞こえ、それによってホシノの位置が分かり、不良達の視線と銃口がそこに向く。警戒はそこ一点に集まり、今すぐ撃墜せんと攻撃にすぐさま移行する。
──その時であった。
『総員、射撃開始!』
そこに、先生からの通信が入る。
それは、不良達にとっての本当の悪夢の始まりであった。
「はーい☆楽しんでいきましょうー!」
「行っくわよぉっ!」
ノノミとセリカの活気のある声が響き渡るのと同時に、不良達に嵐のような猛攻が振りかかる。
「うわぁ!? し、遮蔽物はっ!?」
「駄目だ、前に行き過ぎた!」
戦況は一気にアビドス側へと傾いた。
ホシノの盾を攻略するためには、正面ではなく多方面から狙う必要があり、そのため包囲するように広がったのは良い判断だった。
だが、他に敵が居た場合は話は変わる。
ホシノを仕留めるために前に突出していた不良達は、急いで障害物に隠れようとしたが、距離を離してしまったがためにそこに辿り着くまでの逃走中、無防備な状態になってしまった。
そこを狙わないほど、アビドスは甘くはない。
突如始まった反撃に、不良達は錯乱状態へと陥った。
ホシノの、いや先生の狙いは遮蔽物に身を隠せない距離まで誘い込むこと。単騎突出することで彼女達の意識をすべてホシノ一人へと向け、警戒をそこに集中させた。
だからこそ、唐突に始まる一斉射撃が刺さる刺さる。
「汚物は、消毒です〜☆」
満面の笑みで、ノノミは己の愛銃『リトルマシンガンV』を振りかざす。名前の通りマシンガン、ガトリングガンなどと言われる機種であり、リトルというには明らかに、どう見ても規格外なサイズをした銃だ。
その重量は約40kg程、発射速度は毎分凡そ4000発であり、その威力と物量は普通の人間なら「へけ」と、どこぞのハムスターの鳴き真似をする間もなくミンチにしてしまう代物だ。
本来は攻撃ヘリや、装甲車などに搭載するものなのだが、彼女の場合はキヴォトス人の肉体スペックを存分に発揮し、恐ろしいことに個人携帯火器として使用している。
それを先生の指令に従い、校舎二階からフルスピードで、しかも笑顔でそれを使って不良達を文字通り薙ぎ払っている彼女は、現在校庭で阿鼻叫喚の不良達からすれば悪魔に変わりないだろう。
実際先生も、初めて彼女がそれを使っている所を見た時は、遠くにいたのに内心ビビリ散らかしていた程だ。
「いつも、いつも懲りずに来てぇ! もう、許さないんだから!」
その一方で、セリカもノノミと同じく校舎二階から銃を構え、精確に敵を撃ち抜いていた。その愛銃の名は『シンシアリティ』。英語で、誠意や正直という意味であり、彼女の根っこの性格が出ているような名前だ。
標準的なアサルトライフルであり、中距離にも対応できるように銃身にはスコープが取り付けられている。毎日しっかり手入れを欠かさずしているため、その銃身は美しい金属光沢を放っている。
ノノミの銃と比べてしまえば火力不足は否めないが、それでも頭部や、胸部、手持ちの武器などを確実に狙い抜き、戦闘不能に追いやっている。
貧乏性を
文句を言いながらも、セリカのその仕事は実に堅実で、先生もそれにはにっこりである。
『⋯⋯うーん。まさかここまで一方的だとはね』
肩透かしだと言わんばかりに、先生はそう呟く。
だが、そこに油断はなく、精確に戦況を把握し続けている。
前へと進行していた不良の半数以上がすでに殆どが戦闘不能になっている。後方待機していた者達もノノミによる制圧射撃により何名か負傷者が出ていた。
その様子を確認し、先生は最後の仕上げに取り掛かった。
『シロコ』
『うん。分かってる』
先生はシロコがすでに準備を終えていることを知っていた。
シロコは名前を呼ばれただけではあるが、先生の通信のタイミングからすぐにすべき行動を理解した。
シロコは愛銃である『WHITE_FANG_465*1』での銃撃を止めると、さっきまで操作していた端末に目を向けた。
「おい! しっかりしろ! 敵はまだ一人も倒れてないんだぞ!」
負傷者一名を背に担ぎ、地面に横たわるもう一名に不良はそう呼び掛ける。しかし悲しいかな、返事は一向に返ってこない。それを見た彼女は、感想を舌打ちで表現する。
特攻部隊は一網打尽。その後方にいた部隊も少なくないダメージを負っている。状況の分の悪さを理解している者達は形勢を立て直すために行動を開始しているが──、
「──ん? なんか音聞こえないか?」
「え? そうか?──いや、確かに聞こえるな」
一方、土嚢に身を隠していた後方。その内の二名がどこからか聞こえた音に疑問符を上げ、お互いに首を傾げた。
だが、それに答えが出る前に徐々にその音は大きくなっていった。それは何かが起きる前の凶兆のように思え、しかし何もできない不良二名は逃げ場のない焦燥感に駆られた。
そして、その音はそこで停止した。
ふと妙な違和感を感じて、不良の二人は空を見上げた。
「なんだ、あれ?」
それは、奇妙な形状をしていた。天から降りそそぐ陽光をその特徴的な形の機体が遮り、その下を翳らせている。ブーンと連続的に鳴り響く特徴的な羽音はそこが発生源であり、そしてそれが何であるか、彼女達は遅れて理解する。
──それが、中型のドローンなのだと。
左右には機体よりも大きな白いボックスが取り付けられ、片方に四本、合わせて八本分の弾頭が見え、それはつまり、ギッシリと小型の誘導弾が詰め込まれていることを意味している。
「お、おい! 早く後方へ退避だ! あれは──」
そんな物騒な物が自分達の真上にある。それは焦るには充分過ぎる理由であった。不良の一人がそう言い終える前にシュポッと、どこか間の抜けた音が戦場に響き、
『──ロックオン完了。発射する』
その音が聞こえるのとほぼ同時、シロコが端末に映る不良達に指でタップした。
ドローンから音が鳴った。それは点火された合図であった。
合計八本の弾頭が白煙を尾に引きながら綺麗な曲線を描いて、後方に滞在していた不良達に向かい、彼女達の立っていた地面に命中する。
──直後、放たれたのは凄まじい爆風と刹那に燃え盛る爆炎。
その威力を証明するように砂塵は大きく、高く舞い上がり、幾人もの不良達を巻き込んでその身体を吹き飛ばした。
「おっ、そろそろ終わりの頃合いかな」
前線にて近くの残党をショットガンを使い、打ち倒していたホシノがその様子を見て、戦闘が終了間近であることを悟る。
シロコのドローンによる攻撃は全弾命中し、不良側の被害は甚大だった。多くの物資や障害物となる土嚢、そしてそれらを扱う兵。この数刻に一気に削られ、もはや戦闘継続は不可能に近いのは目に見えて分かる。
『よし、これで相手側は半分以上崩壊した。──シロコ、ホシノ』
『うん、了解。突撃する』
『りょーかい』
先生の短い呼び掛けに応じ、シロコとホシノは駆け出して行く。
ここまで来れば、後は雑に攻めても勝てるような状況であった。
──かくして、アビドス攻防戦はアビドス側の勝利で幕を下ろして行った。
ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜
-
ワンッ!(イエス)
-
バウッ!(ノー)