ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE!   作:ケガレモ

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投稿がメチャ遅れちまったですね。


『灯火は、戦気に宿る』

 

──そこで、そのときに得た感情のことは、今でも(ソウル)に深く刻まれている。

 

見慣れた景色が黒を纏った赤い光に包まれて、無惨に朽ちていき、見知った人々が存在したという事実を裏付けるだけの(むくろ)へと変わって行く。

 

それは終わりであり、始まりである。

ただただ世界は厳しい。運命は馴れ馴れしく肩を組み、理不尽を哄笑しながら振り撒いておきながら、それを必死に乗り越えたとしても、報われるなどと思えば甘えだと絶望を叩き付けてくる。

 

何度も幾度も繰り返す。

手を伸ばして、指を動かし、唇を震わし、なおも懇願し続ける。

そんな救いようのない世界だとしても、自分にとってはそこだけが愛した故郷なのだから。

 

今もそう、終わりに向かってまた始まりへと向かう時だってその気持ちは、意志は、『決意』は変わることはない。

 

ゆっくりとすべてが静かになっていく様を見届けて、眩しい絶望に目を細めて、肌を焼き焦がしていく熱と色を。焦げついていく肉の臭いと色を。そして彼女との友情をもう一度、その昏く、明るい視界に刻みつけて──、

 

もうすぐ始まってしまう世界の中で私は考える。

 

そうだ。彼に⋯⋯いや君に最期()を託そう。

 

──そこで、そのときに得た感情のことは、今でも(ソウル)に深く刻まれている。忘却の彼方に消し飛ばされようとも、きっとまた思い出せる。

 

だって、君は──、

 

 

*

 

 

「はあぁー⋯⋯疲れたぁ⋯⋯」

 

セリカはガンラックに愛銃を立て掛け、フラフラと部室にある椅子に向かい、座り込むと、疲労感を一切隠す素振りもなくテーブルにだらしなく突っ伏した。

 

戦闘はアビドス側の完全勝利で、幕を下ろした。

シロコによるドローンの爆撃によって、後方は浮き足立ちになり、その頃には既に、不良側の戦力の半分以上が沈黙。

後の掃討戦は本当に呆気ないもので、不良側は特に纏まった抵抗などもなく数分で終了した。

 

もはや最後の辺りは敵ながら同情するほどの一方的な暴力で、先生もその様子には苦笑を(ひそ)かに表情に刻むほどだった。

 

アビドスの面々は戦闘の後始末を終え、部室に戻ってきていた。

それぞれ愛銃をガンラックに掛け、一番に入ったセリカに続き、椅子にかける。

 

「いやぁー、まさか勝てるとは思わなかったねぇ」

 

ホシノは相変わらずのんびりとした口調でそう言うと、セリカの隣の席で同じようにテーブルに脱力して突っ伏した。

 

「ん、これも先生の指揮のおかげ。本当にありがとう先生」

 

「はい☆本当にすごいサポートでした」

 

「そうですね、本当にありがとうございます。先生」

 

シロコがこくりと頷き、ノノミは両手を合わせて、アヤネは安堵に笑顔を浮かべ、順に先生のサポートを絶賛し、同時に感謝の言葉を贈った。

 

「まぁ、私にはこれくらいしかできなからね」

 

先生は笑顔を取り繕って応える。

だが、アビドス勢はその言葉を彼の謙遜と受け取ったらしく、そのことを察した先生の渋い笑みは更に深まる。

 

そんなやりとりの後、シロコ達も各々休憩に入った。

戦闘時間は数十分程で、あまり長いと言えるものではなかったのだが、神経擦り減らす戦であることは変わりなく、疲労は大きいものなのだろう。

 

「──それで、ルルは何か感想とかあるかな?」

 

タイミングを見計らって、ちらと先生は目線を斜め横へと向けた。黒き瞳の中心に映るのは、指揮をしている間、己の後ろで観戦していたであろう少女──ルルだ。

 

ルルは部室の中央に置いてあるテーブルを囲い、楽しそうに話し始めたアビドスの少女達を見た後、ニコリと喜色に口角を上げる先生に振り向く。

 

「あー、そうだな。ありきたりな言い方で悪いが、凄かったとしかオイラは言えないよ」

 

それ以外の言葉は似合わない、とルルは思う。

アビドスの生徒達の戦闘のパフォーマンスの高さは目を見張るものがあった。個々人の戦闘能力の高さはさることながら、連携も上手い。

 

そしてルルが一番に評価するのは彼女達の意志の強さだ。

三十人対五人という数的不利な状況でも諦めずに戦い、それで勝ってみせた。その姿は格好いいという言葉だけでは表せない『凄さ』があるのだ。

 

「後はまぁ、先生。アンタの指揮は素人でも分かるくらい、的確で素晴らしいものだったよ」

 

最後に先生の指揮と作戦。まさに完璧で、文句の付けようのないものだった。

まるで未来でも見えているかのような予測能力。味方と敵の動向を精確に捉え続け、ジャストなタイミングでの的確な指令。

惚れ直す、というと違うが、ルルが純粋に指揮をしていた彼を格好いいと思ったのは事実なのだ。

 

「あはは、あんまり褒めないで欲しいかな。真面目に私はこのくらいしかできないからさ⋯⋯」

 

「──そうか。悪いな」

 

ルルの賞賛に、右手で制服越しに胃の辺りを(さす)るように抑え、死んだような笑みを浮かべる先生。

そんな彼にルルは申し訳なくそう言うと、そっと目を背けた。

これ以上、どこか憐れみを感じる可哀想な大人に、何か言う気が起きなかったのだ。

 

「あっ、そう言えば──」

 

先生はふと思い出したように言いかけ、目線をちらとアヤネに送る。それに気付き、アヤネは席から立ち上がる。

 

「えっと、何か気になることでも⋯⋯?」

 

「ちょっと、ね。さっきの戦いでまた物資が減ってるでしょ? またいつ補給に来れるか分からないからさ。今のうちにね」

 

「ああ、なるほど。じゃあ前と同じで、隣の教室でお願いしますね」

 

オーキードーキー(了解だよ)

 

ビシッと敬礼のような動作を決めて、やる気満々で先生はアヤネに頷く。それからまたもルルへとその顔を向けた。

それに、(いぶか)しげにルルは眉を寄せる。

 

「なんだ?」

 

「ちょっと、ついてきてくれ貰えるかな?」

 

「ん? まぁ、構わないが」

 

特に断る理由もないので、渋ることもなくルルは了承する。

その言葉を受け、先生は笑みを軽く浮かべると教室を後にした。

いつも通り何するか分からない先生に、ちょっとした恐怖心のようなものを抱きつつ、ルルはその背を追う。

 

己より二回りほども大きな背丈を持つ彼は、隣の教室の前で足を止めた。

 

「それで、ここで何するつもりだ? オイラを呼ぶってことは手伝って欲しいことでもあるんだろ」

 

それを確認し、ルルは同じく足を止める。

教室を前に、先生の横半身を眺めて青髪の少女は眉間に皺をよせる。

 

「いや、そういう訳ではなくてね。──ま、ちょっと見ててよ。君の握手爆音ドッキリよりも驚くかもよ」

 

握手爆音ドッキリ──そんな騒々しげな言葉に聞き覚えはないが、思い当たる出来事はある。

あー、絶対オレが前に仕掛けたブーブークッションのやつだな──と、ルルは脳裏に通り過ぎる先生の驚愕の表情に、思い出し笑いを堪える。

 

「へぇ、そいつは楽しみだな。それじゃ、この翡翠の瞳にしかと焼き付ける準備をするよ」

 

「あはは、それは重畳かな」

 

先生は笑ってそう告げて、次に懐中からタブレットを取り出した。ルルはそれを見て、目を細める。先生が指揮をしている間、そのタブレットは先生の手の中で淡い水色の光を放っていた。

 

ただ、気になって画面を覗き見ても何も映っていないのと、それなのに何度もちらちらと確認するように画面を見る先生に、ルルはそれを謎に思っていた。──だから、

 

「そのタブレットは一体何なんだ?」

 

気になった事はすぐに質問するルルの性格は今回もしっかり発揮された。先生はタブレットを指で操作しつつ、「まぁ、とりあいず見ててよ」と言わんばかりに、ナイスガイティーチャーなウインクをルルに返す。

 

それなら仕方ないな──と、イケメンな彼の表情になぜだか少しだけ苛立った感情を押し隠しつつ、大人しくルルは次の先生のアクションを待つ。

 

──その時だった。

 

「──え」

 

目の前で起きた一瞬の出来事に、ルルは思わず口から音が漏れる。口を半分くらい開けて、唖然とその光景を見やるルル。

それをすぐ横で眺める先生は、愉快な気分に口元が歪むのを抑えつつ、ルルに顔を向けた。

 

「驚いたでしょ? これが先生の力だぁ!──と言う訳でもないんだけど、こんなことができるって知っておいて欲しくてさ」

 

「あ、ああ、そうだな。えーとそれで、これはマジックか何かか? この際、文字通りの意味なんだがよ」

 

手品ではなく、魔法の類。ルルは今起きた現象にそれを感じた。

先程まで古びた席と机や、廃れた黒板が教室の前面に掛けられただけだった部屋の中に、突然にしてとてつもない量の物資がそこに前触れもなく出現した。

 

弾薬、レーション(携帯食料)IFAK(救急救命キット)、イヤープラグ等──これらは所謂補給品であり、今を以て、ルルは先程の先生とアヤネの会話の意図を理解するに至った。

 

そして、この現象を引き起こしたであろう──タブレット。

そこに、ルルの視線は惹きつけられるように移動するのは当然のことだろう。

 

「うーん、その辺は私にも分からないんだけどね。君が気になっているであろうこのタブレットのことは教えて上げる」

 

ルルの興味津々と言った視線に、気付いたように先生は笑い。教室の中に置いてある机に目を付けた。

それから、そこに椅子を二つ持って来て、向かい合うように置いた。

 

その意図を察したルルは、彼の気遣いに甘え、椅子に「どっこらしょっ」と腰掛ける。先生はそのルルの美少女にあるまじき、おじさん的な掛け声に苦笑しつつ、残ったもう片方の席に座った。

 

それから机の上にタブレットを置き、その大人は指を差す。

 

「このタブレットはいわゆる『古代遺物(オーパーツ)』と言われる物でさ。名前は『シッテムの箱』って言うんだ。私の相棒だよ。──長年のね」

 

「オーパーツ、という言葉から考えるに、これは今の技術じゃ再現できない。失われた古代技術で作られた物とかっていう訳だな。──それで、できることは物質を作り出すこと、だけではないだろ?」

 

その言葉に、先生は一瞬驚いたように目を薄く開き、笑った。

 

「ははは。君、本当に察しがいいね。流石は私の助手だ。──そう、シッテムの箱は何らかの代償を必要とする代わりに、生物を除く全てのものを再現できるんだ。理論上はね。そして私はこの力を『万物想造(テイラーメイド)』って名付けてる」

 

そこまで言い切り、先生はルルを見て、愉しげに笑い、

 

「あと、君は私が戦術指揮でタブレットを使っていたのは知っているね。視線が丸分かりだったよ」

 

「ワオ、バレてたんだな。見物料(チップ)は払ったほうが良かったかい?」

 

「ソシャゲに食費の殆ど溶かしたせいで、マジ金欠だから、正直クッソ欲しいけど⋯⋯生徒からお金を貰うのは色々とヤバいから遠慮するよ」

 

「ハハ、確かに。それはちょーっと立場的に不味(まず)いもんな」

 

ルルの冗談に先生はいつもより砕けた雰囲気を漂わせながら、強欲な本音をチラリズムさせる。

だが、そんなダメな大人感が滲み出た言葉が、ルルには高評価だった。完璧超人な聖人より、弱音や汚いところがある人の方が接しやすく、親しみやすいからだ。

 

しかし、それは先生の知らぬ話である。

細身の大人は苦笑を浮かべたまま、机の上で腕を組んだ。

 

「えーと。それで話は戻るけど、シッテムの箱は平たく言うと高性能でね。さっきの戦闘指揮のときは演算器として使ってたんだ。主な部分は地形や敵数、配置とか」

 

と、先生はそこで一旦言葉を止めてから、

 

「戦闘に必要不可欠なそういう情報が瞬時に、継続して得られる。あとは、精査された情報を下に指揮するだけ。だから私は別に凄くないよ。ズルしているだけさ」

 

「ふーむ、本当にそうなのかねぇ?」

 

疑わしげなルルの視線にどんな意味が含まれているのか、先生は察したように笑い、その場を上手くコントロールして誤魔化した。

すると、先生はタブレットを腕に抱えた。

 

「君ってさ、確か銃持ってなかったでしょ、今作るから何か希望ある?」

 

「いきなりだな。確かに銃は持ってないが⋯⋯使えないからオイラはいらないよ」

 

「へぇ、いいの? キヴォトスで銃を持ってない人は全裸で道端を歩き回る人より珍しいんだけど」

 

「おっと、これはお恥ずかしい。オイラは気付かずに公道を全裸で闊歩してたって訳だな?」

 

「それは、違うんじゃないかな⋯⋯?」

 

先生は苦笑して言うと、胸ポケットの辺りから銃を取り出す。

シンプルな形状で、サイズはこれまで見てきた物よりかは小さめ。使い易さと汎用性に富んだ物だと、何となくルルは理解した。

 

「使えないんだったら練習しないとね。私の銃は分類としてはハンドガンって言われてるんだけど、結構使いやすいよ。携帯しやすいし、近距離向けで装弾数は少ないけど、もしもの時には頼りになるし、威力も申し分ない。良かったらこれあげるけど──どうかな?」

 

「うーん。そうだな⋯⋯」

 

銃の必要性は、この治安の悪いキヴォトスでは言わずもがな。

現在のルルの攻撃手段は、メインとしてガスターブラスター、補助や様々な使い道を持つが、あまり使いたくない重力魔法やショートカットなど。

 

ブラスターはその大きさと容貌も相まって目立つし、日常で使い易い武器を携帯(練習)しておくのは良いだろう。

 

「それじゃあ、ありがたーく貰わせてもらうが⋯⋯本当にいいのか?」

 

銃の値段とか分からないが、なんとなく高そうなイメージがある。それに何か裏があるんじゃないだろうか、とルルが不安に思うのは仕方ないだろう。

 

「うん、シャーレには他にたくさんあるし。じゃ、どうぞ。あとこれもね」

 

しかし、そんなルルの考えを否定するかのように、先生は純粋な好意を示す笑顔で、大丈夫だと、ルルに伝えた。

 

ルルの目の前には、一丁の拳銃とケースに入った弾薬がある。

それを前にして、ルルはやはり少し不安な思いを抱きつつも、それを手に取り隅々まで見てみる。

それから、吐息を短く()き、ルルは「ありがとな」と感謝を告げ、懐中にそれらをしまった。

 

「よし、これで終わりかな。早くみんなのとこに行こう。待たせちゃってるみたいだしね」

 

「ああ、そうだな。んじゃ、行くとするかな」

 

そう言って、大人とその助手は椅子を引いて立ち上がり、ゆっくりと教室から出ていった。

 

 

*

 

 

「さて、物資の問題は私がいる限りは解決できる。それと今回の襲撃は何とかなったけど⋯⋯まぁ、これで終わりという訳ではないだろうね」

 

現在、先生とその助手であるルル。そしてここの生徒であるアビドスの面々による、今後また襲撃してくるであろう攻勢の対応を決める会議が部室にて開かれていた。

 

アビドスの面々はそれぞれ席に腰掛け、真剣な面持ちで務めている。先生は部室の中での上座辺りに座り、ルルはその横の席にいる。

 

「カタカタヘルメット団のことだよね。攻撃を止める様な奴らじゃない、きっとまた来る」

 

「私もシロコ先輩に同意見ね。しつこいし、諦めが悪いもの、あいつら」

 

シロコとセリカが吐き捨てるようにそう告げた。

表情はいつか必ず起こりうる問題を前に分かり易く強張り、その言葉に二人以外のアビドスの面々も頷く。

先生もそれには同意見らしく、その言葉に追及はしない。

 

ルルは先生の声が掛かるまでは何もしない構えだ。

自分は助手のため下手に口を挟むのもどうなのか、という考えだ。まぁ、それが八分の一くらいで、残りの大半はただ面倒臭いからというのもある。

 

そんなルルの助手にあるまじき考えがあったなど(つゆ)知らず、彼女達の考えは正しいだろう、と先生は考えていた。

カタカタヘルメット団を名乗る不良達は戦力が揃い次第、またこの校舎に攻めて来るだろう。

 

先程の戦闘によって大半の戦力を不良達は失った。

だが、不良というのは何もカタカタヘルメット団だけではないのだ。この手の荒くれ者達は他にも大勢存在しているだろう。

 

アビドスは現在、経済活動の殆どが停止している。

人がまだ残っている場所を除けば、特に管理もされてもおらず、ヴァルキューレなどの警察機関や、自警組織なども機能していない。

 

つまるところ、法律が働いておらず、捕まる恐れがないために、ここ──アビドスはまさに不良達の讃えるべき楽園という環境な訳だ。

 

「攻撃はいつまで続くのでしょうか。⋯⋯ヘルメット団以外にも沢山問題を抱えているのに」

 

目元に疲れたように指を添えるアヤネは、目の前の問題だらけの現状に溜息を吐いた。そこにホシノも付け加えるように話し出す。

 

「まぁ、先生のお陰で当面戦えるだけの体裁は整ったけれど、やっぱり元凶を何とかしないとね~」

 

そこまで言い、ホシノは曲がっていた背筋を正して、表情を一段階引き締めた物に変える。

 

「──で、そういう訳だから、ちょっと計画を練ってみたんだ」

 

「えっ、ホシノ先輩が!?」

 

「うそ──ッ!?」

 

あまりの言い草に、ホシノは「そこまで言うかな?」と心外そうに、微妙な表情を綺麗な顔に刻んで、頬を掻いた。

 

「いやぁ、その反応はいくら私でも、ちょーっと傷ついちゃうかなー⋯⋯おじさんだってたまにはシャキッとして、ちゃんとやることだってあるんだよ?」

 

「いえ、それはまぁ、知ってはいますけれど⋯⋯」

 

「──で、どんな計画?」

 

アヤネの呟きを聞き流し、セリカは鼻を軽く鳴らすと腕を組んだまま訝しげな視線をホシノに送る。

 

そんなセリカの態度に、ホシノは不服を通り過ぎ、「そんな信頼ないかなぁ」と軽く落ち込むまでに至る。

それから一拍遅れて、ホシノは問いに答えるべく、己の考えをこの場に揃う者達に告げる。

 

「ヘルメット団は必ず再編を終えてまた攻撃しにくる筈だよ、この所ずっとそういうサイクルが続いていたし、今回はちょっと大きな攻勢だったけれど、それで諦める連中なら、とっくの昔に諦めているでしょ」

 

「それはまぁ、そうね」

 

セリカは上から目線でホシノの説明に頷く。

桃髪の少女はそれに「うんうん」と可愛らしく大人な対応で頷いた。

 

「だから今、このタイミングでこっちから仕掛けよう。奴らの前哨基地を襲撃して損害を与えれば、暫くこっちに手を出す余裕もなくなるだろうしさ」

 

「えっ、い、今からですか!?」

 

ホシノの突飛な提案にアヤネは動揺を隠せない。

他のアビドスの生徒達も同じように、目を見開くようにして驚きの反応を見せている。

その提案は、これまでのアビドスではできないような物であったからだ。

 

「そうそう、今、敵の出払っていた戦力がガタガタで、こっちは補給を済ませて万全の態勢。何なら先生も居るし、負ける要素ないでしょ?  どうせ向こうはこっちが補給している事なんて知らないだろうし、物資がカツカツだと思っている中で攻勢に出るなんて想定していないでしょーし」

 

アヤネは少し不安を感じているような表情を見せている。

理由がホシノの提案にあるのは、状況を見ている者なら間違いないだろう。

確かに合理的で効果的な作戦だ、とルルも思うのだが、アヤネが心配するのも無理もないと、そうも理解できる話だ。

 

アヤネはきっと慎重な性格の持ち主なのだろう。

ホシノの提案はあまりにも、と言えるほど唐突だ。それは他のメンバーの驚愕した様子からもはっきりと伺える。

 

ホシノの説明の中での相手側の状況はあくまでも推察のため、それは暗に調査ができていないことを示している。

情報が不十分であるまま、敵の陣地に突撃する──、

 

「──リスクは、かなりあるだろうな」

 

ルルはアヤネを見ながら、そう考えた。

──だが、

 

「なるほど、ヘルメット団の前哨基地はここからそう遠くないし──うん、行けない距離じゃない」

 

「良いと思います。あちらもまさか即日反撃されるなんて、夢にも思っていないでしょうし」

 

「んー⋯⋯まぁ、アリっちゃアリかも?」

 

そんなアヤネとは対照的に、シロコとノノミは名案だ、といった様子で瞳を輝かせている。セリカはホシノの提案という事で、少し疑念はあるものの、理屈自体は通っているということで、賛成の気配を漂わせていた。

 

敵陣への電撃突撃が確定しそうな雰囲気に、取り残されたアヤネは(せわ)しなく皆の顔を伺いながら、目を廻す事態となる。

先生はアヤネを眺めているだけで、特に口を動かす気配はない。

 

「────」

 

そんなアヤネの絶賛パニックな様子を前に、ルルは先生の横でバレないように内心で悦に浸っていた。

演技等では得られない本物の人の動揺や混乱、驚愕などの感情の乱れ。それを翡翠の瞳で見逃してなるかと、捉えて離さない──、

 

「──それで、先生の助手としてルルちゃんはどう思う?」

 

この事態を作り上げた張本人であるホシノ。黄色と青のオッドアイが、もう少しこの様子を眺めていよう、と自分勝手なことを考え始めていたルルをじっと見つめていた。

 

その鋭い眼光は、ルルがこの状況を愉しんでいたことを知っていたと告げているように思え、そんな彼女を前にルルは諦めて吐息した。

 

──まったく。先生と言い、ホシノと言い、勘が鋭い奴がいるとゆっくりできないというものだな。

 

そんな愚痴を内心でつきながら。

 

「ちぇっ、もう少し見ていたかったんだが⋯⋯ま、仕方ないな」

 

ルルは悪態をつき、それから先生に目配せする。

「先生が代わりに言ってくれないか?」と、アイサインで送った次第だが、それを瞬時に察した先生は「どうぞ、どうぞ」と言わんばかりに笑顔をルルに向ける。

 

──この大人、もしや黙って見てるだけだったのはこのためだったんじゃないか?

 

と、先生の狡猾な策略にルルは気付く。

が、こうなってしまった以上もう遅い。面倒臭いが、自分が話すしかないということだ。

 

「結論から言って、オイラはホシノの敵地襲撃に賛成だよ。合理的で効果的、それにホシノの言う通りこの場には先生もいるんだから、負ける気はしない。それに、最悪の場合でも撃退して逃げるくらい、アンタ達なら容易(たやす)いだろうしな」

 

アビドスの戦闘能力の高さは他と比べても頭一つ抜けている。

ルルの知ってる限りだと、パンケーキの化け物の件で奮闘していたエリート戦闘集団であるゲヘナの風紀委員達と遜色ないくらいか、質ならアビドスの方が上だと思っている。ヒナは例外。

 

だからこそ、最悪の場合でも撃退くらいはできるだろうという見解だ。少数精鋭、リスクは大分抑えられる。それなら行うべきだとルルは考えた。

 

「うん、私も同意見だよ。ルルの言う通り最悪でも、撃退くらいはできる。攻めるタイミングとしても最高だ。みんなが行くなら私とルルも同行するよ。サポートと作戦指揮は任せてね」

 

それに先生が同調するように頷いた。

さらっとルルも同行することが決定され、当の本人は内心で「まじかよ⋯⋯」と不満そうに呟いた。

校舎で待機し、日差しを浴びながら気持ち良く惰眠を(むさぼ)るルルの計画が台無しだ。

 

「まぁ、リスクは減るもんな」

 

だが、ルルがいた場合だと、最悪に最悪が重なった状況でも『ショートカット』の能力で全員まとめて校舎に戻ることができる。

リスクヘッジを大切にしているルルは、そうして仕方なくやる気を出すことにした。

 

「分かりました。私も賛成します」

 

先生が言うなら、とアヤネも頷いて賛成の意を示す。

この一言を最後に、アビドスの作戦会議は終了する。それからアビドスの闘志に火が付き、燃え盛った。

 

「よっしゃ、先生のお墨付きも貰った事だし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー」

 

「ん、善は急げって奴だね」

 

「はい~、それではしゅっぱーつ!」

 

「やるならギッタンギッタンのボコボコにしてやるわ!」

 

「あっ、ちょっと、まだ準備が──っ!」

 

(たけ)る戦気そのままに、愛銃を取りに行く皆の背を見ながら、アヤネは襲撃に必要な装備一式を整えるために慌てて駆け出す。

先生はこれから行う作戦を思いながら、タブレットの液晶ディスプレイを見て、

 

「じゃ、ルル。私達も準備をしよっか」

 

「ま、仕方ないな。了解だぜ、先生」

 

片目を瞑り、黒い瞳でルルを捉えた。

その妖しい輝きの奥の感情は、今のルルにはまったく読み取れなかった。

 

ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜

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