ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE!   作:ケガレモ

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『ミレニアムにて』

 

「うーん」

 

ミレニアム自治区。そのどこかの路地裏で、少女は唸り声を小さく上げていた。その少女とは、他でもなくルルのことだ。

彼女がこの世を忍んでから既に三日が過ぎていた。それまでに色々なことがあったのだが、残念ながら今は説明できそうにない。

 

ルルは今、非常に困っていた。いや、危機的状況と言ったほうが正しいのだろうか。家の水道が止められたとか、それなのに金が一切無いだとか。

理由は色々あるにはあるんだが、それを差し置いて、今一番ルルの頭を悩ませるのはこの状況であった。

 

ルルは今、スケバンに捕まっていた。気付いたら手を後ろに回され、両手を縄で縛られてた。ミレニアムに行こうと思い、行動していたのだが、途中で面倒臭くなって近くにあった公園で寝た。

そして、起きたらこうなっていたというのが事の顛末(てんまつ)だ。ここの治安、終わり過ぎやしないだろうか。

 

──え? 寝るなだって? 睡眠は人生の三分一を占める大切な時間だぜ。これは仕方がないことなんだ。

 

心の中で誰にともなく言い訳を断言し、ルルは話を戻す。

スケバンは、この世界における不良みたいなものだ。学籍を持たず仕事もすることができない。多分、この世界でいう学籍は、戸籍と同じような扱いなのだろう。

 

仕事ができないということは、金を得る方法が無いということ。──つまり、することは決まっている。

 

「オイッ! お前見ねぇ顔だな?」

 

「金出せよ、かっねっ! いい服着てんじゃねぇか。あるだろ?」

 

いや、本当にない。なぜなら、今のルルは正真正銘の無一文だから。パーカーのポケットには、ケチャップボトル(空)と(ほこり)しかない。

それでも良いと言うなら、はい喜んでと差し出すが、差し出した結果など目に見えている。

金が無いと言えば、このパーカーを奪い取られそうなので、ここは肯定も否定もしないでおく。それが賢明だろう。

 

そう、つまるところこういうことなのだ。金を巻き上げる他に、彼女達が金を得る方法はない。そして悲しいことに、その巻き上げられる対象がルルだった、という訳だ。何とも面倒この上ないことだろうか。

 

「実はな、この服は少し前に買ってもらったもんでな。三日くらい洗ってないけど、やっぱり綺麗に見えるよな? そんなら、あと二日くらいは洗わなくてもいいかもな」

 

生前の彼女にプレゼントしてもらったお気に入りの青パーカー。それを形はどうあれ『いい服』と褒められたので、ルルは少し嬉しく感じた。

そんな気持ちが顔に出たのか、ルルの目の前でヤンキー座りする表情の怖い不良一名は、

 

「あぁっ? なんだこいつ気持ち悪い。捕まえる奴間違えたか?」

 

と、なんとも酷い言い草をルルに返すのであった。

 

──面倒臭がりは、オレの尊重すべき個性だってのにな。

 

そんなルルの特に感慨もない心情はさておき、縄で縛られ固定される体勢が地味にきつかった。瞬間移動でもできればすぐに抜け出せるのだが、とルルはそう考えて、

 

「あっ」

 

──そういや使えたな。ショートカット(瞬間移動)

 

そして、思い出した。いや、別に忘れた訳ではなかったのだが、使えるのか分からないというのが正直な話である。

 

ルルはこの世界に来てから『魔力』という力が消えてしまった。モンスターという存在は体の大半が魔力でできている。魔力はモンスターの(ソウル)から溢れ、体に巡り、動かすための生命力となる。

 

そして魔力を使うことで『魔法』と言われる技術でこの世に様々な影響や事象を及ぼすことができるのだ。ルルの『ショートカット』は、離れた時空間の点同士をトンネル状の構造で結び、仮想的な抜け道を作り、それを瞬間的に維持するために──、

 

説明が面倒臭い。簡単に言うと、好きなように瞬間移動できる魔法みたいなモノだ。数メートルの移動すら面倒に感じる怠け者なルルにとって、それはとても貴重で便利な能力だ。

人間の体には、その魔法を扱うために必要な魔力はない。だから、てっきりもう使えないものと思っていたが──、

 

「⋯⋯神秘があるな」

 

そうだ、この世界には神秘がある。これを使えば再現できるかもしれない。ここなら何が起きても、特に被害はないだろう。それなら、試してみる価値は十分だ。

そうして、ルルはさらっと不良への被害は除外して、次の行動を決めた。

 

「──ま、物は試しってやつだな」

 

「何ブツブツ言ってんだ? うるせぇぞ」

 

「いや、大したことじゃないぜ? でも、ちょっと面白いことができそうな気ぃしてな」

 

「は?」

 

その時、縄で縛られていたはずの少女が突如、消失した。

 

「なっ!? どこ行った?」

 

「後ろだぜ、お嬢さん?」

 

混乱の中、不良の彼女が声が聞こえた方向──背後に振り向き見た光景は、意味が分からないモノだった。

少女の左目が(あや)しく青く輝き、両腕をパーカーのポケットに入れ、愉しそうに笑っている。──それだけなら良かった。

 

その少女の背後には、ドラゴンとも悪魔の片割れとも形容できる『頭』が鋭く光った青眼で、こちらを見据えている。

その顔の下部に存在する、口腔(こうくう)のようなモノから溢れるように、または凝固し、収縮するように常軌を逸したエネルギーの激流──それを(はら)んだ(まばゆ)い白光が、そこに見えた。

 

「んじゃ、ちょっぴり眠ってくれ」

 

少女の声は今、この瞬間だけ彼女達に真の意味で響いたのかも知れない。それは、その声がなぜか綺麗に思えたからなのか、今降りかからんとする『それ』から感じ取った『何か』に震えたからなのかは分からない。何も、分からない。

 

「あっ⋯⋯」

 

意識せず、漏れた声にはどんな感情が渦巻いていたのだろうか。複雑過ぎて、理解に及ばない。──ただ、

 

「冥土の土産に⋯⋯とは違うけどな。一個教えてやるよ」

 

そこで止め、少女は──ルルは不良に笑って見せる。

 

「『ガスターブラスター』オレはこいつをこう呼んでるんだ」

 

さっきまで縛っていたはずの小さな存在は、自分達を審判する神様のように思えた。

 

 

*

 

 

──その光景を見ていた者達が、反応を示す。

 

「かっこいいっ! かっこいいわ! あれこそアウトローって感じよ!」

 

「そうなの?──なんか三日、服洗ってないとか言ってたような⋯⋯」

 

「くふふっ、まぁ、アルちゃんがいいならそれでいいんじゃない?」

 

「はいっ! アル様はいつも正しいです!」

 

陸八間(りくはちま)アル、鬼方(おにかた)カヨコ、浅黄(あさぎ)ムツキ、伊草(いぐさ)ハルカ。任務が終了し、四人で事務所に帰っている時であった。

 

今回の任務は迷子の子犬探し。あいからわず舞い込んでくる仕事は慈善事業みたいなものばかりだが、和気藹々(わきあいあい)。いや、狂喜乱舞とした雰囲気で、毎日を愉快に過ごしている。

彼女達は『便利屋68』と言う。その中の一人、カヨコが口を開ける。

 

「さっきの何か分かる?」

 

カヨコの問いかけに首を傾けて、とぼけたようにムツキが「んん?」と喉を鳴らす。

 

「いやぁ? 私もなにあれ〜?──って感じだよ。でも⋯⋯」

 

「かっこよかったわよね! なんか陰の実力者って感じよね!」

 

おどけたムツキから言い繋ぐように、アルが子供のようにはしゃいだ顔をしながら彼女を評価する。

 

「はい! そうです! アル様がそう(おっしゃ)るなら、私もそう思います!」

 

そしてハルカが、妄信的にアルの言動をすべて肯定する。

 

「はぁ、まぁいいわ。とりあいず早くクライアントのところにいくわよ」

 

そんな見慣れたいつもの光景に呆れつつも、カヨコの表情には隠し切れない微笑みが浮かんでいる。しかし、その笑みは悩みの種を見つけて消えることになる。

 

「──本当に何者なの」

 

カヨコは戦慄していた、あのすさまじい力に。瞬間移動のように見えた動き、そして『ガスターブラスター』という得体のしれぬ兵器のようなモノに。

 

「⋯⋯少し、調べてみる必要があるわね」

 

「カヨコ! 早くしないと先に行くわよ」

 

そんなカヨコの悩みなんて知らないようで、アルは元気よく前へと、歩みを踏み出す。

 

「はいはい社長、少し待ってね」

 

その声を聞き、カヨコもいつも通りに歩みを進める。──少しの驚愕と、拭いきれない不安を残しながら。

 

 

*

 

 

「⋯⋯できたな」

 

自分でも驚きの感情を抑えきれない。正直使えるとは全く思ってなかったのだ。『ショートカット』も『ガスターブラスター』も対応しているのは魔力であって、神秘で扱うことは想定されていない。

水で動くと書いてある装置に、なかったもんだからガソリンぶち込んだらたまたま動いたって感じなのだ。

それと、驚いた理由はもう一つある。

 

「何と言うか⋯⋯威力ましてないか?」

 

その感想を呟いたのは『ガスターブラスター』についてだ。前世はこれを何百、何千と使ってきた。だから、ルルは感じたのだ、いつもと異なった手応えを。その原因が人間になったからか、それとも神秘でやったからかは分からない。

 

「まぁ、強くなったのならいいや。考えるの、面倒臭いし」

 

そう言い、特に気にせずルルは目的地に向かう。その目的地とは、ミレニアムのことである。

 

行く理由は簡単、ミレニアムに入学するためだ。理由は色々あるが、一番は学籍が欲しいから。ないと明らかに詰む。学籍がないと仕事もできず、活動できる場所が大きく制限される。あの不良のように金をたかるようなことはしたくない。

 

そしてもう一つ、彼女について知るためだ。彼女──神楽ロアは神楽ルルの妹に当たる。たった一週間、それでも、彼女と過ごせた時間は幸せだったと思う。特に何かを考えることもなく、ただただその平和な生活を享受していた。

だから、今は考える時なのだ。どうして『サンズ』は『神楽ルル』へと成り代わったのか、どうして神楽ロアは殺されたのか。

 

「よし、着いたな」

 

そんなことを考えている内に、ミレニアムに着いた。そして、なんというか度肝を抜かれた。なぜなら、地下に建てられたラボが霞んで見えるほどの近未来的景色が目の前に広がっていたからだ。

 

そこにはシャレた服装の生徒達がベンチに腰掛け、ランチを楽しんでいたり、会話に笑顔を交換しながら歩いていたり。どう考えても自分みたいな奴が立ち入っていい場所には思えないが、入ると決めた以上、帰る訳には行かない。

 

「⋯⋯それで、どこにいけばいいんだ?」

 

たった一学園だけで地下世界の広さを軽く超えそうな景色を眺めて、ルルはそう呟く。補足だが、ルルが元いた地下世界に学校がなかった訳ではない。しかし規模は小さく、人数も少なかった。そのため近くにいる人(?)に聞けばとりあいずなんとかなっていたのだ。

 

「それなら、ここでも人に聞けばいいか」

 

そう考えて、ルルは周りをもう一度見渡し──、

 

「うわぁぁああーーん!! 負けたぁああっ!!」

 

「ちょっとっ!? お姉ちゃん大声出さないでっ!」

 

ルルから十メートルくらい先。短く切られた輝く金髪の少女が、世の不条理を訴えるように叫んでいたのを見た。その少女の手には、通常の大きさの半分程の棒アイスが握られている。

 

公衆の面前で突如、叫んだその金髪の少女を「お姉ちゃん」と呼んだのは同じく金髪の少女だ。いや、金髪だけではない。顔貌(かおかたち)や体格もそっくりで『瓜二つ』とはこの少女達のためにできた言葉ではないかと、ルルが思う程だ。

 

そして叫んでいない方の少女の手には、テ◯リスでいうところのLミノのような形のアイスが握られていた。

恐らく、パッキンアイスで割るのを失敗し、どちらが大きい方を貰うか争った結果、姉妹の姉の方が負けたのだろう。だからと言って、叫ぶほどのことなのか疑問なのだが。

 

「こっちのアイスあげるから静かにして!」

 

「え? いいの? ありがとミドリ!」

 

人目が集まり、流石に危機感を覚えたのだろう。妹の方が気を利かせ、涙を浮かべていた姉はLミノ型アイスを片手に、笑顔を浮かべる。それを見て、姉からハーフアイスを代わりに受け取った妹は安堵の息を吐く。

 

「やっぱり、モモイは子供ですね!」

 

そんな姉妹の様子を見ていた少女は、笑顔でハキハキと感想を告げる。地面につきそうな程の黒髪が、陽光を反射し(きら)めいている。その小さな少女の背には、己の身体より二周りも大きい暴力的な戦闘兵器が脅威的な存在感を露わにしていた。

 

「アリスちゃん、ちょっとそれは言い過ぎかも⋯⋯」

 

そんな少女に注意する者がいた。自信なさげと言った様子で、前の三人と比べるまでも無くとても小さく、頼りない声だ。

 

──どうしよ、人を見つけたは良いが、関わったら面倒臭そうなオーラがプンプンしてる。

この一連の流れを見ていたルルは、心の底からそんな事を思わずにはいられなかった。

 

「──あっ!」

 

「げぇっ⋯⋯」

 

さっき鼓膜を破壊するくらいの大声を出していた奴。確か、モモイと言っただろうか。金髪に、ピンクのヘッドフォンを細い首に掛けた少女が、悲しいことにルルを直視していて、思わず(うめ)いてしまう。

 

「今『げぇっ』って言った!? 酷くない!?」

 

「まぁ、さっきの聞いてたらそうなるよね⋯⋯」

 

そして、そんなモモイに瓜二つな姿の少女がそっと目を逸らす。その呆れたようで諦めたようにも見える表情から普段の様子が簡単に想像がつく。面倒臭さが完全に限界突破しているが、話しかけられたなら返さなきゃ失礼なため、仕方なくルルは口を開いた。

 

「あー、いやごめんよ。ただ、面倒臭そうだなって思っただけだ」

 

「ねぇっ!? やっぱり酷くない!?」

 

「⋯⋯でっ、何かオイラに用があるんじゃないのか?」

 

このままだと話が進まなそうなので、ルルは話題を早々に切り替える。それを聞いたモモイは少し歪んだ表情を戻した。

 

「あっ、そうだった。あなたロアのお姉ちゃんだよね? えーとね、ロアのことなんだけど」

 

彼女と関係があった生徒達には、その訃報が広がっている。彼女もきっと、ロアの友人の一人だったのだろう。

 

「前にね、私にゲーム買ってくれたんだ! 優しいよね〜」

 

「え?」

 

「え、私、変なこと言った!?」

 

また自分がおかしなことでも言ったのかと、慌てるモモイ。しかしながら、そういう訳では断じてない。これに関しておかしな反応をしたのはルルの方だ。

 

「いや、ちょっと予想外でさ。てっきり『あっちのこと』について聞かれると思ったから⋯⋯いや悪い、忘れてくれ」

 

酷いことを聞いたと今更気付いて、ルルはそう早口で発言の忘却をお願いする。──やってしまった。それは今、一番聞いてはいけない言葉だったと分かっていたというのに。

 

「──そうだね。正直、まだやっぱり悲しい」

 

しかし、撤回したルルの言葉にモモイは少し間を置いてから話し出した。それから、「でも」と言葉を継いで、

 

「笑ったほうがさ、ロアが喜ぶでしょ?」

 

俯いたルルが顔を上げ、次に見えたのは柔らかな笑みだった。その言葉は、その表情はロアのことを想っていることが充分過ぎる程にルルに伝わった。──嬉しかった。この世界にもこういう奴がいるんだって、知ることができたから。

 

「⋯⋯そうだな。ありがとよ、今度メシ奢ってやる」

 

「ホントっ? ありがとう!」

 

「──ま、今無一文なんだけど」

 

「え⋯⋯」

 

最後に、モモイの何とも言えぬ笑える表情をここに記しておく。

 

 

*

 

 

彼女達はゲーム開発部という部活に所属しているらしい。子供っぽくて五月蝿(うるさ)いのがモモイ、姿は似ているが性格は少し大人びているように見える双子の妹がミドリ。そして、ルルから距離三メートルを死守しながら、ビクビクと身体を震わせているユズ。

 

「あーその、ユズって言ったよな?」

 

「──っ!?  えと、あの、すいません。⋯⋯私に何か、気になることでもありましたか?」

 

たどたどしく聞き返すユズに、ルルは「いや、そのな」とバツの悪い顔で首裏を掻き、

 

「『そんな怯えさせることしたっけ』って疑問に思ってるだけさ。大丈夫、オイラはアンタのことを取って食ったりはしないから。あと、舐めたりもな。──そうそう、舐めるって言えば、オイラ、飴玉持ってるんだけど、良かったら食うか?」

 

ズボンから包装された飴を取り出し、飴の乗った(てのひら)を小心者な彼女の前に差し出す。パーカーにはホコリしかないが、嘘は言ってない。

 

「そう、ですか。──飴、貰います⋯⋯」

 

彼女は今だに体を震わしてはいるが、ルルをひとまず大丈夫だと認識したらしく、ゆっくりと近付いて手を出してくれた。ルルはその手に「ほいっ」と飴をポトッと落とす。

 

「珍しい、ユズがこんなに早く懐くなんて⋯⋯」

 

「ルルがすごく弱そうな、スライムみたいに見えるからじゃないですか?」

 

どこか感嘆したように呟くミドリの言葉を拾い、アリスは笑顔でルルを『弱そうなスライムに見える』と評価した。

 

「アリス!?  失礼だよ!」

 

「別に構わないぜ? 実際その辺の奴より弱いと思うし」

 

それから、アリスの悪口とも取れる発言にモモイが注意をいれるが、そこまで気にしていない──むしろ愉快な気分になったルルは、アリスの素直な感想を軽く流した。

 

そして最後の一人、アリス。どうやら彼女は人ではなく、有り体に言うとアンドロイドらしい。見た目はただの可愛らしい少女そのものだが、その力は常人の数千倍はあるみたいだ。

背中に背負っている常識外れなサイズの武器を扱えるのは、そのためだと教えてもらった。

 

彼女達は入学の手続きを手伝ってくれるとのことだったので、遠慮なくルルはその手を借りた。人脈は広いほうが良い。なぜなら、楽できるから。

 

「はい、ついたよ」

 

歩いて五分くらいが経ち、ルルがモモイ達に案内され、着いたのは執務室の前だ。ここにいる人に頼めば入学できるとのことらしい。

ドアを開けると、青髪の少女が少し大きめの椅子に腰掛け、電卓を手にペンを走らせている光景がそこに見えた。

 

「あれ、ユウカ?」

 

普段はそこにいないのだろうか。部屋に入ったモモイは、不思議そうな表情で彼女──ユウカに疑問符を浮かべる。

 

「モモイ? なんでここにきたのよ?」

 

「ちょっと用がある人がいてね、暇だったから案内したんだよ」

 

不思議に思うのはそのユウカという少女も同じだったらしい。モモイの正直な返答に、ユウカはちらりとルルを見て納得の息を溢した。

 

「オイラは神楽ルルだ。よろしく頼むぜ?」

 

それを確認し、ルルは軽く挨拶を行う。それに好ましく感じたのか、ユウカの表情は笑みに近しい物になった。

 

「ああ、貴方が神楽ルルさんですね。ロアからよく話は聞いていました。私は早瀬ユウカと申します。今はここにいますが、普段はセミナーという部活でミレニアムの会計をしています。どうぞ、よろしくお願いしますね」

 

さっきまでのモモイに対しての態度とは一転して、その話す姿勢は実に懇切丁寧だ。あまりの変わり身の早さ、思わず賞賛を上げたくなるほどだ。

 

「なるほど、ユウカさんね。あと、敬語は使わなくて構わないよ。その方がオイラは接しやすいからさ」

 

「そう? それなら『さん』なんて付けずに、私のことはユウカと呼び捨てでいいわよ。私もルルって呼ぶから」

 

ユウカは敬語を辞め、ふっと唇を緩めて微笑む。それを見て、ルルはここにきた目的を言葉にすることにした。

 

「じゃ早速、察しはついてると思うが、ミレニアムに入るための入学手続きをアンタにお願いしたいんだ。そのために今日ここに来たからさ」

 

「分かったわ。書類は後で渡すから待って頂戴。正式な入学は明日になると思うけど、今からあなたはミレニアムの生徒よ」

 

そのユウカの言葉を聞いて、とりあいずはこれでよし、と安堵する。ミレニアムに入れさえすれば、ひとまず露頭に迷うこともないだろう。後はバイトを探したりして、食いつなぐことができる。

 

「もし今暇だったら私達の部活を見に来ない? 今日は疲れてると思うし、ゆっくりゲームでもしようよ!」

 

さて、次はどうしようか、とルルが考え始めていたころで、モモイが待ってましたと言わんばかりに唐突に喋りかけてきた。

 

モモイがルルの心中を察したかは(さだ)かではないが、確かにモモイの提案はちょっと疲れて怠けたいルルにとっては是非とも、と言える魅力的な提案だった。

 

「いいぜ。ま、負ける気はないがな?」

 

「いったね〜? 私も絶対負けないから!」

 

提案を受けたルルに、モモイはやる気に満ち溢れた表情で元気に言った。

 

 

*

 

 

「ちょっとぉっ!!? そこ当たるのっ!? そこからコンボ繋がるの!? まって死ぬっ! これ死んじゃうよ!」

 

モモイの体力ゲージはみるみる赤く変化して行き、今にも消失してしまいそうな瀕死状態となる。必死にコントローラーをカチカチと動かし、金髪の少女はコンボから抜け出そうと奮闘する。

 

「よし、抜け出せたっ! こっから勝つよ!」

 

体力ゲージは、もう残りミリと言ったところ。

だがしかし、ゲームは体力がゼロになるまで終わらない。だからこそ、勝てるという希望を胸に、モモイは再び眼光を輝かせる。

 

「────」

 

カチッ、とルルのコントローラーからボタンが押される音が部屋に響き渡る。その音と同時に、モモイの足元から爆煙が発せられた。──ルルが仕込んだトラップによるものだ。

 

「へっ?」

 

モモイの間抜けな声が響き『ゲームセット』の文字が画面にデカデカと映し出された。

 

「トラップとか聞いてないってっ! 全部読まれたんだけどっ!? もう一回っ! もう一回っ! 次は勝てそうな気がするからっ!」

 

「お姉ちゃん⋯⋯もう十七連敗だよ」

 

「モモイはまだレベルが足りません!  ここは潔く諦めるべきです!」

 

ミドリがモモイの惨状に、呆れたように目を伏せる。それから、アリスが純真無垢な言葉がモモイのメンタルを追撃する。

 

「え? さっき次勝ったほうがこの戦いの真の勝者とか言ってなかったっけ?」

 

更にダメ押しと言わんばかりに、ルルはモモイを言及する。──コントローラーを床に起き、寝転がっている形で。

あまりの集中砲火に、泣き叫ぶモモイをミドリが退け、こっちに来る。

 

「じゃあ、次は私の番かな」

 

ミドリがルルの隣に座り、渋るモモイから無慈悲にコントローラーを奪い取る。

 

「お手柔らかにお願いするぜ?」

 

「勝つよ」

 

その様子を見て、軽口を叩き、ゆっくりと上体を上げるルル。そんな彼女にミドリは確固たる決意の下でそれを受け、画面は切り替わる。

 

ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜

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