ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE! 作:ケガレモ
持病が悪化してほぼ死んでました。
カーテンから差し込む光で、若干の不快感と心地よい暖かさが身体に伝わり、夢幻の世界からゆっくりと現実に引き戻される。
そして顔を上げようとした刹那、首筋にヒヤリという感覚が走る。──俗にいう『寝汗』だ。
正直ビクッとした。長年、共に人生ならぬ『骨生』を歩んだ体の感覚は抜けず、まだまだ人間の体には慣れそうにない。
「へへ、なるほど。これが自己完結型寝起きドッキリって訳だ」
天啓のように思いついた寒いギャグを頭に浮かべつつ、覚醒してきた脳を回し、今の状況を頭を上げず眼球だけ動かして確認する。
目の前には中身がまだ残っているポテチの袋、少し先には使いっぱなしで床に置かれたゲームコントローラー。
そして、ソファでスゥースゥーとだらしない寝相で寝息をたてるモモイが、落下しそうになりながらもそこにいる。
「⋯⋯ぐぇっ」
モモイが落下した。でも起きない。凄いな。
アリスとミドリはいないが、もう起きたのだろうか。
あと一人いたような⋯⋯。いや、きっと気のせいだろう。
そう切り捨てて、思考を纏め結論を出す。
どうやらルルはモモイ達とゲームした後、そのままゲーム開発部の部室で寝ていたという事らしい。
ひとまず状況は分かったので、次の思考に切り替える。
ミレニアムには入学できた訳だが、まだまだルルがするべきことは多い。
その一つに、自分について知ることが含まれる。
この自分というのは『サンズ』という名前を持つ意識ではなく『神楽ルル』という肉体を示した単語だ。
この体の元の持ち主──神楽ルルという人物は、知れば知るほど不可解な点が多い。
高校に入学してなかったのもそうだが、不自然なことに彼女の家からは神楽家についての情報は一つも見つからず、唯一見つけたのは部屋に飾られたロアとルルの二人が写った写真の一枚のみ。記憶も、肝心なところは
ロアに聞けば、すべて分かるのかも知れない。
しかし、それは不可能な話だ。だって、彼女はもういないのだから。
分かることと言えば、身体情報くらいだろうか。
中学生くらいの背丈に、起伏の
それなのに
時期的に第二次性徴期が終わる頃合いで、ここからナイスバディなボンキュッボンに成長する見込みは、限りなくゼロに近いだろう。
侮蔑や冷やかし抜きに、発育の悪さに「ドンマイ」と言って励ましてやりたいが、今は自分の身体なのだからただの虚しい独り言になってしまう。
「よいしょ、っと」
クッションを寝具にしていたようで、手に当たる感触はしっとりと柔らかかった。掛け声と共に起き上がり、軽く背伸びをして。そこでポテチの破片がいくつか服に着いていたことに気付き、それをチョイっと右手で振り払い、部室を出る。
「あら、起きていたのね」
気安い口調で、ルルに話しかけた彼女はユウカであった。
その声はちょうどルルがドアを開けた直後に聞こえたものだ。
ユウカも向こう側から同じように、部屋に入ろうとドアを開けようとして、偶然それがルルが開けるタイミングと被った形だ。
それを理解して、それからルルの視線は下へと動いていた。
──昨日は何も思わなかったが、この人、太ももが太過ぎやしないだろうか?
そして、そんなことを思った。
ユウカの太もも。アリスのと比べてみても幅だけでニ倍くらい差がありそうに見えるが⋯⋯いや、それは言い過ぎだろうか。
「⋯⋯何か気になることでもあったの?」
ルルの視線が己の太ももに向いていたことに気付いたのか、何とも言えない表情でユウカは眉を寄せていた。
そんな彼女に、ルルは肩をすくめて軽く返す。
「いや、大したことではないさ。──んで、話は変わるがユウカさんは何しに来たんだ?」
「ユウカさんって⋯⋯まぁ、いいわ。まずモモイとあなたを起こしに、それと──」
何か言いたげな様子だったが、聞いても意味が無いと悟ったのか、すぐにユウカは切り替えた。するとユウカは、手に持っていた袋に手を入れる。
「はい、これがあなたの制服ね。今日から着てもらうから早めにここに来たのよ」
「ほーん? なるほど、ありがとな、ユウカ『さん』」
「『さん』って⋯⋯」
自分より年下であるユウカだが、あの太ももに敬意を払い『さん』付けは永続決行だ。渋い表情をユウカは浮かべているが、それは気にしない。面白いから。
制服なんて着るのは何時ぶりだろうかと、そんな懐かしさを胸にしつつ、ユウカに再び感謝を告げる。それを聞いたユウカは満足そうに笑みを浮かべ、モモイを起こしに行った。
*
更衣室へと移動し、青と白を基調とした少し柔らかい生地の制服に着替え、青パーカーを
前世とほぼ同じ格好だ。やっぱりこの格好が性に合って落ち着くのだ。懐かしさを再び感じつつ、ルルは吐息を漏らして身体をぐいっと伸ばした。
この世界の学校には、どうやら教師は存在しないらしい。
生徒達は自主的に勉学に励み、知識や経験を積んでいく。その為、サボるか真面目にやるかで学力の差はとても大きくなる。
学校によっては授業が行われているところもあるが、教師がいないなら誰が教鞭をとるのか、という話になるだろう。気になってユウカに質問したところ、優秀な生徒が教科書や自分のノートを使って授業しているらしい。
「⋯⋯変な話だよな」
この世界には普通に大人もいるのに、なぜ生徒が教鞭を執るというのか。まぁ、ひとまず分からないことは考えないことにしよう。今はそれよりやるべきことが山積みなのだ。それに時間を取る訳には行かない。
さて、今まさに起きている問題について考えよう。
何を隠そうか、ルルの現在は何とも悲しいことに無一文だ。
財布には小銭一枚もなく、クシャクシャに突っ込まれたレシートが
部活に入れば、部費というものが貰えるらしいが、ルルは入ろうとは思えなかった。
定期的に結果を出し、精力的に活動する。
これははっきり言って、怠惰の化身であるルルに向いているとは思えない。そうなれば、金を得る方法は一つしかないと言える。
「まぁ、働くしかない。それしかないよな」
働きたくない、というのがルルの素直な感想。
何当たり前のこと言ってんだと、思うかも知れないが、人間とモンスターではその辺の勝手が違う。
モンスターには食事が必要ない。だから、家でどんなにゴロゴロしていても何も問題ないし、体調が悪くなることもない。
その為、本当に必要なときだけ働けば良いのでそこまで大変ではないのだ。前世はそんな訳で、ゆるーく仕事をしていた。
だが、人間の体はそうはいかない。
動きに支障が出るし、普通に死ぬ。生きる為にも継続的に金を稼がなければならない。
「ま、仕方ないよな。ゆっくりしたいけど」
小さく溜め息を吐いて、ルルは更衣室を後にした。
*
とりあいず、ミレニアムからでることにした。
仕事を探して金を稼ぐため。そして『神楽ルル』について知ってる奴を探すため。
彼女の存在は、ロアの友人なら殆どが認知しているらしい。
だが、『そんな人物が存在する』という事実と、ロアがスマホの待ち受けに、姉妹写真を入れていたことで知った見た目くらいであり、それ以上の事は聞いても答えてもらえず、本人に合うことも叶わなかったらしい。
そして、唯一彼女の事を知っていた姉妹であるロアは誰かに殺された。──どう考えても、何かあるのは明白だろう。
だから、まずは情報を集めたい。
そう思い、ルルは行動を開始した。したんだが──、
「よおっ、ガキ! 良いところにきたな? 今、無性に殴りてぇ気分でよぉ!! 一発ぶん殴らせろよ」
ゲームならばエンカウント音でも鳴りそうな感じに、ルルの目の前に一人のスケバンが出現した。
「──なんでこうなるんだ?」
自分でも気付かぬ内に勝手に声が漏れていたのだが、それは今はもう関係のない話。
ルルはミレニアム自治区を抜け、少し歩くと商店街らしき建物群を見つけ、そして近道できそうな道を発見。そこに行くとあら不思議、スケバンが待機していた。
──この世界の治安は一体どうなってるんだ、マジでよ。
気付くと、またも溜め息は溢れていた。
「ああん? 知るかよ。それはそうとよ。お前、チビだしよくぶっ飛ぶかもな。よーし本気で殴るぜ〜?」
右腕をグルグルと回し、殴るウォーミングアップを開始する不良一名。その視線は勿論、ルル一人に固定されている。
つくづく運命の女神さんは自分の事が大嫌いらしい。──よし、心の中で中指を立ててやろう。
「──さて、どうしようかねぇ」
状況は最悪、気分も最悪。逃げてしまいたいが、逃げることすら面倒臭いと思う程にやる気がでない。この不良に絡まれたルル側としては、不利益しかない。それでやる気が出る方が可笑しいというモノだろう。
前世、『サンズ』という名前だった頃に仲良くなったとある友人なら「正当防衛だっ!」とか言って、戦う口実にする戦闘狂もいるにはいるのだが、そんな思想はルルにはないし、欲しいとも思わない。
目の前の不良で何か実験の一つでもできれば、やる気が出そうなものなんだが──と、ルルは考え、
「いや、一個思いついたな」
そして、思い付くに至る。
すると、青髪の少女は愉しげに不良に向かい、微笑んで見せた。それはルルがやる気を出し、不良に厄災が振りかかる凶兆であった。
「まー、確かに。ピンポン玉みたいによく吹っ飛ぶかもな? ま、オイラのことじゃなくて、アンタのことだけど」
自分でも憎たらしいと思う表情を浮かべて、皮肉を込めて上げ調子に言う。その憎ましい表情と憎まれ口に、不良は口を震わせると、
「あア゙ァ゙!?」
表情を憤怒の色に染め、声を張り上げた。
反応は上々過ぎる程だ。それを確認し、ルルは思案を行動に移していく。ポケットから右腕を取り出し、掌を怒り狂う不良に向ける。すると、不良の輪郭に沿うように青い光が帯び始める。
「あぁっ、んだこれ?」
発光する自分の体に疑問を持ったのも束の間、不良はすぐにまた殴るために姿勢を整えた。
「よーし、いくぜぇっ!!」
拳が一直線にルルの綺麗な顔に、吸い込まれるように向かう。
当たるその瞬間、狙い澄ましたタイミングで、ルルは右腕を思いっ切り振り上げ──、
「そんじゃ、楽しんでらっしゃい」
実に愉し気に、ルルはそう言った。
「は? お前何──」
彼女は何か喋ろうとしたが、その声はもう届かない。
なぜなら彼女は今、遥か上空へと打ち上げられたからだ。
「『重力魔法』さ。ま、聞こえてないだろうがな」
そう告げてルルは上を見ると、落下し始める少女の姿がそこに見えた。──二十メートルくらい、上空で。
「あっ、やべ、やりすぎちまった。──いや⋯⋯」
次の瞬間、物凄い速度で地面へと激突する不良が視界に映る。
地面へと落下した『それ』は服が存在したおかげでようやく人だったと認識できる、不出来な肉塊に成り下がり、そこには感情も命もない──、
「いっ⋯⋯てぇ」
なんてことは冗談でも起きる訳なく、辛そうな呻き声を漏らす不良の姿がそこにあった。
打撲したような傷はいくつかあるが、その身体はほぼ無傷だ。
そんな不良のピンピンとした様子に、ルルは白い歯を光らせる。
「ハハ。面白いくらい頑丈だな、ここの奴らは」
この世界の人間には『神秘』が身体に循環している。
それは肉体に絶大な力を与え、銃弾をもろともしない防御力と、人としての限界を超えた身体能力を得る。
知識として知っていても、実際見てみると分かることは多い。
百聞は一見にしかずとは、よく言ったものだ。
「テメェ!! よくもやってくれたな? ビビっただろうが!」
背中を痛そうにさすりながらも、態度は変わらずルルには憤怒の形相を向けている。最初につっかかってきたのはそっちだと思うのだが。
「そいつはすまなかったな。ニ回目は満足いくように大気圏まで飛ばしてやろうか?」
ニヤリと笑みを浮かべて、ルルは背中を押さえる不良に問う。
──流石にそこまでは無理だがな。
そんな言葉を心で付け足しながら。
「チッ! 今回は見逃してやる!」
口から出る言葉とは裏腹に、冷や汗を滲ませながら不良は全力ダッシュで去って行った。──さっきの言もそうだが、存外素直な奴だ。
「ふぅ、行ったか」
不良が視界から消えるのを確認し、ルルは少しの疲労感に腰を落とす。体力的には疲れていないが、あーゆう奴を相手にすると精神力を使うのだ。
「ん?」
ふと、先程彼女が落下した場所が光ったように見えた。
天から指し込む光によって、『それ』の表面が反射していた。
近くに行って確認して見ると、そこにあったのは紛れもなく一枚の五百円硬貨だった。
それを認識した瞬間、思わず口角が上がるのを感じた。
あの不良に出会わなければ見つけられなかったかも知れないと思うと、感謝するしかないだろう。
そうして、ルルは心でこう呟いた。
運命の女神さん、さっきは悪く言ってごめんよ。愛してるぜ。
──重力魔法。
相手にかかる重力の大きさや向きをある程度操れるというモノ。
使い方っていうのもなんだが、相手をふきとばしたり、地面や壁に叩きつけたりできる。
前世のルルがよく使っていた魔法だが、どうやって使えるようになったのかは憶えていない。
魔法という名前だけあって魔力を使用して行使できるものなんだが、今は無いので神秘で行った。──いや、行えた。
この神秘とかいう力、万能すぎてもはや笑えてくる。
不思議なことにいくら神秘を消費しても、睡眠や食事を行えば回復する。
ロアには感謝しか湧かない。
自分に、こんな力を教えてくれたのだから。
この世界にはスマホという、超万能なデバイス機器がある。
だが、その検索機能で『神秘』と調べてもこのようなエネルギーの記述は見られなかった。
他にも言い方があるのかと思ったが、モモイ達に聞いても分からないとのこと。
そもそも、神秘という力があることすらも気づかなかったようだ。確かに、元々持っている力に疑問を持つことは実に哲学的で、あまりないだろう。
「じゃあなんでロアは⋯⋯いや、今は気にする必要はないな」
分からないことは、ひとまず分からないでいい。
──だから、今は、
「──腹、減った」
朝から何も食べていない。今はこっちが重要なのだ。
腹の内側で空気が吹き抜けるような不思議な感覚が、空腹をルルに告知している。
「よし、せっかく金はあるんだ。どこか店でも行って、食事を取るとしよう」
金欠という絶望から、一時的とは言え救われた。
その気分は言わずもがな、鼻歌でも歌いたいような良い気分だ。
小道を抜けると、思った通り商店街が広がっていた。
「おお、なかなかに壮観だな」
たくさんの店が立ち並び、道も整っている。
ミレニアムは近未来って感じだが、こっちは歴史と伝統のある景色と言おうか。欧風な雰囲気が漂っているが、どこか軍事的な気配も兼ね備えていた。
というか、ここもどこかの学園の自治区なのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かび、スマホをポケットから取り出す。
「ふーむ。充電0パーセントってことだよな、これ」
画面一体に表示されたのは、赤いラインが斜めに一本引かれた電池のイラスト。電源をカチカチとつけ直しても、画面に変化はない。
「それなら仕方ない」
使えないなら仕方ないと切り捨てて、とりあいず目に付いた洒落た店に入る。ちょっぴり高そうな店だったが、パンくらいは食えるだろう。
「買えなかったら、また違う店に行けばいいしな」
ドアノブに手を伸ばし、ドアについた呼び鈴がチリンといい音を奏で──、
「──ッ!!」
ふと生じた違和感が、反射的に体を突き動かした。
前に出していた足で
──瞬間、突如出現した爆炎が店を呑み込み、轟音が辺りを刹那に支配した。瓦礫はその衝撃波に吹き飛ばされ、店内からは甲高い悲鳴が巻き上がった。
この現象には身覚えがある。
それは『爆薬』という名の美しき凶器によって無惨にも建物が破壊された光景だった。
ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜
-
ワンッ!(イエス)
-
バウッ!(ノー)