ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE!   作:ケガレモ

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遅れて大変申し訳御座いません!持病が悪化してほぼ死んでました。



『金欠こそ、動くべきタイミング』

 

「⋯⋯ん」

 

微かな吐息が溢れ、意識は緩やかに覚醒に向かう。差し込まれた陽光に瞼が震え、夜明けを恐れる太陽のようにゆっくりと瞳が世界を映し出し、一度、二度と(まばた)きし──、

 

「──っ!?」

 

そしてなんのけなしに顔を上げようした刹那、ひやりとした感触が首筋を伝う。その予想外の冷たい刺激に、泡沫(うたかた)の夢はパチンと割れ、曖昧だった意識は急速に現実へと定着する。

 

「────」

 

首筋に優しく撫でるように触れ、刺激の原因を確かめる。その細い人差し指が捉えた感触は液体──つまり寝汗であった。それを理解して、ルルは安堵に吐息をついた。長年、共に人生ならぬ『骨生』を歩んだ体の感覚は抜けず、まだまだ人間の体には慣れそうにないらしい。

 

「へへ、なるほどな。ついに寝起きドッキリも自己で完結できる時代になったって訳だ。⋯⋯何が面白いんだ? それ」

 

そんな時代など来て一体誰が得をするのかと、内心で疑問に思いつつ、完全に覚醒した脳ミソを回し、面倒臭いので今の状況を頭を上げず首と眼球だけ動かして確認する。

 

目の前には中身がまだ残っているポテチの袋、少し先には使いっぱなしで床に置かれたゲームコントローラー。ソファでスゥースゥーとだらしない寝相で寝息をたてるモモイが、落下しそうになりながらもそこにいる。

 

「⋯⋯ぐぇっ」

 

モモイが落下した。でも起きない、凄いな。アリスとミドリはいないが、もう起きたのだろうか。あともう一人いたような──いや、きっと気のせいだろう。情報を纏めて結論を出すと、どうやらルルはモモイ達とゲームした後、そのままゲーム開発部の部室で寝ていたらしい。

 

ひとまず状況は分かったので、次の思考に切り替える。ミレニアムには入学できた訳だが、まだまだルルがするべきことは多い。その一つに、自分について知ることが含まれる。この自分というのは『サンズ』という名を持つ意識ではなく『神楽ルル』という肉体を示したモノだ。

 

この体の元の持ち主──『神楽ルル』という人物は、知れば知るほど不可解な点が多い。高校に入学してなかったのもそうだが、不自然なことに彼女の家から神楽家についての情報は一つも見つからず、唯一見つけたのは部屋に飾られた姉妹二人が写った写真の一枚のみ。

 

記憶も、肝心なところは(もや)がかかったように思い出せない。ロアに聞けば、すべて分かるのかも知れない。しかし、それは不可能な話だ。だって、彼女はもういないのだから。

 

分かることと言えば、身体情報くらいだろうか。中学生くらいの背丈に、起伏の(とぼ)しい幼女を思わせる肢体(したい)。それなのに(かかわ)らず、年齢は最近に入り十七歳。

時期的に第二次性徴期が終わる頃合いで、ここからナイスバディなボンキュッボンに成長する見込みは、ほぼゼロに近いだろう。

 

侮蔑や冷やかし抜きに、発育の悪さに「ドンマイ」と言って励ましてやりたいが、今は自分の身体なのだからただの虚しい独り言になってしまう。

 

「どっこら小一」

 

クッションを寝具にしていたようで、手に当たる感触はしっとりと柔らかかった。しょうもない掛け声と共に起き上がり、軽く背伸びをして。そこでポテチの破片がいくつか服に着いていたことに気付き、それをチョイっと右手で振り払い、部室を出る。

 

「あら、起きていたのね」

 

気安い口調で、ルルに話しかけた彼女はユウカであった。その声はちょうどルルがドアを開けた直後に聞こえたものだ。ユウカも向こう側から同じように、部屋に入ろうとドアを開けようとして、偶然それがルルが開けるタイミングと被った形だった。それを理解して、それからルルの視線は下へと動いていた。

 

──昨日は何も思わなかったけど、この人、太ももが太過ぎないか?

 

視線の先に映ったものを見て、そんなことを思った。アリスのと比べてみても幅だけでニ倍くらいほど差があるように見え、その圧倒的な太ももの存在感にルルは少なからず衝撃を受けた。

 

「⋯⋯何か気になることでもあったの?」

 

ルルの視線が己の太ももに向いていたことに気付き、何とも言えぬ表情でユウカは眉を寄せていた。ルルは肩を(すく)めて軽く返す。

 

「いや、別に。気にしなくて良いよ、大したことではないからさ。そんで、話は変わるけど、ユウカさんは何しにここへ?」

 

「ユウカさんって⋯⋯まぁ、良いわ。まずモモイと貴方を起こしに、それと──」

 

何か言いたげな様子だったが、聞いても意味が無いと悟ったのか、直ぐにユウカは切り替える。すると、ユウカは手に持っていた手提げに手を入れ、ビニールに包まれた綺麗に畳まれた服をルルの前に出した。

 

「はい、これが貴方の制服ね。今日から着て貰うから早めにここに来たのよ」

 

「ああ、そういうこと。ありがとな、ユウカ『さん』」

 

「『さん』って⋯⋯」

 

自分より年下であるユウカだが、あの太ももに敬意を払い『さん』付けは永続決行だ。少し渋い表情をユウカは浮かべているが、それは気にしない。なぜなら面白いから。

 

「ま、とにかく制服ありがとな。できる限り、大切に使わせて貰うよ」

 

「それなら良かったわ。じゃあ、私はモモイを起こしに行かなきゃいけないから、また今度ね。更衣室はこのまままっすぐ行けば途中にあるから、そこで制服に着替えてきて」

 

制服を手から受け取り、ルルはユウカに再び感謝を告げる。それを聞いたユウカは満足そうに笑みを浮かべ、モモイを起こしに行った。

 

 

*

 

 

昨日ユウカに相談し、これから借りることにしたミレニアムの寮の一室。そこに設置されている洗面台で顔を洗い、その他諸々の準備を終えたルルは、それから更衣室へと移動した。

 

青と白を基調としたミレニアムの制服に着替え、青パーカーを羽織(はお)る。渡された制服の下はスカートで『神楽ルル』の素材の良さを考慮すれば、履いたら絶対似合うとは思うのだが、前世からの忌避感でいつも通りのズボンを履いた。

 

「さて、身支度は整えたし、朝飯でも食べるか。確か売店とかあったからそこでパンでも⋯⋯あー、そうだった。金ないんだった」

 

朝食を摂ろうと考え、更衣室から出るためにドアノブに手を掛けたところで、今のルルが無一文であることを思い出した。それでも、もしかすると財布の中に小銭が隠れているかも知れないと見てみたが、クシャクシャに突っ込まれたレシートしかない。

 

「やっぱり金がないのは死活問題だな。ひとまず朝飯代だけ、モモイから金を借りようか。いや、年下から金を借りるのは流石に──ってか、そもそも借金するのは駄目だな。となると、他に金を得る方法は⋯⋯働く他にない」

 

働いて金を稼ぐために、こうしてミレニアムに入って学籍を得た訳だが──やっぱり、ルルは働きたくはないと思う。そんなこと、ルル以外の大体の人も思っているだろうが、それでも人々は社会の荒波に揉まれ、精神を擦り減らしながらも働いて金を稼いでいる。それは生きるためには金が必要だからだ。

 

「ま、仕方ないよな。休日で怠惰を謳歌するためには、平日で勤勉に働かなきゃいけないんだから」

 

小さく溜め息を吐いたルルは、それから更衣室を後にした。

 

 

*

 

 

取り敢えず、ミレニアムから出ることにした。仕事先を探して生きるために金を稼ぐため。そして『神楽ルル』について知っている奴を探すため。

 

彼女の存在は、ロアの友人なら殆どが認知しているらしい。だが、『そんな人物が存在する』という事実と、ロアがスマホの待ち受けに、姉妹写真を入れていたことで知ることができた容姿くらいであり、それ以上のことは聞いても答えてもらえず、本人に合うことも叶わなかったらしい。

 

そして唯一彼女の事を知っていた姉妹であるロアは、誰かに殺された。どう考えても何かあるのは明白だ。だから、まずは情報を集めたいとそう思い、ルルは行動を開始した。したんだが──、

 

「よおっ、ガキ! 良いところにきたな? 今、無性に殴りてぇ気分でよぉ!! 一発ぶん殴らせろよ」

 

不幸にも、ルルは不良と出会ってしまった。これがゲームだったらエンカウント音でも鳴りそうだな、と思う感じに。

 

「なんで、いつもこうなんだ?」

 

自分でも気付かぬ内に声が漏れていたのだが、今は気にする必要はない。外出許可を取ったルルはミレニアム自治区を抜け、少し歩くと商店街らしき建物群を見つけ、近道できそうな道を発見。そこに行くとあら不思議、一名のスケバンが待機していたのだ。

 

──この世界の治安は一体どうなってるんだ、マジで。

 

「ああん? 知るかよ。それはそうとよ、お前、チビだし殴ったらよくぶっ飛ぶかもな。よーし本気で殴るぜ〜?」

 

右腕をグルグルと回し、殴るウォーミングアップを開始する不良一名。その視線の先は勿論、ルルが独り占めだ。なるほど、つくづく運命の女神さんは、自分の事が大嫌いらしい。よし、決めた。心の中で中指を立ててやろう。

 

「──はぁ、どーしたもんかねぇ」

 

状況は最悪、気分も最悪。逃げてしまいたいが、逃げることすら面倒臭いと思うほどにやる気がでない。この不良に絡まれたルル側としては、不利益しかない。それでやる気が出る方が可笑しいというものだろう。

 

だから、利益があると考えることにした。正当防衛と称して、目の前の不良で少し手荒な実験をすることができるのだと。そう考え方を改めたルルは、試したいことを実行に移すと決めた。

 

「確かに、ピンポン玉みたいによく吹っ飛ぶかもな。ま、オイラのことじゃなくて、アンタのことなんだけど」

 

自分でも憎たらしいと思う表情を浮かべて、皮肉を込めて上げ調子に言う。その憎ましい表情と憎まれ口に、不良は口を震わせ、

 

「あア゙ァ゙!?」

 

表情を憤怒の色に染め、怒号を飛ばした。反応は上々過ぎるほどだ。それから、ルルは思案を行動に移していく。ポケットから右腕を取り出し、掌を怒り狂う不良に向ける。すると、不良の輪郭に沿うように青い光が帯び始める。

 

「──んだこれ?」

 

発光する自分の体に疑問を持ったのは一瞬、不良は直ぐにまたルルを殴るために姿勢を整えた。

 

「よーし、いくぜぇっ!!」

 

振り抜かれた拳が、一直線にルルの端正な顔に吸い込まれるように向かう。柔肌がその暴力に晒さられるその刹那、狙い澄ましたタイミングで、ルルは右腕を思いっ切り振り上げた。

 

「そんじゃ、短い空の旅、楽しんでらっしゃい」

 

「は? お前何──」

 

彼女は何か喋ろうとしたが、その声はもう届かない。なぜなら彼女は今この一瞬で、猛烈な速度で遥か上空へと打ち上げられたからだ。

 

「『重力魔法』さ。──ま、聞こえてないと思うけどな」

 

そう告げてルルは空を見ると、上昇をやめ、落下し始める少女の姿がそこに見えた。──二十メートルくらい、上空で。

 

「あっヤバい、ちょっとやりすぎた。──いや」

 

次の瞬間、物凄い速度で地面へと激突する不良が視界に映る。地面に落下したそれは、服が存在したおかげでようやく人だったのだと認識できる、不出来な肉塊に成り下がり、そこには感情も命もない──。

 

「いっ⋯⋯てぇ」

 

何てことは冗談でも起きる訳なく、辛そうな呻き声を漏らす不良の姿がそこにあった。打撲したような傷はいくつかあるが、その身体はほぼ無傷だ。その不良のピンピンとした様子に、ルルは白い歯を光らせる。

 

「ハハ。面白いくらい頑丈だな、ここの奴らは」

 

この世界の人間には、『神秘』が身体に循環している。それは肉体に絶大な力を与え、銃弾をもろともしない防御力と、人としての限界を超えた身体能力を得る。知識として知っていても、実際見てみると分かることは多い。百聞は一見にしかずとは、よく言ったものだ。

 

「テメェ!! よくもやってくれたな? ビビっただろうが!」

 

背中を痛そうにさすりながらも、態度は変わらずルルには憤怒の形相を向けている。最初につっかかってきたのはそっちだと思うのだが。

 

「そうか、そいつはすまなかったな。そんならニ回目は満足いくように、大気圏まで飛ばしてやっても良いぜ?」

 

ニヤリと笑みを浮かべて、ルルは背中を押さえる不良に問う。流石にそこまでは無理だけどな、とそんな言葉を心で付け足しながら。

 

「チッ! 今回は見逃してやる!」

 

口から出る言葉とは裏腹に、冷や汗を滲ませながら不良は全力ダッシュで去って行った。さっきの発言もそうだが、素直な奴だ。

 

「ふぅ、行ったか」

 

不良が視界から消えるのを確認し、ルルは少しの徒労感に腰を落とす。体力的には疲れていないが、あーゆう輩を相手にすると精神力を使うのだ。

 

「ん?」

 

ふと、先程彼女が落下した場所が光ったように見えた。天から指し込む光によって、『それ』の表面が反射していた。近くに行って確認して見ると、そこにあったのは紛れもなく一枚の五百円硬貨だった。

 

それを認識した瞬間、思わず口角が上がるのを感じた。あの不良に出会わなければ見つけられなかったかも知れないと思うと、感謝するしかないだろう。そうして、ルルはこう呟いた。

 

「運命の女神さん。さっきは中指立ててごめんよ、愛してるぜ」

 

 

*

 

 

──重力魔法。

 

相手にかかる重力の大きさや向きをある程度操れるというモノ。使い方っていうのもなんだが、相手を猛烈な速度でふきとばしたり、地面や壁に叩きつけたりできる。

 

前世のルルがよく使っていた魔法だが、どうやって使えるようになったのかは憶えていない。魔法という名前だけあって魔力を使用して行使できるものなんだが、今は無いので神秘で行った──いや、行えた。

 

この神秘とかいう力、万能すぎてもはや笑えてくる。不思議なことにいくら神秘を消費しても、睡眠や食事を行えば回復する。ロアには感謝しか湧かない。自分にこんな力を教えてくれたのだから。

 

しかし、スマホの検索機能で『神秘』と調べてもこのようなエネルギーの記述は見られなかった。他にも言い方があるのかと思ったが、モモイ達に聞いても全然分からないとのことだった。

 

「じゃあなんでロアは⋯⋯いや、今は気にする必要はないな」

 

分からないことは、ひとまず分からないで良い。だから今は──、

 

「──腹、減った」

 

朝から何も食べていない。今はこっちが重要なのだ。腹の内側で空気が障害もなく吹き抜けるような不思議な感覚が、空腹をルルに激しく告知していた。

 

「よし、せっかく金はあるんだ。どこか店でも行って、食事を取るか」

 

仕事をせずに臨時収入を得たルルは、金欠という絶望から一時的とはいえ救われた。その気分は言わずもがな、鼻歌でも歌いたいような良い気分だ。──小道を抜けると、思った通り商店街が広がっていた。

 

「おっ、中々に壮観だな」

 

たくさんの店が立ち並び、道が綺麗に整っている。ミレニアムは近未来という感じだが、こっちは歴史と伝統のある景色と言おうか。欧風な雰囲気が漂っているが、どこか軍事的な気配も兼ね備えていた。

 

「そういや、ここは一体どこなんだ? ミレニアム自治区の隣って何だっけ」

 

唐突に自分の現在地が気になり、ルルはスマホをポケットから取り出す。

 

「充電ゼロパーセントってことだよな、これ」

 

画面一体に表示されたのは、赤いラインが斜めに一本引かれた電池の画像。電源をカチカチとつけ直しても、画面に変化は微塵もない。

 

「それならしょうがない」

 

使えないなら仕方ないと切り捨てて、目に付いたオシャレな店に入る。ちょっぴり高そうな店だったが、バケットくらいは食えるだろう。ドアノブに手を伸ばし、ドアについた呼び鈴がチリンと良い音色を奏で──、

 

「──ッ!!」

 

ふと生じた違和感が、反射的に体を突き動かした。前に出していた足で咄嗟(とっさ)に地面を蹴り上げ、後ろに飛び退くようにその場から退避する。

 

──瞬間、突如出現した爆炎が店を呑み込み、轟音が辺りを刹那に支配した。瓦礫はその衝撃波に吹き飛ばされ、店内からは甲高い悲鳴が巻き上がった。

 

この現象には身覚えがある。それは『爆薬』という名の美しき凶器によって無惨にも建物が破壊された光景だった。

 






ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜

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