ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE!   作:ケガレモ

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もともとあった2話を消し、物語を修整しました。
エンジニア部との関わりが消えた以外は特に変更はありません。

お騒がせ申し訳ありません。


『犬も歩けば棒に当たる。じゃあ骨は?』

 

──小さな少女。

 

それが彼女に対する最初の評価だった。華奢な体には余計な筋肉など一切なく、幼女にも見えるその風貌は庇護欲を掻き立てる。

しかし、そんな甘い評価は次の瞬間、文字通り真っ向から破壊された。

 

「ふんっ」

 

凛とした声だった。その掛け声が彼女から発せられたものだと理解したのと同時に、自分の目に映り込んだ光景に困惑する。

 

トラックが衝突する瞬間、彼女は大きく振り被った。右手拳を後方へと回し、流れるような動作で正拳突き。次に見えたのは、ひしゃげた鉄塊と成り果てたトラックの姿と、何食わぬ顔ではめていた手袋をつけ直す少女の姿だった。

 

その凄まじい衝撃波が、肌に突き刺さるような恐怖が、脳に直接理解を促した。──目の前の少女、いや彼女は護られるようなか弱い存在ではないのだと。

 

「⋯⋯修理費が経費で落ちるといいのだけど」

 

ぼそりと呟き、彼女は頭をゆっくりと上げた。

 

──小さな少女。

 

その評価は人である以上、たった数刻で変化することはない。フワフワと綿を詰めたように膨らんだ白い頭髪は、地面につきそうなまでの長さを誇り、漆黒の角が猛々(たけだけ)しく紫電の光を放ちながら(そび)え立っている。

 

処女雪のような白い肌に、桜色の唇が良く映える。可憐で幼い顔つきでありながらも、その紫紺(しこん)の瞳はすべてを見通すような理知的さを感じさせ、厳格な雰囲気を醸し出している。

 

軍服の様な服を纏い、今まで見てきたどんな銃器よりも暴力的な見た目をした巨銃を背にする少女は、その小ささと相反する様に、全ての物が大きく見えた。

 

「あなたがこれをやったの?」

 

再び動き出した彼女の紫紺の瞳が、ルルを捉える。彼女の求める答えは、縄で手を拘束された美食研究会の状態についてだと分かった。

 

「そうだよ。最後はアンタに格好良く決められたけどな」

 

「そう⋯⋯テロリストの拘束、感謝する」

 

思案顔に綺麗な白髪を揺らす彼女は、どこか蠱惑的(こわくてき)で魅力的だ。オレはこんな幼女に何思ってんだ、とルルは首を横に振る。

そんなルルの様子を不審に思ったのか、彼女の表情は疑惑に満ちた──いや、これに関しては今のルルの行動には起因しないのだろう。──なぜなら、

 

「──ところで、あなたが乗っていた『それ』は一体何?」

 

彼女の疑念は、横へと待機させたブラスターに向いていたからだ。その発言に彼女の纏うオーラが一段と重く変化する。

それは戯言でも吐くものなら処す、とでも言うように、鋭い眼光がルルに警告しているような覇気を放っていた。

 

「ガスターブラスター、オイラはこいつをこう呼んでる」 

 

ルルはそんな彼女に若干の恐怖、いや畏怖を感じつつも傲岸不遜にそう言った。強がりと言えばそうとも言える。

深呼吸をし、改めて彼女を観察する。そこで興味を引いたのは、頭部に浮かぶヘイローだ。これまで見てきたそれらはすべて平面で、色や形は多少違いながらもその共通点を満たしている。

 

だが、目の前にあるのは巨大な立体だ。要塞を想起させる見た目に、重量感を感じさせる光輪は、落下するだけで人の頭部を軽く潰せそうな威圧感に(まみ)れている。彼女は逡巡するような素振りを見せた後、ルルに再び質問を飛ばした。

 

「⋯⋯もう一つ質問する。それは『雷帝の遺産』に関係するモノ?」

 

「──雷帝?」

 

聞き覚えの全くない単語が飛び出し、ルルは眉を寄せる。

 

「悪いけど、雷帝ってのは知らないな。でも、こいつはオイラの旧友から託されたもんで、その旧友も雷帝とやらに関係はないはずだ」

 

なぜなら、その旧友はルルが元いた世界の住人だ。この世界がルルの元いた世界と異なると確信を得ている以上、その可能性は薄い。

 

──いや、あの天才ならあり得そうだな。

と思ったが、やっぱりあり得ないと忘れる事にした。

 

「そう、知らないのね。ごめんなさい、変なことを聞いてしまった」

 

申し訳なさそうに謝罪する彼女に、ルルは分かりやすく親しみを覚えた。多分だが、彼女の根は良い子なのだろう。

 

「いや、構わないぜ。でも、そう思ってくれてんならこっちも一つ質問させてくれ、アンタは一体何者なんだ?」

 

小型トラックを素手で、しかもそれを苦にも思わない様子の彼女に、ルルは純粋に興味が出た。そしてもし、彼女が敵足りうるとするならば、警戒すべき対象として知るべきだと考えたから。

その問いに、彼女は一拍置いてから自己紹介する。

 

「ゲヘナ学園三年生、空崎ヒナ。一応ゲヘナ風紀委員会の委員長をしている者よ」

 

『安心してくれよ。ここにはそういう奴らをとっちめるのがいるんだ。名前はな──ゲヘナ風紀委員会、ゲヘナの治安維持組織さ』

 

彼女──ヒナの見た目にそぐわない威厳のある自己紹介を聞き、ふと思い出すのは今日あった猫獣人の言葉。それに「ああ、そゆこと」とルルは合点がいったとばかりに片目を瞑った。

 

「つまり、ここがゲヘナ学園なんだな」

 

ミレニアムに行く時、ルルはスマホで道を検索した。そのついでに、ミレニアムってどんなとこなんだろうか、と思い、調べた。そこで、検索結果の一つに出たのが──、

 

──キヴォトス三大学園。

 

ミレニアムサイエンススクール、トリニティ総合学園、ゲヘナ学園の三学園がこれに含まれ、その称号はこのキヴォトスにおいて、もっとも素晴らしい学園だという保証となる。

 

その中の一つがゲヘナ学園なのであるが、普通に治安が終わってることに疑問が絶えない。だが、彼女が来てからすぐに事件を解決されてしまったために、文句を言うことができないのが辛いところだ。いや、別に言っても良いのかも知れないが、それはそれで言うのが面倒臭い。

 

「何も知らずに来たの? ゲヘナに」

 

驚いたように一瞬、少し目を見開いた彼女に、ルルに「いやぁ」と右手を後頭部に置き、

 

「取り敢えず動こうと思って行動してみたんだけど⋯⋯おっちょこちょいなことに、スマホの充電をし忘れててさ。マップ機能も使えず、ここがどこか分からなくて彷徨(さまよ)ってたんだ」

 

そこで一度言葉を区切り、ルルは「そんで」とヒナに肩をすくめ、

 

「まぁ、ひとまず腹減ったから飯でも食おうかなって思って、近くの店に入ろうとしたんだ。そしたら目の前でその店が爆破されて、その犯人──美食研究会って奴らを追って、腕を縄で縛ったところでヒナが格好良く登場って流れだよ」

 

「⋯⋯事件の事情説明までありがとう」

 

おどけてそう言ってみるものの、ヒナの表情はまたもクールフェイスに戻り、変化しない。絶対笑ったら可愛いと思うのだが。

 

「それで、私も名乗ったのだからあなたも名前を聞いても良い?」

 

そんな自分の所感に、いや間違いと自分で頷きつつ、どうにかこの鉄仮面を剥がせないかと思索に耽っていたルルに、ヒナは淡々とした口調で名前を聞いた。

 

「良いよ。オイラは神楽ルル、気軽にルルって呼んでくれ。オイラはアンタのことヒナって呼ぶから、これでお互い同じ立場だろ?」

 

「ルル⋯⋯うん。よろしく、ルル」

 

そのルルの気さくな自己紹介に、ヒナの表情が少しだけ緩まったように感じた。それを見て、カチカチに固まっていた緊張の糸がちょっぴり(ほぐ)れた。そして緊張が緩んだからだろうか、ふと気になる事をルルは思い出した。

 

「そういや⋯⋯美食研究会の奴らはどうなったんだ?」

 

ルルがショートカットの能力で拘束し、最後はヒナの手に渡されたはずの彼女達の姿がいつの間にか忽然(こつぜん)と消えていた。 

いや、正しくはヒナの強烈なインパクトで、意識から忘れ去られていたせいで気付いていなかっただけなのだが、とにかくそれが気になり、ルルはヒナに問い掛ける。

 

「ああ、彼女達なら、私と一緒に来てた風紀委員が捕らえてる。一人は逃がしてしまったみたいだけど⋯⋯まぁ、すぐ捕まると思うから安心して欲しい」

 

淡々と答えるヒナの言葉を聞き、周りを見渡してみるとヒナと似たようなデザインの格好をした生徒達が輸送車らしい物へと、美食研究会の三人を押し込んでいる様子を発見する。

 

「あと、あなたに一つ言わないといけない事があるのだけど、良い?」

 

「ん? 別に良いけど、何か他に気になる事あった?」

 

そう問い返すと、ヒナは突然にして黙り込み、溜息を吐いた。そのヒナの態度の急変に、ルルは眉を寄せずにはいられない。満ちる沈黙。しかしそれは、思いの外すぐに終わった。

 

「⋯⋯一般道にも拘らず、時速100kmオーバーで走行。また、通行を想定されていない車両を公道で使用。──ここまで言えば分かる?」

 

表情を厳しくし、そう告げたヒナの言葉の意味をルルは瞬時に理解し、どうするべきかも思い付くに至る。そこからのルルの行動は早かった。右手をそっとヒナの前に突き出し、頭を流れるように下げ、

 

「今ある500円、それと何でもするから今回だけは見逃してくれないか?」

 

さっき拾った泣け無しの500円硬貨。それと何でもすることを条件に、ルルはヒナに許しを()うた。そこから沈黙という名の地獄の数秒を経て、ヒナの表情を伺おうと、ルルはゆっくりと視線だけを上げる。──すると、

 

「ふふっ、冗談よ。ちゃんとした理由があったのだから、罪には問わないわよ。でも、まさか風紀委員長相手に賄賂を頼み込むとは思わなかったけどね」

 

そう言って、ヒナは年齢相応の少女のような笑みを顔に浮かべた。頭の位置を戻して、ヒナの言葉にルルは安堵し、薄い胸を撫で下ろす。それからルルはさっきのヒナの言葉を思い出し、少し微妙な面持ちになった。

 

「賄賂、か。言われてみれば確かに、そう捉えられても仕方がないかも知れないな⋯⋯」

 

裁量に特別な便宜を計ってもらうことを期待する他者から受ける不正な行為──。そういう意味では、ルルはヒナに賄賂を持ち掛けたと言える。だが、そんな気は一切なかったので何とも言えない気持ちだ。

 

「取り敢えず、会えたのがヒナで良かったよ。正直、普通に罰せられるもんだと思ったからさ」

 

「私だって、こんなんでも良識は持ち合わせていると自負してる。状況も(かんが)みて、あなたが責められる(いわ)れはないもの。⋯⋯それで聞くばっかりで悪いのだけど──」

 

その時、ヒナの言葉を遮るようにノイズ音が彼女の方から発せられた。面倒臭そうな表情を浮かべるヒナ。それは懐から取り出した通信機に理由があるのだろうとすぐに分かった。

 

「もう少し話をしていたかったのだけど、急用が入ったわ」

 

「そいつは残念だ。またいつか話そうぜ、ヒナ?」

 

「ええ、今日はありがとう。また会いましょう、ルル」

 

それを最後の言葉に、彼女は消えた。ルルの視界の端には、超高速でゲヘナの街並みを走り抜けるヒナの姿が見える。

二度見ならぬ、三度見しても、それは人間の出していいはずの速度を超過していたが、トラックを素手で破壊した彼女に今更常識を持ち出すのは違うなと、現実逃避するルルの中の常識人を黙らせた。

 

「──まだオレも聞きたいことがあんだ。ついてこさせて貰うぜ、風紀委員長さん」

 

ルルの視線は、ヒナが駆けて行った地平線から、横に浮かべているブラスターへと移った。

 

 

*

 

 

「アコ、今の状況は?」

 

生まれつき持っている背中に生えた一対の大翼を拡げ、ブレーキをかける。停止するのは己の体。そして目線の先には謎の化け物が闊歩し、それに合わせて建造物が無惨にも壊されていく地獄絵図が広がっていた。

 

「はい。あの化け物は壊した建物の残骸、もとい物体を取り込み巨大化を続けています。今は抑えられてはいますが、現状これ以上の対応は難しいでしょう」

 

アコが端的に分かりやすく説明を行う。それにヒナは頷く。

アコは優秀だ。副委員長としてその責務を全うしながら、私のことも考えていてくれる。たまにいきすぎた行為に走ることはあれど、それは善意でしたことだと分かってる。

 

「なるほど、だから私が呼ばれた訳ね。冷静な状況判断能力、流石ね、アコ」

 

「ッッ──!! その言葉をで、き、れ、ば私が受け取りたかったのですが、委員長を呼んだのは私ではなく──」

 

「私だよ」

 

音を区切り、強調するほどに悔しそうな表情を浮かべたアコの後ろから、一人の大人が姿を現した。この世界では珍しい人間の男性。話しやすさを感じさせる柔らかな笑みと、底の見えぬ何かが垣間見える人物とヒナは彼を評価している。

 

「あなたがきていたのね、先生」

 

連邦生徒会長の失踪後、消えた彼女の推薦により突如『シャーレ』という名の組織のトップとして台頭した人物──それが先生だ。

 

超法規的組織シャーレ、その上位組織『連邦生徒会』は、実質的なキヴォトスの支配権を持っていると言っても過言ではない。

キヴォトスは連邦生徒会──否、連邦生徒会長がその殆どを管理し、統制していた。他も優秀な人材はいれど、お世辞にも彼女の足元には及ばなかった。

 

だから、そんな彼女が消えた時、キヴォトスが荒れるのは必然のことであっただろう。──だが、

 

先生、彼もまた連邦生徒会長と同じ超人の類なのだと思う。発生した大規模な抗争は一瞬にして収まりを見せた。完璧で、文句のつけようのない彼の手腕は、同じ人であるかを疑うほどだった。だからこそ、警戒しなければならない。彼が善人である保証は、どこにもないのだから。

 

「あっ、うん。そう、そうなんだけどさ⋯⋯」

 

なぜか目が泳いでいる先生。その視線の先を辿れば、自分の背後に向いていることに気付いた。信じられないものでも見ているような彼の表情に気になり、ヒナは振り返り──、

 

「⋯⋯え?」 

 

多分、自分は先生と同じような表情をしているのだろう。なぜなら、己の瞳が捉えた情報は明らかに異常であったから。

 

「よう、ヒナ、さっきぶりだな。──ちょっと鏡見てみろよ、結構面白い顔してるぜ?」

 

飄々と抜かす少女。その声と顔は、先程別れたはずの神楽ルル──その人のモノだった。

 

「⋯⋯なっ」

 

呆気にとられた表情をするアコ、そして間髪入れずに口を開き、

 

「ヒナ委員長に馴れ馴れしいです──っ!!」

 

アコの怒声が轟いた。その理由が彼女の私への態度だったことに、アコの忠誠心と尊敬の念が理解できる。その呆れそうになるほど見てきた日常風景に、ヒナは落ち付きを取り戻すことができた。

 

時速200km──。それが先の移動で最低でも出していたであろう速度だ。そのはずなのに、彼女は自分に追いついたばかりか、先生の言葉でやっとその気配を感じ取ることができた。

 

──異常。それは明らかだ。

 

存在している、その紛れもない『いる』という事実が、この目で確認するまでは不明確であったように思えて、目の前で超常現象でも起きたかのような感覚にヒナは陥った。

 

シュレディンガーの猫──。そんな言葉が脳裏を一瞬通り過ぎた。それは確認するまでどちらの状態であるか確定せず、それまではどちらの状態も混合して存在しているという理論のことだ。

 

もっとも、現実でそんなジョークのような理論が頭に浮かぶ機会などまずない。ないはずなのに、ヒナはそれを感じてしまった。──だから、

 

──やはり、彼女のことを知りたい。知らなくてはならない。

 

「どうやってここに来たの?」

 

この質問が、改めて彼女を知るきっかけになることを願い、ヒナは目の前の異質な存在に問い掛けた。

 

 

*

 

 

ヒナを追おうと考え、上空をブラスターで駆け抜けることを思いついた。空中には障害物となるものはない。最短距離で移動することができる。ジェット機か如く空を切り裂き、疾駆するブラスターに必死に捕まり、耐えていると、ヒナはそこで停止した。

 

それを確認し、ルルはブラスターを停めた。急に止まったせいで慣性の法則に従い、身体が吹き飛びそうになったが、そこまでは良かったと思う。

 

──そうだ。『ショートカット』を使ってヒナを驚かせるか。

 

そう考えたのが駄目だった。『ショートカット』を使い、ヒナの背後に瞬間移動した。そこでやっと気付いたのだ。──ヒナ以外にも人がいたことに。

 

やってしまった。超能力なんかはバレてはいけないもの筆頭だ。どんな仕組みなのか、探究心と好奇心の権化と言える人間は、それを知りたくて仕方がないだろう。

 

だから、その超能力──つまり、魔法を扱えるルルは研究対象にされたりする可能性がある。ルルの場合は瞬間移動──『ショートカット』で捕まったところで、いくらでも抜け出せる訳なのだが、面倒事に巻き込まれるのは御免(こうむ)る。

 

今回は目撃者がヒナとヒナの近くにいた、この世界で初めて見た普通の男性の大人と、横乳がはみ出した羞恥心の欠片もない装いをした少女の三名だけで、防犯カメラもないため、ギリギリセーフだ。

 

──さて、どう答えるべきだろうか。

 

質問をされれば、答えはどうあれ必ず答える。それがルルの持つ数少ないポリシーの一つだ。ブラスターに関しては別に話しても良い。未知の技術満載で、前述の通り人間の好奇心やらを大いに刺激する代物だが、もし興味を持った奴がいても、そいつにブラスターを一つ出現させるだけで良いからだ。だから問題は、『ショートカット』の能力について、どう誤魔化すかだが──、

 

「ブラスターで上空を高速移動して、その後は神楽家に代々伝わる『瞬動法』っていう瞬間移動したように見えるくるい、高速で動くことができる技術があってな。それを使って、ヒナの腰を抜かしてやろうかなって思ったんだよ」

 

後述の部分がまるっきり嘘だ。ルルの知っている神楽家の住人はロアしかいないし、そんな武術っぽいモノを必死に努力し、修得した覚えは一切はない。ある訳がない。

 

表情には出してないが内心、苦笑いが込み上げている。とはいえ、演技は上手い方だ。ヒナがこれ以上質問を追求しない限りは、バレる心配はない。

 

「──そうね、なら今ここでもう一度実演して貰える? 録画して見てみるから」

 

射抜くようなヒナの視線に、ルルは目を逸らし「あー」と喉を震わせながら、ヒナへの返答を遅らせ始める。流石に、録画されてスローモーションなんかでじっくり見られてしまったらバレないはずがない。

 

だから、ルルは思考をフルスピードで高速回転させ、何とかこの場を切り抜ける名案を探し始める。隠し事は上手い方であると自負していたが、こんな事になってしまえばそんな自信も霧散して行くというもの。

 

「ヒナ、今はそれよりもあの化け物に対処しないと」

 

そんな危機的状況なルルを救ったのは、ヒナの近くで驚いていた大人の男性だ。その彼の言葉にヒナは目を伏せてから、「そうね」と頷いた。ルルは内心で、この状況をひとまず潜り抜けたことに安堵する。そして、疑問が頭に浮かぶ。

 

「さっき言ってた、あの化け物ってなんだ?」

 

その疑問に応えるかのように、それは起きた。

 

──それは、唸り声のように聞こえた。

 

建造物がペシャリと呆気なく潰される大音量すら掻き消す、低く、それでいて恐怖を人々に撒き散らす周波が込められた声。

その巨躯は奇妙な手足のような物を何本も使い、ゆっくりと引き摺るかのように前へ、前へとその特徴的な身体を進めている。その進撃に巻き込まれた万物は、成す術もなく破壊され、崩れ去っていく。

 

──そんな地獄絵図が、ルルの目の前に広がっていた。

 

「⋯⋯へっ?」

 

ルルの間抜けた声が、その場に小さく響いた。

 




y∧∀∧

ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜

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