ある者、セイシュンを掴むまで SEISHUNTALE!   作:ケガレモ

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『烈火の如く、燃え出た小麦粉』

 

正直、ショートカットの能力は別にバレてもいいんじゃないかと考えている自分がいる。

 

突然誰かの前に現れたり、一緒に瞬間移動して見せて、それで「え?」って目を見開いてくれたらそれでいい。

この世界にどんな人間や技術があるのか分からない以上、それをするのは少しリスキーではあるのだが。

 

「──。はぁ」

 

溜め息一つ、視線を足元からゆっくりと上へと向ける。

さて、サンズ改めて神楽ルルよ。そろそろ現実を見るべきだろう。

 

ウニョウニョ、グニョグニョ。そんな擬音が聞こえてきそうだと言えば、どんなものか、何となく想像がつくことだろう。

蛸足のような器官が胴体のような場所から何本も生え、ルルの視線の先で気持ち悪く(うごめ)いている。

 

その大きさは、七メートルは超えているんじゃないかという巨躯。関節などは見えず、紫に緑と毒々しい色合いに染まった塊が少しずつ前へと障害物を破壊しながら押し進んでいる。

 

その見た目は、とある生菓子を彷彿(ほうふつ)とさせる。

卵やら、砂糖やら、小麦粉やらを混ぜてフライパンで焼いて作る物で、地域によっては朝食とかになっていたりする子供にも人気のあの食べ物。

 

答え、パンケーキ。というか、もろパンケーキだ。

形とかそのまんまに巨大化したような姿だが、その色といい、蛸足といい、失敗したゲテモノ料理のような風貌からは食欲が失せ、なんなら吐き気すら湧いてきそうだ。

 

その被害の程度は、そこだけ震度七強の地震でも発生したかのようなひどい惨状、まさしく地獄だ。

そこでルルは、近くにいた横乳がはみ出している、何とも珍妙な服装の少女に質問をぶつけることにした。確か、ヒナが「アコ」と呼んでいた人物だ。

 

「なぁ、そのアコって言ったか? できればどうしてこんなことになっているのか聞きたいんだけど⋯⋯」

 

「はいっ!? なんです!? 今すごく忙しいんですが!?」

 

激しい憎しみと怒りの感情を全くというほど包み隠さず、表情に押し出している。鼓膜を劈くように響く声は、殺意すら含まれていそうだ。

なぜ、こんなにも気が立っているのだろう。ルルはまだ何もしてないはずだというのに。

 

「そうか、忙しいなら仕方ないよな。んじゃ、好きにやらせてもらうぜ」

 

アコから返事は返らず、舌打ちだけが代わりに送られてきた。

なんでそんな怒ってるんだ、と聞きたい気持ちはあるが、聞いたところで返ってくるものは変わらないだろう。対応はどうあれ、駄目とは言われてないから勝手にしても大丈夫そうだ。

 

「⋯⋯駄目だったら、そんときは逃げればいいしな」

 

今の状況を簡単にまとめてみるとする。

怪物はゆっくりと障害物を破壊しながら前進し続けている。

これ以上の被害を防ぐために風紀委員何十人が、四方八方から囲い対処を行なっているが、苦戦しているといった様子。

 

だからこそ、彼女が呼ばれたのだろう。

この戦況を変化させるべく、空崎ヒナが躍動を開始した。

 

背にしていた銃を右腕へと回し、構えを取る。

その軽々と持ち上げる様子に、やはり彼女はルルの知る普通を何段か逸脱しているのだろうと感じる。

 

その矮躯(わいく)に携えたその銃は、これまで見てきたものが小枝に感じさせるほどの巨大なサイズ。彼女の小さな背丈も相まって、そこだけ時空が歪んでいるのではないかと、ルルが錯覚に見舞われる程だ。

 

本来、その小さな身体でそこまでの重量を持ち上げることは物理的に不可能だ。だが、この世界の理には『神秘』という力が書き記されている。その巨銃を己の身体の一部であるかのように扱う彼女は、まさに神秘的で、その人より何回りも小さな身体には常人の持つ神秘の量を遥かに凌駕(りょうが)したものが循環しているのだろう。

 

「────」

 

ヒナがトリガーを引くと同時に、複数の銃身が環状に纏まった機関銃特有の機構──それが高速回転を始める。

その速度はどんどん加速し、臨界点に達したその瞬間、放たれた厄災があの化け物へと嵐のように降りかかる。凶弾がその肉を貫き、パンケーキから蜂の巣へとその認識を変化させた。

 

「⋯⋯まーじかよ」

 

目の前で起きた出来事に、ルルはそう呟く。

消えた部分を埋めるかのように化け物の肉体が膨張し、それが収まったときには化け物は何もなかったかのように姿が元通りになっていた。

 

「⋯⋯厄介ね」

 

苦虫を噛み潰したような表情をヒナは顔に浮かべている。

それもそうだろう、とルルは思う。自分以外の風紀委員は動きを少し抑えるだけで精一杯なのに、自分はダメージを与えたら与えたで再生されたのだから、尚更絶望感は大きいだろう。

 

「うーむ、これは芳しくない状況だな。見るからに」

 

トラックを素手で破壊したヒナがこれだ。はっきり言って逃げたい。戦うのは嫌いだ。何が起こるか分からないし、攻撃を食らえば痛い。

──だが、

 

「──敵を眼前に逃げるってのは、クソダサいにも程があるよな」

 

それはルルの目指すクールとは真逆の行為だ。

それに、ヒナに好印象を与えておくチャンスでもある。

こんな事を考えてる時点でクールには程遠い気もするが、と思うルルだが、「まぁ、いいか」と付け足す辺り、調子が良いの一言に尽きるだろう。

 

「──まったく、今日はとことんツイてない日だな」

 

ここ数時間で起きたイベントの数と質が明らかに過多だ。だから、そんな愚痴を呟きたくなったルルを誰も責めることはできまい。

それから、ルルは溜め息を一つ吐いて、他の風紀委員に指示を出し、少し離れた位置で思案するように黙り込むヒナに、足を向ける。

 

「ヒナ、ちょっといいか? あのもろっきしパンケーキみたいな化け物に試してみたいもんがあるんだけどさ」

 

「試してみたいもの⋯⋯?」

 

それを聞いたヒナは、目を瞑り逡巡する。

今の状況はとてもじゃないが厳しいものであることは確かだ。

他の風紀委員がいくら攻撃しても効果がなさそうな以上、このまま行くとジリ貧であることは、ほぼ確定した先の未来。何か策があると言うのなら、それに頼るのも一興だとヒナは考えた。

 

──それに、自分から協力を申し出てくれたのだから、断わる理由もないわよね。

 

ヒナは責任感が強く、業務にも誇り(プライド)を持っている人格者ではあるが、その本質は面倒臭がりなのだ。それに加え、彼女が使用していた『竜頭のようなもの』にも興味があった。つまり回答は──、

 

「何か策があるのね。いいわよ」

 

ヒナは美少女らしからぬ、蠱惑的(こわくてき)な笑みを浮かべて了承した。そんな彼女に、「中身と外の印象が全く合ってないな」なんてルルは言いたかったが、今の状況を考えてそんなことを口にするほどルルは空気が読めない訳ではなかった。

 

「おお、話が早くて助かるね」

 

実際の所、通るとは思っていた。状況が状況だからだ。

しかしながら、突然申し出た得体の知れない部外者にあっさりと許可するとは思わなかったので、肩透かし的な感情にはなった。

 

だが、好都合だ。それなら後は実行に移すだけである。

ルルはそう考え、思考を切り替えた。

 

「手榴弾投擲します!」

 

風紀委員の一人が宣言し、小範囲の爆発が起こる。

それによって得られた功績は、ほんの一瞬の肉体の欠け。

 

「ひゃっ!」

 

次の瞬間、それを行った彼女は蚊でも振り払うような気軽さで、太い蛸足によって後方へと弾かれる。

飛び交う銃弾と、統制のための掛け声。その声と表情には、隠し切れぬ苦しさが滲んでいる。

 

「そんでな、ヒナには一つ頼みたいことがあるんだ」

 

「何かしら?」

 

次の弾薬を装填していたヒナは、ルルの言葉に眉を(ひそ)め、次の言葉を待つ。

 

「──あの蛸足、あれを執拗(しつよう)に狙って欲しい」

 

「⋯⋯了解」

 

その意図を理解しているのか、ヒナは精確な動きで行動を始めた。ヒナがやつに攻撃したとき、蛸足だけがやけに再生が遅かった。体の中心から離れるほど再生が遅くなっているのだろうか、それとも構造が複雑だから再生が難しいのか。

 

それは不明であるが、彼女達が苦戦する一番の理由はやはりあの蛸足なのだ。体に不規則に生えたそれは薙ぎ払い、または掴んで拘束や瓦礫を持ち上げ、投擲など。

 

人で例えるなら腕の役割なんだろう。それに蛸足を使った攻撃しか行わないのなら、先に潰しておくのが合理的だ。

 

こういう不死身に見える化け物には、必ずその不死性を撃ち破れる方法が存在するとルルは考えている。

 

一つ、弱点をつく。

脳とか、心臓とか、不死身に見える身体でもどこか再生しない場所があるかもしれない。臓器とかあるのなら生き物確定だ。

──多分、ないよな。

 

二つ、ダメージが入る攻撃がある。

もしかしたら、砂糖でもかけたらダメージが入るかも知れない。

──あのパンケーキに砂糖かけても食えたもんじゃないが。

 

そして三つ、完全消滅させる。

これが一番だろう。どこからでも再生する場合、一息にすべて破壊するのが効率的で、合理的だ。

 

一気に広範囲を穿つ攻撃。その痛打の一撃を与えるに相応しい武器を、ルルは持っている。それは──、

 

「──ガスターブラスター」

 

怠惰なルルが願う限り、それは轟くような白き一閃を以て、応え続ける。前触れもなく、上空に出現した白き竜頭は、その口腔を目の前の化け物に見せるや否や、大気を揺らすような白光を解き放った。

 

「──ッッ!?!」 

 

直後、その威力を証明するように、苦鳴するように咆哮をあげる化け物がいた。その体の一部──ブラスターが命中した表面には、焼け焦げた跡が出来ている。

──しかし、

 

「まじか、思ったより効果が薄い。──ん?」

 

攻撃が命中したはいいが、効果はいまいちのようにルルの目にはそう見えた。だが、化け物がジタバタとその場で暴れ回っている様子に違和感を得て、ルルは気付く。

 

──ブラスターに焦がされた範囲の再生が、いつまで経っても行われないことに。

 

「──ッ!! なるほどな」

 

この化け物は肉体を埋めて再生することはできるが、肉体の状態が変化した場合、再生ができないのだ。今回の場合は、火傷による肉体組織の変化。なら、次に取るべき行動は──多方面からのブラスターによる連撃攻撃。

 

「今の何ッ!? ドラゴンの頭みたいなのが突然出て──危なっ!?」

 

「集中しないとやられるぞ!」

 

先程のブラスターの攻撃に驚きを見せる風紀委員。

だが、それが何か考える暇もなく蛸足の攻撃が彼女達を襲う。

 

「⋯⋯あんまり目立ちたくはないんだけどな」

 

そう呟くも、ルルができる攻撃はこのくらいしかないのだから、目立ってしまうのは割り切るしかない。

首を横に振り、ルルは再び目の前の化け物に意識を集中させる。

 

化け物は呻き声のような音を漏らし、化け物は火傷している肉を蛸足でちぎろうとする。

──だが、

 

「させない」

 

その蛸足は、彼女の凶弾によって一瞬にして灰燼へと帰した。

ヒナもこの化け物の再生の秘密に気付いたのだろう。実に的確な判断であった。

 

──やっぱり、あれはそういう兵器なのね。

 

ヒナは蛸足を破壊するのと同時に、そんなことを思っていた。

三日も経たぬ内にまた美食研究会の通報が入り、面倒臭さを噛み殺して来てみれば、あの兵器のようなモノに乗った彼女の姿があった。

 

その珍妙な光景に一瞬困惑したが、彼女と話してみたいという思いもあり、彼女が消える前にすぐに鉄槌(てっつい)を下す事にしたのだ。

 

いや、困惑したと言ったが、正確に言うと最初遠目から見た時、ドラゴンの生首が高速飛行しているという光景に驚くより、呆れのような感情が芽生えた。

 

──ガスターブラスターだったわよね。何もない空間から突然現れたように見えたのだけど⋯⋯。

 

そして、ヒナは驚いていた。その不可思議な光景に。

突然、何もない空間から現れるというのは物理法則的に不可能だ。認識できない速さで動けば、その瞬間までは気付かないこともあるのかも知れない。

 

──でも、これは違った。

無から有が生まれるようにして、そこで竜頭は誕生していた。

まだ聞きたいことは沢山あるわねと、戦場の最中でヒナは思う。

しかし、今は戦場。それを理解しているため、ヒナはすぐに思考を切り替える。

 

「流石委員長だな。これはオイラも頑張らないといけないね」

 

ヒナの姿を一瞥した後、ルルはそう考え、それから行動を始めていた。

 

体内の神秘をブラスターを出現させるために練り出す。

神秘を使うという感覚はあまり良いものではない。

身体の中から何か重要なものを消費しているような、筆舌に尽くしがたい不快感が身体に巡るのだ。

 

「だが、それだけだろ?」

 

ブラスターに必要な準備は、これで完了した。

後はブラスターを展開するだけだ。──そう、考えた時だ。

 

「ぺっ!」

 

「⋯⋯っ!!」

 

真剣な表情のルルを、奴は嘲笑うかのように肉体から突如、液体状の何かを飛ばした。

それは綺麗な放物線を描いた後、ルルが先程まで立っていたコンクリ製の地面を熱した氷のように溶かして見せた。

 

咄嗟に避けたから良かったものの、もし当たっていたら全身がドロドロに溶かされ、R18禁マーク必須の絵面になっていただろう。ならなくてよかった、とルルは心から思う。

 

「──ッ!! 総員、急ぎ戦闘離脱!!」

 

指示を飛ばしているのはルルをナイスカバーで助けてくれたあの大人。その指令に従い、奴を囲っていた風紀委員は疲労によって重くなった足を引き摺るように必死でそこから退避する。

 

それが賢明な判断だ。

なぜなら、酸弾にあたれば文字通り死んでしまうのだから。

 

「⋯⋯あっ」

 

逃げようとした一人が突起となった瓦礫に足をひっかけ、転倒してしまう。そして、偶然は非情にもそこに酸弾を放ち──、

 

「おっと、それはさせないぜ」

 

ルルは『重力魔法』を使い、彼女を素早く移動させ、その脅威から回避させる。

 

「え?⋯⋯あっ、ありがとうございます!」

 

何が起きたか分からず、驚きと混乱を見せる彼女であったが、すぐに助けられたのだと悟り、感謝を告げ、駆け出して行った。

 

後方に駆ける彼女を横目に捉えながら、目の前の化け物へとルルは向き合う。近くに残っているのは、ルルとヒナのみだ。また生えてきた蛸足からの攻撃を避け、身体のどこからか飛んでくる酸弾を回避する。

 

「よっと よい ほいっと」

 

飛んでくる猛攻をリズムゲーが如きすべて避けきる最中。この状況を打開する方法をルルは考える。

確かに、ブラスターが奴に対する特攻になりそうなのは事実だ。

だが、表面を焦がすだけでは、奴の命を奪うまでは至らないだろう。

 

──さて、どうする? 神楽ルル。

 

「試したいことは終わったのかしら?」

 

良いとは言えぬ表情を浮かべるルルを見たからだろうか、ヒナは目の前に迫りくる蛸足を撃ち落としながら視線を送ってきた。

 

「いや、まださ」

 

そこでルルは、ヒナに笑って見せる。

思い付いたのだ、この状況をひっくり返せる可能性の手を。

 

──そうだ、ヒナの言う通り試してみようじゃないか。

そう心で呟いて、ルルは行動を開始する。

 

ガスターブラスターにはエネルギーを貯める電池のようなパーツを持たない。そのため起動する時には、エネルギーを込め続ける必要があり、エネルギーがブラスターに必要な量を満たして、初めて攻撃が発生する仕組みだ。

 

だが、この必要な量とはいうのは決してそこまでしかエネルギーを込める事が出来ないという訳ではない。

 

酸弾が最初にとんできたあたりから、ルルは神秘を練り続けている。その量は本来ブラスターに必要なエネルギーのニ倍以上、それがのべ九個分。

 

もしかすると許容量をこえた神秘で、ブラスターが耐えきれず崩壊してしまうかもしれない。

ただ、奴にとどめを刺すにはこのくらいの『実験』は不可欠だ。

 

ぶっつけ本番というものより、怖いものはない。

しかし、それと同じくらいに楽しいという感情が溢れてくる。

知らないことを知る。それほど興味深くて楽しいものがあるだろうか。

 

そうして、突如出現した九つの竜頭が化け物を囲み、その巨躯を睥睨し、

 

「いくぜ?」

 

無垢な破壊衝動に駆られ、災禍を振り撒いたそれに対してルルは不敵にも嗤った。

 

瞬間、放たれた眩い光がその肉をとてつもないエネルギーの奔流を(もっ)て焼き焦がしていく。悲鳴のような低い唸り声が轟くと共に、腐臭にも似た(いぶ)い臭いがその場に充満し、次第に閃光は晴れていく。

そして、次にルルの目線の先に現れたのは、ダークマターみたいな焦げっ焦げの何かだった。

 

「いや、パンケーキだったな。蛸足付きの」

 

重力に身体を任せて地面に力なくへたり込み、疲労に取り憑かれた体にルルは一旦の休息を与える。

そして荒れる息を少し整え、再度目線を目の前の残骸に移す。

 

「⋯⋯流石にこれで終わったよな?」

 

グズグズになった体はピクリとも動かず、その一瞬に削り取られた蛸足も再生が始まっていない。生命活動が停止したということで間違いないはずだ。

 

「────」

 

それでも、目の前の残骸を見て、ルルは思考を巡らす。

──何か、不吉な予感を感じて。

 

「まだ、動くのか⋯⋯」

 

戦闘が終わり、訪れた沈黙を貫いたのは他でもなくあの化け物だった。肉体が再び膨張を始めたと思えば、肉が腐り、剥がれ落ち、朽ち落ち、

 

「──ッッ!? おいおいおいおい──!!?」

 

それが何度も繰り返される様に、今にも崩れ落ちてしまいそうな不安定な状態に、ルルの全身全霊が全力で警報を鳴らした。

 

その瞬間、体は勝手に動いていた。

右手を力の限り振り上げる。ルルの隻眼が青とシアンに高速点滅を繰り返し、焼け焦げた生地を(つくろ)い、巨体が青い光を纏って上空へと吹き飛ばされる。

 

物理法則から解き放たれ、青空へ飛び立った肉の塊は地上に上がった深海魚のようにボコボコと沸騰したように痙攣を始め──、

 

瞬間、凄まじい爆音が蒼穹(そうきゅう)を包み込み、雨のように肉とその体液が降り注ぐ。

 

相当遠くに飛ばしたはずなのに、全身に押し付けてきた爆風は命の灯火に冷風を吹きつけるかのような恐怖をルルに刻んだ。

もしそれが地上で行われていたとしたらなんて、考えたくもない。

 

奴は自らの死を理解したからか、それともただの偶然の産物か。

その短き生涯の最期に(おぞ)ましくも、美しき土産を遺したのだ。

その光景を目の当たりにした人々は事態の収束を悟り、安堵の息を吐く。

 

──その、少女を除いて。

 

「──オェッ」

 

再び倒れ込んでしまった地面に、己が吐いたであろう固形物の混じった液体がゆっくりと、じわじわ広がっていく。

 

凄まじい不快感が、身体を動かすなと命令しているように、持ち主の意思を無視して、筋肉がジワジワと動きを麻痺させていくのを感じる。

 

──あー、なるほど。やっぱり代償はある訳か。

 

一瞬とはいえ、あの巨体を上空まで運んだ。

それによって、消費された神秘の量は想像に難しくない。

絞られた雑巾のように全身から力を奪われたルルの身体は、最低限の生命活動すら危うい状態だと直感した。

 

鼓動の音がゆっくりと小さくなっていき、段々と意識が薄れてゆく。この感覚はこれまで幾度と経験し、しかし慣れることなどあってはいけない事柄。

 

──それは紛れもなく、死の感覚だった。

  




  ,^0^、

ルルさんとホシノさん、戦わせたいって人〜

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