今回の強引な感じはちょっと自分でも納得できません。
でも……文才的に無理…………
少女が目を覚ました時、そこは病院のベットの上だった。軽く全身が痛み、過度な運動は出来ないような状態だった。下を見ると、裸はない自分の姿が眼に映る。彼女は自分の記憶を巻き戻し、状況を把握しようとする。
………私はあの実験の後、またあのカプセルに入れられて、その後「失礼する。」
彼女の思考は扉のガラガラ音と共に中断された。入ってきた少女は自分と同じ位の年齢に見え、濃緑色の腰の辺りまで伸びている長い髪を揺らしながら、こちらに近づいてくる。
「どちら様ですか?」
「それはこっちが聞きたいね。」
ニヤリと笑い返される。その歳不相応な黒く深い目が、こちらを真っ直ぐと見つめていた。
「私は…………」
彼女に名前など無い。ましてや検体番号さえも与えられていない。呼ばれる時は〝それ〟〝あれ〟など、片時も自分だけを示す言葉が存在したことはなかった。
「……質問を変えよう。お前は何者だ?」
「私は…
「だから名前はないと?」
「はい。」
目の前の少女はふーんと言った様な感じで腕を組み、壁に寄りかかる。少しの間二人に静寂が訪れる。それを切り裂く様に彼女は言葉を放った。
「では、今から君の名は……そうだな………まあ、そのうち決めてやる。」
「私の名前?なんで?」
「私はお前の保護者だからだ。」
声には出さなかったが、その言葉には驚かされ、同時に困惑した。何故ここにいるのかさえ分からないのに、突然目の前の少女が自分の保護者だと言っている。
「次は何の研究ですか?」
どう考えても研究目的だとしか思えない。彼女は疑いの目を向けると、少女は腹を抱えて笑い始めた。
「アッハッハッハッ!!……ハッ……ふう、お前は面白いな。ジョークのセンスもピカイチだ。じゃ、お前の体が治った頃に迎えに来る。じゃあな。」
壁から体を離し、踵を返して扉に向かっていく。
「待って!名前は?」
少女が振り向く。
「オールドキングだ、じゃあな。」
白い壁に夕日が差し込み、照り返していたので、少女の顔は良く見えなかった。だが、彼女は少女が笑っていた様に見えた。
◆ ◆ ◆
明日の朝に、彼女はこの部隊の所属で無くなる。大佐という階級も、まだのりのついた軍服も、この部屋も、今日でお別れだ。別れを惜しむのはキャラじゃない。夜のうちに出て、夜間の列車で国境を越えるつもりだ。
荷物を小さなスーツケースに収める。皆で撮った写真や、ヴァネッサに買って貰った眼鏡なども全て入れる。いらないものは全て置いていく。
……よし、後は……………
一言別れを告げるメモを書き残し、部屋を出る。音を殺しながら廊下を歩き、そのまま外に出る。
街頭に照らされた並木道の木々が生い茂っている。誰もいない道をとことこと歩いていると、後ろから走ってくる音が聞こえた。
「隊長、本当に行ってしまうのですか?」
「ああ、それと私はもう隊長じゃない。部隊の皆の事は頼む。」
日頃の訓練の成果だろうか、全く息が切れていない。
「でも…私達には隊長が必要です!」
泣き叫ぶようにその言葉が放たれる。夜の静けさにそれが反響する。
「……誰しもが、いつかは別れ、互いの道を進む。だけど、私たちは同じISというものに乗っているんだ。いつか、その道は何処かで交わるはずだ。その時を楽しみにしている、じゃあな。」
振り返らず、歩みを進めた。ラウラは、其処に立ち尽くすのみだった。
◆ ◆ ◆
オールドキングは名前のない少女を隣に座らせ、列車に揺られていた。暫くは寝ていたが、寝心地がいい訳でもなく途中で起きてしまった。
それから時間が経ち、既に国境駅を超えていた。隣を見ると、少女はブランケットをかけたまま眠っている。疲れていたのかもしれない。
………さて、これからどうするかな…………
(フランスに行ってナニするんですか?)
……取り敢えずドイツから出れば後はどっちでもいい……金の心配はいらないしな………
と言って、彼女はポケットにしまっていた二つのパスポートを取り出す。一つは彼女の名前が書いてあったが、もう一つには〝オールドキング〟の文字があった。
……最後に新しい戸籍を作ってもらった、後はどうにかなるさ………
彼女のドイツでの活躍は有名すぎる。
彼女はパスポートをポケットにしまって、腕を組み直す。すると、少女がモゾモゾと動き出し、瞼が開かれる。黒と金のオッドアイが姿を見せ、こちらを捉える。
「どこまで行った?」
「国境は越えた。取り敢えず飯食うか?ずっと寝てたから腹減ってるだろ?」
そう言って、ナプキンに包まれた少し冷めたホットドッグを取り出し、少女に渡す。それを両手で受け取って、黙って食べ始める。
「冷たいよな、ごめん。」
「大丈夫。」
文句の一つも言わない。非道な実験で、どの様な食事にでも慣れてしまったのかもしれない。そう思うと、中々人間の業の深さを感じる。
……世界平和を謳っておいて……所詮は人殺し、何処に行っても人間とは変わらないものだな………
彼女の顔に浮かんだ笑みは、誰にも見られることはなかった。
◆ ◆ ◆
現在朝の10時だ。
二人はパリで列車を降り、疲れたので取り敢えずホテルを探すことにした。地図を片手に歩いていたが道がよくわからないので、ふと目に入った本屋に立ち寄ってみることにした。
「すいません、道を聞きたいのですが。」
英語で話しかける。年老いた店主がこちらを向くが、反応しない。
「あの、すいません。道を聞きたいのですが。」
「あぁ?なんだって?」
どうやら耳が悪いらしい。耳元で大きな声で話すと、そんなものは自分で調べろと突っ返された。時間の無駄だと判断し、店から出ようとしたが、横に居たはずの少女が居なかった。
店の中を探し回ると、歴史物のコーナーにいた。熱心に何かを読んでいる。
「何読んでいるんだ?」
突然声を掛けられたことに驚いたのか肩をビクつかせ、こちらを見上げてくる。本のタイトルは「フランスの年代記」で、何故そんなものを熱心に読んでいたのか分からないが、この少女にとっては興味をそそられる内容だったのかもしれない。
「買ってやろうか?」
(お、優しい!オールドキングさんが優しい!!)
……俺はいつでも優しいだろ?
(は?ちょっと意味わかんないです。)
首輪付きを無視し、少女がその大きな本からひよっこりと顔を出す。
「ほら、行くぞ。」
そのままの状態で連れて行き、先程の店主のところまで引っ張る。店主は何故かそれを気にせずに値段を打ち込み、彼女はそれを払う。お釣りを受け取って外に出ると、今度は自分達がどっちから来たか忘れてしまった。
(オールドキングさんが迷子とか……ぷふっ………)
………取り敢えず回線を入れろ、そうだな……ユイーザに繋げ。
(はいはい、わかりました。)
◆ ◆ ◆
ユイーザ・ブロイアーが3on3で訓練をしていると、突然軍事回線が入った。直接ISに通信が来るということは、相当な急用なのだろう。
『軍事回線が入った!訓練を中止!』
「隊長!?」
「どうしたんですか隊長!?」
「問題でもありましたか?」
「忘れ物とか!?」
「ええっ!?今すぐ送ります!隊長、住所「落ち着けお前ら。あと私は隊長じゃない。」
全員が静かになる。
「パリで一番コスパの良いホテルを教えてくれ。」
全員がISを装着したままずっこける。
「……わかりました。幾つか調べて座標を送ります。」
クラリッサが検索を始め、ヒットしたホテルの住所を直接送信する。
「ありがとう、悪いな。ああ、それとーーー」
彼女は言葉を止める。
「ーーー私とドイツ、どちらを選ぶか考えとけよ?じゃあな。」
通信が切断される。彼女の口から出された言葉の意味ーーーそれは誰にもわからなかったが、それがとても重く、辛く、決めようのない事だということは全員が理解した。
「…………訓練は中止だ。」
ラウラが号令をかける。その後暫くは、全員が沈んだままだった。
◆ ◆ ◆
どうにか二人部屋のホテルを取り、一応は安息の時間を取れることが確定した。ホテルに荷物を置き、今日は休むことにした。明日は少女の服を買い、それを持ち運ぶ用のスーツケースも買う予定だ。
風呂からシャワーの音が止み、わしゃわしゃと銀色の髪を拭きながら少女が出てくる。
「入った。」
「おうよ。じゃ、入ってくらぁ。」
服を脱ぎ、シャワーを付ける。温かい水が頭から撫でるように足先に向かっていく。髪の毛が水分を含み、重くなる。
………明日はどうすっかなぁ………
その後、二人は早くに寝た。
次の日、二人はホテルを出て買い物に向かった。パリで服を買わなければならない。
……私はジャージが基本だが、普通の女の子というのはどの様な服を着るものなのだ?
しかし、オールドキングにそれは分からなかった。彼女はアイラブジャージと書いてあるジャージを着れるレベルでジャージが好きだ。というより、それを持っている。
(……ブランド物じゃないですか?)
首輪付きが言う。確かにそういうイメージがあると思い、取り敢えずはブランド物を買うことに大まかな方針が決まった。確かにブランドは好きな女子は多いが、全員が着ているというのは全くもって誤解である。
目の前に「クロエ」が見える。確かここはフランスの名門ファッションブランドだった筈だ。フランティスカから聞いたことがある。
「如何する?ここで買い物するか?」
「うん、そうする。」
中に入ると、明らかな場違い感に少したじろぐ。照明や、飾られているバック、マネキン、店員の振る舞いなどから、どう考えても彼女とは住む世界の違う人間の居場所と判断した。
「あっ、失礼しまし「待って。まだ見てない。」
ジャージの袖を掴まれ、上目遣いでこちらを見てくる。
(……大丈夫ですよ。オールドキングさんは整った顔立ちですから。)
……それ関係あるのか?ないよな?
首輪付きの言動に違和感を感じたが、彼と少女の言う通りに退店を止める。
「どうされました?」
「私は付き添いなんで、買い物するのはこいつです。」
そう言って少女を引っ張り寄せる。肝心の少女は少女は商品に目が吸い寄せられており、それどころではなかった。
とことこと歩いて行き、その財布を手に取る。黒い長財布で、見るからに高そうだ。
値段も考えて、少し悩んだが
「……それが欲しいのか?」
お金には困る予定もないので聞いてみる。すると、こくりと頷き、その財布を抱いた。使い方が間違っている気がするのは気のせいだろうか。
「じゃ、じゃあこれください。」
「はい。お会計265ユーロです。」
………高えよ……高えよ…………
渋々お金を払い、お釣りを受け取る。店を出ても、少女はそれを抱いたままだった。
その日あちこちに連れ回したが、結局自分から反応したのは歴史の本とブランド店だけだった。
………クロエの黒財布………フランスの年代記…………はっ!?
唐突に彼女の名前が閃く。
「なあ、お前の名前を「クロエ」の財布と、フランスの「年代記」から考えてみた。」
「何?」
「クロエ・クロニクルだ。どうだ?」
数秒動きが止まり、ゆっくりとこちらを向く。
「クロエ・クロニクル?」
「そうだ、お前の名前だ。」
すると、彼女はその顔に花を咲かせ、うんうんと頷いた。どうやらそれで良かったらしい。特に意味を込めた名前ではないが、気に入ってもらえたならそれでいい。
夕食をとった後、二人はホテルに戻った。
◆ ◆ ◆
彼女はベットの上でゴロゴロしていた。すでにクロエ・クロニクルは眠っており、テレビも付いていないので、彼女の行動以外で物音がすることはなかった。
………疲れた………取り敢えず住む家探さないとな…………
(検索しましょーーー通信入りました。画面をつけますか?)
突然通信が入ったため、ONにするとウィンドウが展開される。そこには織斑千冬の顔があった。
『半年ぶりだな。』
「千冬さんですか。どうしました?」
彼女から連絡が来るなど珍しい。
『いきなりで悪いが、IS学園の教師にならないか?』
「良く分かりませんね。どういう事ですか?」
IS学園というのは文字通りIS操縦者を育てる学校だ。所謂高校に位置し、多くの国に生徒がいるという。
………日本だったか、確か……面倒だな………
『教師の数……は足りているがお前みたいな腕利きが欲しいんだ。』
「条件は?」
『衣食住の提供、どうだ?』
「飲めないな、一年間は休養を取る予定なんだ。」
『では、来年からでいい。』
彼女が此処まで折れるとは、余程教員として彼女を欲しがっているのだろう。条件は悪くない。寧ろ相当いいのだろう。
「では、もう一つ。連れも暮らせるくらいの部屋を用意してくれ。」
『分かった。いつでも待っている、場所はーーー』
………誰かに教えるか…………実にキャラじゃないな…………
一人ホテルで笑いながら、その夜彼女は織斑千冬の相手をした。
ようやくIS学園にいけるぜ。
クロエ・クロニクルのキャラがわからんどうしましょう