あれから約一年近くが経った。オールドキングとクロエ・クロニクルは織斑家でご厄介になっていた。勿論、彼女は一年間何もしてないわけではない。基本的に織村千冬の弟ーーー織斑一夏、クロエの二人の世話をし、時々匿名で届くシュープリスへのミッション依頼をこなし、生活の足しにするという生活を送っていた。
来週から、彼女はIS学園で仕事だ。彼女は何となくIS学園に勤務する訳ではない。しっかりとした理由があるのだ。
それは、篠ノ之束をおびき寄せることである。IS学園には彼女の親友織村千冬がいて、多分妹の篠ノ之箒が強制的に入学させられるだろう。篠ノ之束は、身内しか存在を認識しないと言われており、逆にとれば身内に接触すれば彼女と接触出来る可能性が増えるのだ。
彼女は必死に勉強する一夏を見やる。
………こいつに会ったのが、全ての始まりだったな…………
彼女はたった三年前の事を、まるで自分の若かりし頃を思い出す様に感慨にふけていた。
「オールドキング、これを教えてもらってもいい?」
「おうよ。」
今は彼に勉強を教えている。明後日は一夏の入試の日だ。私立藍越学園という所を受けるらしい。今は最後の詰め込み中だ。
「ーーーになって、ーーーという訳だ。」
「分かった、サンキュ。」
彼は一人の勉強に戻る。階段の降りる音と共に、クロエがお茶と煎餅を持ってくる。
「一夏さん、少し休憩したらどうですか?」
「ああ、ありがとクロエ。」
この二人は仲が良い。特に恋仲というわけでもないし、何方かが惚れているわけでもないが、兄弟のように仲が良いのだ。
「お母様、今日の仕事は?」
「その呼び方やめろって、今日は仕事はない。というより、四月から就職先が決まった。」
「ええっ!?」
一夏が机を叩いて立ち上がる。そこまで驚くことでもない。多分ニートだと思われていたのだろう。
(オールドニートさんじゃなくなるんですね!やったー!!)
………私は元からニートじゃないぞ?逆にどこがニートなんだ?
首輪付きにもニート扱いされていた。
「で、何処に就職するんだ?」
「それは秘密だ。ただ、泊まり込みの仕事になるだろうな。」
そっかーと言いつつ肩を落とす一夏。多分家事全般をこなしてくれる彼女が居なくなると自分がやらなければならないので面倒なのだろう。正直泣きそうである。
「取り敢えずお前は自分の勉強をしろ、クロエは勉強しなくていいのか?」
「大丈夫、完璧。」
無表情に親指を立てる。自分の前で敬語はやめろと教育したらあまり喋らない子に育ってしまった。完全に教育者失格だ。
「クロエはIS学園かぁ、あそこ相当倍率高いからなー。頑張れよ?」
「もち。」
逆の手の親指を立てる。
「じゃあ、今日は遅くまで勉強してもいいけど、明日は早く寝ろよ。」
「はーい。」
一夏が返事をし、クロエがこくりと頷く。
……二人共、頑張れよ…………
◆ ◆ ◆
「じゃ、行ってこい、頑張れよ。」
「おう、行ってくる。」
「頑張る、応援して。」
二人を見送る。今時の高校入試は一定の区域ごとに巨大な一つの会場に纏められており、その中に全ての試験会場が建てられている。特にIS学園の入試会場は一際大きく、とても目立つものらしい。
………中で迷わなければいいがな……っと………
(何か嫌な予感がします、主に一夏に。)
………いや、あれだけ勉強したんだ、正直合格は余裕だろう……
箪笥から服を出し、前よりも大きな、新しいスーツケースに詰めていく。飾っておいた黒ウサギ隊の皆で撮った写真や、眼鏡も回収し、全て入れる。ついでにクロエのスーツケースも用意してやる。
「ふう、疲れた。」
(お疲れ様です。で、結局職務は何に決まったんですか?)
……IS学園の生徒兼教員ってとこだ、名目では代用教員らしい。
(生徒兼教員ってなんですか?)
……取り敢えず、生徒ということで学校に入学するが、教える立場らしい……凄く分かりにくい………
彼女の年齢的な問題で、そういうことになったらしい。15歳で教員とは大きな問題があるのだ。
(教員とかキャラじゃないですね。)
……まあな、でも仕方がない。全ては篠ノ之束を殺すためだ………
洗面所で顔を洗い、顔を上げる。目の前に自分の顔が映る。その顔は昔より成長しており、本人である彼女さえも驚いた。
……〝もう〟三年か……………
昔は意識さえしたこともなかったが、今はそこから長い時間の経過を感じられた。
気分を変えるため、緑のラインの入ったジャージから、青いラインのジャージに着替える。そして、何処からともなく取り出した青いイヤホンを装着し、プラグを首輪に突き刺す。
『ーーー♪ I've already fallen♪ I can't drive my head♪ It's that I fall in you. Fall in youーーー♪』
曲が流れ始める。曲も聞けるISというのは全くもって無駄な機能である。
………さて、買い物にでも行くか…………
エコバッグを準備し、お札をポケットの中にぶち込む。フックに掛けてある鍵を手に取り、靴を履いていると突然電話が掛かってきた。
慌てて靴を脱いで電話を取る。
「もしもし、織斑ですが。」
全くもって嘘である。
『大変だ!一夏が!一夏が!』
織斑千冬だった。彼女は確か実技試験の教官をやる為ここ数日はいなかった。今は試験会場にいるはずだ。一夏が事故にでもあったのだろうか。何時もは見せない焦りを見せている。
「一夏がどうした?」
『一夏がISを起動させたんだ!』
数秒間二人が止まる。どちらも状況を把握できていないようだ。
「HAHAHA NICE JOKE!」
『いや、本当なんだ!』
自動でウィンドウが展開され、そこに映像が流れ始める。映像には、日本の第二世代型IS「打鉄」に乗っており、困惑している一夏が流れていた。
……こりゃあ、楽しい学園生活になりそうだな…………
「分かった、今からそちらに向かう。」
『感謝する。』
彼女は靴を履き、試験会場に向かったのであった。
◆ ◆ ◆
巨大な会場に着いた。その中の一つの前には人だかりができており、それがすぐにIS学園のものだとわかる。
人混みを抜け、試験会場内に入ると、教員だと思われる女性達が忙しそうに仕事をしている。最早試験会場ではなくなっていた。
イヤホンを外し、周りを見渡していると、その中が一人が彼女に気付き、話しかけてきた。
「残念だけど、今日の試験は明日に延期よ。ちょっと問題があったの。」
「いや、受験生じゃないです。千冬さんに聞いてみて下さい。」
女性は渋々といった感じに電話をかける。
「もしもし、織斑先生ですか?あの、自称受験生じゃない女の子が、ええ、ええ……え!?この子が?わ、分かりました。」
電話を切り、こちらを向いてくる。
「オールドキングさんですね?こちらです。」
「あっ、はい。」
何もない壁のように見える場所を押すと、横にある扉が開いた。そこを抜け、長い廊下を歩いて行くと、織斑千冬を含む数人が、アリーナの外から彼を見ていた。
……うわぁ、千冬さんがスーツ着てるよ…………
「織斑先生、オールドキングさんを連れてきました。」
「古王!一夏が!「千冬さん落ち着いて。」
暴走する世界最強を止める。
「取り敢えず、あいつの相手をしてやってくれ。私は仕事先を教えていない関係上出来ないし、山田先生は男性に対して極度のあがり症だ。」
「す、すいません。」
山田先生と呼ばれた女性が謝る。緑色のショートヘアに、とても大きな胸をお持ちになられている。身長が低く、彼女の頭はオールドキングの顎の辺りに当たるくらいだ。
……しかし、私と同じくらいか?若いな…………
「分かりました。」
そう言って、アリーナに出て行こうとすると、肩を掴まれて引き止められた。
「生身で挑む気!?」
「いや、実はこいつ専用「ええ、余裕ですよ。」
面白そうなので、織斑千冬の声を遮ってそれに頷く。その場のほぼ全員が彼女を止めようとする。
「相手が初心者とはいえそれは無理よ!」
「いえ、大丈夫です。見ていて下さい。」
掴まれた手を引き剥がし、再びイヤホンを装着する。木刀を貸してもらい、ポケットに幾つかの武器を入れていく。
……さて、初戦でどれだけ見せられるか………
彼女は木刀を収め、アリーナに向かって行った。
◆ ◆ ◆
……模擬戦って……そんなのできるわけないよなぁ………
織斑一夏はクロエと別れた後、余りの人だかりと会場の広さに迷っていた。迷いに迷ってよくわからない会場に着いて、置いてあった鎧のようなものに触れたらそれが光り、何時の間にか自分に装着されていた。それを見た女性が大声を出し、試験会場内に連れ込まれた。そして、これがISであるという事を教えてもらい、今に至る。
……女性にしか扱えないって聞いたんだけどなぁ…………
突然顔の横にウィンドウが開かれる。自動的に軽い使い方のレクチャーの様なものが流れ始める。
……すげえ………全然わからねえ…………
彼がアホな事を考えている間に、目の前に熱源反応が現れる。
……これがハイパーセンサー……え??何で?
「何でお前が!?」
目の前には彼の家の居候ーーーオールドキングこと
「私がここの教員だからだ、早く装備を出せ。」
と言われても、出し方が分からない。
……武器……武器武器武器………
などと思念していると目の前に
ーーーアサルトライフル【
ーーー近接用ブレード【
「装備の名前を言えば出てくるぞ。」
「えっと、焔備?」
言われた通りにすると、右手に白い光が集まり、中型のアサルトライフルが展開される。
「狙いをつけて撃ってみろ。」
「え?でも「大丈夫だ、まず当たらないから。」
少しイラっとしたが、両手に構えてそれを撃つ。タァンと言う音と共に弾が撃ち出される。
彼女は一歩も動かず、弾は明後日の方向に飛んで行った。
「一夏………もう少し狙いをつけろよ………」
二人の距離は20m程で、普通に撃てば当たるくらいの距離だ。一夏には射撃の才能がないのかもしれない。
「うるせー!こっちも真剣にやってんだ!」
やけになって焔備を連写した。
「はぁ……全く…………」
一時間程経った。何故か弾は一発も当たらない。彼女はゆらりゆらりと歩くだけで他は何もしない。完全に舐められている。
『ふ、二人共、もう辞めても「いえ、まだブレードが残ってます。」
試験会場に響く教員の声を遮り、彼女は答える。こちらに目配せし、「ブレードを展開しろ」と告げてくる。
言われた通りに葵を展開する。刀の様な形をしており、彼が昔やっていた剣道を思い出す。
「じゃあ、斬りかかって来い。」
「いや、流石にこれは「お前の軟弱な一撃なんて当たらねえよ。早くしろ。」
発言がいちいちトゲトゲしている。完全にトゲアリトゲナシトゲトゲである。
ブレードを構え、面の動きで斬りかかる。が、木刀で弾かれ、そのまま彼女がポケットから取り出したスモークグレネードを斬ってしまう。
煙が二人を包み込む。
「げほっ、げほっ……何処にーーー痛っ!?」
煙の中から木刀で叩かれる。
「もっとしっかり振れ。」
「言われなくてもやってらぁ!」
その後、二時間ほどブレードを降り続けたが一発も当たらずに負けてしまった。
「センスはあるな、頑張れよ。」
そう言って、彼女は去っていった。
………俺、どうなっちゃうんだろ………
◆ ◆ ◆
狂気の天災は回る椅子に座ってくるくると回っていた。
「はぁー、いっくんがISを使えるなんてねー。衝撃的だよー。」
立ち上がり、新たなウィンドウを立ち上げる。そこには「
「まぁ、専用機作ってあげればいっか!!第四世代型のテストにもなるし。ねー、
くーちゃんと呼ばれた銀髪の少女は振り向く。その目はーーー
黒と金のオッドアイだった。
はい、最後意味深な感じで終わりました!
セシリアどうしよう…