いやーそれにしてもセシリアの扱いが難しい………
「ちょっとよろしくて?」
と言って一夏に話しかけたのは金髪碧眼の少女だった。体や顔のバランスは整っていたが、その目つきと態度がそれを台無しにしていた。彼と話していたオールドキングはそれを何処かで見た顔だと思ったが、それが誰だかは分からなかった。
「ん?なんだ?」
「誰?」
「さぁな、取り敢えず貴族って事は分かった。」
「ま、まあ!?なんですのその態度!?私に話しかけられるだけでも光栄ですのに、それ相応の態度をとるべきではありませんの?それとそこのあなた!私を知りませんの!?」
腰に手を当てながら、逆の手でクロエを指差す。自分が世界の中心といった人間は、誰だって好印象は持たない。
「名前、知らない。」
「まあ、自己紹介もしてないしな。」
「この私を知らない!?イギリス代表候補生にして、入試主席のセシリア・オルコットを!?」
セシリア・オルコットーーー聞いたことのある名前だと彼女は思ったが、特にどうというわけでもないので知らないということにした。一夏とクロエは本当に知らないらしい。
だが、常識的に考えて他国の代表候補生の名前を全て覚えるなどというのはいささか無理がある。
「髪の毛、くるくる。」
「ああ、すごい螺旋力だ。 」
「I'm a thinker♪ I could break it down♪ I'm a shooter. A drastic baby♪」
三者三様の反応を見せる。特にオールドキングは興味を失ったかのようにセシリア・オルコットの方から目線を外し、小声で歌を歌い始めた。
「ちょっと、貴女達ねえ!本来ならこの私のクラスを担当する事だけでも幸運な事ですのに!」
「「『へえ、そりゃあラッキーだな。』」」
首輪付きが音声機能を使い、一緒に
クロエの声も出す。クロエはキョトンとしているが、否定もしていないようだ。
「貴女達、バカにしてますの?」
「だって、お前弱いし。」
「チョココロネ。」
「初対面で上から目線はないよな。」
セシリア・オルコットの顔が怒りで赤く染まっていく。顔の筋肉を痙攣し、ピクピクと動いている。
キーンコーンカーンコーン
「また後で来ますわ!覚えてなさい!」
「なんだったんだあいつ。」
「さあ?」
「………」
三人は状況をつかめないまま自分の席に着いた。オールドキングの席はクロエの真正面だ。席ーーーというより椅子である。
少しすると、織斑先生が入って来た。なぜか出席簿をくるくると回している。
「では、授業に入る前に、このクラスの代表を決める。自薦他薦は問わん。」
クラス代表とは、文字通りそのクラスの代表である。生徒会の会議や委員会への出席などが主な仕事だ。それと、来月行われるクラス対抗戦などの活躍できる機会もあるが、それよりも生徒会の仕事が多く、所謂雑用的な色が強い。
つまり、押し付け合いが始まる訳でーーー
「はい!織斑君を推薦します!」
「私もそれでいいと思うなー。」
「え?なんで俺なんだ!?」
驚いて立ち上がる一夏。つまり、唯一の男性ーーー織斑一夏に押し付けられることは皆予想済みなのである。
「オールドキング、お前はいいのか?」
「千冬さん、やめてくださいよ。これでも私は教師なんですから。」
織斑先生がいい顔をしながらこちらを見てくる。
(クロエを推薦するのはどうですか?)
首輪付きが案を出してくる。
……なる程、名案だな。
「なら私はクロエを推薦します。」
「お母様、意地悪。」
クロエがぽかぽかと叩く。その姿は完全に姉と妹ーーーというより母と娘であった。
「待って下さい!納得がいきませんわ!」
『オルコッ党に政権交代しないなんておかしいですわ!』
「声真似なんて……バカにしていますのね!」
クラスからくすくすと笑い声が聞こえる。首輪付きの声真似は、オールドキングの口パクと連動しており、彼女が声の真似をしているようにしか見えないからだ。
「初の男性操縦者だからって、推薦されるのはおかしいですわ!普通ならクラス内で一番強いものがなるべきなのでは!?大体、この私がこんな極東の地にわざわざISを学びに来ているのに、何故こんな「でも、このクラスで一番IS操縦が上手いのってクロエだよな。試験官倒してるし。」
と、ここで一夏が爆弾発言をする。
織斑先生、オールドキングの二人が頭を抱えクロエが首を傾げる。当の本人は自分が何をしたのか気づいておらず、戸惑ったような表情を見せている。
「わ、私も倒しましたわ!」
「クロエが勝てたのは偶々だろ。何せ両者が同じ機体だったから勝てた訳だし。」
「まあ、あれは私も敵わんかもしれんな。まあ、実際の戦場じゃあ使えんがな。」
何と先程まで頭を抱えていた織斑先生が復帰を果たし、その上爆弾に向けて援護射撃をし始めた。もはや援護とは言えない。
「で、どうするんだ貴族?」
「け、決闘ですわ!」
「結党?オルコッ党を?」
「三人纏めて屈服させてやりますわ!勿論貴女もです!」
そう言って彼女はオールドキングを指差す。如何やら三人とは彼女も含まれているらしい。
……曲がりなりにも教師に向かって指を指すとはいい度胸だ。
「では、一週間後にアリーナで模擬戦を行う。織斑、いいな?」
「………はい。」
諦めた声色で答える。もう反抗する気もないのだろう。
「では、授業を始める。」
◆ ◆ ◆
初めての昼休みだ。授業が終わって直ぐに、クロエとオールドキングは食堂に来ていた。オールドキングはおにぎりセットを頼んだが、クロエは弁当を持ってきていた。二段になったその中身は何方も米が敷き詰められていた。
「肉、欲しい。」
「はいよー、肉丼米抜き!」
肉丼の米抜きという最早丼ではない丼を頼み、その丼に米をぶち込む。
適当な席に座り、頂きますを言って食べ始める。箸が使えないクロエはマイフォークを用意していた。持ち手がプラスチックの子供用のあれである。
「そのフォーク変えないか?」
「これでいい。」
頑なに変えようとしない。頑固というよりは、変えなくても問題のないことは絶対に変えないといったタイプの人間に育っていた。これも全てオールドキングの教育の賜物である。
フォークで米を救い、口に入れる。無表情のまま食事を進めるそれは何か心に来るものがある。
「美味しい。」
「肉を食え。」
米だけで美味いと言える人間はそうそう居ないと思う。肉は下に敷かれており、肉丼を逆にしたような見た目になっているため、全然肉が見えない。
そこに、歩く
「二人共、一緒に食べないか?」
見上げてみると、横にはむすっとした顔をした日本人顏の少女が立っていた。先程一夏を連れ去った少女だった。
(これは……毒牙にかけられてしまいましたね………)
……初対面でフラグを立てるなんて……何やってんだこいつは………
「一夏、隣のやつは?」
「ああ、こいつは俺の幼馴染の篠ノ之箒だ。」
………初対面じゃなかったよ……というよりこいつは………
その名前を聞いた途端、彼女の口元がゆっくりと上がっていく。それは悪魔の様で、箒をぞくりとさせた。
「私はオールドキングだ、よろしく。」
直ぐに、何時ものニタニタとした顔に戻り、右手を差し出す。
「あ、ああ。」
遅れて左手を出し、その手を握る。
「こいつはクロエ・クロニクル。私の娘だ。」
「む、むむむむむ娘!?確かにお母様と言っていたな……い、一体子供は何人いるんだ………私も一夏との子供を……むぅ……」
顔を真っ赤に染める。完全に唯の初心な少女であるーーー少し妄想が激しいだけで。
「クロエ、挨拶をしな。」
「クロエ・クロニクル。」
顔色を変えずに、自分の名前を読み上げる。一応目線は箒の方を向いている。
「ああ、よろしく。」
「はむ。」
「うわぁぁぁ!!何をする!?」
差し出された手を甘噛みする。彼女は初めて見たものを何でも口にする癖がある。そう、まるで子供のように。注意しても直らないのだ。
箒は反射的に腕を引き、その両手をバタバタと振る。
(退屈しないで済みそうですね。)
……まあな、刺激的な毎日が送れそうだよ………
「取り敢えず座ろうぜ。」
「う、うむ。」
空気の読めない一夏に急かされ、二人の前に座る。四人で席を囲んだはいいが、特に話すこともないので気まずい空気が流れる。この空気にやられていないのは、一夏とクロエとオールドキングとーーー箒以外の全員だった。
「そ、そのだな。」
「どうした?」
「一夏と二人はどういう関係なんだ?」
突然箒が場に爆弾を投げ込む。その質問は完全に自爆である。
「この二人は俺の家に住んでいて「なにぃ!?けしからんぞぉ!!」
起爆させたのは一夏だった。箒は木刀を取り出し、その場で振り回す。
「一夏、死ぬかも。」
「あいつは死ぬくらいが丁度いいって。」
「二人共助けーーーうおっ!?」
「成敗してくれる!」
……さて、来週の模擬戦はどうするかな………
そんな二人を横目に、彼女は考えにふけっていた。
◆ ◆ ◆
場所も時間も移り変わって現在放課後。場所はアリーナ。
クロエとオールドキングの二人はアリーナで射撃訓練をしていた。クロエは
「やっぱり移動しながらとなると当たらんな。」
「三つも出来ない。」
三つとは、機体制御、射撃、情報操作の三つである。情報操作とは、機体のブースターへのエネルギー分配調整や、
「情報処理をやめたらどうなるんだ?」
「悪化する。」
オールドキングは唸る。彼女のこの能力は弄られているとはいえ、才能的な一面もある。誰よりも圧倒的なこの能力を生かせる機体があれば、彼女は一気に強くなるだろう。
……問題は山積みだな………クロエには強くなって貰わないといけないしな………本人が望んでいるのもあるが………
(いっその事専用機を作ってしまえばいいのでは?ほら、オールドキングさんに借りのあるフランスの大手IS企業があるじゃないですか!)
……いや、普通にデュノア社って言えよ……と言うよりそれは名案だな………では………
彼女は携帯電話(箒に借りたやつ)を使って、フランスのデュノアに国際電話をかける。料金が凄いことになりそうだか、気にしない。
『はい、こちらデュノア社です。』
「社長に代われ。」
『いや、しかし「代われ。」
渋々といった様子で電話の女が保留にする。数分経つと、保留が切れて社長に代わる。
『もしもし、こちら「単刀直入に言うと、専用機を作って欲しい。」
『君、流石に図に乗り過ぎじゃあないかね?』
最初の応対とは打って変わって、声が暗いものになる。
「量産機を待機状態にするあれ、3年前に開発されたのにまだドイツとフランスしかもってないんですよね。いやー、やっぱりデュノア社は凄い
なー。」
『何故それを知っている!?』
棒読みで言ったはずなのに、凄い剣幕で返される。
「取り敢えず、コアはこちらで用意するから機体本体を作ってくれ。試作段階の第三世代型ISのデータをやろう。どうだ?」
『……………』
デュノア社は第三世代機の開発に成功していない。これは相手にとっては喉から手がてるほど欲しいデータだろう。
『要件を飲もう。どんなISが望みだ?』
「そうだな、まずはーーー」
再び、全ては力を持つ者が決める世界になった事を彼女は実感した。
◆ ◆ ◆
黒ウサギ隊は悩んでいた。オールドキングの放った言葉の意味、それを重く受け止め、慎重な判断を下そうとしていた。
そこに流れる沈黙を、フランティスカが打ち破る。
「隊長は、あの黒いISです。」
「え?そんな訳「本人に聞いたら否定しませんでした。」
部隊内に衝撃が走る。あの異常な強さを見せた
「ら、ラウラ!?」
「大丈夫、少し驚いただけだ。」
床に溢れたコーヒーを拭き取り、マグカップを流しに置く。新しいカップを用意して、再びコーヒーを入れる。
「私は、隊長について行こうと思う。」
ラウラがぼそりと告げる。
「何を企んでいるかは分からない。でも、隊長が意味もなく犯罪を犯す筈がない。」
部隊から見たオールドキングは誠実で、自分の立場をよく理解できる人間だ。入隊してきたばかりの時は、自分の実力に関係なく、二等兵だからという理由で雑用をしていた。
その上、戦闘においては躊躇はせず、戦士としての一面も持ち合わせている。基本的に信頼できる人間なのだ。それは、部隊の仲間が一番分かっている筈だ。
「でも、どうするんだ?部隊の独立なんて早々に出来ることじゃないぞ?」
最低でも大きな功績を多く残さなければならない。上手くいったとしても、数年はかかるし、最も国が部隊を放そうとする訳がない。
「……隊長は、何故私達に連携行動を教えてくれたと思う?」
「それは、時間が無かったからじゃないの?」
「……隊長の訓練に個人の動きの指摘はあったものの、戦闘訓練は一つもなかった。あれは、私達を鍛える為ではない。この時のためだ。」
その意味はーーー
「正面突破だ、無理矢理にでも独立させてもらうぞ。」
世界が、動き始める。
つまりあの団が結成されちゃうわけですよ!
目隠し団(大嘘)