はぁ、一夏もげてくれないかな………
「では、授業を始める。席につけ。」
オールドキングの号令で、生徒がぞろぞろと席に着く。篠ノ之箒の方を見ると、髪がばっさりと切り落とされており、その青い瞳はこちらを真っ直ぐに捉えていた。
……いい眼をしているじゃないか………授業システムの改善点を纏めた甲斐があるってもんだ………
そう、彼女がシステムの改善点を纏めるなどというらしくない行為をしたのは、全ては〝篠ノ之箒〟という戦士を作り上げるためである。
………こいつは相当な〝天災〟だ……姉を超えるほどのな………
ニヤリと笑い返し、黒板にディスプレイを開く。首輪の付いた兎と共に、彼女の名前が表示される。
「改めて自己紹介をしよう。私の名前はオールドキングだ。何と呼んでくれても構わない。年齢はお前らと同じ15歳だ。よろしく。」
画面を切り替える。
「私の担当は基礎理論でも戦闘訓練でもなく、実戦においての基本的事項だ。」
画面に打鉄が映る。詳細なスペックデータと、武器の情報が載っている。
「戦闘で大事な事ーーー何か上げてみろ、えっと……
「え?えっと……相手について調べることかな?」
「相手の分析も大事な要素だが、一番大事なのは自己の分析だ。自分を分析できないのなら、相手を分析出来るわけがない。だから、今日はお前らが振るうことになるであろう武器ーーーISの、特に〝打鉄〟について説明する。」
全員の机上の空間投影型ディスプレイに打鉄のデータを送る。
「
二枚目のウィンドウが開かれ、
「スペックデータを見ればわかるが、こいつは早くない。だから、受けるならこの盾で攻撃を受けるのが得策という訳だ。」
一部が納得したような表情をするが、まだ半分以上は理解できていないような顔をしている。
「では、実際の映像を見てみよう。」
映像が流れ始める。打鉄を装備した誰かが、防御もせずに十数発のミサイルを受ける。シールドエネルギーが大きく削られるのが表示される。
別の映像に切り替わる。再び打鉄にミサイルが撃ち込まれるが、それを
前映像に比べ、シールドエネルギーの減りは大きく抑えられていて、確かにいい比較対象になっていた。
一部の生徒が感嘆の声を漏らす。
「まあ、こういう訳だ。」
「先生、質問です。」
「一夏か、何だ?」
「学校には打鉄より速い訓練機はないんですか?」
「ああ、ラファール・リヴァイヴっていうISもあるぞ。じゃあ、次はラファールのーーー」
こうして、彼女の最初の授業は成功を収めたのであった。
◆ ◆ ◆
授業が終わると、一夏は立ち上がり、真っ直ぐと箒の方へ向かった。
「おはよう箒、髪切ったんだな。」
「ああ、これは〝私〟との決別の為にな。」
彼にはその意味がよくわからなかったが、彼女のその髪型はとても似合っていて、彼の目を釘付けにした。
「どうした?そんなジロジロ見て。」
「いや、髪型似合ってるなって。」
その言葉を聞くと、少し頬を染め、髪の毛をくるくると弄り始める。
「あ、ありがとう。」
「ん?どうした?」
「いや、何でもない。」
一夏先輩の必殺技、難聴が発動した。
しかし、何故ここまで鈍感で難聴なのか。その上初のIS男性操縦者とは、本当に謎が多い人物である。
「次の授業何だっけ?」
「山田先生の基礎理論だ?」
「ん、サンキュ。」
彼女に礼を言い、教科書を用意しに行く。廊下に出た時、下を見ていた女の子とぶつかる。
「痛っ!」「きゃっ!」
痛みでよろける。目を開けると、青髪の少女が転んでいた。眼鏡が横に落ちており、その少女の物だと直ぐに分かる。
「すまん、大丈夫か?」
手を差し出す。すると、一瞬ビクッとなったが、メガネを拾ってかけ直し、その手を取って立ち上がる。
「あ、ありがとう。」
「何いってんだ、ぶつかったのは俺なんだ。こちらこそ悪かったな。」
「だ、大丈夫……わ、私授業に行くから。」
「おう、じゃあな。」
少女は去って行った。
……今の子、可愛かったなぁ………
そんな不穏な事を考えていると、後頭部に衝撃が走る。
「痛っ!ち、千冬ね「織斑先生だ。」
再び出席簿が飛んでくる。頭から煙が出るほどの威力を持つそれは、神速の速さで繰り出される。
…………死ぬだろ、というより今の一撃は殺す気だっただろ千冬姉…………
「お前の専用機にはまだ時間がかかる。まあ、今度の模擬戦までには間に合うがな。」
「え?せ、専用機?」
「ああ、だが自惚れるな。お前は唯一のIS男性操縦者と言うことで、専用機を貰い受けるだけだ。」
そんな当たり前の事は分かっていた。が、それよりも彼の心は自分が専用機を貰い受ける事への喜びと、それに対しての不安の半々の気持ちがあった。
………力に対しての責任が………俺に持てるのか…………
不安そうな一夏に気付いたのか、織斑先生が彼の両肩に手を置く。
「私も、オールドキングも、お前を応援している。頑張れよ?」
「ああ、勿論だ。見とけよ、千冬姉!」
「織斑先生だ、全く………」
最後には、出席簿は飛んでこなかった。
◆ ◆ ◆
「さぁて、明日はとうとうお前らにとって大事な模擬戦だ。まあ、箒は関係ないがな。」
目の前にクロエ、箒、一夏と身長順に並ぶ。全員がISスーツを装備しており、後方には打鉄が二機配置されている。
「一夏の専用機がどうなるか知らんが、お前がまともに使えるのはブレードだけだ。」
「わ、分かってるって。寄って斬る。だろ?」
「まあ、それしか出来ないがな。」
一夏には射撃のセンスが無い。だが、代わりというのはおかしいが、近接戦闘の才能に恵まれており、この一週間で驚異の成長を見せた。下手すればセシリア・オルコットを下す事も出来るほどに。
「次にクロエ。お前は明日は勝つ必要はない。取り敢えず専用機が届いてから考えるとしよう。」
「え?クロエに専用機があるのか?」
「まあ、あるツテを使ってな。」
全員がロクなツテじゃないと思った。
「最後に箒。お前の〝片刃のブレードの技術〟に関しては眼を見張るものがある。それ以外の近接戦闘はあんまりだが、打鉄ならそれが装備されている。大丈夫だろ、多分。」
「いや、片刃のブレードだけってどういう事だよ。」
「私も分からない。でも、片刃じゃないと上手く使えないんだ。」
そう言って、横に置いてある白い布を巻いた長物を持ち上げる。シルエットが完全に日本刀である。
「いや、振るなよ?」
「振って欲しいのか?」
「いや、振りじゃないからな!?」
「一夏、上手い。振ると振るを掛けた。」
何ともマイペースな三人組である。
(まあ、緊張してガチガチになっているよりマシですよ。)
……いや、まだ前日だからな?
「では、一夏vs箒の模擬戦を始めようか。クロエ、アリーナから出ような。」
「うん。」
「手加減しないぜ?」
「それはこちらの台詞だ。その鈍った腕に負ける訳には行かない。」
……こりゃあ、明日が楽しみだ。なあ?
(ええ、全くゾクゾクしますねぇ。)
◆ ◆ ◆
篠ノ之箒の流派ーーー篠ノ之流の元を辿って行くと、途中で抜刀術(居合)の流派に帰する。そもそも居合とは、刀を抜く技術に限らず、座って行う技の事を指している。居合が抜刀術の意味として使われる事となったのは、多くの抜刀術の流派が座った状態での抜刀技術を重視していたためだと言われている。
話を戻すと、居合切りと呼ばれたそれは、刀を抜くと同時に相手を斬りつける技術である。それは、先手必勝という言葉を極限化させたものだ。
その速さは、剣豪と呼ばれた武士に「居合は近間の飛び道具である。」と言わしめた程である。
彼女は、これまで居合を封印し続けていた。それは人殺しの技であり、闘いの技ではない。だが、もう彼女はそれを封印している必要は無くなった。
二人が打鉄を装備し、呼び出した武器を構える。
そのブレードに鞘は無かった。
だが、彼女にそれは必要でない。鞘などなくとも、己がの技に狂いなど起きない。
そのブレードは重かった。
だが、彼女は人殺しの武器の重さを知っていた。ずっと昔から。
そのブレードは妖しく光っていた。
まるで、誰かを切ることを望んでいるかの様に。
そしてーーー
『試合開始。』
「うおおお!!」
「………破ぁっ!!」
ーーーそれは目にも留まらぬ速度で、彼を斬り裂いた。
「速ーーー!?」
その速さに一夏が息を呑む。絶対防御が発動している所を見ると、その一撃は完全に〝入って〟いた。
屈んだ体制の彼女が再び納刀した様な構えをし、こちらを向く。
「こい、一夏。」
「ああ、やってやるさ!」
一夏が覚えたての
彼女がブレードを抜き、その神速とも言える剣筋をギリギリで受けきった。
「おおおお!!」
そのままブレードを大きく薙ぎ払った時にはーーー
『試合終了。勝者、篠ノ之箒。』
既に二撃目は打たれていた。
◆ ◆ ◆
「負けちまったー!箒は強いなー!」
「いや、あれは受けの技だ。対策をされれば勝ち目はないんだ。」
試合終了後、二人はアリーナ内で話をしていた。オールドキングとクロエは今のデータを纏めており、この場には二人きりということになる。
「でも、最後の一撃はいつ入れたんだ?」
「ああ、あれはお前がガキィーンと入れた時に、バァーンと振り上げたんだ。」
「何だそれ、全然わかんない。」
箒の代わりに説明すると、一夏が傾けていたブレードに一撃を入れると、二人の間に衝撃が生まれ、構えていた箒が不利になってしまう。その為、一瞬だけそれを受け、その一撃を受けたと思わせたままその衝撃を屈むことにより衝撃を前に流す。そのまま薙ぎ払おうと構えた一夏に向け、ブレードに衝撃を乗せて斬り払ったのだ。
「兎に角、あれは受けの技だから。」
「うーん、よくわからないけど。」
今回の模擬戦で篠ノ之箒が勝てた理由ーーーそれは、一夏が剣の使い手だったからだ。もし仮に相手が接近して来ず、銃撃戦を仕掛けられたら瞬く間にやられてしまうだろう。それに、彼は居合がどの様なものか全く知らなかったというのも事実だ。
「まあ、明日は頑張るぜ!」
「ああ、期待してるぞ。」
二人はアリーナを後にした。
◆ ◆ ◆
オールドキングはその結果に驚きを隠せなかった。それは、彼女が二人を恐れる程に。彼女の一撃は寡黙な男ーーー真改を思わせる程の一撃だった。
……まあ、まだまだ私には敵わんがな………
彼女はニヤリと笑う。
(箒さんには強くなってもらわないといけませんからね。)
そう、彼女にはもっと強くなってもらわなければならない。相手の手駒がわからない以上、こちらは最高の状態で挑む必要がある。
………篠ノ之束がどんな事をやらかそうとしているかは知らん。だが、負けるつもりはない………
そう言って、監視カメラを見やり、それに見せつけるようにISコアを取り出す。
それは、天災が作った第三世代型【白椿】と名付けられたISのコアだ。
白椿が落ちた後、彼女はコアを抜き取り、機体を八つ裂きにした。その為機体のデータ解析が不可能になり、ISコア諸々に大破したという事になっている。
……お前の世界を、壊してみせるぞ篠ノ之束………
(まあ、綺麗に言えば革命ですね。)
……ふん、唯の人殺しだろ?
それをポケットにしまい、再びデータの整理に入ろうとすると、首元から勝手に青いウィンドウが展開される。
《条件を満たしました。パスワードを入力して下さい。》
開くとーーー
試作段階試験用第三世代型IS【
・第一武装【
ーーー使用可能
・第二武装【
ーーー使用可能
・第三武装【■■■】
ーーー現在使用不可能
・第四武装【■■■】
ーーー現在使用不可能
・第五武装【■■■】
ーーー現在使用不可能
・第六武装【
ーーー使用可能
・第七武装【
】
ーーーパスワード入力によりロック解除
・第八武装【
ーーー使用可能
・第九武装【■■■】
ーーー現在使用不可能
・
ーーー発動中
第七武装が解放されていた。
それを見て、彼女は思い出す。熱月を謳った革命家ーーーオッツダルヴァ、又の名をマクシリミアン・テルミドールといった彼を。彼女が昔属していた、ORCA旅団と呼ばれる最悪の反動勢力の団長のその名を。
……ふん、テルミドールか……彼奴らはヌルすぎた………革命家共が………
彼女は彼の事が嫌いだった。彼だけでなく、所属していたORCAも、そしてそれを黙認していた企業の連中も。
……革命など、結局は殺すしかないのさ………だろう?
(ええ、やるなら楽しく、刺激的に……ですね?)
二人の殺戮者は、今カメラを通して自分を見ているであろう篠ノ之束に向け、不敵に笑い、その場を去った。
はい、新しいのが出ました。
これ、何の機体なんでしょうかねぇ(すっとぼけ)