作者はセシリアが好きだったりします。
まあ、ラウラが一番だけどな!
『おはよう、千冬姉。大好きだよ、千冬n』パァン!
一人だけの寮室に目覚ましが鳴り響く。布団の中から手を伸ばし、片手で目覚ましを止める。力加減が出来ておらず、時計から凄い音が鳴るが、それは壊れる事はない。何せドイツで教官をやっていた時もそうだが、彼女が目覚ましを壊してしまうことは身内の中では有名だ。その為、この目覚まし時計は特注品となっており、早々壊れる事はない。
「ふぁぁーっ……うーん………」
欠伸をして、猫のポーズをする。立ち上がり、おぼつかない様子で洗面所に向かう。足元にはビールの缶や、下着などが散乱しており、完璧なイメージの彼女とは掛け離れたものである。
顔を洗い、うがいをする。水をタオルでしっかりと拭き取り、冷蔵庫に向かう。
その白い扉を開けるとーーー
………麦茶が……無いだと!?
彼女の毎朝の日課の「目覚めの麦茶」が出来ない事に気付き、落胆する。仕方なく水を飲み、不機嫌なままスーツに着替え始める。
……ふむ、我ながら完璧だな。
鏡でその姿をチェックし、寝癖を直す。鍵を手に取り、昨夜纏めておいた書類の入ったクラッチバックを手にし、廊下に出る。
……さて、今日も一日頑張るか!!
織斑先生としての彼女の一日が、今始まる。
◆ ◆ ◆
「なあ、古王。」
「何だ一夏?本番前で緊張してんのか?」
「いや、それはないけどさ……俺のISいつ届くの?」
一夏とオールドキング、クロエの三人はピットで待機していた。今からクラス代表を決める模擬戦が行われる。最初は一夏とセシリア・オルコットの試合だが、肝心の専用機が来ていない。
「まあ、間に合わないならIS無しで「お、織斑君!と、届きました!届きましたよ!」
山田先生が一夏のピンチを救う。今届いていなければ彼はIS無しで彼女と戦う羽目になっていただろう、
山田先生に案内され、シャッターの前まで行くと、轟音が鳴り響かせながら何かが上がって来るのが分かる。
そして、そのシャッターが開かれる。そこにはーーー
「これが………」
「はい、これが織斑君の専用機、【
ーーー名前とは裏腹に、灰色の装甲を持つISが鎮座していた。彼は、何故かそれに
右手が吸い寄せられるように近づき、冷たい装甲に触れる。彼の体が光に包まれ、次の瞬間にはISが装着されていた。
「一夏、気分はどうだ?大丈夫か?」
「ああ、勿論だ、じゃあ「まあ待て。落ち着けよ。」
アリーナに出て行こうとする彼を止める。
「まだ
「だ、だけど………」
「私が先に行こう。」
彼女はクロエが今回使う為に用意された打鉄に触れる。
「Scorcher」
そう唱えた瞬間、彼女の体に光が走り、打鉄がコピーされる。
『古王、やり過ぎるなよ?』
「千冬さん、観客席のシャッターをお願いします。」
『……まあ、良いだろう。』
打鉄の足がはカタパルトにセットされる。
「一夏、見てろよ?私の戦いを。」
「おう!頑張れよ!」
◆ ◆ ◆
「あらあら、誰が出てくると思えば貴女ですか。」
彼女がアリーナに出ると、既にセシリア・オルコットが居た。彼女は青い装甲のISを装備しており、その手に持っている長身の銃から、基本的には遠距離戦が得意という事が分かる。
「私で悪かったな。」
「いえ、貴女位でなければ私と戦う事さえ出来ないでしょう?」
…………一応教師なのだがな………
その高飛車な態度に少しイラっときたが、彼女は気持ちを抑える。
………まあ、嘘をついてまで出てくる価値はあったがな………
実は、今回の主とした目的は一夏の
彼女の思考を邪魔する様に、青いレーザーが飛んでくる。
そのまま彼女に着弾したーーー様に見えたがーーー
「む、無傷!?」
「不意打ちとは犬に相応しい所業だ。本当に貴族か?」
彼女の左手にはブレードが握られており、着弾する直前にレーザーを弾き飛ばしたと推測される。それだけで、彼女の力量が伺えた。
「まあ、勝ちに拘るその姿。悪くは無い。」
「くっ!負けませんわ!さあ、踊りなさい!私と
背部に位置する四基のビットが独立し、彼女を正確に捉える。
「ふむ、それなりの実力はあるようだ。なら!」
交差する青い光を躱し、
「インターセプター!!」
彼女の音声コールによって、その手に銀色の短剣が展開され、その一撃を防ぐ。
………ふむ、予想以上の強さだな………まあ、接近出来たと言う事で、よしとするか………
彼女は左手を部分的に解除し、その青い装甲にゆっくりと触れる。彼女の顔に狂気を感じさせる笑みが浮かんで、セシリア・オルコットをぞくりとさせる。
「…………Scorcher。」
その一言が空中に投げ込まれた刹那、彼女の機体が白い光に包まれ、青と白の装甲に変貌を遂げる。
そして、オールドキングはーーー
「な、何で!?私の
彼女と全く同じ姿のISを纏っていた。
◆ ◆ ◆
「な、何だよあれ………」
織斑一夏は彼女に魅せられていた。
最初、彼女の機体をコピーした時は驚いたが、それよりも彼が気になったのは彼女の動きだ。
何と、模擬戦だと言うのに相手に向けて稽古をつけているのだ。しかも、セシリア・オルコットの撃つエネルギー兵器は一発も着弾していない。その動きは可憐に踊っている様に見え、より一層彼の目を引いた。
「お母様、戦う気がない。」
「え?な、何で?」
確かに言われてみれば、彼女は相手の機体をコピーしたのに、その武装を一回も使っていない。
「な、何で?」
「一個目の目的、果たした。後は、一夏だけ。」
一個目の目的が何か分からないが、彼の
……何で……古王…お前は………
かれこれ三十分近くは避け続けている。そろそろ
「私、棄権する。」
「え?」
「一夏、任せた。」
「俺が?」
「一夏、勝てる。落ち着いて。」
彼女に促され、深呼吸をする。真偽は分からないが、心を落ち着かせる深呼吸の仕方は、大きく吸い、吸う時の二倍の長さでゆっくりと吐く事だと誰がから聞いた事がある。
「サンキュ、クロエ。」
「礼には及ばない。」
何故か目の前で合掌された。多分、これが彼女の〝礼〟の動きなのだろう。少しどこではなく、凄くズレている。まあ、そこも可愛らしい所ではあるが。
「なあ、クローーー!?」
彼の機体が一瞬真っ白な光に包まれ、その形を変えていく。
「これが………」
純白の装甲に黄色のラインが入っているその機体は、正に
「俺の……専用機?」
『一夏、
……えっと…自分の右後頭部で話をするように……だっけ?
『あー、お!できた!』
『おい、どうなんだよ。』
『もう済んでるぜ!』
通信が切れると同時に、彼女が両手を挙げるのが見える。
『試合終了。勝者、セシリア・オルコット。』
アナウンスと共に、二人がそれぞれのピットに帰投する。オールドキングがビット内に着地し、ISを解除する。
「次は五分後だ。相手のシールドエネルギーは微塵も減ってないからな。」
「それよりも何でコピー出来るんだ?」
あああれか、と言って彼女は説明を始める。あれは彼女のISーーー
「へぇー、お前って専用機持ってたんだ。」
「まあ、三年前程に色々あってな、丁度お前を助けた時に拾った。」
彼女が専用機を持っている事はそこまで不思議じゃなかった。彼の記憶の中の彼女は、自分の姉とまともに戦う事が出来ていたからだ。
「おい、そろそろ準備しとけ。」
「おうよ。」
『第二試合、織斑一夏対セシリア・オルコット。』
「一夏、応援。」
「ああ、行ってくるぜ!」
真っ直ぐ前を向くと、カタパルトから純白の機体が弾丸の様に射出される。
………古王、クロエ、千冬姉………俺は……勝つ!!
◆ ◆ ◆
結論から言うと、織斑一夏は負けた。彼にはセシリア・オルコットに勝ち得る実力を持ち合わせている上に、特に慢心もしていなかった。
では、何故負けたのか?
決定的な要因となったのは、単純に経験の差である。彼女は腐っても代表候補生だ。ISの操縦時間は軽く300時間を超えるだろう。それと、操縦時間が数時間の初心者が戦うのだ。何方が勝つなど一目瞭然の筈なのだが、彼は善戦をした。もう少しで、彼女を下せる程に。
………織斑………一夏…………
セシリア・オルコットはシャワーをその体に浴びながら、あの試合の事を思い出していた。白い肌に暖かな水滴が触れ、足元に向けて伝ってゆく。
………本当に…強くて……格好良かったですわ………
彼女は今時の、女尊男卑が正しいと思っていた人間だ。会社の経営者だった母の後ろに隠れたままの情けない父を見て、彼女は男とはこういうものなのかと思って生きていた。
だが、彼を見てそれが一転した。男にも、誰かの為に、戦える男がいると。
………一夏……さん…………私の……大好きな人…………
彼女は、その姿に心を惹かれていた。そう、彼女は生まれて初めて男性に好意を持つことができたのだ。
シャワーを止める。
暖かかった室内が、急に冷え込むと同時に、彼女の心もひえこみ、現実を直面させる。
……オールドキング……彼女は………古王祈……そして……
彼女は濃緑色の髪を持つ少女の言葉を思い出す。
「覚えているか?セシリア・オルコット?」
「あの演習、酷かったよなぁ?覚えてるか?私の事を。」
「次会った時は殺す……と言ったが、殺すには惜しい人材になったもんだな?」
……この人は……古王祈……ドイツの代表候補生だったはず………なのに………
……何故……あの時………まさか……そんなはずは…………
演習の前日に、チェルシーが何処かに出掛けて、目を赤くして帰ってきたことを思い出す。何があったのか尋ねても何も答えず、そのまま寝てしまった。朝起きた時にはメモ書きしか残っておらず、そこには「どうかご無事で」と書かれていた。
彼女はその意味を理解することができなかった。だが、今はーーー
……チェルシーは、私を助けるために…………
数々の言葉が彼女の中で組み合わさり、パズルの最後のピースをはめた時の様な感じと共に、彼女に恐怖を覚えさせた。
……何故あの人は……私を………
オルコット家はオールドキングに特に何かを差し出した訳ではない。あの
彼女は、頭を悩ませるのみだった。
………連絡しましょう……チェルシーに…………
風呂から出て、髪の毛を乾かし、所謂家着に着替える。固定電話を手に取り、今、イギリスにいるはずの彼女に連絡を入れる。
「もしもし、チェルシーですか?聞きたい事があるのですがーーー」
はい、負けました。
というより、原作でセシリアが負けそうになるのは少しおかしいかなーって。
いや、だって代表候補生に初心者が勝ちそうになるなんてねぇ?
まあ、今回はオールドキングに鍛え上げられたので、ギリギリ負けたということで。
零落白夜が出てないじゃないですかやだー!!!!