え?夢なんて初めて?
そんな事よりステイシスがですね…………
彼は無機質で味気のない、至ってシンプルな白い部屋の中に来た。そこには、カプセルの中に入った〝彼女〟もいた。
「あ!おかえり!」
「ああ、ただいま。」
〝彼女〟の目には、包帯が巻かれており、その目がどちらを向いているのかは分からないが、寝転んだ姿勢のまま、こちらを向いているのは分かった。
彼は手を伸ばすが、直ぐに止める。カプセルは体と外界を遮断しており、彼女に触れることは叶わない。
「ねえねえ!今日もご本読んでよ!」
「……はいはい。」
彼は〝いつもの〟本を取り出す。そして、それを読み始める。
ーーーむかしむかし、あるところに、■■■■■おしろにすむ〝■■■■〟がいました。
ーーー〝■■■■〟は、おかねこそなかったものの、みんなにやさしく、へいわにくらしていました。
ーーーしかし、あるときとなりのくにが、〝■■■■〟たちのおしろをせめてきました。
ーーー〝■■■■〟たちはがんばってたたかいましたが、あいてはとってもつよくて、たったのすう日でまけてしまいました。
ーーーまけた〝■■■■〟たちは、ぜんいんがどれいにされ、■■■をつけられ、にげられなくされてしまいました。
ーーーまい日まい日はたらかされて、ついにははたらきすぎてしんでしまうひともいました。
ーーーある日、〝■■■■〟たちをみはっているとなりのくにのへいしが、まちがえて■■■のかぎをおとしてかえってしまいました。それを見つけた〝■■■■〟は、かぎをつかおうとしましたが、このかぎはぼろぼろで、いまにもこわれそうでした。
ーーーだから〝■■■■〟は、みんなの■■■をはずしてあげました。でも、〝■■■■〟の■■■をあけるまえに、かぎはこわれてしまいました。
ーーーみんなは■■■がとれてよろこびました。■■■がついているのは〝■■■■〟だけでした。
ーーーつぎの日、〝■■■■〟がかぎをぬすんだことがばれてしまい、しょけいされることになりました。みんなはどこかににげてしまい、〝■■■■〟はひとりぼっちでした。
ーーー〝■■■■〟はしょけいだいにつれていかれ、いまにもころされてしまいそうでした。
ーーーめのまえにはたくさんのひとがいて、みんなが〝■■■■〟のしをまちのぞんでいました。
ーーーすると、〝■■■■〟のめのまえに、きらきらとひかるものをもったおとこのこが、ひとごみのなかからでてきました。
ーーー〝■■■■〟はすぐにそのこが〝■■■■〟といっしょにどれいにされたこどもだとわかりました。そのこは、〝■■■■〟が■■■をはずしてあげたこどもでした。
ーーーそのてのなかにあるものはほうちょうでした。おとこのこは〝■■■■〟をつれてきたへいしをぶすっとつきさしました。
ーーーあたりはおおさわぎ。へいしがたおれたことをきいて、となりのくにのおうさまもびっくりしました。
ーーーしらせをきいたとなりのくにのおうさまは、〝■■■■〟のまえに出てきました。なんと、おうさまが〝■■■■〟をほうちょうでつきさしました。
ーーー〝■■■■〟はつきさされながらも、かくしておいたほうちょうで、おうさまをつきかえしました。そのほうちょうは、さっきおとこのこからもらったものでした。
ーーーとなりのくにのおうさまと〝■■■■〟はしんでしまいました。おとこのこのゆくえは、誰にもわかりませんでした。おしまい。
「……うーん。」
「どうしたの?」
〝彼女〟は悩んでいるようだ。
「〝■■■■〟は、なんでとなりのくにのおうさまを殺したの?」
「それは、となりのくにのおうさまが〝■■■■〟を、奴隷にしたからだよ。きっと恨んでたんだよ。」
彼は彼女を見やる。すでに彼の目には、大粒の涙が浮かんでいた。
「泣いてるの?」
「な、泣いてなんかいないよ。」
「………わたし、将来は■■■■■になるんだ!」
突然話題を変える。
「ど、どうして?」
「わたしみたいな、■■■■■■■■■■を助けたいの!」
その言葉は、涙の量を増やすばかりであった。
「………×××××。」
「なんだい?」
「■■■■になって、どうだった?」
彼の言葉が詰まる。
「………なんにも、変わらないよ。」
「そっか……でもいつか変わるよ!この■■■■のお話みたいに!」
「………そうだね。」
気まずい沈黙が流れる。
「じゃあ、そろそろ家に帰るね。」
「待って!」
〝彼女〟に声をかけられ、振り向く。
「ーーーーーーーー。」
そう言った彼女の顔は、目元は隠れていたが、今にも散ってしまいそうな花の様に見えてーーー
「あああっ!?………はぁ……はぁ……………」
目覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。正確に言えば、彼女は喧嘩した後、疲れて果てて寝てしまい、楯無に運ばれてーーーつまり保健室にいたのであった。右肩は器具でがっちりと固定され、無理な運動は出来ない状態であった。
………あんな夢を見るなんて………
彼女が見た夢は、彼女がオールドキングだった頃よりもずっと前の〝彼〟の記憶だった。それを思い出そうとすると、急な吐き気に襲われ、即座にゴミ箱を口元に寄せる。
吐きはしなかったが、気持ち悪さはまだ残っていた。
………ちっ、うじうじとした野郎だ………自分が嫌いになりそうだ…………ったく…………
珍しく首輪付きが静かだ。何か考え事でもしているのかもしれない。
肩を庇いながら、ベットから降りる。そのままドアに向かっていくと、途中の洗面台で足が止まってしまった。思わず見てしまった鏡に映る自分の顔には、涙が流れていた。
左手で鏡を叩き割る。強烈な音とともに、鏡が砕け散る。
その手には、血が滲んでいた。
………変えてみせる………何があっても…………
彼女は、そのまま静かに涙を流し続けた。
それを見ていた人影にさえも気付かずに。
◆ ◆ ◆
暫くして教室に戻ると、何やら視線が熱い。1組に来るまでの廊下でも、彼女をチラチラと見ている人が多かった様に思えた。
(もう、大丈夫ですか?)
………まあ……な………私もまだまだって事だ…………
自嘲的に笑う。
「古王、大丈夫か!?」
一夏が立ち上がる。大丈夫かと言われても、何が大丈夫じゃないのかがわからない。彼女が小首を傾げるとーーー
「肩だよ!脱臼したんだろ?」
「ん?ああ、数日で治るさ。」
心配をかけぬよう、ニコリと笑いかける。左手には包帯が巻いてあり、先程手の甲に滲み出てきた血は見えなくなっていた。
横を見やると、クロエと箒がいない。
「二人はどうした?」
「ああ、二人は「二人は食堂に行かれましたわ!」
突然セシリアが割り込んで来る。確かに今は昼休みだが、この二人はどうしたのだろうか。
「二人はどうした?」
「俺は、箒の料理を。」
………やるじゃないか箒…………
「今度、私も作ってきますわ!食べてくださいますか?」
「おう、勿論だ。」
箒のリードを許すまいと、セシリアが意地を張る。
(私の勘が言っていますーーーこの人の料理はコジマだと。)
………ああ、食ったら最後……だな………
一夏には悪いと思ったが、彼は超絶鈍感で、尚且つ
「んじゃ、私は部屋に戻ってる。」
「え?午後の授業は?」
「出ない、じゃあな。」
彼女は左手を振り、二人に背を向けて帰って行った。
◆ ◆ ◆
クロエ・クロニクルは篠ノ之箒と共に食堂にいた。彼女はプラスチックのフォークを器用に使い、うどんを食べていた。
………お母様………泣いてた………
彼女は、オールドキングが脱臼したと聞いて、心配になって保健室に行った。そこで見たのは、鏡を殴りつけ、静かに涙を流す彼女の姿であった。
彼女はうどんを食べる手を止める。
………悲しい……泣く……わからない………
彼女には、〝悲しいから泣く〟という事がわからなかった。でも、そこには感じた事のない〝何か〟があった。
「クロエ…大丈夫か?」
無表情のまま固まる彼女の姿を見て、箒が心配そうに言う。
「大丈夫、問題ない。」
彼女は再びその手を動かし始める。
………悲しい……ダメ…………
彼女は込み上げてくる〝何か〟を抑え、それを紛らわせるように、その手を動かし続ける。
………悲しい……痛い……苦しい………お母様…………
胸に疼くチクチクとした痛みを感じ、それを抑える。それは、彼女の感じことのない〝何か〟で、オールドキングが感じていた〝何か〟であった。
「おい、本当に大丈夫か?」
「………うん。」
マイフォークをしまう。うどんはまだ半分以上残っていたが、もうそれを食べる気にはなれなかった。
「なあ、クロエ。」
「……………」
彼女は押し黙る。
「強く……なろうな。」
「……箒、感謝。」
彼女は礼を言って、ゆっくりと立ち上がる。その黒と金の瞳は、真っ直ぐと前を向いていた。
「何処に、行くんだ?」
「部屋。」
彼女はスタスタと歩き、食堂を立ち去ってしまった。
◆ ◆ ◆
彼女ーーーオールドキングは部屋の扉の前で立往生していた。目の前には彼女の養子である、クロエ・クロニクルが立ちはだかっており、彼女は部屋に入る事が出来なかったのだ。
「なあ、クロエ。よくわからないが許してくれないか?」
「ダメ。」
どうしても通してくれないらしい。彼女は小さな身体を大の字に広げ、扉の前に立つ。
「どうしたら通してくれるんだ?」
「理由、教えて。」
理由と言われても、何が何だかわからない。実際彼女は悪い事をしたつもりはないし、今日特に何かがあった訳でもない。
「泣いてた。理由。」
「ーー!?」
言葉が詰まった。まさか、あの場を誰かに見られてるとは思わなかった。何とか言葉を出そうと思ったが、その声は喉元に引っかかってそれ以上は出てこなかった。
「……すまない。こんな不甲斐ない奴が保護者で。」
彼女は唇を噛み締める。クロエだけには、自分が弱ってるところを見せたくなかった。見せてはいけなかった。
「違う。悲しい、痛い。ダメ。元気、出して。」
彼女が大の字にしていた手を収め、胸の前でバツ印をつくる。
彼女が自分を励まそうとしている姿を見て、彼女は拳を強く握り締める。
………私は結局……壊すことしかできない………誰も………何も………
「ああ、ごめんなクロエ。」
彼女の頭に、ポンポンという風に手を置く。無表情のままだが、抵抗するつもりもないようだ。
「いつか、教えて。絶対。」
「ああ、勿論だ。」
自然と、彼女の顔にも笑みがこぼれた。
◆ ◆ ◆
更識楯無は生徒会室で、書類の整理を続けていた。他国から学園への要請や、彼女個人への要請を凄まじい速度で捌き、アリーナの使用記録や訓練機の使用状況などを纏めていた。
「あー!疲れたー!!」
「お嬢様、今日は張り切り過ぎてるのでは?何かあったのですか?」
と、言うのは彼女のメイドである
「うん、オールドキングちゃんが強くてねー!今度は本気でやりたいからね!」
「ああ、例の
二人の間では、彼女の事は
「でも、相手も本気でないのでは?」
「それは無いわね。でも、〝あれ〟を使っても勝てるとは思えないわ。」
彼女は断言する。布仏虚にとって、彼女が負ける事などまずあり得ないし、その上、負けず嫌いな彼女がそれを認めることなど、もっとあり得ない事だった。
「お嬢様。」
「何?」
「本当に
彼女はいまいちオールドキングの事が信用できなかった。素性も、彼女のISも明らかではない。そんな人間を、簡単にほいほいと信用する事は出来ない。
「今度、会ってみるといいわ。」
「……分かりました。」
彼女の妹ーーー
しかし、そこで彼女がとんでもない事をする。突然ISを展開し、布仏虚の胴をがっしりと掴む。
「思ったが吉日よ!」
「え?ちょ、胃酸が逆r……ギャアアアアアアアアア!!!」
◆ ◆ ◆
「ったく……広すぎるのよここは………」
ツインテールの少女は、学園内で迷っていた。その手にはボストンバッグが一つーーーただそれだけであった。
「まあ、頑張ったおかげであいつとも会えるしね!」
どうやら、彼女は転校生のようだ。空いている方の手には「総合受付事務所」と書いてあるメモを持っているが、それ以外の情報は何も書いてなかった。
「全く!何処にあるのよここ!?」
「どうした?(戦場に)迷いこんだか?」
そう言ってきたのは、濃い青色の装甲を持つ
「だ、誰よ!?」
「IS学園ランク1、オッツダルヴァd「オールドキングさーん!」
そう言って超高速で駆けてきたのは、まさに〝穴〟という漢字をISにしたのかと思ってしまう程に穴々しいISだった。それも
「おお、首輪付き。部屋で待ってろって。」
「いやー!久しぶりの体に感動しちゃいまして!」
「ちょ、ちょっとあんた達誰よ!」
彼女は困惑していた。突然訓練機じゃないISが出てきた上に、片方は完全に人間が入れない形をしているのだ。
「フラジールです。」
「オッツダルヴァだ。」
二人は自己紹介をするが、聞きたい事はそれではない。
「だから、あんたは何処の「その声!オールドキングね!?」
突然真上から声がする。上を向くと、青髪の少女はこちらを見下げていた。その手には眼鏡の少女が掴まれており、完全にへばっている。
「何よそのIS?見た目をコロコロ変えて!しかももう一人は誰よ!?」
「フラジールです。」
「オッツダルヴァだ。」
「ああもう、全員纏めて消し飛べー!!!!」
ここに、生徒会長vs教師vs転校生の世にも珍しいマッチングが出来上がったのであった。
二十何話にしてやっと中国のあの子が………
まだまだ続く!