はい、オリキャラが出てきます。ご注意を!
クロエ・クロニクルは珍しく焦っていた。現在目の前には自分と瓜二つの少女が、彼女の首を絞めている。彼女とは鏡写しに金と黒が配置されたその目には、確かな憎悪が映っていた。
……死ぬ………助け…………
彼女は必死にもがくが、その手離れることはない。意識が飛びそうになるギリギリで、首から手が離され、床に落下する。
「がはっ……げほっげほっ!」
「私は貴女と同じ
目だけで彼女を見上げると同時に、彼女の顔面に蹴りが入る。顔面は陥没していなかったが、もしかしたら、今の一撃で鼻が折れたかもしれない。
「クロエ・クロニクルは私です。気安く私と同じ名前を名乗らないでもらえますか?」
どうやら、目の前の少女も「クロエ
・クロニクル」という名前らしい。
髪の毛を掴まれ、持ち上げられる。
「返事できないんですか?へ ん じ!」
そのまま頭を壁に叩きつける。
「がはっ!!……私は…………」
「うんうん、言ってみな?」
「私……クロエ!……クロエ・クロニクーーぐぁっ!」
窓に向けて投げつけられる。体を大きく打ち付けられ、内臓に損傷が加わるのがわかる。
「もう飽き飽きしました。死ね。」
拳銃が構えられーーー
ーーー彼女の胸を貫いた。
◆ ◆ ◆
篠ノ之箒は朝早く目覚めた。隣の部屋から物音がしたからだ。
……今日は、オールドキングはいないはず……クロエはどうしたんだ?
オールドキングは異常なまでの早起きだが、クロエはこの時間にはまだぐっすり眠っているはずなのだ。その上、昨夜オールドキングは何処かに出掛けてしまった。
彼女は何か危険な空気を感じ、枕元に立て掛けてあった日本刀を手にする。
音が消えると同時に、彼女の緊張も解ける。日本刀を離し、起きてしまったものだから身支度を済ませる。
……勘違いか…………まあ、警戒するに越したことはないな…………
少しすると、隣の部屋から再びドタドタと鳴り始めた。外に出ると、そこはーーー
「は?め、迷路?」
廊下の一面が迷路と化していた。
◆ ◆ ◆
「ど、どうすれば………」
目の前には子供が遊ぶ迷路が拡大化されたものが広がっている。
壁に触れてみる。全て緑色の金属質な壁で出来ていた。縦は異常に高く、超えられそうもなかった。
………くっ、どうなってるんだ!
後ろを振り返ると、既に自分の部屋はなかった。部屋には一夏が寝ているはずだが、部屋内なら問題はないだろう。先程自分がいた時も、部屋内は迷路になっていなかった。
………この迷路のゴールは何だ?
迷路は壁伝いに歩けばいつかゴールできると聞いた事がある。だが、迷路のゴールというのはクロエの部屋ではないだろう。
……そもそも、この迷路はいつ出来ていた?
昨日はこんなものはなかった。そうなると、夜中に取り付けたとしか考えられない。
でも、それにしてはどう考えてもでかすぎる。目の前の壁の高さも廊下の天井を突き抜けてるし、こんな大規模なものを作り上げるには何ヶ月もかかる。根本的に、ゴールがあるのかさえわからない。
……まさか、夢の中?
彼女はゆらりと刀を持ち上げる。ゆらりゆらりと動かし、それを胸に当ててーーー
◆ ◆ ◆
オールドキングは飛行機に乗っていた。目的は、ドイツで行われるという中規模なISの大会があるらしく、それにラウラが出場すると聞いたからだ。
機内は、ビジネスクラスに乗っているため、窮屈さが無かった。リクライニングシートに背中を預けながら、音楽を聴いていると突然メールが入る。
(ああ、貴方の娘がピンチらしいですよ。)
…………はぁ?
手紙を開くと、IS学園に侵入者が入ったことが端的に記されていた。その場所はクロエとオールドキングの部屋。一夏&箒ペアの隣である。
これは、遠回しに帰って来いと言ってるようなものだ。
………はん、今から言っても間に合わねえな……さて、どうするか………
既に飛行機はドイツまで、半分のところまで来ている。今から戻っても間に合わないが、助けに行かない訳にもいかない。
………まあ、こうやってメールが来るってことは教員も対処できないってことだよな…………
現地の教員も対処出来ないとなると、彼女にはもっと無理な話だ。
(更識楯無に頼んでみては?)
………いや、私は箒に賭ける。
そして、彼女は電話を取った。
◆ ◆ ◆
彼女が胸に刀を当てた瞬間、何処からか電話のコール音が鳴り響き、直ぐに消える。再び鳴ったと思うと、直ぐに消える。
……いや、まさか……ありえるぞ………モールス信号か?
何かを伝えるように、そのコール音は一定のリズムで鳴り、消える。
彼女はモールス信号を理解することは出来ないが、それが何かを伝えている事くらいはわかった。
……夢ではないようだ………死なずに済んだな………
電話の相手に心の中で礼を言い、そして、再び思考を始める。
これが何らかの幻覚ということはわかった………目の前の……目の前?
彼女はハッとする。これが幻覚ならば、何らかの方法で脳を騙しているということだ。
思いついたそれを試すために目を閉じ、深呼吸を始める。
………これで………………
壁に触れてみると、そこには
……やはり………………
彼女は確信した。これは視覚情報から、何らかの方法で脳を騙している。その為壁の感覚があるのだ。
多分、この迷路は延々と続いているのだろう。ゴールさせる気などもとよりないのだ。
彼女は刀で服の一部切り裂く。右腕の袖が無くなり、その切れ布を目元に巻きつける。
音の方向に向け、一歩、また一歩とゆっくりと歩みを進めて行く。
………焦るな……焦りは禁物だ………
集中が途切れれば、下手したら壁にめり込む羽目になるだろう。
そして、ゆっくりとコール音が近づいて行きーーー
「ここに辿り着くとは流石彼の方の妹といったところですか。」
目の前からクロエに限りなく似た声が、彼女の耳に届いた。
◆ ◆ ◆
くーちゃんこと、クロエ・クロニクルは少し感心していた。オールドキングの少ない荷物を漁っていた途中に電話が鳴ったのはびっくりしたが、まさか篠ノ之箒がここまで辿り着くとは思ってもいなかった。
………まあ、最初の目的は果たせたからいいとしますか。
足元を見やると、既に物体でしかない自分のなり損ないが転がっていた。
目の前の少女は、目に白い布をまいている。
「黒鍵が見破られるとは、驚きました。」
本心から手を叩く。
「ちっ!クロエをどうした!?」
「ここに転がっていますよ。」
「では、篠ノ之箒。また。」
「ま、待て!話は半ぶーー!!」
そのまま、窓から飛び降りた。
◆ ◆ ◆
彼女は目隠しを外し、腕の中でぐったりとする少女を見て、目を見開く。その体温は、もはや人間が生きていけるものではなかった。
「く、クロエ!しっかりしろ!」
しかし、返事がない。首も腕も足も、だらりと垂れており、胸元から血が溢れ出ていた。
「あ……あぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼女は泣き叫んだ。死の恐怖ではない。自分の力の無さに嘆いたのだ。
……私は……こんなにも…………
すると、目の前の少女の目がぱっちりと開く。
「く、クロエ?生きてるのか!?」
しかし、返事がない。黒と金の目はは曇っていて、死んでるとも生きてるともいえない状況であった。
「おい!起きろ!起きろ!」
揺すってみるが、彼女の体はその通りにぶらぶらと揺れるのみだ。
すると、突然ドアがぶち破られ、教員達が入ってくる。
「大丈夫か!負傷者は!?」
「クロエが、クロエが!!」
一人の教員がそれを見ると、顔を真っ青にする。
「担架を用意しろ!直ぐに病院に運ぶん『おい、箒。そこにいるか?』
突然オールドキングから、通信が入った。
◆ ◆ ◆
………しかし、狙われたものは何だ?私のデータ……兎に角、クロエが負傷している可能性が高いな……
首輪を起動し、部屋に連絡する。
「おい、箒。そこにいるか?」
『オールドキング!?クロエが!』
何やら慌ただしい。事情を聞くと、クロエが心臓に銃弾を撃たれて、死にかけているらしい。
「へえ、そりゃ災難だな。」
『なんだと!?それでも母親か!?』
本気で怒っている様だ。回線を
「おい、クロエ起きろ。」
『はい。』
『なっ!?クロエ、生きてたのか!?』
面倒な事になりそうなので、通信を遮断する。
(まあ、貴方の娘は簡単には死にませんよ。)
首輪付きの言う通り、クロエ・クロニクルは多分、中々死なない。そもそも中の臓器はごっちゃに混ぜられており、心臓が何処にあるのかさえわからない。その上、ナノマシンによる修復能力で多少の傷でも一日寝ていれば治るだろう。
もはや人間ではないと言ったらその通りだが、オールドキングはそれを認めない。認める気などない。彼女は彼女なのだから。
……ああ、その通りだ、頑丈だからな。
窓を見やる。下には雲が広がっており、現実味のない世界がその眼に映る。
……綺麗………だな…………
(ええ………綺麗ですね。)
彼女は空が好きだ。何よりも高く、誰からも邪魔されないその場所が。
しかし、それは複雑な思いだった。彼女の憎んでいた〝企業連〟共も、この空で優雅に暮らしていた。
………ふん、もはや昔の事だ………
彼女は頬杖を付き、憂鬱な目で空を見続けていた。
◆ ◆ ◆
「隊長!久しいな!」
「だから私はもう隊長じゃない。」
空港に着くと、ラウラがお出迎えに来てくれた。約一年ぶりに見た彼女は少しだけ背が伸びており、前よりも元気な子に育っていた。
「で、大会出場するんだっけ?」
「ああ、部隊内最強の私がな!」
どうやら他のメンバーは出ないらしい。彼女が出場するとなれば、倒せない可能性があるのは国家代表くらいだろう。
「で、お前はどこを目指すんだ?」
「勿論優勝だ!」
腰に手を当てて、ふふんと鼻を鳴らす。相当自信があるようだ。
(そういえば、黒ウサギ隊は全員に専用機が配備されたらしいですね。)
……ほお、そりゃあいいな…………
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。待機状態はどうなってるんだ?」
「ああ、レッグバンドになっているぞ。」
そう言って太ももを指差すが、軍服の上からそれをやっているため、さっぱりわからない。
「ふーん、じゃ……おっと……先入れよ。」
「う、うん。」
車の迎えが来た。ラウラを先に乗るように催促し、自分も乗るとーーー
「隊長、お久しぶりです。」
クラリッサが運転していた。確かに車はシルバーの通常車で、少し手狭なものだった。どうやら彼女の個人車の様だ。
「ああ、お久しぶり。前は礼も言わずに出てって済まなかったな。」
「いえ、隊長には何時でも連絡出来るので大丈夫です。それにーーー」
「それに?」
「私達は、隊長についていくことを決めたので。」
………ほお……まあ予想は出来ていたが……大きな戦力を得たな……
彼女はニヤリと笑う。バックミラーに映るクラリッサの目も笑っているように見えた。
「どう実行するのかは知らんが、ヘマをするなよ?」
「ああ、大丈夫だ。」
ラウラが答えるのと同時に、小刻みに揺れていた車がようやく動き出す。
「で、大会は何時からだ?」
「明日の朝9時からだ。テレビでも、全ての地域で放送するらしい。」
思っていたより規模の大きい大会なようだ。生放送を行うという事は、そこそこ盛り上がる予定なのだろう。
「応援してるぞ。」
「ああ、ありがとう。」
車が信号で止まる。座り直し、窓を開ける。
「……学園の方はどうだ?」
「ああ、二週間後にはトーナメントがある。忙しいんだよ全く……はぁ……」
思わずため息が出る。二週間後にはクラス代表同士で戦うトーナメントがある。それのトーナメント順作成もあれば、専用機のスペックデータから情報を纏め、資料を作り上げなければならない。
「では、大会が終わったら帰るのか?」
「いや、トーナメント前日に間に合うギリギリまでこっちに泊まる。」
「な、なら私達の基地に泊まってゴニョゴニョ。」
何故か顔を赤くする。ゴニョゴニョ言っていてよくわからないが、取り敢えず宿泊施設を提供してくれるようだ。
そういうものは素直に受け取っていくべきだ。
「ああ、感謝する。」
信号が、青くなる。
◆ ◆ ◆
突然だが、IS学園には
つまり、全然目立たないのだ。
……ふう、仕事が疲れた…………
彼女の生い立ちに、特筆すべきものはない。普通に学生として過ごし、教師を目指していたというごく普通の人間である。
……全く……この仕事は…………
しかし、彼女はこの仕事が好きではない。目立たない事は何の問題もない。問題なのは、この学園の教育方針だ。
………専用機持ちばっかり優遇しやがって………専用機持ってない奴の事も考えてみろってんだ…………
IS学園の教育方法は、〝専用機持ちを優先〟するやり方だ。トーナメントで活躍できるのも、アリーナを優先して借りれるのも、授業で沢山演習を出来るのも、全て専用機持ちだ。
彼女は、それが好きじゃない。それを推進している、織斑千冬も好きじゃない。
……本筋を逃すか……それもいいが……だが、やはり納得しない…………
本来この学園はIS操縦者を育てる為にある。この教育方針なら、専用機持ちだけいれば他はいらないといった扱いだ。
………才能のない者は整備科……ねぇ………全く…………
溜息をつき、書類をファイルにしまう。
二年になると、操縦が下手な者は整備科に強制的に入れされられる。入学して数週間が経ったが、既に格差が広がりつつある。
………何故これが採用されなかったんだ?
彼女はクラッチバックから別の資料を取り出す。それは、オールドキングの教育過程の改善点を纏めたものだ。これはとても優秀な教育方針で、初心者をIS搭乗者まで育て上げる為に作られた様に思われた。
……オールドキング……織斑先生のお気に入り……ねぇ?
資料を仕舞う。彼女から見たオールドキングは〝織斑千冬のお気に入り〟で、〝実戦経験がある人間〟であった。
彼女が一年一組で、入学したばかりの生徒にかけた言葉はとても苛烈なものだった。同時に、それは現実を皮肉っている様に感じた。
………お前らは今から人殺し……ねぇ………全員に聞かせてやりたいよ………ねぇ?
彼女は椅子から立ち上がり、荷物を纏める。そして、荷物すら置いていないそのデスクを一瞥し、寮に向かう。
………オールドキング……ねぇ……連絡を取ってみるか………
ここに、一人の
ストーリーの進みが遅いですね。本当にすいません。
ゴーレムIってどんくらい強いんですかね?