人里から竹林を抜けた場所にある湖畔。そこに一人の少年がやってきた。彼がここを見つけたのはただの偶然だ。その偶然以降、ここへは毎日通うようになっていた。

「また来てくれたのね。」

その理由というのが、岩に座り、下半身を湖に浸らせている彼女である。しかし、彼女は人間ではない。彼女の下半身は魚のようになっているのだ。

これは少年と人魚の過ごした日々を描いた物語。


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東方歪界譚番外編【東方人魚恋譚】

人里から竹林を抜けた場所にある湖畔。そこに一人の少年がやってきた。彼がここを見つけたのはただの偶然だ。その偶然以降、ここへは毎日通うようになっていた。

 

「また来てくれたのね。」

 

その理由というのが、岩に座り、下半身を湖に浸らせている彼女である。しかし、彼女は人間ではない。彼女の下半身は魚のようになっているのだ。

 

これは少年と人魚の過ごした日々を描いた物語。

 

 

 

私の名前はわかさぎ姫。湖に住んでいる人魚です。最近の私の楽しみはそばにいる少年-白居悠くんと時間を過ごす事です。

 

「寺子屋の授業は終わったの?」

「うん。姫ちゃんに会いたくて、ここまで走ってきたんだ。」

「道中大丈夫だった?妖怪に襲われたりしてない?」

「んーん。なにもなかったよ。」

「いつもそうよね。」

「なんでだろ…?」

 

ほんとに不思議。この子はまだ幼い子供だから、妖怪に襲われても不思議でないんだけど、そういうことは今まで一度もないのよね。今更考えても仕方ないけど。

 

「今日はどんな話を聞かせてくれるの?」

「そうだなぁ。じゃあ―」

 

 

 

「悠くん。時間大丈夫?もう日が暮れそうよ?」

 

気づけば、日が傾いてきてる。話に夢中になりすぎたわね。

 

「そろそろ帰らないと危ないわよ?」

「あ、ほんとだ。早く帰らないと…。」

 

悠くんは立ち上がると、私に手を振りながら駆けて行っちゃった。少し胸のあたりがもやもやする…。

 

「こんばんは、姫。」

 

あ、竹林の中から声が…。

 

「影狼?どうしたの?」

 

私の数少ない親友。それが彼女、今泉影狼。初めて知り合った時は死にかけたけど…。―ってあれ?少し訝しげな顔をしているような。

 

「さっきの子と反応が少し違うわね。」

「え?そ、そうかな?」

 

どうなのかな。気にしたことなかったし…。でも、意識すると少し恥ずかしいわね…。

 

「そ、それより、さっきの見てたの?」

「見てたもなにも。数日前から知ったわ。」

「えー!?」

「あははははっ!」

 

そうだったの!?道理でここにくる頻度が少し減ったと思ったのよ。でも、そんなに笑う事ないじゃない。なんかすごく恥ずかしいんだけど。

 

「はぁー…。でも、そんなに恥ずかしがることないじゃない?」

「そ、それは…そうだけど…。」

 

う、うーん。なんでかしら。悠くんが関わると途端に恥ずかしくなってきちゃったわね。

 

「(あの人の言う通りね。)」

「う?なにか言った?」

「いいえ、何も。」

 

影狼…、なんて言ったのかしら…?

 

 

 

さてと、“こっちの用事”は終わりましたし、さっさと寺子屋に戻りましょうか。うん?中から何やら話声が…。

 

「悠の帰りが遅い?」

「はい。理由を聞いても話しそうにないんですよ。」

「うむぅ…。」

 

慧音さんと誰でしょうか。でも、悠という名前が出たところから察するに悠君の父親でしょう。そして、相談内容もすぐにわかりました。

 

「確かに心配だな、それは。」

「そうなんです。もしかしたら、良くないものに憑りつかれているんじゃ―」

「その心配はないですよ。」

 

様子を見計らい、私は寺子屋に入りました。やはり、そこにいたのは慧音さんと悠君の父親でした。

 

「霙?それはどういうことだ?」

 

はい。みんなの先生、古城霙さんですよー。

 

「ふふ、秘密です。」

 

人差し指を口元にもっていって、秘密のサインです。ちょっと色っぽいでしょうか?そういえば、これを見せた時、“あの人”も少し恥ずかしがっていましたね。

 

「お父さんも心配する必要はないですよ。悠君は大丈夫です。」

「だ、だが―」

「貴方にだって秘密の一つや二つあるでしょう?例えば、奥さんに言えないような、ね?」

 

ちょっと脅迫じみた感じになっちゃいましたね。反応からして図星っぽいですが。

 

「霙…。また黒くなってるぞ。」

「あら、それは失礼しました。」

 

いつもの笑顔に戻してっと…。

 

「まぁ、そういうわけなので、心配は無用です。」

「わ、わかりました。」

 

さて、早速ですが…。

 

「あ、奥さんへの秘密ごとについて詳しく。」

「こら、霙。」

「ふふ、冗談です。」

「やれやれ。」

 

 

 

「どうしたの、姫?急に呼び出して。」

 

姫に呼びばれたから来てみたけど、なんか姫、落ち着きがないみたいね。

 

「えっとね…。影狼は悠くんと私が会ってたこ知ってたのよね?」

「えぇ、そうよ。」

 

何を言おうとしてるのか、よくわからないわね。あ、意を決したみたい。

 

「影狼は悠くんをどう思う!?」

 

ただし、裏声。ちょっと面白いわね。

 

「どうって…?いい子だと思うけど?」

「そういう事じゃなくて…。なんて言えばいいのかしら。あの子がいると、こう、落ち着かないのよ。」

 

ははーん、そういうことね。この娘は自分の想いを自覚し始めてるのね。でも、教えていいものなのかしら。

 

「そうねぇ…。その悠くんは寺子屋の生徒なのよね?」

「うん。悠くんがそう言ってたわ。」

「それなら、寺子屋の関係者に聞いてみたらどうかしら?」

「関係者って、上白沢さんか古城さん?」

「えぇ。そうよ。」

 

ま、慧音さんに聞く気は毛頭ないけど。

 

「今から少し話してくるわね。」

「えっ!それは…ちょっと恥ずかしい。」

「じゃあ、悠くんに聞いてみる?」

「それは…。」

 

予想通りね。顔を赤くしてくれちゃって。やれやれ。ん?この足音は…。

 

「そろそろ行くわね。」

「え?行くって?」

「待ち人がきたみたいよ。」

 

さてと、じゃあ私も行こうかしらね。

 

「ごめん、姫ちゃん。遅くなっちゃった。」

「大丈夫よ。今日はどんな話を聞かせてくれるの?」

 

甘いものでも食べたかしら。少し胸やけがするわね。

 

 

 

「こんばんは、影狼さん。」

「こんばんは、霙さん。」

 

竹林の中から悠君とわかさぎ姫さん…、姫さんでいいですね。まぁ、その2人に見えないところに私たちはいます。私と影狼さんが知り合ったのはただの偶然です。悠君をつけていた時に、姫さんの近くにいたのが、彼女だったってだけです。そこから二人を見守る会みたいなのができたわけですはい。ちなみに悠くんが妖怪に襲われないのは私が後をつけながら、護衛しているからです。勿論見えない範囲で。

 

「ちょっといいかしら?」

「はい、なんでしょう?」

「姫が自覚し始めてるのよ。」

「自覚というと、悠くんに対する想いについてですか?」

「そうよ。」

 

うーむ。意外と早かったですね。

 

「でも、完全に自覚してるわけじゃないのよ。」

「そうですか…。」

「やっぱりはっきりさせた方がいいかしら?」

「そうですね。ですが、悠くんには言わない方がいいですね。その方が面s…まだあの子は幼いですからね。」

「今本音漏れた気がするけど、まぁ、良いわ。」

「では、今晩、彼女に話に行きましょうか。」

「霙さんが直接?」

「はい、そうします。恋については私の方が先輩ですから。」

 

懐かしいですね。あの頃、“あの人”と過ごした日々。おっと暗い雰囲気になるとこでした。

 

「では、夜にまた会いましょう。」

 

悠くんも帰るようですし。護衛しないと。

 

 

 

「はじめまして、姫さん。」

「は、初めまして。」

 

影狼の言ってた通り、古城霙さんがやってきたわ。それにしても、彼女から出てる炎が古城さんを照らしてて、なにかと綺麗に見えるわね。

 

「影狼さんから話は伺っています。悠くんについてですね。」

「はい。」

「私からはあの子についてなにも言う事はできません。」

「そ、そうですか…。」

 

はぁ…。やっぱり、何も聞けないのね。所詮、私も妖怪…。

 

「ですが、1つ言えることがあります。」

「え?」

 

な、何かしら。何か重要なことを言いそうな―

 

「貴女は悠くんが好きですね?」

「え?」

 

……す、き?好き?…好き!?

 

「――――――――ッ!!?」

「落ち着いて、姫。」

 

ハッ!そ、そうね。一度落ち着いて…。

 

「す、すみません。取り乱しました。」

「大丈夫ですよ。」

「まさか姫がそこまで慌てるとは思わなかったけど。」

「も、もう…。」

 

言われて余計恥ずかしくなったじゃない。う、うぅ…。

 

「そ、それで、私が悠くんをす、すす、す…きというのは、どういうことでしょうか?」

 

好きってたった一つの単語が言いにくい。それに言おうとするととても恥ずかしくなってくるわね。なんでかしら。

 

「では、いくつか質問しますね。まず、悠くんといると楽しいですか?」

「はい。」

 

当たり前じゃないの。毎日の楽しみよ。

 

「悠くんが来ることが待ち遠しいですか?」

「はい。」

 

そりゃあ、楽しみだから。待ち遠しいわね。

 

「悠くんといると落ち着きませんよね?」

「え、あ、はい。」

 

影狼から聞いたのかしら?

 

「できるだけ悠くんと一緒にいたいですよね?」

「はい。」

 

あの子といると落ち着かないけど、一緒にいたいのは事実だし。

 

「悠くんが“ほかの女の子”と話しているともやもやしませんか?」

「…はい。」

 

そんな場面見たことないけど、想像してみたらなにかともやもやしてくるわね。

 

「悠くんと(自主規制)したいですか?」

「なななななななにを言ってるの、あなたはあああああああああ!!!!?」

 

へ、平然な顔で言ってのけたわ、この人。影狼なんてドン引きしてるわね。

 

「流石にそれはないでしょう。」

「冗談ですよ。」

「冗談に聞こえないんだけど…。」

「それは置いておいてですね。姫さんが悠くんをどれだけ欲しているか、わかりましたか?」

「え…?」

 

私が…悠くんを欲する?そういえば、質問の意味ってまさか…。

 

「わ、私…。」

「そういうことです。」

 

私…悠君のことが…。

 

「ですが、1つ注意してください。あの子はまだ幼い。悠くんが成長する長い時間の間、貴女の想いが生き続けているのならば、その時に打ち明けてください。それがおすすめです。」

「そこ、進めるの?」

「はい。そこからは両者の問題です。私が踏み込むような野暮なマネはしませんよ。」

「…わかりました。ありがとうございます。」

「それでは私はこれで。」

 

そういって古城さんは竹林の中へ行ってしまったわね。

 

「姫、私も応援してるわよ。」

「う、うん。ありがとう。」

 

な、なんか改めて言われると恥ずかしくなるわね。

 

 

 

―そして次の日。上空に逆さに沈んだ城が現れた。―

 

 

 

「今日はどんな話をしようかな。」

 

空にお城ができてるけど、それだけだし。なにか起こってるわけじゃないからね。大丈夫大丈夫。あ、岩の上に姫ちゃんがいる。今日も待ってたみたいだね。

 

「姫ちゃ―」

「なんのようかしら、人間?」

 

…え?なんかいつもの姫ちゃんじゃないみたい…。

 

「ひ、姫…ちゃん…?」

「ここから消えなさい。さもないと…。」

 

な、なんでそんなに冷たい目をしてるの…。

 

「で、でも…姫ちゃん!」

 

う、うわあっ!な、なんで弾幕なんかっ!?

 

「さっさと消えなさいと、言ってるのよ!」

「うわっ!」

 

痛い…。転んじゃった。足に竹の根っこが―ってこっちに弾幕が来てるっ!…あれ?なんでなにも起こらないの?

 

「大丈夫ですか、悠くん?」

 

霙先生が守ってくれたみたい。姫ちゃんと炎の狐が戦ってる。

 

「う、うん。大丈夫。」

「よし。悠くん、ここから逃げましょう。」

「え、でも…。」

 

姫ちゃんが…。

 

「心配なのはわかります。でも、今はここから離れましょう。」

 

霙先生に手を取られ、逃げるしかできない。離れていく姫ちゃんがぼくは心配でならなかった…。

 

 

 

空に現れた城はその日に消えました。あれは異変で生み出されたもので、裏で操っていた者は逃亡。指名手配ということになりました。そして、その日以降、悠くんは寺子屋でぼーっとすることが多くなりました。

 

「異変の時からじゃないか?」

「そうですね。あの時からずっとです。」

 

原因は分かってはいますが、慧音さんに秘密している分、打ち明けるのは難しいですね。しょうがないです

 

「悠くん。もう帰る時間ですよ。送りますから、一緒に帰りましょう。」

 

よかった。頷いてくれましたね。

 

「では、慧音さん。行ってきます。」

「あぁ、わかった。」

 

さて、では行動開始です。帰りの途中にある甘味処に寄ってっと。適当に注文も済ませましたし、話すとしますか。

 

「最近、元気がないですね。大丈夫ですか?」

「…うん。」

「嘘ですね。」

 

驚いて顔を上げる悠くん。

 

「わかさぎ姫さんの事が気になっているのでしょう?」

「どうしてわかったの?」

「どうしてでしょうね。」

 

注文したお菓子が届きました。うまうま。

 

「何が気になっているのですか?」

「姫ちゃん、ぼくのこと嫌いになっちゃったのかな?」

「…なるほど。」

 

つまり、この子は姫さんの言っていたことを真に受けてしまったということですね。

 

「そうですねぇ…。」

 

あれは打ち出の小槌の魔力の影響であの状態になったものです。それは霊夢さんと新しい住人の少名針妙丸さんから聞いています。しかし、それを子供にどう説明したものでしょうか。…ま、いっか。

 

「だったら、直接聞いてみてはどうですか?」

「え?」

「自分で決めつけることはよくないですよ。姫さんが今、どんな気持ちなのか、私にもわかりません。直接会って聞いてみるしかありませんよ。」

「…うん。」

「当たって砕けろ、です。はい。」

 

先ほど注文しておいた持ち帰り用のお菓子を持たせると、悠くんは駆けて行きました。こうやって子供は成長していくのですね。

 

「さて、護衛護衛っと。」

 

 

 

「ねぇ、姫。そろそろ元気出しなさいよ…。」

「はぁ~…。」

 

無理よ。元気が出るわけないじゃない。まさか、あんなことをするなんて思わなかったんだもの。それにあれから悠くん、ここに来てないし…。

 

「絶対嫌われた…。」

「大丈夫よ、嫌われてないわ。」

「なんでそう言い切れるのよ。」

 

これでもね、失恋したみたいなものなのよ…。

 

「な、なんでって…うーん。ん?」

 

視界の隅になにか見えたような。―って炎の狐?確かあれって…。

 

「ちょっと用事思い出しちゃったわ。あとは頑張ってね。」

「え、ちょ、ちょっと!」

 

行っちゃった。狐もいつの間にか消えてるし…。え?あれは…。

 

「あ…。」

「えっと…。」

 

どうして…来たの?

 

「悠くん?なんで…。」

「やっぱり、姫ちゃんはぼくの事、嫌いなんだね。」

「違うっ!」

 

お、思わず大きな声出ちゃった。悠くんを驚かせちゃったわね。

 

「ごめんなさい。嫌いじゃないわ。悠くんは…私が怖い?」

「怖くないよ。姫ちゃんかわいいから。」

 

か、かわいいっ!?顔が熱くなってきちゃう。そんなこと言われると思わなかった。

 

「姫ちゃん?大丈夫?」

「ダイジョーブヨ?」

 

大丈夫じゃないわよ。恥ずかしくてまともに口が動かないじゃない。でも、やっぱり私は…。

 

「お菓子あるんだ。一緒に食べよ?」

「そうなの?じゃあ、こっちで一緒に食べましょうか。」

「うん!」

 

私はこの子のことが…。

 

 


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